赤坂大歌舞伎「人情話文七元結」「鷺娘」
赤坂大歌舞伎 2010年7月
赤坂ACTシアターの1階前よりやや右。観客は若め。大向こうの掛け声が割と近いところから聞こえて面白い。S席1万3500円。
まずは三遊亭圓朝のお馴染みの落語をもとにした「人情噺文七元結」。シネマ歌舞伎に続いて山田洋次が補綴をつとめ、いわば演出の役回りだ。幕開けの夜更けの暗さと、文七宅の汚れっぷりがリアル。観ている方も寒くなる。華やかな吉原角海老、そして明るくなってからの文七宅との対比が鮮やかだ。
人情話だが、笑いとドタバタにウエートをおく。寅さん風の愛嬌あふれる長兵衛、勘三郎さんはもとより、妻お兼の扇雀さんが、とっくみあいをしたり屏風に隠れたり、よく動いていた。手代文七は勘太郎。お久の芝のぶさんがホントに娘にしか見えず、声も可愛くてびっくり。角海老女房お駒は片岡秀太郎さん。小柄だし、声はあまり通らないのだけれど、諭すシーンはさすがの貫禄だ。売れない女郎吉野役で小山三さんが元気に笑わせ、拍手を浴びてました。
休憩を挟んで「鷺娘」。前に勘十郎さんの人形で観た幻想的な演目。七之助さんが娘から鷺の精までたびたびの早変わりで、華やかに踊る。色気はまだまだという気もするけど、頑張ってましたね。
帰ってから落語の「文七元結」を、ビデオで続けて2バージョン観てみた。ポイントは長兵衛が何故、大事な五十両を文七にやってしまうか。談志さんは今回の筋書きでも触れている、後日談をアドリブで語った日のもので、すべてが賭け、長兵衛は徹底的にダメ男だ、という解釈。
これに対して古今亭志ん朝さんは、マクラにプロとはどういうものか、という話題をふって、単なるお人好しではなく庶民のなけなしのプライドなんだ、と暗示している。語り口が明朗で、女将が妙な風体の長兵衛をじっと眺めるシーンや、文七が投げつけられた金の包みを確かめるシーンなどが映像的。この演出が、今日の歌舞伎版のベースになっているようだ。
以前観た談春さんは、この解釈をもっと膨らませて、長兵衛が文七に説教しながら自らのだらしなさに気づく、というくだりで葛藤を表現していて、凄かった。こんな風に、ジャンルをまたがっていろんな造形を楽しめるのが古典の面白さですねえ。
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