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荒野に立つ

阿佐ヶ谷スパイダースPRESENTS 「荒野に立つ」 2011年7月

作・演出長塚圭史。三軒茶屋のシアタートラムで。やや左寄り前の方のいい席で、5800円。休憩なしの1時間15分ぐらい。

朝緒はある日、目玉を無くしたと言われ、謎の目玉探偵らとともに目玉を探す冒険に旅立つ。

難解という前評判だったけれど、さほど戸惑うことなく楽しめた。導入はト書きを全部セリフで口にするような、ふわふわした印象。やがて主人公・朝緒の体験するエピソードが時を超えてつながりあい、自らの来し方行く末をいったりきたりする。
ちょっと岩松さんの「国民傘」のようだけど、虚実が入り交じる感じはなくて、一つひとつのエピソードは現実感があり、むしろ陳腐なほどだ。大学での、いかにもな映画青年との出会い、結婚生活の行き詰まり、やくざな男との逃避行。

エピソードに意外感が少ない分、場面場面の設定や印象的なセリフを味わえる。見通しがきかない夕闇のなか、浮かび上がる謎の七叉路、はたまた慣れ親しんだ自宅の居間がある日、遠浅の海に変わったり、あるいは荒野が広がったり。それなりに考えて、理性的な選択をしてきたつもりでも、それがいかに不確かか。このへんの雰囲気は好きだなあ。そしてラストに見せる、朝緒の精一杯の選択。
段差のある床に1本の木、背後にスクリーンをおいただけのシンプルなステージが効果的だ。シーンが複雑に転換するけれど、俳優が様々な形の椅子や座卓を持って現れては消え、やすやすと時空を超えていく。節目節目でスクリーンにシーンの説明が入るのが、意外に親切。導入部分で、自動ドアや木魚の音を俳優が声で表現するのも面白かった。

欲を言えばもう少し破綻があってもよかったかも。俳優陣はみな達者だし、人物設定が入れ替わったりもするので、あまり個性を出さないようにしていた感じがあり、それがやや物足りなく感じた。
若い女優陣が総じて健闘。「浮標」で親友の妻を演じた朝緒の安藤聖、同じく医師の妹を演じた親友・玲音の中村ゆりが美しい。友人・田端の黒木華は成長株。朝緒の分身らしき美雲は、スリムな初音映莉子。
夫・佐藤の伊達暁が声が通って存在感抜群。父の中村まこと、母の平栗あつみ、担任教師の横田栄司、目玉探偵Bの福田転球、同Cアルイハ謎郎の中山祐一朗も安定感があり、コメディセンスもいい感じでした。

七月大歌舞伎「義経千本桜」「勧進帳」「楊貴妃」

七月大歌舞伎 昼の部 2011年7月

話題の海老蔵復帰公演に足を運んだ。市川一門中心の配役。新橋演舞場の1階前の方、左寄りで花道のとっかかりがよく見える。1万5000円。

まずは「義経千本桜」から伏見稲荷鳥居前の場。初音の鼓が登場する導入部分で、露払いですね。紅白の梅、静御前を木に縛っちゃう趣向がちょっと色っぽい。面長の門之助さんの義経に、猿之助一門から猿弥さんの弁慶、笑也さんの静御前で若々しく。狐忠信の右近さんが、猿之助仕込みの荒事で、きびきびと格好良かった。

休憩で売店をひやかした後、お楽しみ「勧進帳」。松の舞台を背景に、富樫で海老蔵が登場です。なんだか痩せたようだし、ちょっと緊張気味か。でも声がいいので、舞台映えしますね。
義経は貫禄の梅玉さん、そして弁慶でいよいよパパ団十郎さんが登場。見どころが多い役だけに、とんとん進む感じだけど、要所要所にさすがのおおらかさが漂う。昨年観た幸四郎さんに比べて、勇ましい印象。お酒飲んじゃうところはちょっぴり皮肉だったけど。富樫に頭を下げて、飛び六法までたっぷりと。掛け声も多いし、盛り上がりました~

再度の休憩で昼食をとり、「楊貴妃」。1951年新派新劇合同公演で初演された大佛次郎作の戯曲を、斎藤雅文演出で。可憐から傲慢に転じる福助さんの楊貴妃と、海老蔵の宦官・高力士との、屈折した愛憎劇です。
海老蔵の怪しい美しさを生かそうとしたのだろうけど、現代劇風のセリフ回しや所作、中国衣装が、正統古典の後で観ると馴染めなかったかな。暗いシーンが多い3幕、やや長く感じちゃいました… 玄宗皇帝で引き続き梅玉さん。東蔵さんの李白が飄々として達者。

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RIP SLYME STAR TOUR2011

RIP SLYME STAR TOUR2011  2011年7月

楽しみにしていたRIP、行ってきました! 武道館スタンド2階の東端、ステージを右横から観る感じ。早めに着いて会場外でTシャツとタオルを購入。タオルがけっこう厚地で重いぞ。席に着いてビールとフランクをぱくついて腹ごしらえしている間に、定刻19時にすんなりスタート。

ヒップホップのライブって初めてだったんだけど、RIPは文句なくお洒落だなあ、と再認識しました。アルバム「STAR」を中心にしつつ、期待通り10周年ベスト「GOOD TIMES」の代表曲もたっぷり。大人の鑑賞にたえるよね。リフレインやMCで妙にひっぱることもなく、短いインターバルを挟みつつ2時間半、テンポ良く進む。
ステージ上は5人+後ろにエンジニアらしい人の姿が見えるだけ。シンプルにパフォーマンスの安定感が前面に出て良かった~ PES、RYO-Zの愛らしさ、ILMARI、SUの色気、そして全員の普通に真面目な感じが伝わってくる。聴衆も若くてノリノリだけど、奇抜な服装とか行儀の悪さとかはなく、爽やか。

そして大好きな「BABY」で、森三中・黒沢が聖子ちゃんスタイルで登場! ボーカルと怪しいダンスで盛り上げてくれました(アルバムでは実際にベイビーが誕生したFUMIYAの奥さんが歌ってるらしい)。ほかにメンバーが韓流アイドルの曲でダンスを披露したり、FUMIYAがサンプリングで笑わせたり。節電に配慮して演出は控えめだったらしいけど、ちっとも物足りなくない。
後方、FUMIYAを斜めに取り囲む大きな星形のセットが格好良く、終盤でその星形がステージ前方にせり出す場面も(後ろでスタッフが押してるのがみえた)。「SCAR」のケミカルライトがスタイリッシュだったし、本編ラスト「センス・オブ・ワンダー」でステージいっぱいに星空が広がったときは、ちょっと鳥肌ものでした。
この日の模様は後日WOWOWで放映するようです。楽しみ。

以下セットリストです。

01. The Beat Goes On
02. Don't Panic
03. Pop Up なう
04. フォーチュン・クッキー
05. TOKYO STOMP
06. STEPPER'S DELIGHT
07. 熱帯夜
08. 太陽とビキニ
09. 甘い生活~La dolce vita~
10. ○×△□
11. Dandelion
12. One
13. 運命共同体
14. Tales
15. Under The Skin
16. BABY
17. 楽園ベイビー
18. SCAR
19. FUNKASTIC
20. Watch Out!
21. Bubble Trouble
22. Good Day (adidas remix)
22. Good Times
23. センス・オブ・ワンダー
---encore---
24. By The Way
25. JOINT
26. バンビーナ
27.Wonderful

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ベッジ・パードン

シス・カンパニー公演 ベッジ・パードン 2011年7月

作・演出三谷幸喜。世田谷パブリックシアターのバルコニーみたいな2階左端の席で、舞台左上の階段以外はおおむね見渡せました。9000円。いつものように開演前から三谷ファンの期待が感じられる。休憩を挟んで3時間ちょっと。

「三谷幸喜大感謝祭」と銘打った新作3作目。漱石がロンドン留学時代に引きこもりになったという逸話をベースに、下宿の使用人アニーとの淡い恋など人間模様を描く。セットは下宿先ブレット家の漱石の部屋だけという、三谷さんらしいシチュエーションコメディだ。
歌やギャグを散りばめた軽妙な喜劇なのに、ほろ苦さの色が濃い。英語ができない漱石の焦りや訛り、育ちへのコンプレックス、才能ある人への嫉妬など登場人物の感情が切実だからだろう。差別への怒り、というより、そうした負の感情に触れてある人物がつぶやく「言葉にしなきゃわからなかったんだ」という後悔が印象的。どうしても作家の心境に重ねて観てしまうからか… 大きな存在、漱石から紡ぎ出すとても私的な思い。

ほとんど出ずっぱりの俳優陣は、粒ぞろいでしたね。アニーの深津絵里は声に張りがあって、予想以上に舞台で映える。可愛すぎる造形で最初はちょっと違和感があったけど、結果的には現実から浮き上がる感じが良かった。1幕ラスト、虚言癖をつかれて「夢を語らなかったら語るものがない」と打ち明けるシーンには、泣けましたぁ。漱石の野村萬斎さんは抑えめの演技で安定感。浅野和之さんは自己最多11役に挑戦し、出たり入ったりの大活躍です。しかもそれが漱石を悩ませるカギになる仕掛けが巧い。
何より、下宿人仲間の商社マン惣太郎を演じる大泉洋が出色。ドラマの感じそのまま、不思議な切なさがあるんだよなあ。舞台上での存在感、リズムもなかなか。たぶんハプニングだと思うけど、浅野さんのスカートがドアに引っかかったとき、冷静にフォローしてましたね。

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血の婚礼

大規模修繕劇団旗揚げ公演「血の婚礼」 2011年7月

作・清水邦夫、演出・蜷川幸雄。ガルシア・ロルカの「血の婚礼」にインスパイアされて書いたという戯曲で、1986年初演作の12年ぶりの再演に足を運んだ。
半年にわたるBunkamura改修中、「演劇界を修繕する」という意味も込めて井上ひさしが命名したというカンパニー。
かつては映画撮影所だった豊島区立朝日中学が廃校となり、その跡地を利用しているアートプロジェクト、にしすがも創造舎の体育館が特設会場だ。階段状にパイプ椅子を並べた後方、中央あたりの席で8000円。開演前後には校舎の前でリアル蜷川さんが関係者とおしゃべりしていて、なんだか学園祭みたいな感じ。観客は老若男女幅広いけど、かなり演劇好きの雰囲気が漂ってた。

体育館に入ると、舞台上は猥雑な路地。ネオンや時代物の自販機をバックに、うらぶれたコインランドリーとビデオショップが並び、周囲に黒い幕を垂らして開演だ。
いったん落ちた照明がほの明るくなると、舞台上にはざあざあ雨が降り注いでいる。立ち入り禁止の黄色いテープが落ちて1時間半、ほとんどが本水を浴びながらの演技。非日常感が圧巻だ。

物語は結婚式場から駆け落ちした男女の後日談であり、捨てられた花婿の復讐劇なのだけど、そういう設定の割に人間関係はあまり深刻な感じがしなかった。逃げた2人を訪ねてくる親戚たちなんか、コミカルなほど。
むしろ、社会のどん詰まりみたいな路地に降り続く雨とか、繰り返し大音響で行進する謎の鼓笛隊、通り過ぎる電車のイメージの方が強烈だ。問答無用で日常に割り込む、避けようのない災厄。
その災厄に対して、人はなんて無力なんだろう。壊れたトランシーバーを握りしめ、誰かと交信し続ける少年や、ビデオショップのマスターと腐れ縁を続けている姉さん(とその姉)は、必死にコミュニケーションを求めているけれど、どこにもつながらない。焦燥と切なさ。先日の「たいこどんどん」といい、さまざまな戯曲を今に生きる観客に提示する、このへんが蜷川マジックなのかな。

北の兄・窪塚洋介は非常に淡々としているものの、立っているだけで雰囲気がある。ただ、駆け落ちした北の女・中嶋朋子や、花婿ハルキの丸山智己、トランシーバー少年・田島優成もテンション抑えめなのがちょっと物足りない。長いモノローグがある喪服の男・青山達三と姉さん・伊藤蘭が、演劇らしく存在感があった。
それにしても、あの大量に降る水は、どういう仕掛けになっているんだろう? パンフレットによると、「水(雨)」は水功社・山本喜久雄さん、「鉄骨(プール)」はオサフネ製作所・長船浩二さんだそうです。

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チャリティ落語「壷算」「替わり目」「時そば」「道灌」「ハナコ」

第2回東日本大震災チャリティ落語-落語の力- 2011年7月

出演者全員無償のチャリティで、落語6団体が協力している。渋谷C.C.Lemonホールの1階中ほど右寄りで3800円。

しょっぱなが三遊亭王楽さんという贅沢さ。ちょっと遅れちゃって、ナイツの漫才の終わる頃に到着しました。
まずは大御所、歌丸さんの「壷算」を聴く。笑点ですよ、うわあ本物、って思っちゃう。噺は端正。談笑さんの薄型テレビ算のほうが何度も聴いてるわけですが、はは。
続いて三遊亭小遊三さんが「替わり目」。談春さんで聴いたことがある演目で、酔っぱらいが車屋さんに無茶を言うところから、夫婦愛を感じさせるところまで。小遊三さんの酔っぱらいは可愛げがあり、女将さんとのやりとりも歯切れがいい。

短い仲入りのあと、渡辺正行さんが登場。幕が上がったら高座がそのままなので客席がどよめく。落語なんですね~ マクラは明大落研で志の輔さんから伝統ある高座名を受け継いだ逸話など。志の輔さんの真似がうまい。「冬の噺だけどこれしかできない」「着物も冬物」などと言い訳しつつ、「時そば」をきっちりと。
そしていよいよ談春さん。立川流が寄席スタイルに呼ばれるとは、自分がショートプログラムで兄弟子がフリーをやります、などと、相変わらずちょっと斜に構えたマクラから、初めて習った噺、と前置きして「道灌」。ご隠居から、道灌が雨具を借りようとして和歌で断られるエピソードを習った八五郎が、真似ようとしてグダグダになる。八五郎の駄洒落をご隠居が採点するあたり、テンポがよくて、さすがに巧い!
トリは志の輔さん。故郷富山の焼き肉店のユッケ騒動、規制が発表されて「えっ、ダメだったの?」と驚いた話、とはいえ事前に断ればいいのか、という疑問から、飛行機の天候調査の話…と、結構ハイテンションなマクラがあって「ハナコ」。なんでも事前にしつこく説明する宿、しまいには夕食に出す牛の説明まで…という新作です。風評被害も連想させ、「今らしさ」が色濃い。チャリティでもこのヒネリ、らしいですね。

この豪華顔ぶれで2時間半。駆け足だったのがやや残念だけど、楽しかった。

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