« 2010年11月 | トップページ | 2011年1月 »

2010年喝采漬け

年末に2010年の観劇記録をまとめてみます。毎週のように、何かしらエンタテインメントに足を運んでいたので、息もつかせぬ喝采漬けでした。

なんといってもハイライトは、9月の英国ロイヤル・オペラ「マノン」でしょうか。キャスト変更のハプニング相次ぐなか、期待を一身に集めて無事に来日したネトレプコが、劇場全体を振るわせる圧巻のプリマ・ドンナぶりを見せつけ、一流の誇りというものを感じさせました。オペラでは、7月のトリノ王立劇場「ラ・ボエーム」のフリットリも美しく、実力があって素敵だったし、ほろ苦い物語にも魅せられました。2、3月には新国立劇場「トーキョーリング」をついに完走。

もう一つのハイライトは、やっぱり4月の歌舞伎座さよなら公演「助六由縁江戸桜」。一連のさよなら公演では、「家の芸」を数々堪能したけれど、「助六」の団十郎、玉三郎、仁左右衛門、菊五郎、勘三郎…という超豪華配役に、徹頭徹尾現実離れした破天荒な展開は、図抜けた存在感でした! 市川宗家については年末、海老蔵事件なんてがっかりの展開もあったけど…

歌舞伎同様の伝統芸能といえば、文楽。九月公演第二部「桂川連理柵」が、チャリ場から心中へと変化に富んでいて面白かったかな。嶋大夫さん、熱演でした。九月公演第一部で、没後40年の三島歌舞伎「鰯売恋曳網」を文楽に置き換えた咲大夫さん、2月に極めつけ「曾根崎心中」を遣った吉田蓑助さん、それから9月の住大夫さんの素浄瑠璃「仮名手本忠臣蔵」も楽しみました。

いちばん数多く観たのは、演劇でしょうか。いつも楽しみにしている岩松了さんは、9月のシアターコクーン「シダの群れ」が、お馴染みの深い会話劇で目が離せなかった。阿部サダヲの切なさが際立ってたけれど、江口洋介も案外渋かった。
意外だったのは、5月のパルコ・プロデュース公演「裏切りの街」。三浦大輔はエグイ内容なのに、不思議な雰囲気があることを発見。嬉しい驚きです。秋山菜津子、田中圭もよかったし。
ほかに印象的だったのは、11月に来日したロベール・ルパージュの「ブルードラゴン」。凝った大人の舞台でしたね。ちなみに市川宗家に対抗する注目株、亀治郎さんが出た10月の彩の国シェイクスピア・シリーズ「じゃじゃ馬馴らし」も、蜷川幸雄演出のオールメール・シリーズでけっこう面白かった。同じく大物の野田秀樹は、「ザ・キャラクター」が圧倒的に話題だったけど、私としては9月のNODA・MAP番外公演「表にでろいっ!」が、小規模ながらさすがのリズム感、と思いました。

ミュージカルでは5月のブロードウェイ・ミュージカル「ドリームガールズ」で期待通り、本場の抜群の歌唱力を、なんと最前列で堪能。とにかく「リッスン」は名曲です!

名曲といえば、コンサートでは7月の久保田利伸コンサートツアー「Timeless Fly」で感激。ついに「ミッシング」を生で聴いたのが、幸せでした~

そして年末は談春さん独演会、感動の「文七元結」でしめくくりました。落語も志の輔、鶴瓶、喬太郎、三三……と聴くうちに、噺家さんの個性というか、演じる者の自意識みたいなものを感じるようになってきて、ますます面白いなあ。

最後に番外編を2つ。ひとつは10月のワーナー創立40周年記念のイベントで、なんと初の武道館という大御所山下達郎さんが、メッセージをこめて歌った「希望という名の光」。もうひとつは11月、立川一門会でトークの予定を急きょ変更し、病後の談志さんがついに「へっつい幽霊」を演じたこと。いずれも長いキャリアの重みというか、舞台にこめる思いと伝える力に圧倒されました。やっぱりその場に居合わせて目撃するということは、インパクトが大きい経験です。

いやー、1年間、こうやって抜粋するだけでも大変。ちょっと詰め込みすぎかな~
とはいえ2011年は、オペラの引っ越し公演ラッシュで多忙必至だし、落語もいろいろ聴きたいし、暇にはなりそうにありません。来年も、いろんな感動に出会うぞぉ!

立川談春独演会「棒鱈」「文七元結」

立川談春東京独演会 2010年12月

よみうりホール。1階右寄りやや後ろの方で、3500円。観客はやや若めで、みな凄く楽しみにしている雰囲気です。

前座はなく、いきなり登場。談志さんが復活してついに「芝浜」をやる、こっちは違う演目にしておいて良かった、というビッグニュースがさらりとあって、まず2010年前半の話題、大相撲のどたばたを振り返る。可朝さんに習ったという、野球賭博の仕組みをひとくさり。あの5月の2人会の時かな? それから最近の海老蔵事件をからかい、「ああいう酒の上の間違いってのは本来、噺家がおこすべきなのに」という、ちょっと深いふりがあって、酒席の話「棒鱈」に入る。
江戸っ子二人が料理屋でいい加減酔っぱらっていると、隣の部屋に侍がやってきて芸者を呼ぶ。その田舎者ぶりに江戸っ子は我慢がならず…という馬鹿馬鹿しいお話。軽妙な人物の演じ分けが相変わらず巧い。特に年増女の真似。笑わせてくれます。

中入り後、予告していたご存じ「文七元結」。マクラなしに入り、演出も控えめな照明だけ。1時間15分じっくり聞かせて、まったく気を逸らさない。さすがです。
談春さんでこの噺を聴くのは、2008年の暮れ以来2度目。左官の長兵衛が、吾妻橋で文七に50両やっちゃうところ、江戸っ子気質というだけでなく、解釈が噺家さんによって分かれる。前回は、文七に言い聞かせてるうちに、自分のふがいなさに腹を立てて、という展開で、格好良かった。今回はうって変わって、文七の言い草から親に対する子の愛を思い知るという、まあ、感動必至の設定。泣けました~。その分、ほかの登場人物の造形は、前回よりあっさりしてたかも。
無邪気じゃないというか、人物が能弁すぎる、という意見もあるらしいけど、ここまで聴く者を集中させる力量は凄い。大満足でした!

アベニューQ

ブロードウェイミュージカル アベニューQ 2010年12月

東京国際フォーラム・ホールCの、1階左寄り前のほうで9800円。観客は若めだけど、異色作とあって一癖ある観客と、私同様よくわからないで来てる人が混ざっている感じか。

主人公のプリンストンは大学を出て、張り切ってニューヨークにやってきたけれど、ちっとも将来の展望が描けない青年。似たり寄ったりのさえない境遇にある、安アパートの隣人たちとの交流を描きます。

最大の話題はなぜか登場人物が、マペットと人間の混成チームだということ。人間は普通に演じ、マペットのほうはグレーの衣装を着た役者が舞台上で操りながら、セリフや歌をこなします。
正直、最後までマペットを使う意味がよくわからなかったんですよ。確かにネットの負の側面や、人種差別意識なんかをあからさまに歌っているので、マペットのほうが本音が言えるってことかもしれませんが。

その不思議さをのぞくと、曲も歌も平均点。決して悪くないんだけれど、舞台の手作り感といい、ちょっと大学祭のイベント風かな。マペットを使うのは、実は俳優の数が限られているからかも、なんて思っちゃいました。

市馬・喬太郎「七段目」「カマ手本忠臣蔵」

らくご@座・紀伊国屋~2010冬うふふ公演~ 「市馬・喬太郎 忠臣蔵でござる」 2010年12月

新宿本店4階の紀伊國屋ホールで、客層は若め。左後ろの方で3500円。季節柄、忠臣蔵をテーマにした二日間の二日目。といってもそこは喬太郎さん。まず二人で挨拶をして、「古典じゃあありません」と前ふりをする。談春、三三に出演を依頼して断られたのかな、なんてライバル心もちらり。

とはいえ市馬さんは、昔、小さんがおかるを演じたという「鹿芝居」をマクラに、まずさらりと「七段目」。芝居狂いの若旦那と定吉が夢中で歌舞伎ごっこをするシーンで、朗々たるセリフ回しを聞かせる。階段から定吉が転げ落ち、「七段目から」とサゲ。
続いて喬太郎さんが、やはり鹿芝居ネタでお馴染みの談志さんの物まねなんぞを披露しつつ、仮名手本ならぬ「カマ手本忠臣蔵」。これがとびきり気持ち悪かったぁ。松の廊下で内匠頭が吉良に迫る、殿が殿なら家臣も…という設定。まあ、忠臣蔵の知識を前提にしたヒネリ技だけど、怪演過ぎ。

仲入りをはさんで本当に鹿芝居。市馬さんが内蔵助、喬太郎さんが吉良で、紙切りの二楽さんが浪士なんだけど、効果音がずれてぐだぐだでした。続いて二楽さんが本職を披露。会場から忠臣蔵にちなんだお題「中村仲蔵」「淀五郎」が出て、知識が乏しいらしく四苦八苦してましたね。
そして最後は市馬さんが満面の笑みで登場し、三波春夫の歌謡浪曲「俵星玄蕃」を披露。喬太郎さんが杉野十平次で助太刀し、ミラーボールや雪の演出も。市馬さんの歌は本職とはいえ、全体に悪のり気味。こういうのも噺家の自意識なのかな、なんて思っちゃいました。

Photo

 

「黴菌」

シアターコクーン・オンレパートリー2010「黴菌」 2010年12月

作・演出ケラリーノ・サンドロヴィッチ。Bunkamuraシアターコクーンの1階後ろの方でS席9500円。

昨年末に観た「東京月光魔曲」に続く昭和3部作の2作目。笑いの要素を散りばめているものの、前作のような猥雑さは影を潜めた。いびつな家族の物語に、終戦を挟んだ昭和ニッポンが投影される。

舞台は郊外に建つ、五斜池家のリッチな洋館だけ。1945年の、閉塞色濃い終戦直前から始まる。医師の山崎一と高橋恵子の長男夫婦、軍人の影武者として人目を忍んで暮らす生瀬勝久の次男、ふらふらしている北村一輝の四男が同居している。幼いころの三男の死をめぐる後悔と疑念から、兄弟の関係はぎこちない。

役者陣は豪華で、みな達者。その分、どうも焦点が拡散する感じがしちゃいました。長男によって新薬の実験に使われてしまう岡田義徳と犬山イヌコ夫婦、そんな長男に反発する息子の長谷川博己までは、なんとか把握できる。そこへ、四男と、婚約者で可憐さ全開のともさかりえ、一家に出入りする工員の仲村トオルという三角関係が重なる。特に仲村トオルが大仰に演じる、気が利かない善人という設定が妙に存在感が大きい。
さらに舞台回しとして、仲村トオルの妹で当主の愛人、緒川たまき、使用人の小松和重、池谷のぶえらがからんできて、いったいどこを観ていいのやら。

嵐の夜、五斜池家の事業の破綻が明らかになり、ショッキングな事件も起きて急展開。停電と降りしきる雪が効果的。しかし幕切れは、敗戦というどん底の解放感を背景にして、家族の再生が予感される。北村一輝の独特の声が、繊細さを感じさせてよかった。

METライブビューイング「ドン・パスクワーレ」

METライブビューイング2010-2011第3作「ドン・パスクワーレ」 2010年12月

ドニゼッティの身も蓋もないイタリア喜劇を、メトロポリタン歌劇場の録画で。東劇のほぼ中央の席で3500円。外国人らかなりのオペラ好きが集まっている感じ。御大ジェイブズ・レヴァイン指揮。オットー・シェンクの演出は、伝統的だがテンポが良い。

若い恋人同士が、金持ちだけどケチな伯父パスクワーレに結婚を認めさせようと、一芝居うつ。仕掛け人となるノリーナを演じるアンナ・ネトレプコ見たさに足を運んだが、期待通りでした!  
第1幕、貧しいペントハウスで日向ぼっこしながら、得意げに恋の手練手管を歌う「そのまなざしに、かの騎士は」で、いきなりおきゃんな魅力が全開。エビぞりながらの高音もばっちりだ。第2幕でパスクワーレの屋敷に乗り込んだ当初は、大げさに内股で立って猫をかぶってみせ、後半は浪費家の悪妻に豹変。医師マラテスタに振り回されたり、ベッドで飛び跳ねたり、生き生きとやりたい放題で楽しい。

長身を折るようにして、気の毒なパスクワーレを演じるジョン・デル・カルロが、大仰でリズム感もよく堂々の喜劇人ぶり。ノリーナを使って策謀を巡らす医師マラテスタのマリウシュ・クヴィエチェンも、怪しいサングラスをかけたりして色気がある。2人は第3幕、ノリーナの逢い引き現場をおさえに行く前の二重唱「そっと、そっと、いますぐに」で超絶早口を披露して観客の喝采を浴び、幕前でアンコールするサービスも見せてました。
恋人エルネスト役のマシュー・ポレンザーニは、第1幕で「甘く清らかな夢よ」、弟2幕でトランペットにのせて「哀れなエルネスト」、そして大詰めの夜の庭園でベタなラブソング「なんと心地よい4月の宵よ」を歌う。そういえばロイヤルオペラの来日公演「マノン」でも、ネトレプコの相手役だった。仲が良いのかしら。線が細い感じがしたけれど、甲斐性のない役柄にぴったりでしたね。

2幕と3幕の間で歌手陣にインタビューするほか、幕の間でも舞台裏の転換作業をたっぷり見せる趣向。特に3幕の舞台後方で、モニターを使ってピットにいるレヴァインの指揮をちゃんと確認しながら演奏する様子が、興味深かった。関係ないけど、爆笑の舞台の間に挟まった次作「ドン・カルロ」のアラーニャとキーンリーサイドのインタビューが、場違いに真面目でした…

立川談志一門会「金明竹」「時そば」「落語チャンチャカチャン」「へっつい幽霊」

立川談志一門会 2010年11月

読売ホール2階の中央かなり後ろの方。4500円。いつものように談志ファンが詰めかけている。
遅れてしまって平林さん「浮世根問・名古屋弁バージョン」と志遊さん「笑い茸」は残念ながら逃しました。席に滑り込んで、志らくさん。よみうりホールで近くある談志さんのビデオライブをちゃかしたり、政治家の失言にひっかけてラジオで「行け!柳田」を流した話をしてから、「金明竹」。前半、与太郎と骨董屋主人の珍妙な応対で普通に笑わせておいてから、聴かせ所、加賀屋の使いの「道具七品」の口上。なんと古典の上方者を大阪で働くアメリカ人に置き換え、妙ななまりをハイテンションで何度も繰り返し、ほとんど意味不明。会場も反応も良い。おかしくて、相変わらず高度でした。

仲入りで軽くパンを食べ、後半はまず談笑さん。亀戸の中学の同窓会のマクラがあって「時そば」。人気者二人して今日は前座、という意気込みか。うどんのすすり方になったり、ベテランの演じ方に触れたり、中野駅前の店を登場させたり。明るくていい。

トリはお待ちかね談志さん。予告ではスペシャルトークとあったが、舞台上は椅子ではなく、座布団のままで、一人で登場してちょこんと座った。顔色も良さそうで、客席の期待がぐんと高まるのがわかる。ちょっと前屈みで話し出すと、さすがに声がかれていて、かなり辛そう。「繁盛亭に行ってきた」「体調は良いが、あまり食べられない」とぶつぶつ言ってから小咄。
いつものジョーク集が続くのか、と思ったら、なんと「落語チャンチャカチャン」へ。古典の名セリフをつなげた演目で、シュールな味わい。聴いたばかりの「金明竹」とか、「長屋の花見」「たがや」「鼠穴」なんかも入れて、滑らかだ。「芝浜」の夫婦が互いに「百八つ」と繰り返すところで、満場静まりかえる。ちょっと異様な雰囲気。
ちょっと石原さんに触れて、「へっつい幽霊」に入る。遊び人が近所の道具屋から、幽霊が出るというへっついを引き取り、隠してあった金をせしめるが、博打ですってしまう。出てきた若旦那の幽霊が「決して足は出しません」と言ってから、「安心しろ、サゲは後で」とやってから、「半分ください」でサゲ。挨拶もなく、ちょっと謝るポーズで幕となりました。
正直、聞き取りにくいところもあったけれど、芸人の性根を見せてもらった感じ。途中軽い地震があったものの、舞台上も客席もものともしない集中ぶり。貴重な一夜でした~

Photo

国性爺合戦

国立劇場11月歌舞伎公演 通し狂言「国姓爺合戦」 2010年11月

国立劇場大劇場。前の方、中央の席で1万2000円。近松門左衛門の著名な時代浄瑠璃を珍しい通しで。ベテラン揃いの配役で、歌舞伎好きが集まっている感じ。

序幕、大明御殿の場は南京城が舞台。あまり演じられない導入部です。異国情緒の美術や華やかな「花いくさ」に、血なまぐさい展開があいまってまさに極彩色。敵の韃靼と通じ、明国滅亡の引き金をひく李蹈天に中村翫雀さん。堂々たる悪役ぶりがいい。

肥前国平戸の浦の場で、いよいよ20年ぶりの和藤内(実在の英雄、鄭成功がモデル)、団十郎さんが登場。明るく長閑な干潟にずんと立ち、水平線を見つめる後ろ姿がでかい。ここではまだ隈取りはなく、若くてやんちゃな漁師姿という趣向です。蛤と鴫のエピソードがちょっとユーモラス。船で逃れてきた栴檀皇女(せんだんこうじょ、中村亀鶴)を助けて、父の祖国の再興に立ち上がることを決意します。

休憩を挟んで二幕目、暗めの千里ヶ竹の場は立ち回りがたっぷりだ。和藤内は隈取りで勇壮さを表し、なんと素手で「虎狩り」。さらに官人(韃靼兵)と闘って首をひねり、手下にした印に全員の月代を剃る。大暴れだけど、どこかコミカルで、おおらかです。

和藤内親子が旧知の将軍・甘輝を頼っていく三幕目、獅子ヶ城楼門の場で甘輝の妻・錦祥女役の大御所、坂田藤十郎さんが登場。この役は37年ぶりとか。ピンクの袖がひらひらして、妙に可愛い。声も明るく、とても79歳には見えません。門の上から、幼いときに別れた父、老一官(鄭芝龍、市川左団次)を認めて、切々と泣かせます。堂々たる立女形ですねえ。とはいえ、夫が留守なので勝手なことはできず、老一官の妻、渚(中村東蔵)だけを、捕らえたと偽って城に入れます。

四幕目、獅子ヶ城甘輝館の場は、その東蔵さんが大活躍でした。小柄な体で縄に縛られたまま、味方になるよう甘輝を必死に説得。声が通ります。甘輝が「韃靼を裏切って和藤内に味方するには、妻を殺さなければならない」と言い出すと、今度は身を挺して錦祥女をかばう。激しい動きも存分です。ストーリーはお約束、義理と情けの板挟み。結局、甘輝は和藤内に味方できないことになり、錦祥女は合図として流水に紅を流します。

次が有名な紅流しの場。城外の石橋にどっかと立つ和藤内は、水に流れる紅をみつけ、「南無三、紅が流るる!」と怒り心頭。真っ直ぐな人だなあ。母奪還のため城へ向かう花道で、元禄見得や飛び六法で拍手。ちょっとあっさりしてる気もしたけど。 

大詰め、元の甘輝館の場で、いよいよ和藤内と甘輝の両雄が対決します。甘輝の中村梅玉さんは初役だそうですが、長い髭に沈着さがにじむ。あわや斬り合い、というところで錦祥女が止めに入りますが、なんと彼女はすでに虫の息。「自分を犠牲にしても、夫と親兄弟とを味方にしたい」という妻の健気さにうたれ、甘輝はついに和藤内と共に闘うことを決意します。金ぴかのきらびやかな装束に改め、立派な主従となった二人をみて、「義理の娘だけ死なせるわけにいかない」と、渚まで自害しちゃう驚きの展開。幕切れはなんだか悲愴だったけど、見応えがありました~。

« 2010年11月 | トップページ | 2011年1月 »