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佐倉義民傳

渋谷・コクーン歌舞伎 佐倉義民傳 2010年6月

串田和美演出、鈴木哲也作。シアターコクーン。2階前方、1等椅子席の1万3500円。

2008年6月以来のコクーン歌舞伎を観る。圧政にあえぐ領民のため、身を捨てて立ち上がる名主・木内宗吾の物語「東山桜荘子」を元にした新作だ。開演前にはロビーにしつらえられた宗吾霊堂にお参り。観客は相変わらず幅広い。

それにしても農民一揆が題材というのは珍しい。幕末の初演では舞台を室町に設定していたというけど、それにしたってよく上演できたもんだ。基本的に暗い話なんですよ。装置は板枠に土を詰めた舞台が中心でシンプルだし、千葉の設定のわりになんか寒そうだし。

宗吾の勘三郎さんは、単なる格好良い英雄ではなく、耐えに耐える役どころで重苦しい。その善意に反発し、自分は実は由比正雪だとか天草四郎だとかデタラメを言って民衆をあおる弥五衛門役の橋之助さんが、さすがに色気があって目立つ。今回創作された登場人物で、宗吾を認めつつ決定的に追いつめてしまう。宗吾の合わせ鏡というか、普通はこっちだよね、と思わせる。
それから扇雀さん演じる悪役の堀田候が、根っからの悪人ではないのに、あっちにもこっちにもいい顔をしてどんどん事態を悪化させるさまが、なんとも今風。
悲惨な大詰めで、菜の花咲き乱れる故郷の光景が舞台いっぱいに浮かぶのが美しいだけに悲しい。

歌舞伎の上演では、義憤から宗吾を助ける甚兵衛の笹野高史さんが格好良い「渡し場」や、いよいよ直訴を決意した宗吾が家族と絶縁する「子別れ」の場面が中心らしい。そういう伝統シーンをたっぷり見せつつ、浄瑠璃をいとうせいこう作のラップに置き換えて、現代の社会問題まで織り込んだのが新しい趣向だ。
堀田候も佐倉にちなむ桜の花に、宗吾の幻をみて自ら破滅しちゃう。どうにも救いのない物語を一転、コミカルな劇中劇にかえ、全員でラップを叫ぶ幕切れは、正直ちょっと入り込めなかったけど、エネルギッシュでした。

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