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あゝ、荒野

「あゝ、荒野」  2011年11月

原作は寺山修司の、1960年代新宿を舞台にしたエネルギーある小説。脚本は夕暮マリーで、寺山と同年代の蜷川幸雄さんが演出した。青山劇場の1F中央、通路のちょっと前で。1万500円。広いホールだけど声がよく響く。
話題の松本潤出演で、席のすぐ横の通路を歩いちゃったりする。開演前から客席にはファンらしき女性の期待感があふれ、親子連れも目立つ。1幕でラブホテルのシーンが延々続く内容とのミスマッチは否めず、もちろん皆さんマナーはいいのだけれど、正直、そっちに気を取られちゃったかな。休憩を挟んで3時間強。

主演の若いボクサーふたりは大奮闘でした。松本潤は新宿新次の、格好良くて自信家の役どころがぴったり。シャドーボクシングなんかしながら、観念的な長セリフをまくしたてる。小出恵介のバリカンは対照的に罪を背負った危うさを猫背で表現、1年前に観た「シダの群れ」に比べて個性がでていた。
根無し草暮らしから、勝村政信演じるコーチに拾われたふたり。バリカンは新次に屈折した憧れを抱き、命がけの試合を挑む。両者の関係はちょっと「蒲田行進曲」を思わせ、舞台は昭和でも、青春の苛立ちというテーマは普遍的。2幕でふたりが少年のように公園のジャングルジムに登り、夜の街という荒野を眺めるシーンが、なけなしの希望みたいなものを感じさせて美しい。もっときわどい鮮烈さを、と願うのは贅沢か。

舞台は吊り下げたたくさんのネオンサインで立体感を出し、左右の字幕に寺山の短歌を映して世界をつくる。冒頭で異形の群衆がダンスを踊るといった、お馴染みの雰囲気も。猥雑な裏町のシーンが続いたあと、大詰めで照明に浮かびあがる白いマットが眩しい。試合のアクションシーンはよくできていたが、スローモーションがやや長かったかも。
勝村政信が声、所作とも貫録の存在感で全体を引き締めてさすが。新次がナンパする芳子の黒木華ちゃんは、何をしてても清潔感が漂い、バリカンが手にかけてしまう娼婦マリーの渡辺真起子も雰囲気がある。コミカルな狂言回し、早稲田の学生役の村杉蝉之介、江口のりこがささやき声まで駆使して達者でした。

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