文楽第二部 「勢州阿漕浦」「桂川連理柵」
文楽九月公演 第二部 2010年9月
また国立劇場小劇場。第一部とほとんど同じ、右寄り中ほどの1等席6200円。
第二部は古典で重厚。まず能から着想を得たという「勢州阿漕浦(せいしゅうあこぎがうら)」は、26年ぶりの上演だそうです。発端となる阿漕浦の段は、吉田玉女さんがつかう平治が禁じられた漁に踏みきり、十握(とつか)の剣を引きあげる。やがて玉也さんの治郎蔵と揉み合って笠を落とすことになり、人形の動きが激しくて目を離せない。
続く平治住家の段は、お待ちかね竹本住大夫さん、野澤錦糸さん登場。この演目は本公演では初めてだとか。冒頭で女房お春(春姫)と姑が互いを思いやる様子が、細やかに描かれる。それだけに、捕まる覚悟をきめた平治との葛藤が哀切だ。さすがに盛り上がりますねえ。さらに治郎蔵が正体を現すモドリ、平治の身代わりを申し出る急展開が鮮やか。吉田玉佳さんのコミカルな庄屋彦作がいいアクセントだ。
25分の休憩を挟んで「桂川連理柵(かつらがわれんりのしがらみ)」。まず、お半と長右衛門が過ちをおかす、けっこう強引な石部宿屋の段。三味線は鶴澤清志郎さん、寛太郎くん。吉田蓑助さんがつかう14歳のお半が、さすがの愛らしさだ。続く六角堂の段では、桐竹紋壽さんの女房お絹がしっかり者ぶりを発揮する。
10分の休憩後、見どころ帯屋の段では豊竹嶋大夫さん、鶴澤清友さんが熱演。嶋大夫さん、大勢の演じ分けをものともせず、ときどき伸び上がったり、手を振ったり。継母おとせと弟儀兵衛が、隣の丁稚長吉まで巻き込んで、あの手この手の意地悪を仕掛ける。滑稽やら憎らしいやらで、すっかり引き込まれた。軽みのあるチャリ場だけれど、名前の符合を利用した痛快な逆転劇であり、その点は「阿漕浦」にも通じていて、知的な面白さだ。
後半の竹本千歳大夫さん、鶴澤清介さんもいい。繁斎、お絹の切々としたクドキも虚しく、追いつめられた長右衛門がお半との心中を決意する。ここまで我慢の演技の桐竹勘十郎さんが哀愁たっぷり。とはいえ脇差を盗まれた件もからみ、38歳のくせしてなんとも情けない奴、という感じはぬぐえないなあ。
大詰め道行朧の桂川は大夫5人の掛け合い。三味線5人を率いる鶴澤寛治さんが貫禄でした。背負われていくお半の幼さが切ない。たっぷり4時間、堪能しました。
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