国民傘--避けえぬ戦争をめぐる3つの物語 2011年2月
作・演出岩松了。初めて行ったザ・スズナリは、狭い鉄階段を上がり、200席くらいのいかにも小劇場という雰囲気。お客さんは老若男女ばらばら。中ほど、やや左の席で4500円。
10分の休憩を挟んでほぼ2時間半。セットは木の衝立と机、椅子ぐらいとシンプルだし、音楽は舞台右端に控えた少年みたいな荒井結子のチェロ生演奏と、若干の効果音だけ。ひときわ難解という前評判だったので、初めはあんまりストーリーを追うことにこだわらなかった。
設定は3つ。戦時中、有害物質を含んだ雨から人々を守ろうと、政府が設置した「国民傘」。その傘置き場を勝手に移動して逮捕された母(長田奈麻)と娘(早織)が、見張りの看守(三浦誠己)が読んでいる小説の中に、戦場に行った兄の姿を見つけるのが1つ目。
2つ目は中隊長を捜す3人の兵隊(大賀、佐藤銀平、足立理)。さまよううちに、母親からの手紙をめぐって争いになる。
それから戦後まもなく、小さな印刷工場を経営する俗っぽい兄(石住昭彦)と芸術家肌の飄々とした弟(渋川清彦)。弟が撮った映画の話に、国民傘が出てくる。この町に恋人を残していた退役軍人アサイ(三上真史)が工場に雇われ、卑屈な使用人シン(三浦俊輔)との関係がきしんでいく。そこへ、色っぽいシンの愛人(片山瞳)や小間使(浅野かや)がからむ。
どこか現実感の薄い雰囲気と、岩松さんらしいすれ違い、すれ違いの会話や、乾いたユーモアが楽しい。そのうち登場人物の体験と思われた話が、小説や映画の中のエピソードに転じて、虚実がない交ぜになり、時間や場所がバラバラに見えた3つの設定も、どんどん錯綜していく。そんな頭がくらくらする感じが面白い。
なんてスリリングで、巧妙な展開だろう。何かを信じ、誰かを守ろうとする思いが、他者の排除とか、不幸な諍いとかにつながってしまう。ところが、そうまでして守っているつもりのものが、実は極めて不確かな虚構だったりするのだ。
オーディションによるキャスティングということで、俳優陣はナベプロの若手も含め馴染みのない人ばかりだったけど、みな達者。特に早織、三上が若々しく、長田も危なげなかった。「演じるってことは観客あってのもの」といった、含蓄あるセリフも。いやあ、大人の舞台でした。