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おしまいのとき

ポツドールvol.19 「おしまいのとき」  2011年9月

脚本・演出三浦大輔。耐震がちょっと心配な雰囲気のザ・スズナリ。意外に年配の観客も目立つ。前の方中央で4500円。開演まで大音量で日本語ロックが流れるのが、小劇場っぽい。

2010年の外部演出「裏切りの街」に続いて、三浦作品を観る。ポツドールとしてはヨーロッパ、カナダ公演を経て、3年半ぶりの新作とか。一人息子の急死で気力を失った主婦・智子(篠原友希子)が、エアコン修理の男・菅原(米村亮太朗)との不倫に溺れていく。

蝉の声をBGMにした日常のリアルさ、ハードボイルドなどぎつい表現と、すべてを「観察」させる冷徹な視線はお馴染みのもの。智子夫婦の部屋の上に、菅原が恋人(新田めぐみ)と住む部屋を重ねたセットで、終盤のどんでん返しを上下同時に見せる趣向、右からのライティングや激しい雨はドラマティックだ。
破綻していく人にも、自らを納得させる論理がある。そのあまりに愚かな身勝手さ、醜さ。「終わってる」という若者言葉が現代を感じさせるキーワードだ。若者言葉を吐く金髪の後輩・遠藤(松澤匠)のいかにもな存在が、喜劇性もはらんで効いている。
隣人の今井夫婦(松浦祐也、高木珠里)は、粘着質な偽善ぶりが今の状況と共鳴して辛辣。松浦や夫・浩二(古澤裕介)の雰囲気には、松尾スズキの影響があるのかな。

終始スローモーションかと思わせるテンポで、そこに緊張感をもたらす主役2人はたいしたものだ。とはいえ主婦の転落自体は、意図してのことだろうけどかなり平板。休憩なしの2時間半は、内容と比して長過ぎたかなあ。後で気づいたけど、役名が「裏切りの街」と一緒なんですね。

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素浄瑠璃「双蝶々曲輪日記」

竹本住大夫素浄瑠璃の会 2011年9月

素浄瑠璃鑑賞も、回を重ねてきました。日経ホールのやや後方左寄りで6500円。会場は大入りで、掛け声も。

第一部は「双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)」の「八幡里引窓の段」。お尋ね者となった力士・濡髪長五郎が別れを告げに、母を訪ねてくる。しかし母と暮らす先妻の息子・与兵衛は、めでたく与力に出世したところで、長五郎の逮捕を命じられていた…。世話物らしい親子の情と葛藤を、ほぼ1時間たっぷりと。

十五夜の、生き物を逃がす祭事「放生会」が季節感を表す。長五郎が与兵衛にみつからないよう、嫁おはやが屋根の引き窓を紐で開閉して、室内の明るさを調節する、その情景が鮮やかだ。必死で逃がそうとする母に涙する長五郎の、「謝りました、謝りました…」で拍手。場面場面の緩急に加えて、老いた母、体格の大きい長五郎、元遊び人で今は実直に生きている与兵衛と、元遊女おはや、それぞれの雰囲気もまた味わい深い。途中、客席で携帯電話が鳴っちゃうアクシデントが残念~

休憩を挟み、第二部は住大夫さんと麻実れいさんの対談。住大夫さんは子供の頃から宝塚を観ているそうで、ちょっと歌を口ずさんだり、9月公演の「三番叟」で、隣の文字久さんを叱っちゃった裏話を披露したり。いつものように楽しませてくれました。

METライブビューイング「セヴィリァの理髪師」

METライブビューイング2006-2011アンコール上映「セヴィリャの理髪師」  2011年9月

2006-2007シーズンの第5作を東劇で。観やすい後方中央の席で3000円。けっこう入ってます。指揮マウリツィオ・ベニーニ、演出バルトレット・シェア。ロッシーニ、ベニーニ、フローレスは2010-2011シーズンの「オリー伯爵」と同じ組み合わせですね。

有名な序曲から浮き立つようなロッシーニ節。シンプルな書き割り風の舞台で繰り広げる、ご都合主義といえばご都合主義のドタバタ喜劇です。貴族への風刺や、「無駄な見張り」という「退屈なオペラ」がキーワードになるなど、小ネタも効いている。この日の演出は、オケの前方に作った宝塚風の花道に歌手が出てきて、客席をいじるサービスも。1幕1時間半、2幕1時間強だけど、あまり長さを感じさせない。

歌手陣は何といっても、恋に生きる伯爵アルマヴィーヴァ(テノール)役のファン・ディエゴ・フローレス。アジリタの連続、そしてラストでは長大なアリアを歌いきってドヤ顔全開。「チェネレントラ」と同じメロディーがあるんですね~。変装やらカツラがとれちゃうアクシデントやら、コメディ演技もノリノリ。小柄で愛嬌があるから、お茶目な役は本当に巧い。
アジリタという点では、伯爵と両思いになるロジーナ(メゾ)のジョイス・デドナートも聴かせます。理不尽な軟禁状態から抜けだそうとする、したたかさがいい。狂言回しのフィガロ(バリトン)、ペーター・マッティは長身で男らしい艶がある。年甲斐もなくロジーナに結婚を迫る後見人、バルトロ(バス)は「ドン・パスクワーレ」でも同様の役をしていたジョン・デル・カルロ。無口な召使いの相棒と共に、相変わらず観客に人気がある。軽く寝返っちゃう音楽教師バジリオ(バス)のジョン・ヘイリーも安定感。楽しかったです!

舞台の映像、幕間の舞台裏紹介などは最近に比べると凝ってません。ライブビューイングも進化しているんだな、と実感。

DREAMS COME TRUE 2011

史上最強の移動遊園地 DREAMS COME TRUE WONDERLAND 2011 東日本  2011年9月

行ってきました、4年に1度のファンリクエストによるグレイテストヒッツ・ライブ。味の素スタジアムの北スタンド上層席で7800円。ステージには遠いものの、広大な会場全体の雰囲気がよくわかります。

開演17時だけど15時ぐらいにスタジアムへ。前回の代々木競技場のように入場するだけで長蛇の列、ということはありません。とはいえ5万人規模とあって、大勢が会場外で軽食をとったり座りこんだり。カジュアルな服装の20代ぐらいの女性が多いけど、年齢、男女とも幅広いですねえ。

会場外の広いグッズ売り場で、パンフレットやタオル、刺繍Tシャツ、お約束の会場限定ライトスティックなどを購入。東日本各地の物産屋台もずらりと30ほど並んでいて、宮城の牛タン串やらに行列ができてました。このへんのお祭り感が、いいねえ。わたしも岩手・南部美人のノンシュガー梅酒を1杯頂き、協賛のポカリスエット1本購入。

ゆっくり歩いて、スタート30分ほど前に席に着く。パンフを開けたら、袋とじのページがあって、演出プランに触れているらしい。というわけで、台風で11月下旬に延期になった大阪公演が終わるまでは、ネタバレは控えます。
ひと言だけ書くと、キーワードはフライング美和。とにかく美しくて楽しかったです!

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ボローニャ歌劇場「清教徒」

ボローニャ歌劇場「清教徒」 2011年9月

3演目で予定されたスターテノールが全員キャンセル、しかも「エルナーニ」のリチートラは事故で急死という、ショッキングな展開となった来日公演です。METと同様、内容が変更されてしまったパンフレットは販売せず、入り口で一人一冊配ってました。ページをめくると、リチートラのインタビューページがあって哀しい。
「清教徒」はミケーレ・マリオッティ指揮、ピエラッリの原案に着想を得たというジョヴァンナ・マレスタの演出。東京文化会館大ホール、1F通路ぎわ右寄りの席で54000円。20分の休憩2回を含め、3幕で3時間半強。

ベッリーニの遺作となったこの演目は、超高音で有名なベルカントオペラ。フローレスでなければ意味がない、と思われていただけに、開演前の会場の盛り上がりは今ひとつの感じで、冒頭のエルナーニ総裁の挨拶時からブーイングが出ていました。けれど結果的に、騎士アルトゥーロ(テノール)にセルソ・アルベロ、花嫁エルヴィーラ(ソプラノ)にデジレ・ランカトーレという若々しい配役で、歌心がよく調和して、なかなか楽しめました。

第1幕滑り出しはオケの持ち味なのか指揮の意図なのか、まったりした印象で物足りなかった。主役二人は、そんなオケに押され気味だし。
しかし徐々に調子をあげ、第3場大広間での挙式を目前にした愛の二重唱は堂々たるもの。会場からの大拍手に、思わずアルベロ君が小さくガッツポーズをしちゃって、微笑ましい。透明感のあるテノールです。
フローレス不在で全体を引っ張る役回りになったランカトーレは、可愛くておきゃんな印象。低い音程だとつぶれたような発声になるのが気になるけれど、高音は気持ちいい。愛する騎士が別の女性(実は王妃)と逃げたと知り、愕然とする1幕ラストから、第2幕の「狂乱の場」にかけて、「ランカトーレ・カデンツァ」をたっぷり聴かせました。
叔父ジョルジョ(バス)のニコラ・ウリヴィエーリに存在感。声がよく通るし、長身で見た目も格好良い。2幕ラスト、出陣を控えた恋敵リッカルド(バリトン)役ルカ・サルシとの、勇壮な二重唱が格好良かった。ホルンのソロも美しい。
いよいよ第三幕で、再会した主役二人による二重唱、さらにリッカルド、ジョルジョが加わった四重唱があり、アルベロ君がハイFを披露。楽々、とはいかなかったけど、頑張りました~

総じて細やかな感情表現やドラマ性は少なく、淡々と進んで、ハッピーエンドも唐突だけれど、演目自体がそういうものなのだと思う。ステージは陰影が濃い青、衣装はヒロインの白以外は全員グレーという地味なもの。背景に巨大な剣とベールを描いて、憎しみと愛の相克を表現していたのと、合唱陣が揃って喜怒哀楽を示す手のポーズが面白かった。
物語と演出がシンプルな分、甘い旋律、まるでスポーツのような声の競演を楽しみました。「ロッシーニ・ルネッサンス」以降のイタリアらしい作り、名門の底力なのでしょうか。客席には小泉元首相や山田優ちゃんがいらしてましたね。

秀山祭「沓手鳥孤城落月」「車引」「石川五右衛門」

秀山祭九月大歌舞伎 夜の部 2011年9月

初代中村吉右衛門の芸の継承をうたう秀山祭に、初めて足を運んだ。しかも今回は中村歌昇改め三代目中村又五郎、中村種太郎改め四代目中村歌昇という播磨屋の親子襲名披露で、開演前から高揚感があります。花道のそば、前の方の席で1万5000円。

演目はまず坪内逍遙作で、大阪夏の陣を描いた「沓手鳥孤城落月(ほととぎすこじょうのらくげつ)」。「二の丸乱戦の場」は立ち回りで、裸武者の児太郎が活躍。「城内山里糒倉(ほしいぐら)の場」では淀の方が、千姫が逃げたことに怒り狂う。休演の芝翫さんに代わり、息子の福助さんが演じます。主戦派の内膳(吉右衛門)と降伏を主張する修理之亮(梅玉)が対立するけど、最後は又五郎さんの秀頼が母・淀の方延命のため降伏を決意する。セリフ劇だし、照明も暗めで、ちょっと地味だったかなあ。

続く口上は、うってかわって華やかに。吉右衛門さんを中央にお歴々がずらり。大御所・藤十郎さんが温かでしたね。

ハイライトは「菅原伝授手習鑑」から「車引」。吉田神社の近くで又五郎の梅王丸と、藤十郎の桜丸が出会い、笠をとるところが格好良い。配役を見たときは、えっと思ったけど、桜丸がちゃんと若々しくて、さすがです。隈をとらないのは上方流とか。ところが肝心の又五郎さんは、息が切れて辛そう。後から聞いたら、公演二日目にアキレス腱を痛めたのだそうで、飛び六法も封印。気の毒です!
場面が境内に移ると、「あーりゃ、こーりゃ」の掛け声にのって吉右衛門の松王丸とのぶつかり合い、見得の切り合い。やっぱり吉右衛門さんは威風堂々、スケールが大きいなあ。牛車が壊れ、歌六さんの藤原時平が登場して幕。青い隈取りが怖すぎます。

最後の「石川五右衛門」は趣向満載で派手。序幕は五右衛門の出生を説明する導入部分で、「大手並木松原の場」では身ぐるみはがれる中納言がコミカルです。「洛西壬生村街道の場」で松緑さんの久吉一行に、染五郎さんの五右衛門が出会う。
二幕目「足利館別館奥御殿の場」で二人が対決、世話にくだけて昔話に興じるところが面白い。続く「足利館別館奥庭の場」でいよいよ五右衛門の宙乗りつづら抜け。ほとんど頭の真上を、上がったり下がったりの大サービスです。ぱちぱちぱち。
大薩摩の演奏のあと、浅黄の幕が落ちて、お待ちかね舞台いっぱい桜が咲く、大詰「南禅寺山門の場」。「絶景かな」の名ぜりふですね。以前に橋之助さんで「金門五山桐」を観たけれど、染五郎さん、負けてないかも。ところどころお父さんに似てきたなあ。白鷹が飛んでくるのは「金門」と同じだけど、こちらは大内義隆の落胤という設定です。山門がせり上がって、巡礼姿の久吉とにらみ合うところは何度観ても美しい。面白かったです!

文楽「三番叟」「伽羅先代萩」「近頃河原の達引」

第176回文楽公演第1部 2011年9月

国立劇場開場45周年記念の公演に足を運んだ。節電で少し早めの午前10時30分開演。客席は暗め、室温も高めです。中央のなんと前から2列目、舞台全体は見渡せないけれど三味線の音が耳に響き、人形の細かい動きがよく見える。6500円。

まずは大好きな「寿式三番叟」。今回は「天下泰平国土安穏」を願う特別な演目です。翁を語る住大夫師匠の言葉に泣きそうになる。足が辛そうだったけど、大丈夫かな。千歳の文字久大夫さんが朗々。
人形も豪華配役で、千歳は勘十郎さん。紅白の梅をつけてチャーミングに。翁の蓑助さんは、人形がさらにお面を着けているんだけど、表情が見えるのが不思議。やんちゃな三番叟は幸助さん。樅の段あたりで袖が裏返って、ちょっと焦ってましたね。もう一人のきりっとした三番叟は一輔さん。鈴も軽快に。

短い休憩の後、東北ゆかりの「伽羅先代萩」の「御殿の段」。通称「飯炊き」の前半は嶋大夫さんがたっぷりと。雀や犬が出てきて、健気ながらちょっとユーモラス。後半の「政岡忠義」は津駒大夫さんと寛治さんのコンビで。政岡の紋壽さんはちょっと渋すぎかも。珍しく蓑助さんが敵役の八汐で安定感。

休憩に席でお寿司等をつまみ、ラストは「近頃河原の達引」から「堀川猿回しの段」。思えば文楽デビューで観た演目です。
前半は張り切り千歳大夫さん。導入部分で目の不自由な母・勘壽さんとおつるの玉誉さんが、地歌「鳥辺山」を稽古する。三味線をひく指の動きがよく見えて面白い。妹おしゅんを案じる与次郎に勘十郎さん。可愛い猿が登場し、親子の情愛が描かれると共に、与次郎の不器用さ、実直さが伝わります。
後半は源大夫さんですが、やっぱり声はあまり通らないかな。藤蔵さんはお約束の糸繰りで忙しい。物語は母と兄がおしゅんに恋人を諦めさそうと退き状を書かせたはずが、その伝兵衛が現れてみたら、死も覚悟した書き置きだったとわかる。結局、二人を逃がす決意をし、「曾根崎心中」の猿回しを演じて送り出します。趣向満載の、なかなか凝った演目でした~

夏の正蔵「もぐら泥」「王子の狐」「ぼんぼん唄」

第二期林家正蔵独演会「夏の正蔵」 2011年9月

こぢんまりした紀尾井小ホール。中央前の方で3000円。

いきなり正蔵さんが登場し、マクラもそこそこに「もぐら泥」。敷居の下を掘って手を入れ、戸を開ける泥棒のことだそうです。泥棒は縛られ、通りがかりの男に助けを求めるが散々な目に遭う展開。商家の旦那と泥棒の掛け合いが馬鹿馬鹿しいんだけど、肝心のところを言い間違えちゃってぼろぼろ。

反省しつつ、続いて「王子の狐」。今日は動物つながりかな? 王子稲荷参りの男が、女に化けた狐を逆に騙してやろうと、料理屋で酔わせて置き去りにする。でも、たたられてはたまらない、と巣穴に謝りに行く、ほのぼのとしたお話。だんだん調子が出てきました。

中入り無しで、二つ目さんが1席。その間に着替えた正蔵さんが再び出てきて、ラストは「ぼんぼん唄」。浅草の観音さまに子宝の願をかけていた夫婦が、お参りの際に出会った迷子を連れ帰る。可愛がって育てていたが、近所の子供と唄った「盆の唄」の文句を手がかりに、ついに親を捜し当てる。さて、返しに行くか、行かないか… こちらは親探しの決め手になるお守りが狐さん。あえて子供の描写に頼らず、夫婦の会話で描き通した人情噺にホロリ。二組の「親」を結びつけるハッピーエンドでした。

流ちょうとか上手とかとは言えないんだろうけど、あざとさがなくて、いつもながら真面目な人柄を感じました。がんばれ!

身毒丸

身毒丸  2011年9月

作・寺山修司・岸田理生、演出・蜷川幸雄。天王洲銀河劇場の1F中段やや左寄りの席で9500円。天井桟敷が78年に初演し、蜷川版は95年に白石加代子、武田真治、97年藤原竜也が主演。今回はキャストを大竹しのぶ、新人の矢野聖人に変更しての上演だ。著名演目とあって、台風模様にもかかわらず観客は老若男女幅広く、開演前から期待感が流れる。休憩なしで1時間40分。

個人的には、事前に身構えていたほどにはスキャンダラスな感じがしなかった。「玉手御膳」に通じる義理の母・息子の禁じられた恋の物語。冒頭とラスト、舞台上方でグラインダーが火花を散らすのは、イエ秩序の破壊をイメージしているのか。確かに六平直政のどっしりした父が繰り返し語る理想の家族は、最初からかりそめのもの。カードゲームの「家族合わせ」や影絵の演出が、嘘をえぐり出す。

けれど、そういうドロドロよりも、全体に音楽劇の要素に気を取られた。中世の説経節を元にしているせいか、セリフがところどころ義太夫風。浪花節とロックをミックスしたような曲が大音量で流れ(音楽は宮川彬良)、俳優の動きもダンスの振付のようでリズミカルだ。冒頭からニナガワお約束の異形の集団がずらりと並び、言葉遊びが具象になったような巨大なカミキリムシ(土蜘蛛風)や「ハンコ人間」も登場して、どこかキッチュな雰囲気。

撫子役の大竹しのぶは、藁人形のシーンもあるものの、妖艶とか鬼女というより少女のよう。愛しい息子を呪ってしまうのも、理解不能な情念ではなく、ただ真っ直ぐに幸せを求めただけ、という感じがして、リアルに哀れだ。大事にしてきた夢の小箱には中身がない。ラストは道行ではなく、老いてひとり残されて失った家族を抱きしめる形に。それにしても、チャレンジし続ける女優さんです。
タイトロールの矢野聖人はとにかく細い。驚異的に細い。盲目の美少年で、ついには弟を襲っちゃう無茶な展開だけど、未熟な危うさを出すには爽やか過ぎるかも。仮面売りの石井愃一が抜群の安定感。人力でイエのセットを重ね合わせていくのが、面白かった。

あとからDVDで白石・藤原版の「ファイナル」を観て、藤原竜也の存在感を改めて確認。だから今回は「撫子バージョン」だったのだなあ、と思う。繰り返されるカーテンコールで、大竹しのぶが矢野聖人の手をとって走り去る姿がチャーミングでしたね。パンフレットが扇田昭彦、松岡正剛、山折哲雄と豪華。

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