南へ
NODA・MAP第16回公演「南へ」 2011年3月
作・演出野田秀樹。多くのエンタメやイベントが中止になるなか、東京芸術劇場中ホールに足を運んだ。1階前の方の右寄りで9500円。さすがに空席が目立つ。
開演前に今回の題材や演出に関する女性のアナウンスがあり、野田さんの「劇場の火を消さない」というコメントも流れた。たびたび火山の噴火を表現するので、確かに観ていて辛い感じは否めない。それでも休憩無しの2時間強、最後の野田さんの挨拶まできいて、覚悟のほどというか、なんだか感慨を覚えた。
お話はかなり難解という前評判どおり、混沌としている。「無事山」の観測所の新任職員、南のり平(妻夫木聡)は着任早々、データを読んで大噴火が近いと進言する。しかしプロ野球ファンの小市民的な所長(渡辺いっけい)らに危機感は薄い。それどころか、観測所にもぐり込んでいる謎の女あまね(蒼井優)から、そもそも本物ののり平なのかと問われて混乱するのり平。
そこへ三つ子で旅館を経営しており、噴火を予言できるというミハル(高田聖子)やら、天皇訪問の事前調査だと名乗る一行やらが入り乱れる。この一行、なぜか銀粉蝶が男性で藤木孝がその妻、先導役が野田秀樹という構成で、怪しいことこのうえない。
危機に直面したとき、何を信じるか。権威とは、日本人とは、そして自分はいったい何者なのか。普段は見ないふりをしてやり過ごしている、いろんなあやふやさが白日のもとにさらされる。中盤からは富士山が噴火した300年前と時を行き来しつつ、そういう問いがどんどん積み重なっていく。
共同体の外にいる人々とか、脱北とか戦争とか、ざらつくイメージもてんこ盛り。挙げ句はふりだしに戻るようなSFタッチの展開もあり、要素がすべてばらばらのまま、観客はぽんっと放りだされる。この舞台から何を考えるかは、個々人次第ということなんでしょう。個人的にはなんだか疲れちゃったし、消化不良なんだけど、今はこの宙ぶらりんさがリアルで、切実かも、と思う。
言葉遊びやギャグ、とんだり跳ねたりのファンタジーは今回、割と控えめ。セットも四角い骨組みと、後方で動いて和太鼓が出入りする火山の絵ぐらい。いたってシンプルだ。そのかわり、場面に合わせ様々なものに見立てられる大量のパイプ椅子と、群衆のダンスがイマジネーションをかき立てる。
妻夫木くんは以前観た「キル」のときより、成長したんじゃないでしょうか。か弱い立ち姿、妙な明るさが役柄にあっている。ショートカットの蒼井優ちゃんもまっすぐな印象。野田さんは足をひきずっていて、いつものダントツのキレと比べると今ひとつか。暴れ役は渡辺いっけい、高田聖子が引き受けていた。そして銀粉蝶はさすが、声が格段に通って存在感がありました~ 帰りにチャリティーにちょっと協力。きて良かったです。
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