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マノン

英国ロイヤル・オペラ シュール・マスネ作曲「マノン」 2010年9月

東京文化会館の左中ほどで、A席4万7000円。アントニオ・パッパーノの軽やかな指揮。ロラン・ペリー演出で、時代設定を19世紀末に移し、6月に本国でお披露目したばかりの新制作だ。

楽しみにしていた演目とキャスト。なんといってもマノン・レスコー役のアンナ・ネトレプコが圧巻でした! 第1幕アミアンの宿場の中庭での登場シーン、「わたしはまだ夢見心地で」のスキップせんばかりの無邪気さ。わずか15歳で、たちまちマシュー・ポレンザーニの騎士デ・グリューを虜にする役をこなせるのは、この人しかいません。
場面転換をはさみ、第2幕パリのアパルトマンの1室では、なんとシャツだけを羽織った姿で現れ、美しい「手紙の二重唱」。階段を使った垂直方向の動きで、デ・グリューを連れ去る計略の緊張感や、マノンの心の揺れを表現する装置も効果的だ。

25分の休憩を挟み、第3幕はパリの散歩道クール・ラ・レーヌ。真っ赤な夕陽(?)を背景に、淡いピンクと白いフリルの衣装をなびかせたガヴォット「どこの道を歩いても」あたりから、伸びやかな声が会場いっぱいに響きわたって、素晴らしい。マノンに目が釘付けになる合唱団の動きがコミカル。ギ・ド・メイ演じる恋敵ギヨーが、マノンの気をひくために呼び寄せたバレエのシーンもあるが、こちらはあえて抑えめの印象。
場面転換があり、いよいよサン・シュルピス修道院。神父として尊敬されているデ・グリューに対して、マノンは白いドレスで「あなたが握る手は、私の手じゃないの?」と歌い、迫る。無茶な誘惑ぶりだが、ささやくような声から絶唱まで、思わず納得させられちゃうドラマティックさだ。オーケストラの盛り上がりもあって圧巻。

再び25分の休憩後、第4幕オテル・ド・トランシルヴァニ賭博場。マノンはローズのドレスをまとって妖艶だけれど、悲しい愚かさが前面に出てくる。坂を組み合わせた舞台と、壁に映る人影が不安をかき立てる。いかさまの不信を唱える合唱が二人を追いつめ、結局、ニコラ・クルジャル演じるパパ伯爵の裁定で引き離されてしまう。
場面が変わり、第5幕はル・アーヴルへ向かう道。暗闇にぽつぽつと続く街灯と、省略された遠景の建物がなんとも寂しい。流刑地に護送されていくマノンは、ひとときデ・グリューと再会するものの、もう弱り果てている。「死別の二重唱」からエンディングにかけては、ただただはかない。

男性陣もよかったと思うけれど、ネトレプコの前にかすみ気味なのはしょうがないでしょう。カーテンコールでのネトレプコのはしゃぎっぷり、終演後の出待ちの人だかりもスターの貫禄でした。いやー、満足しました。初日とあってか、客席には元首相の小泉さん、谷垣さんらの顔も見えました。

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