文楽第一部「良弁杉由来」「鰯売恋曳網」
文楽九月公演 第一部 2010年9月
いつもの国立劇場小劇場の初日です。右寄りやや後ろで、1等席6500円。
比較的わかりやすい演目が並んだ。「南都二月堂良弁杉由来(ろうべんすぎのゆらい)」はまず「志賀の里の段」。幼い光丸が鷲にさらわれるスペクタクルだ。吉田文雀さんの渚の方。龍爾さんが、珍しい八雲琴を弾いた。
続けて「桜宮物狂いの段」では、明るい花見シーンの冒頭、吹玉屋役で吉田幸助さんが登場。シャボン玉がお客さんに大受けで、思わず得意そうな顔をしたのが微笑ましい。その後、雰囲気が一転してぼろをまとい、我が子を探し続けた哀れな渚の方が、最後の望みをかけ乗り合い船で南都へ向かう。舞踏の要素のある一段を豊竹咲甫大夫さんらの掛け合いで。
25分の休憩を挟み、「東大寺の段」では、渚の方のために懐紙を書いてやる桐竹勘壽さんの雲弥坊が、ユーモラスで温かい。
そして大詰め「二月堂の段」。珍しく斜めに仕切った遠近感のある背景画で、迫力がある。供の奴が毛槍を投げかわすシーンも派手。そしていよいよ吉田和生さんの良弁僧正が厳かに登場し、親子の涙の対面となる。竹本綱大夫さんが、さすがの渋い語りだ。三味線は鶴澤清二郎さん。このあと綱大夫さんは体調を崩されたとかで、心配です。
10分の短い休憩後、2演目目は話題の「鰯売恋曳網(いわしうりこいのひきあみ)」。没後40年になる三島由紀夫の新作歌舞伎を、ゆかりの織田紘二が今回、文楽バージョンに改めたもの。豊竹咲大夫、鶴澤燕三作曲、藤間勘十郎が初の文楽振付。
三島ならではの文章の流麗さからくるものか、古典の作品より節回しが派手な印象だ。勘十郎さんの猿源氏、豊松清十郎さんの傾城蛍火の間のメルヘンチックな恋物語だが、互いの立場が二転三転する作劇の妙が際立つ。
導入の「五条橋の段」は、豊竹咲甫大夫さんが朗々と。情けない猿源氏の背を押す父親、吉田玉女さんの海老名なあみだぶつがユーモラスだ。
「五条東洞院の段」で咲大夫さん、鶴澤燕三さんが登場。冒頭、傾城たちの貝あわせから、後段につながる知的な遊び心が漂う。続いて軍物語を求められた猿源氏が、咄嗟に魚の名前を織り込んで語り、楽しませる。そういえば「義経千本桜」の歌舞伎版でも「魚づくし」というセリフがあったなあ。
さらに寝ぼけた猿源氏は鰯売りの呼び声を口走ってしまい、和歌の文句だとごまかす。「伊勢の国に阿漕ケ浦の猿源氏が鰯かうえい」という朗らかな呼び声は、二部の演目の舞台ともつながっていてお洒落だ。いっときは蛍火の自害騒ぎまであって仰天の展開だが、二人が実は相思相愛だったと分かった後は、すべてが都合良く運ぶ。文楽には珍しく大らかなハッピーエンド。脳天気でテンポがいいところは、まるで往年のアメリカンコメディで面白かった。
この日が新作の初日ということで、皆さん緊張していただろうし、何か手違いがあったりしたのかもしれないけれど、素人目には全く不安なく、楽しめました~。語りが主役ということか、切まで人形遣いが頭巾をかぶっていたのが、ちょっと物足りなかったかな。
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