ベッジ・パードン
シス・カンパニー公演 ベッジ・パードン 2011年7月
作・演出三谷幸喜。世田谷パブリックシアターのバルコニーみたいな2階左端の席で、舞台左上の階段以外はおおむね見渡せました。9000円。いつものように開演前から三谷ファンの期待が感じられる。休憩を挟んで3時間ちょっと。
「三谷幸喜大感謝祭」と銘打った新作3作目。漱石がロンドン留学時代に引きこもりになったという逸話をベースに、下宿の使用人アニーとの淡い恋など人間模様を描く。セットは下宿先ブレット家の漱石の部屋だけという、三谷さんらしいシチュエーションコメディだ。
歌やギャグを散りばめた軽妙な喜劇なのに、ほろ苦さの色が濃い。英語ができない漱石の焦りや訛り、育ちへのコンプレックス、才能ある人への嫉妬など登場人物の感情が切実だからだろう。差別への怒り、というより、そうした負の感情に触れてある人物がつぶやく「言葉にしなきゃわからなかったんだ」という後悔が印象的。どうしても作家の心境に重ねて観てしまうからか… 大きな存在、漱石から紡ぎ出すとても私的な思い。
ほとんど出ずっぱりの俳優陣は、粒ぞろいでしたね。アニーの深津絵里は声に張りがあって、予想以上に舞台で映える。可愛すぎる造形で最初はちょっと違和感があったけど、結果的には現実から浮き上がる感じが良かった。1幕ラスト、虚言癖をつかれて「夢を語らなかったら語るものがない」と打ち明けるシーンには、泣けましたぁ。漱石の野村萬斎さんは抑えめの演技で安定感。浅野和之さんは自己最多11役に挑戦し、出たり入ったりの大活躍です。しかもそれが漱石を悩ませるカギになる仕掛けが巧い。
何より、下宿人仲間の商社マン惣太郎を演じる大泉洋が出色。ドラマの感じそのまま、不思議な切なさがあるんだよなあ。舞台上での存在感、リズムもなかなか。たぶんハプニングだと思うけど、浅野さんのスカートがドアに引っかかったとき、冷静にフォローしてましたね。
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