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テンペスト

琉球ロマネスク「テンペスト」  2011年2月

池上永一の琉球王国版ベルばらともいえる娯楽作を、羽原大介脚本、堤幸彦演出で。赤坂ACTシアターの1階左中ほどで1万500円。年配の観客が多いけど、けっこうノリはよい。

20分の休憩を挟んで3時間ちょっと、男装のヒロイン真鶴/寧温が次々と強敵を倒していくストーリーを、テンポ良く見せる。俳優はマイクを使い、映像も多用して作り込んだ舞台。

主演の仲間由紀恵、恋人の薩摩藩士・山本耕史、兄の福士誠治ら、みな堂々としたもの。特に生瀬勝久と安田顕が、前半ではちょっと下世話に笑わせつつ、存在感を示した。真鶴と対立する巫女役の生瀬さんは、巨大な顔でスクリーンに現れ、時事ネタの東京マラソンに触れたりして怪演。ライバル朝薫を演じたヤスケンとともに、徐々に雰囲気を切り替え、ラストでは沖縄の今につながるメッセージを伝えてました。ペリーなど4役か5役ででていた西岡徳馬さんは、意外に控えめだったかな。

ロシアン・ブラス

ロシアン・ブラス サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー金管五重奏団 2011年2月

昨年観光したサンクトつながりで聴いてみた。日経ホールのやや左、最前列に近いところで3500円。

2004年に続く再来日だそうです。トランペットは巨漢のイーゴリ・シャラポフ、ちょっと格好良いアレクセイ・ベリャーエフ、ホルンは若手イーゴリ・カールゾフ、司会とトロンボーンが長身のマキシム・イグナティエフ、テューバが創立メンバーのヴァレンティン・アヴァクーモフ。

前半は5人が半円形に座って、チャイコフスキー(A・オスコルコフ編曲)「四季 12の性格的描写 作品37b」。冬の炉端からひばりの歌、白夜、クリスマスまで、月ごとにロシアの自然や行事をイメージした12曲。もとはピアノ曲で、11月のトロイカのリズムが快適。金管って案外柔らかくて、人の声みたいだなあ、と思う。
20分の休憩を挟んで後半はオペラの名曲集。「セヴィリアの理髪師」ではソロをとる人(アリアを歌う人ですね)が順にカツラをつけたりして、コミカルに。「魔笛」の「夜の女王のアリア」、「リゴレット」の「愛する美しいおとめよ」が心地よい。ラストはお国の「イーゴリ公」から「ダッタン人の踊り」。アンコールはトロンボーンに弱音器をつけてジャズっぽく。花束を運ぶ役の男性スタッフをからかったりして、素朴でベタだけど、温かい演奏会でした。

トゥーランドット

マリインスキー・オペラ「トゥーランドット」 2011年2月

2011年怒濤の引っ越し公演ラッシュの第1弾。NHKホールの1階ちょっと右寄り前の方。S席4万円。劇場のグッズ売り場もありましたが、入りは今ひとつか。

お馴染みのカリスマ、ワレリー・ゲルギエフ指揮の最終日。シャルル・ルボーの演出は意外に素朴で、仕掛けは中央の円柱状の舞台を斜めに上げるくらい。これが結構よかった。あとはダンスっぽく、服や帯を利用して故郷の湖をかたどったり、紙をつなげて刀や竜をあらわしたり。衣装も色を控えており、その分プッチーニの甘いフレーズ、金管や打楽器のアクセントに心地よく身を委ねる感じ。

ロシア出身でかためた歌手陣では、リューのヒブラ・ゲルズマーワが小柄ながら声がよくのび、「お聞き下さい、王子様」などで拍手を浴びてました。期待していたウラディーミル・ガルージンは、声質なのだろうけど、カラフにしてはこもり気味か。タイトロールのマリア・グレギーナもやや不調らしく、滑り出しはオケに押され気味で不安だったけど、クライマックスでは2人とも、「誰も寝てはならぬ」などきちんと聴かせてましたね。ピン、ポン、パンの3人組は安定し、滑稽さは控えめ。

カラフが姫に謎を与えるまでの1幕、2幕を続けて80分、30分の休憩を挟んで3幕40分と、トントン拍子でした。この演目は主役にアクシデントがあった2006年のフィレンツェ歌劇場以来だったので、ようやくちゃんと観た、という気分でした~

女殺油地獄

二月花形歌舞伎第二部「女殺油地獄」 2011年2月

ルテアトル銀座の一階やや右寄り、かなり前の方で、見上げるような感じでした。1等席1万3500円。亀治郎、染五郎ファンが集っている感じ。

市川染五郎が仁左右衛門直伝という10年ぶりの与兵衛。色気や凄みは今ひとつかも知れないけれど、現代的な感じで意欲が伝わります。お吉の市川亀治郎はかなりのしっかり者。母おさわの片岡秀太郎さんがさすがの存在感で、後見人みたい。

序幕はほがらかに「野崎参り屋形船の場」。「徳庵堤茶店の場」の泥だらけの喧嘩や、最後に駄馬がでてくるところもコミカルで、与兵衛の無鉄砲さ、小心者ぶりがわかります。
舞台が回って二幕目「河内屋内の場」では妹おかちの澤村宗之助が可愛く、兄・太兵衛の藤十郎一門、中村亀鶴もきっぱり。席が近いせいか、背後の舞台転換の音がちょっと気になったかな。

15分の休憩を挟んで三幕目「豊嶋屋油店の場」。父・徳兵衛(坂東彦三郎さん、ちょっと苦しい)とおさわの貫禄の泣かせ所があって、いよいよ凄惨な殺し場へ。効果音のような三味線にのせ2人同時に滑ったり、見得を切ったり。赤ん坊の泣き声が苛立ちを募らせ、亀治郎さん最後はめいっぱいのエビぞり。様式美たっぷりですね。客席左前方に作った花道を与兵衛がひっこむところ、恐怖とふてぶてしさがない交ぜで、なかなか。
今回は斎藤雅文補綴で珍しい「北の新地の場」が続きます。染五郎が一転、客席後方から明るく登場し、警備員をいじったり「ととのいました」を披露したり(たまたま目の前でした)、和事風のサービス。落差、無反省さが際立ちます。
大詰め「豊嶋屋逮夜の場」で、天井から証拠の書き付けが落ちてきたところへ、本人がのうのうとお参りに訪れる。役人が与兵衛のあわせに酒を掛けると血糊が現れ、ついに観念。花道でうっすら笑いを見せて幕となる。後日談があることで不条理が強調されましたね。

この近松の名作は以前に文楽で、勘十郎さんの与兵衛を観たほか、倉持裕の現代版「ネジと紙幣」も良かった。今回は与兵衛にフォーカスしていて、人間関係の妙はちょっと物足りなかったけれど、歌舞伎らしさを楽しみました~Photo_2

文楽「菅原伝授手習鑑」

第174回文楽公演第2部「菅原伝授手習鑑」 2011年2月

2月公演の第2部の「菅原伝授」に足を運ぶ。国立劇場小劇場の、床に近い左前の方。1等席5700円。

いやー、いい舞台でした! 今回は桜丸の悲劇に至るストーリーで、まず「道行詞甘替」。呂勢大夫さん、咲甫大夫さんら大夫5人、三味線5人で賑やかに。春の野辺、桜丸が飴売りに扮して言い立て。斎世親王と苅屋姫を荷箱に隠しての道行は、明るい雰囲気です。親王の幸助さんに拍手がありましたね。
続く「吉田社頭車曳の段」は、立場が敵味方に分かれた三つ子の対決。大夫5人に三味線1人で、津國大夫さんが時平の高笑いで健闘。

15分と短めの休憩を挟んで「茶筅酒の段」。摂津・佐太村の家で、三つ子の父・白太夫が70歳を迎えている。祝い酒を期待した百姓十作は、配った餅に茶筅で酒を振ったと聞いてがっかり。三つ子の嫁3人が到着、伸び縮みするところから「メリヤス」と呼ばれる三味線に合わせて、賑やかに雑煮などをつくる。ユーモラスなシーンが千歳大夫さんにぴったり。
続く「喧嘩の段」から雲行きが怪しくなってくる。松王丸、梅王丸がやってきて、取っ組み合った拍子に桜の木が折れてしまう。文字久大夫さん、清志郎さんが緊迫感を高めます。

クライマックス「桜丸切腹の段」は、お待ちかねキング住大夫さんがたっぷりと。参拝から戻った白太夫が松、梅夫婦を帰すと、なんと切腹を覚悟した桜丸が納戸から現れる。不吉なできごとが続いて、いよいよ白太夫も観念。勘十郎さんが遣うと、じっとうつむいているだけで悲痛な表情が見えてくるんだなあ。びっくり! 
蓑助さんの桜丸は、けなげで端正。清十郎さんの女房八重も、涙をこらえる小さな手の動きまで上品です。白太夫が唱える念仏に嘆きが高まり、鉦(しょう)をうって悲劇に幕がおります。堪能しました!Photo_4

チェーホフ?!

チェーホフ生誕150周年記念「チェーホフ?!」哀しいテーマに関する滑稽な論考 2011年2月

作・演出は元精神科医のタニノクロウ、ドラマトゥルク鴻英良(おおとり・ひでなが)。東京芸術劇場改修前ラストの自主企画だそうです。小ホールの中央前の方でS席4500円。開演前からマニアックな雰囲気。

フードをかぶった少年チェーホフ(マメ山田と、本物の少年)が、紙芝居のような額縁のなかに入っていって、前半は荒野、後半は病棟のようなところをさまよい、魔女や巨人、患者らと遭遇する。間奏曲を挟んで1時間20分、抽象的、断片的なシーンが続きます。心はどこにあるのか、心臓か脳か?とか。こういう難解さは正直、かなり苦手。

と思ったら、帰りに出口で鴻氏の注釈を配っていました。こんなの初めてだなあ。演劇批評家、ロシア芸術思想専門の鴻氏が、ドラマトゥルクという耳慣れない補佐役を務め、医師であったチェーホフの未完の論文「ロシアにおける医事の歴史」を翻訳したんだそうです。どうやら論文に出てくる、魔女の呪術や解剖学の論考などを材料に、小説のイメージも組み合わせて、チェーホフの精神世界を描き、同時に現代人の生活を批判している……のかな?

わからないながら、場面転換で人物がシルエットになるあたり、綺麗で印象的でした。魔女の鞠谷友子もスリムで美しい。ほかに貴婦人風の篠井英介、蘭妖子、手塚とおる。舞台前にバンドが陣取り、キーボード阿部篤志らも演技に参加してました。

国民傘

国民傘--避けえぬ戦争をめぐる3つの物語 2011年2月

作・演出岩松了。初めて行ったザ・スズナリは、狭い鉄階段を上がり、200席くらいのいかにも小劇場という雰囲気。お客さんは老若男女ばらばら。中ほど、やや左の席で4500円。

10分の休憩を挟んでほぼ2時間半。セットは木の衝立と机、椅子ぐらいとシンプルだし、音楽は舞台右端に控えた少年みたいな荒井結子のチェロ生演奏と、若干の効果音だけ。ひときわ難解という前評判だったので、初めはあんまりストーリーを追うことにこだわらなかった。

設定は3つ。戦時中、有害物質を含んだ雨から人々を守ろうと、政府が設置した「国民傘」。その傘置き場を勝手に移動して逮捕された母(長田奈麻)と娘(早織)が、見張りの看守(三浦誠己)が読んでいる小説の中に、戦場に行った兄の姿を見つけるのが1つ目。

2つ目は中隊長を捜す3人の兵隊(大賀、佐藤銀平、足立理)。さまよううちに、母親からの手紙をめぐって争いになる。
それから戦後まもなく、小さな印刷工場を経営する俗っぽい兄(石住昭彦)と芸術家肌の飄々とした弟(渋川清彦)。弟が撮った映画の話に、国民傘が出てくる。この町に恋人を残していた退役軍人アサイ(三上真史)が工場に雇われ、卑屈な使用人シン(三浦俊輔)との関係がきしんでいく。そこへ、色っぽいシンの愛人(片山瞳)や小間使(浅野かや)がからむ。

どこか現実感の薄い雰囲気と、岩松さんらしいすれ違い、すれ違いの会話や、乾いたユーモアが楽しい。そのうち登場人物の体験と思われた話が、小説や映画の中のエピソードに転じて、虚実がない交ぜになり、時間や場所がバラバラに見えた3つの設定も、どんどん錯綜していく。そんな頭がくらくらする感じが面白い。
なんてスリリングで、巧妙な展開だろう。何かを信じ、誰かを守ろうとする思いが、他者の排除とか、不幸な諍いとかにつながってしまう。ところが、そうまでして守っているつもりのものが、実は極めて不確かな虚構だったりするのだ。

オーディションによるキャスティングということで、俳優陣はナベプロの若手も含め馴染みのない人ばかりだったけど、みな達者。特に早織、三上が若々しく、長田も危なげなかった。「演じるってことは観客あってのもの」といった、含蓄あるセリフも。いやあ、大人の舞台でした。

クーザ

ダイハツ「クーザ」東京公演 2011年5月

3回目のシルク・ドュ・ソレイユ。原宿から10分ほどの特設テントで。観客の年齢層は幅広く、道を歩いているときから浮き浮きした気分が漂います。ビールとフライドポテトを買い込んで席に着く。左寄り中ほどのSS席で1万3000円。

今回のテーマはひと言で言うと、原点回帰。セットは後方にバンドが陣取る3階建てのバタクランだけと、いたってシンプルで、演目はいずれもサーカスらしいもの。それだけに、生身の人間の鍛え抜かれた技を感じさせました。

お話は凧を持った子供、イノセントに謎の宝箱(クーザ)が届くところから始まる。箱から玉葱頭のトリックスターが飛び出し、次々に幻想が広がっていく仕掛け。前半は明るく、30分の休憩を挟んで後半はややダークに。

なんといっても後半の「ホイール・オブ・デス」が圧巻でした。重さ700キロの巨大な風車。軸の両端にある輪に、南米コロンビア出身の屈強な男性二人が命綱無しで飛び移り、体重移動で軸を回転させる。目の前でどんどんスピードが速くなる車輪を見ているだけでも、振り落とされそうで十分怖いのに、輪の外側に乗って跳ね、しまいには縄跳びまで。胸が締め付けられるようなスリルです。
前半の「コントーション」は登場のシーンから衝撃的。なにやらキラキラした固まり、実はモンゴル出身の少女3人が絡み合っているのです。超軟体で繰り広げるエビぞりその他のポーズ、素早い動きはまるで蜘蛛のよう。とても人とは思えません。また、終盤の「バランシング・オン・チェアー」は白い衣装の中国人パフォーマーが、8脚の椅子を黙々と積み上げ、倒立などをしてみせるだけなんだけど、ハラハラドキドキ。

ほかにイヌイットのブランケット・トスを取り入れた「シャリパリ」や、お馴染み空中ブランコで妖艶に飛翔する「ソロ・トラピス」、地上7メートルを超す綱渡り「ダブル・ハイ・ワイヤー」、1本足スティルト(竹馬)をつけシーソーで舞い上がる「ティーターボード」など。クラウンらの客いじり(アニメーション)もたっぷりで、おどけたキングがマジックで女性を消したり、詐欺師ピックポケットがスピーディーな掏摸技を披露したり、客席の一つが突然せり上がったり。どうも観客役もキャストのようだけど、なかなか愉快。

ドーナツのようなお菓子をかじったり、Tシャツ(メンズ3200円、レディース2800円)やボールペンセット1200円、ストラップなどを買い込んだりして大はしゃぎしました。あ~、楽しかった!Photo Photo_2 Photo Photo

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