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よってたかって秋らくご「締め込み」「聖橋」「甲子園の魔物」「すみれ荘201号」

よってたかって秋らくご21世紀スペシャル寄席ONEDAY  2010年10月

東京芸術劇場中ホール。1階後ろの方、3500円。お客さんの層は幅広く、女性の掛け声もかかり、笑ってやろうと待ちかまえている感じ。

まず前座で入船亭辰じんの「道灌」。続いて注目の柳家三三さん登場。チリの落盤救出劇など、時事ネタにまつわる駄洒落をぽんぽんとしゃべってから、古典の「締め込み」。空き巣狙いが隠れている家で派手な夫婦げんかが始まり、思わず泥棒が止めに出て、亭主と酒を飲み始めるところまで。歯切れがよく、おかみさんが二人の馴れ初めをまくしたてる、江戸前のいいたてのところで拍手。なかなか良かった。
あとは新作続きとなって、まずジャージ風着物姿の三遊亭白鳥が、賑やかに「聖橋」。歌舞伎役者の苦労話「淀五郎」のパロディらしい。オヨンジ師匠の弟子の売れないミミちゃん(三三さんですね)が、思いがけずさる「家元」との二人会で「文七元結」をリレーすることになったが、妙な熱演をするものだから家元が機嫌を損ねて帰ってしまい、という設定。実際に白鳥さんは談志さんをなにやら怒らせたことがあるとか。ギャグ満載で噺家たちを思うさまおちょくり、笑わせる。

10分の仲入りのあと春風亭百栄。いかにもオタクっぽく、1970年代のアニメ「アパッチ野球軍」に関する蘊蓄から、決勝で手ひどいエラーをした球児に、甲子園に棲む魔物がささやきかける「甲子園の魔物」。古今亭今輔作だそうです。
そしてお待ちかね柳家喬太郎。大学卒業後、入門までの短期間勤めていた銀座「福家書店」が、実は今日閉店で、と語り始め、当時作った噺を、と「すみれ荘201号」。女子大生の裕美子が郷里でお見合いした、そのわけは、同棲している恋人が落研だと知ったから…。ねっちりした人物造形が凝っている。お下劣だったり自虐的だったりしながらも、どこか青春の甘酸っぱさが漂う。屈折しつつ、じわじわ笑わせる感じ。途中、春夏秋冬、季節に合わせて聴く噺を並べるところで、「秋は目黒のさんまだろ」と、ちょっぴり「秋らくご」らしいサービス。
幕が降りかけたところにストップをかけ、「余計ですが」と言い訳してから芸を披露してくれました。できる書店員の小原さん(本人ですね)が、ヤマケイに雑誌を発注するシーンの再現で、ちょっとしんみり。面白かったです!Photo

文楽素浄瑠璃の会「誠忠義士銘々伝」「義士銘々伝」

国立劇場第153回邦楽公演 文楽素浄瑠璃の会  2010年10月

国立劇場小劇場。少し前寄り左側で4800円。

幕があがると、壇上左に大夫、右に三味線でいきなり始まるスタイル。まず豊竹咲大夫、鶴澤燕三で「誠忠義士銘々伝」の「早野勘平陰腹の段」。
先日、住大夫さんの素浄瑠璃で聴いたばかりの「仮名手本」バージョンのいわばパロディで、大阪空襲で焼失した床本を豊竹山城少掾が復活させ、八世綱大夫、子の咲大夫さんに伝えられたそうです。咲大夫さんが語るのは45年ぶりとか。
仮名手本版と違って、こちらはいきなり勘平が切腹してしまい、介錯される寸前で真実が明かされるという、より悲劇的な展開。咲大夫さんは朗々と声が響いて、アリアみたいな感じ。

20分の休憩を挟み、竹本住大夫、野澤錦糸で「義士銘々伝」の、討ち入り当日のエピソードを描いた「赤垣源蔵出立の段」。こちらも45年ぶりだとか。
源蔵は明治期の講談や浪曲「徳利の別れ」のほうで知られる、大酒飲みキャラで、作者不詳のこの浄瑠璃版でも、「しの字の道をぐの字で歩む」千鳥足で登場。前半はずいぶんコミカルです。
降りしきる雪が目に浮かぶ三味線が印象的。住大夫さんは声は渋いんだけど、やっぱり演技力が凄い。「酒故に身も破れ笠」と力を入れて情けなさを強調し、「すっこんでけつかろ」と凄み、さらに兄嫁にもらった羽織は「腹の中へ直しておきました」と言い訳して、笑わせるくだりまでは軽妙。
ところが病身の母と会って、「今生のお暇乞い」と口を滑らせるあたりから、雰囲気ががらりと変わって盛り上がります。いよいよ討ち入りと察した母が、決意を鈍らせまいと、なんといきなり自害しちゃう。兄夫婦ともども泣いているところで、ラストはもぐり込んでいた吉良の間者を討ち取るスピード感ある展開。きめ細かな語りでそれぞれの人物、情景が目に浮かびます。

15分の休憩後、住大夫さん、山川静夫さんの対談。「今日はお客さんが笑ってくれて、伝わっているなとわかった」という話。先日読んだ立川談四楼さんの本の、「落語は演技過剰になってはいけない、そのためには客に設定が伝わっているかどうか、キャッチボールが必要」という指摘に一脈通じる感じがして面白かった。その後、「落語のように語りたい」と話していたのが、なんだか印象的でした。

じゃじゃ馬馴らし

彩の国シェイクスピア・シリーズ第23弾「じゃじゃ馬馴らし」 2010年10月

蜷川幸雄演出、松岡和子翻訳。さいまた芸術劇場第ホールで、1階後ろ寄り左側のS席、9000円。観客は老若男女幅広い。ニナガワは必ず観る、という人もいるだろうし、多士済々の俳優のファンもいたのでしょう。開演前から2階のロビーで楽士が音楽を奏で、芝居小屋の雰囲気を盛り上げる。

いやあ、面白かったです! 「恋に落ちたシェイクスピア」で観た時代そのままに、すべての役を男性が演じる「オールメール・シリーズ」。だから、女性蔑視ともいえるストーリーが気にならない。しかも、酔っぱらいが騙されて観るという劇中劇の設定で、俳優さんがずうっと客席に座っている。いわば作り物感が強調される仕掛け。休憩を挟んで3時間弱、テンポよく猥雑な喜劇を、理屈抜きに楽しめました。

美術は背景のボッティチェリの絵をめくっていく以外、机や椅子だけ、とシンプル。その分、役者の存在感が前面に出てくる。筆頭は何といっても、強烈なキャタリーナ役の市川亀治郎。出てくるだけで大拍手の、あたりを睥睨する女王さまぶりだ。その期待を裏切らず、やりたい放題。1幕でいきなりプロレスラーのように、横転して勢いをつけ、妹ビアンカに殴りかかったのにはびっくり。これですっかり、舞台は亀治郎ペースです。さらに、荒事のニラミを披露して、もう反則技!

その亀治郎さんをたてつつも、一歩もひかないペトルーチオの筧利夫が見事でした。早足で歩き回りながら、速射砲のように長大なセリフをまくしたてるところは、ドラムソロばりで圧巻だ。汗はかいてたけど、最後まで機敏に動き、よく通る声も全く衰えない。外見は決してスマートではないのに、不思議な色気があるんですねえ。さすが舞台人という感じ。

この二人の丁々発止に比べると、ビアンカに恋するルーセンショーの山本裕典は、瑞々しいけどさすがに線が細かった。月川悠貴は貞淑なビアンカを怪しく演じ、召使いトラーニオの田島優成が、意外にハキハキして気持ちよかったですね。

ガラスの葉

ガラスの葉 2010年10月

イギリスのフィリップ・リドリー作、白井晃演出。世田谷パブリックシアターの1階ほぼ中央で、S席6300円。

兄スティーブンと妻デビーの家や弟バリーの部屋、母リズの家が、左右に動くセットで微妙に入れ替わる面白いセットだ。背景にごく控えめに、幸せだった頃の親子などのシルエットが映る。

ストーリーは生真面目で繊細。幼い頃の母と父の関係や、父の自殺とその後の出来事が、長く家族の心に影を落としている。劇の前半は画家志望の弟がアル中気味で、会社を経営する兄が弟の面倒をみているのだけれど、後半になると交通事故をきっかけに、今度は兄のほうが「少年の幻影が見える」と言いだして、不安定になっていく。
兄弟を苦しめる心の傷には、父の自殺の事情や、その後、幼い兄弟が何を経験したのかなどが関係しているらしい。でも、真相はずっと明確には語られない。いったい誰がどう嘘をついているのか。会話は常に空々しい。

休憩無しでほぼ2時間。兄の萩原聖人、弟の田中圭、妻の平岩紙、そしてもちろん母の銀粉蝶と、役者4人はみな期待通り達者で、雰囲気もある。けれど、なぜか切実さを感じとるのが難しかったのが残念。そういう戯曲なのかなあ。

キース・ジャレット ジャパンツアー

Keith Jarrett/Gary Peacock/Jack DaJohnette JAPAN TOUR 2010  2010年10月

Bunkamuraオーチャードホール。1Fの中央やや後ろ、右寄りの席で1万円。

思いがけずジャズを聴きに行きました。ピアノのキース・ジャレット65歳、ドラムのジャック・ディジョネット68歳、ベースのゲイリー・ピーコック74歳によるスタンダードトリオ。外国人をまじえ客層は幅広く、皆とても楽しみにしている感じ。ジャレットは天才肌で気難しいらしく、開演前には広い会場が静まりかえり、緊張感に包まれる。傘が途中で倒れて音をたてないよう、床に置くように、といった指示まであってびっくり。

実は全く予習していなくて、正直ちょっと不安だったけど、スタンダードということで、始まってしまったらとても楽しめた。ベテラン3人が静かに登場して深々と頭を下げ、おもむろに演奏。ジャレットは照明がまぶしいらしく、2曲目あたりでサングラスに替えた後は、けっこうノリノリ。前傾姿勢をとったり、立ち上がって足を踏みならしたり、うなったり。

20分の休憩を挟んで2時間強。ピーコックさんのソロはさすがに辛そうではあったが、ジャレットの音はほとんど生のように、粒だって聞こえた。さすがだなあ。2部は3曲で短めだと思ったけど、スタンディングオベーションでアンコールを3曲やってくれました。Answer Me,My Loveがきゅんとした~ 以下セットリストです。Photo_16

〈1st〉
1,Golden Earrings
2,Show Nuff
3,Little Man,You Have A Busy Day
4,Butch & Butch
5,Last Night When We Were Young

〈2nd〉
1,You Won’t Forget Me
2,Things Ain’t What They Used To Be
3,Broadway Blues

〈Encore〉
1,I’ve Got A Cruch On You
2,Answer Me,My Love
3,Straight,No Chaser

笑福亭鶴瓶落語会「CHINGE」「青木先生」「錦木検校」

笑福亭鶴瓶落語会 2010年10月

紀伊国屋サザンシアター、中央やや左寄り。5000円。ロビーに共演者らから沢山の花。観客は若い人や女性が多くて幅広い。

まず、つなぎにマフラーで登場して、立ったまま「鶴瓶噺」。三枝さんと飲むのにセーラー服を着て待った、などという近況や、噺にも登場するマネジャーさんが、カボスと脚立を言い間違える、といったエピソードを楽しく。あまり寝ていないと言うけど、快調です。

着物に替えてまず、くまざわあかね作「CHINGE」。タクシー運転手をしている鶴瓶さんの高校の同級生が、会いたいと思っていたら偶然タクシーに鶴瓶さんが乗ってくる。信じられないけど、実話が元になっているそうだ。聴衆がみな落ちがわかったところで、それを察してぐっとためるあたり、さすがの話術。扇子で見台をたたいて場面展開する上方流は、ちょっと慣れないけど。

さっと着替えて、おなじみ私落語の「青木先生」。高校の老教師の造形をこってりと。高校生の鶴瓶さんらが1年間、様々ないたずらを仕掛けた末の心の触れ合い。人柄がにじんで、何度聞いても泣かせます。

10分の中入り後、見台をはずしていよいよ古典。演目は「錦木検校」。柳家喬太郎さんを聞いて気に入り、挨拶のうえ高座にかけることにしたと。パンフレットには笑いが少ない、という解説があって、マネジャーさんに聞かせたら寝ちゃったとか、直前に繁昌亭にかけていい出来だったのに、録音の最後に「あー、よく寝た」という客の声が入っていた、という長めのマクラがあって本編へ。
確かに講釈(講談)ネタだけど、なかなかどうして、しみじみしました~。父に疎んじられ、下屋敷で気楽に過ごしている大名の次男坊・角三郎が、按摩・錦木と意気投合する。錦木を思っていた父の話を聞いて角三郎が心をうたれる必然性、錦木の飄々としつつも賢い感じなどがいい。角三郎は父と和解して大名を継ぐが、再会した錦木は喜びのなかで息絶える、という急展開にじんとした。ハッピーエンドのバージョンもあるようだけど。半ばで照明を絞ったり、終盤で紗幕が透けて山並みが現れ、最後にシルエットが浮かび上がったり、という演出でした。まあ、演出がないのもいいと思うけど。Photo

ひとり貝柱の会「幾代餅」「しじみ売」

ひとり貝柱の会 2010年9月

襲名前に何回かお邪魔したことがある、林家正蔵さんの非常に私的な落語会。ねぎし三平堂で。木戸銭1000円。

たまたまサイトで見つけてふらりと出かけたが、ほとんど告知していなかったらしく、なんとほんの十数人の贅沢な空間。師匠は以前よりスリムになって、落ち着いた雰囲気です。

木戸銭の箱を片づけさせ、常連さんと会話しながら、まずは近況報告。水戸へ出かけて地元ギャルに「ととのいました系」と呼ばれたこと、鈴本の口上が難しかったこと、など。

おもむろに一席目は、だいぶ昔にも聴いたことがある「幾代餅」をちょっと詰まりつつ。古今亭志ん五さんの訃報を聞いて選んだそうです。恋煩いの清蔵を、錦絵でみた幾代大夫に会わせようとする、江戸っ子の親方の親切さ。清蔵を若旦那に仕立てて、吉原に連れて行く医者の先生の、ちょっと怪しい感じもいい。幾代大夫の色気は今ひとつかな、と思ったけど、清蔵が正体を打ち明け、金を貯めて1年後にまた来る、と一生懸命に申し出るところは泣けた。

高座で着物を替え、そのまま2席目の「しじみ売り」へ。ようやく涼しくなってきたので、と。鼠小僧が出てこないバージョンです。親方はしじみ売りの子供に、草履泥棒に間違えてしまったことを詫び、しじみを買いあげて川へ逃がさせる。そして食事を与え、身の上話を聞く。低音でぼそぼそ語る親方が、意外に格好良い。横からちゃちゃを入れる小僧を叱るときの、袂を叩く仕草もリズミカル。やっぱり、こういう善人が登場する人情話が合っている人なのかな。

淡々と語って約1時間。これから、こういう小規模の会もやっていくそうで、楽しみです。

「シダの群れ」

シアターコクーン・オンレパートリー2010「シダの群れ」 2010年9月

作・演出岩松了。bunkamuraシアターコクーンの1階中央。客層は幅広く、若い人が多い。

大好きな岩松さんの書き下ろし作品で、今回はヤクザ一家、というかイタリア風に「ファミリー」の物語。志波崎は組長が病に伏し、もう長くないと言われている微妙な状況で、跡目争いの火種となる愛人の息子・タカヒロ(江口洋介)が出所してくる。増陸組との抗争を背景に、正妻の息子・ツヨシ(小出恵介)、組長の愛人・タカヒロの母で姐さんと呼ばれる真知(伊藤蘭)、組長の片腕で元香港マフィアの水野(風間杜夫)らが危うい均衡を繰り広げる。15分の休憩を挟んで2時間40分。

舞台装置は洋館の2階にあるらしい、天井の高い組事務所だけ。そこに人物が出たり入ったりし、いろいろな組み合わせで会話をつないでいく進行は、いつも通りだ。ヤクザものとあって、1幕の初めのほうから派手なドンパチがあったり、2幕冒頭でお楽しみダンスシーンがあったり。それから、組を不動産屋と間違えて何度も電話してくる学生さんの、不条理な展開とか、2幕中盤で皆でむしゃむしゃお寿司を食べるシーンとか、けっこう飛び道具の演出がある。雪と喪服といった色も印象的。

もっともそこは岩松さん。やはり主役は深い会話だ。組織を守ろうとしていたり、愛情を求めたり、それぞれの思惑が微妙にすれ違っていって、ついには破滅的なシーンになだれ込んでいく。よく出てくる、相手の言葉を「えっ」と聞き返すやりとりが心にひっかかる。

俳優陣は高水準で、はまり役揃い。特にタカヒロを慕うチンピラ・森本役の阿部サダヲの存在感が圧倒的だ。岩松作品初ということだけど、リズム感があり、全身で切なさを醸し出す。最後に風間杜夫に促されて、ひとり拍手を浴びてました。舞台全体からすると、目立ち過ぎともいえるけど。
その点、オールバックにスーツの江口洋介は、抑えたトーンで意外にいい感じだ。姿もいいから、悲しいヤクザがよく似合う。コーヒー好きの水野役・風間杜夫、ドスの効いた低い声もありの伊藤蘭はさすがの安定感で、おかしみと色気で舞台を締めていた。このメンバーに入ると、重要な役どころで、タカヒロと張り合う小出恵介さんは、ちょっと大変だったかも。ほかに若い者で近藤公園、尾上寛之、敵対する組の人質ペ・ジョンミン、ツヨシの憎たらしい本妻に江口のりこ、可愛いようで屈折のある愛人に黒川芽以ら。

隣りに桐谷健太さんが来てました~。ルーキーズつながりかな。

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