タンゴ
シアターコクーン・オンレパートリー2010 「タンゴ」 2010年11月
S・ムロジェック作、長塚圭史演出。Bunkamuraシアターコクーンの1階後ろの中央で9000円。
アルトゥルが家族と演じる論戦、ドタバタを、生成と木目の移動する四角い箱、透明アクリルの家具という、串田和美のシンプルな美術で表現。床に開いた穴から唐突に人が出入りしたり、小道具を取り出したりするのが面白い。演出家が透明人間よろしく片隅にたたずんで成り行きを見守っていて、どこかお伽噺っぽい現実感のなさを印象づける。
著名な戯曲で、冷戦期の1965年にポーランドで初演されたとか。長大で思索的なセリフに、乾いた笑いが散りばめられ、ぎっしり内容が詰まっている感じ。自由を得た父母の世代と、秩序の回復を願う若者の対立。体制の中に反抗の対象を見失った若者の、未熟な暴走。破綻の末に、空っぽのステージに鳴り響くタンゴの虚しさ。
とにかく豪華俳優陣が達者でした! 主役アルトゥルの森山未来は、終始イライラしながら、大量のセリフを早口でまくし立てる。いつもの、ちょっと猫背の首筋がもろくて繊細だ。圧倒的なのは、調子っぱずれの父ストーミルの吉田鋼太郎さん。よく耳に届く声とリズム感で、出てきただけで舞台全体を引き締める。期待の秋山菜津子さんは母エレオノーラを、割と控えめに演じ、危うさと上品さのバランスが絶妙。アルトゥルが伝統的な結婚を望む、従姉妹アラの奥村佳恵も幼さが可愛かった。
みなさん表現が豊かで存在感も申し分ないのに、後半どうも間延びしたと感じたのは私だけか。ちょっと森山くん、一本調子だったかも。