« 2010年5月 | トップページ | 2010年8月 »

久保田利伸コンサートツアー

TOSHINOBU KUBOTA Concert Tour ”Timeless Fly”  2010年7月

十何年ぶりかで久保田利伸のコンサートに行った。東京フォーラム・ホールA。観客は老若男女幅広く、アフロのかつらのグループも。席は2階前方のほぼ正面で、前の人はずっと座っていたし、オペラグラスを使ってガン見しました。7350円。

ステージは中央のスロープを挟んで、左右にバンド。編成はキーボード2人、ギター、ベース、ドラム、DJ、コーラスだけで、演出もライトとミラーボールぐらいでシンプルです。とにかく2時間強、抜群の歌を聴かせまくる。
曲目は割とバラードが多く、スローの時は座ってください、とアピール。バラードでもちゃんとリズムがあり、ドラムが効いているのが凄いなあ。もちろん、アップテンポになると「パーティーピープル」になりきり、みんなで踊ってとても楽しい。

着替え中にコーラスの3人のソロがあり、その後、久保田利伸がマイケル・ジャクソンを歌う。なんだかちょっと子供っぽく跳ねていて、チャーミング。ほかにもヒット曲、代表曲を歌ってくれて嬉しい。最高にかっこういいMissingを生で聴いちゃって感激。 
MCでは雨の歌が多いこととか、来年は25周年だけど、とか、すごく真面目でした。いい人だ~

MCで話していたけど、アルバムとツアーのタイトル「Timeless Fly」は、時を超えてクール、という意味だそうです。また素晴らしいライブ、楽しみにしてます! 以下、セットリストです。

1、Keep it Rock
2、ダイヤモンドの犬たち
3、TOMORROW WALTZ
4、雨音
5、Is it Over?
6、the Sound of Carnival
7、Nyte Flyte
8、LA・LA・LA LOVESONG
9、Rock with you
10、The Other Half
11、Missing
12、Indigo Waltz
13、STAR LIGHT
14、You were mine
15、Soul Mate~君がいるから~
~Encore~
16、Oh、What A Night!
17、LOVE RAIN~恋の雨
18、Cymbals

赤坂大歌舞伎「人情話文七元結」「鷺娘」

赤坂大歌舞伎 2010年7月

赤坂ACTシアターの1階前よりやや右。観客は若め。大向こうの掛け声が割と近いところから聞こえて面白い。S席1万3500円。

まずは三遊亭圓朝のお馴染みの落語をもとにした「人情噺文七元結」。シネマ歌舞伎に続いて山田洋次が補綴をつとめ、いわば演出の役回りだ。幕開けの夜更けの暗さと、文七宅の汚れっぷりがリアル。観ている方も寒くなる。華やかな吉原角海老、そして明るくなってからの文七宅との対比が鮮やかだ。

人情話だが、笑いとドタバタにウエートをおく。寅さん風の愛嬌あふれる長兵衛、勘三郎さんはもとより、妻お兼の扇雀さんが、とっくみあいをしたり屏風に隠れたり、よく動いていた。手代文七は勘太郎。お久の芝のぶさんがホントに娘にしか見えず、声も可愛くてびっくり。角海老女房お駒は片岡秀太郎さん。小柄だし、声はあまり通らないのだけれど、諭すシーンはさすがの貫禄だ。売れない女郎吉野役で小山三さんが元気に笑わせ、拍手を浴びてました。

休憩を挟んで「鷺娘」。前に勘十郎さんの人形で観た幻想的な演目。七之助さんが娘から鷺の精までたびたびの早変わりで、華やかに踊る。色気はまだまだという気もするけど、頑張ってましたね。

帰ってから落語の「文七元結」を、ビデオで続けて2バージョン観てみた。ポイントは長兵衛が何故、大事な五十両を文七にやってしまうか。談志さんは今回の筋書きでも触れている、後日談をアドリブで語った日のもので、すべてが賭け、長兵衛は徹底的にダメ男だ、という解釈。

これに対して古今亭志ん朝さんは、マクラにプロとはどういうものか、という話題をふって、単なるお人好しではなく庶民のなけなしのプライドなんだ、と暗示している。語り口が明朗で、女将が妙な風体の長兵衛をじっと眺めるシーンや、文七が投げつけられた金の包みを確かめるシーンなどが映像的。この演出が、今日の歌舞伎版のベースになっているようだ。

以前観た談春さんは、この解釈をもっと膨らませて、長兵衛が文七に説教しながら自らのだらしなさに気づく、というくだりで葛藤を表現していて、凄かった。こんな風に、ジャンルをまたがっていろんな造形を楽しめるのが古典の面白さですねえ。Photo_8

あの頃の噺「真田小僧」「たらちね」「雑俳」「狸札」「狸鯉」「牛ほめ」

あの頃の噺~市馬・昇太・談春前座噺の会~ 2010年7月

梅田芸術劇場Presents、企画・春風亭昇太。夕方の新宿、全労済ホール・スペースゼロに駆け付ける。パイプ椅子風の座席が並ぶ会場で、若い人が多い。前の方右寄りで、噺家さんが首を振ると目が合う気がする席でした。3800円。

今をときめく3人が、あまり高座にかけなくなった前座向きの演目をあえてきかせる2年ぶりの企画。まず昇太さんが登場して、遅れて入ってきた人の方ばかり観ないでください、などと話し、最初は談春さんの「真田小僧」。母親の浮気をにおわせて父親から小遣いをせしめるワルガキを軽妙に。前座を思い出して羽織はなし、終わると自分で座布団を返し、めくりをめくります。次は市馬さん「たらちね」。漢学者に育てられた新妻の難しいばか丁寧言葉がでてくるけど、さすがに流ちょうだなあ。そして昇太さん「雑俳(ざっぱい)」。付け句遊びのことだそうで、ご隠居相手に八五郎が次々にナンセンスな狂歌をひねるだけ。「手手と手と手と」が下手な早口言葉のようでテンポ抜群。

続いて3人が登場し、立ったままフリートーク。前座話は筋らしい筋がないから難しいけど、若いころ覚えただけに師匠への愛があふれてる、とか。昇太さん自ら壇上のパソコンを操り、スクリーンでそれぞれの若き日の写真を披露し、思い出などを語る。談春さんは滅茶苦茶格好つけてるし、昇太さんは20代でも子供みたいだし、それに引き替え市馬さんはすでに名人の貫禄だし、もう大爆笑。

中入りを挟んで後半は昇太さんの「狸札」。助けてもらった子狸が恩返しに札に化けたけど、ぼろが出て…と可愛らしい。ところが談春さんが別バージョンの「狸鯉」で、狸の演技の巧いところをみせつける。意地が悪いなあ。トリは市馬さん「牛ほめ」。兄貴の新築の家を誉めに行った与太郎のとんちんかん話。ちょっと下品なところも上手。この3人の、これから10年を見ていけるのは、ものすごく楽しみだなあ、と妙な感慨に浸る。

それにしても今日は市馬さん、歌わないんだなあと思ってたら、最後に3人出てきて三本じめでした!Photo_7

ファウストの悲劇

シアターコクーン・オンレパートリー2010 ファウストの悲劇 2010年7月

クリストファー・マーロウ作、河合祥一郎訳、蜷川幸雄演出。Bunkamuraシアターコクーンの1階ほぼ中央。S席9500円。

ファウスト伝説を描いた16世紀末の英国の戯曲を、歌舞伎の一座が演じるという入れ子構造の設定だ。ハーフミラーの後方に楽屋が透け、どたばたしている奈落の内部も丸見え、という趣向。
舞台上も派手な衣装の悪魔や天使のフライングあり、火や煙ありで賑やか。不死身のファウストが首を落とされても生きていたり、男優(鈴木彰紀さん)がつけ胸で過去から呼び出された美女ヘレナを演じたり。めまぐるしくて猥雑で、この世はすべてうたかたの夢、という退廃的なイメージが色濃く漂う。

俳優陣は金髪・黒マントのファウスト博士、野村萬斎が現実離れしていて、さすがの切れ味。契約によってあらゆる欲求を実現するメフィストフェレスの勝村政信は、対照的な白スーツで2階席を含めよく走り回り、ファウストとのちょっと妖しい関係を匂わせて秀逸。
ファウストの胡散臭さを告発して鹿の角をつけられる騎士の長塚圭史、弟子の白井晃、馬番の木場勝己と贅沢なキャストだが、全体にコミカル。主役2人の存在感と、次々繰り出される仕掛けに目を奪われちゃったかな。

七月大歌舞伎「暫」「傾城反魂香」「馬盗人」

七月大歌舞伎 夜の部 2010年7月

歌舞伎座建て替え中につき新橋演舞場。ちょっと上品ですね。1階中央あたりの席で1万5000円。筋書きの扉「川開」の文字に季節を感じる。

団十郎さん、吉右衛門さんがそれぞれ当たり役を演じる贅沢な舞台。個人的な主眼は待望の歌舞伎十八番の内「暫」でした。鶴ヶ岡八幡宮社頭の壇上に団四郎さんの武衡ら、派手なつくりの悪役がずらり。友右衛門の義綱らの首を今にも討とうとするところへ、花道奥からお馴染み団十郎さんの「しばらく~」というハリのある声が。竹の張り入りの素襖(すおう)姿、高さ30センチの継ぎ足、大太刀という素晴らしい装束で花道に登場する。見得を切ってからお茶を一杯、という趣向がいつも話している「童の心」らしく、本当に愛らしいなあ。
還暦を過ぎてからは初めてとか。ご病気もあったしね。有り難いことです。滑稽な三津五郎さんの雲斎、福助さんの照葉が順にからむけど、もちろん相手にならない。照葉が実は味方で、というどんでん返しのあと、10人ぐらいの敵の首を一気に打ち落とす、あっけらかんとした立ち回りがあって、悠々と幕。あ~面白い。惜しむらくは演舞場の舞台、やはりちょっと横幅が狭かったかな。

続いて「傾城反魂香」。最近、歌舞伎で2度観ている演目だ。二代目尾上松緑直伝の音羽屋型とか。冒頭の虎を消すあたりが滑稽だけど、主題の絵の奇跡をうまく暗示している。浮世又平は貫禄の吉右衛門さん。上品で、後半の弾け方が抑えめです。おとくが芝雀さんで、こちらも前に観た藤十郎さんと比べるとあっさりめかな。修理之助で二枚目の種太郎さんが出ていた。

そして三津五郎さん振付の「馬盗人」。三津五郎さんの悪太が、気の良い歌昇さんの六兵衛から馬をだまし取るけれど、ばれて揉み合ううちに馬を逃がしてしまう。狂言風の大らかなストーリーで、皆さん良い味です。顔を出さずに馬を演じる二人がちゃんとした役で、クドキがあったりアクションがあったり面白かった。

志の輔らくご「こぶとり爺さん」「新釈猫忠」「しかばねの行方」

志の輔らくご ビギンザビギン 2010年7月

ル・テアトル銀座。すがすがしいロビーは七夕の飾り付けと風鈴でお洒落です。銀座にひっかけてBGMは「ビギン・ザ・ビギン」各種。まんなかあたりの席で5000円はお得感がある。満員です。

まずは今回の午後3時スタートってどうよ、というマクラがあって、「こぶとり爺さん」。子どもの読書感想文を書こうとする親が、この童話の教訓は何だ、という疑問をこねくり回す新作。軽妙です。
松永鉄九郎さんの格好良い長唄三味線を挟んで、動物園のシロクマの話から「新釈猫忠(ねこただ)」。小唄の師匠がアニキとよろしくやっているのを見つけたが、実は本人じゃない、猫が化けているらしい、その猫には事情があって、という狐忠信の猫バージョン。どのへんが新釈なのか、知識がないのでよくわからないんですが、いつもながらこの声でちゃんと女性が女性らしいなあ、と思う。

中入りを挟んで新作「しかばねの行方」。講談風の釈台を置き、元ネタは人気随一・東野圭吾著「怪笑小説」の短編「しかばね台分譲住宅」です、という説明をしてスタート。町内会長との絶妙の噛み合わなさ、地価を下げたくないという身勝手な論理の応酬、映画みたいなカーチェイスと盛りだくさんで、サービス精神がぎっしりですね。しかも、終わって後ろに引っ込むところで背中に…という夏場らしい、ブラックな演出も。間違いない感じでした~

Photo_5Photo_6

Photo Photo_3

ザ・キャラクター

NODA・MAP第15回公演 ザ・キャラクター  2010年6月

作・演出野田秀樹。池袋の東京芸術劇場中ホール。若い人が多く、当たり前だけど盛況です。1階中央のかなり前の方で9500円。

書道教室を装ったカルト教団で起きる混沌と犯罪。漢字(キャラクター)を駆使し、いつにも増して2重、3重の「意味」が舞台に溢れかえる。あまりにリアルな地下鉄サリン事件をベースにしつつ、ギリシャ悲劇のイメージを重ねたスピーディーな展開。正直、何が何だか……。全体に白を基調にした陰影のある装置で、散乱する半紙が印象的。めまぐるしい仕掛けの数々は、さすがに面白い。

今回かなり舞台を間近に観て、やっぱり教祖の妻を演じる野田さんのリズム感が、頭ひとつ抜けているなあ、と実感した。小さな跳ねかたとか、セリフの間とか。普通の俳優では、なかなかついて行けないだろう。
とはいえ共演陣は充実していた。特に、弟を奪還しようと教団に潜入する宮沢りえ。幻想的な冒頭からハッとするほど美しく、声、動きもしなやか。できるなあ。それから大家の橋爪功さん。野田流のリズムにも飲まれず、びくともしない独特の「軽み」がある。
ただ教祖の古田新太、新人を演じた田中哲司、神話から抜け出したアルゴスの池内博之らは、いずれも手堅いけれど、今ひとつ説得力がなかったような。怪我で休演したオバチャン役の銀粉蝶さんがいたら、だいぶ印象が違ったかも、と思う(代役は大西智子)。たぶんオバチャンが教団内の狂気と現実との結節点となる、重要な役だったと思うので。

というわけで、個人的には、膨大なイメージの奔流と、深刻で悲劇的なテーマをどうも消化しきれず、という感じでした。現代人、あるいは日本という国の信じるものの不確かさ、その罪といったものを描いているのだろうけれど… 不明を恥じます。

アット・ホーム・アット・ザ・ズー

シス・カンパニー公演 At Home At The Zoo  2010年6月

エドワード・オルビー作、千葉哲也演出。三軒茶屋のシアタートラムに初めて行った。小さい劇場で、観客も演劇少女っぽい人が目立つ。当日券に人が並び、バーに腰掛けるだけの半立ち見もある。少し後ろめの席で7000円。

中央に長いすを置いただけのシンプルな舞台だ。二人芝居が2幕。手の届くような距離で、豪華な顔合わせの俳優がしゃべりまくる濃密さだ。その第1幕が、2007年に書き足されたという「ホームライフ」。
設定はアッパーイーストサイドにある部屋で、夫婦と娘二人、猫にインコといういかにも満ち足りた暮らしを送っている。ところが教科書出版社に勤める常識人ピーターに、料理をしていた妻のアンが過激なことを話し始めて亀裂がのぞく。
アン役の小泉今日子がいい。観るのは2008年の「恋する妊婦」以来かな。ちょっと似た匂いのする役で、平凡なのに危険。いかにも倦怠期といったステロタイプの重さがなく、あけすけな会話にユーモアが漂ってリアルだ。いい女優さんだなあ。

休憩なしの第2幕は、1959年に書かれた「動物園物語」。さいぜんのリビングの壁が手前に倒れて公園が現れる、意表をつく転換だ。妻との会話で不安定な気分を抱えたピーターが、セントラルパークのいつものベンチという安全地帯で本を開いていると、通りすがりのジェリーという男がうるさく話しかけてくる。
1幕に続いて受け身いっぽうのピーターを演じる堤真一が、なんとも強靱だ。色気を抑えて、ほとんどずっと戸惑った顔をしているわけだが、わざとらしくない。正体不明のジェリーにちょっと好奇心をおぼえたりして。巧いなあ。
コミュニケーションを求める側の、貧しく孤独なジュリー役は大森南朋。セリフが多いだけに、こもった感じが惜しい。武市さんの撮影、終わったんだなとか、余計なこと考えちゃいました。ちゃんとわかったとは思わないけど、誠実さを感じる舞台でしたね。

佐倉義民傳

渋谷・コクーン歌舞伎 佐倉義民傳 2010年6月

串田和美演出、鈴木哲也作。シアターコクーン。2階前方、1等椅子席の1万3500円。

2008年6月以来のコクーン歌舞伎を観る。圧政にあえぐ領民のため、身を捨てて立ち上がる名主・木内宗吾の物語「東山桜荘子」を元にした新作だ。開演前にはロビーにしつらえられた宗吾霊堂にお参り。観客は相変わらず幅広い。

それにしても農民一揆が題材というのは珍しい。幕末の初演では舞台を室町に設定していたというけど、それにしたってよく上演できたもんだ。基本的に暗い話なんですよ。装置は板枠に土を詰めた舞台が中心でシンプルだし、千葉の設定のわりになんか寒そうだし。

宗吾の勘三郎さんは、単なる格好良い英雄ではなく、耐えに耐える役どころで重苦しい。その善意に反発し、自分は実は由比正雪だとか天草四郎だとかデタラメを言って民衆をあおる弥五衛門役の橋之助さんが、さすがに色気があって目立つ。今回創作された登場人物で、宗吾を認めつつ決定的に追いつめてしまう。宗吾の合わせ鏡というか、普通はこっちだよね、と思わせる。
それから扇雀さん演じる悪役の堀田候が、根っからの悪人ではないのに、あっちにもこっちにもいい顔をしてどんどん事態を悪化させるさまが、なんとも今風。
悲惨な大詰めで、菜の花咲き乱れる故郷の光景が舞台いっぱいに浮かぶのが美しいだけに悲しい。

歌舞伎の上演では、義憤から宗吾を助ける甚兵衛の笹野高史さんが格好良い「渡し場」や、いよいよ直訴を決意した宗吾が家族と絶縁する「子別れ」の場面が中心らしい。そういう伝統シーンをたっぷり見せつつ、浄瑠璃をいとうせいこう作のラップに置き換えて、現代の社会問題まで織り込んだのが新しい趣向だ。
堀田候も佐倉にちなむ桜の花に、宗吾の幻をみて自ら破滅しちゃう。どうにも救いのない物語を一転、コミカルな劇中劇にかえ、全員でラップを叫ぶ幕切れは、正直ちょっと入り込めなかったけど、エネルギッシュでした。

立川一門会「夢の酒」「薄型テレビ算」「お見立て」

立川談志一門会 2010年6月

よみうりホール。2階の少し右の方。4500円。満員です。

楽しみにしていた一門会。最初は立川談修さんの「夢の酒」。はきはきして聞きやすい。淡島堂にお願いして、義理の息子の夢に入って向島に行くという筋がロマンチック。続いて元気いっぱい談笑さんでお馴染み「薄型テレビ算」。時節の話題をさりげなく盛り込みつつ、安心して聞けますね。前半の〆は生志さんの「お見立て」。花魁が居留守を使うものだから、若い衆が苦し紛れに「花魁は死にました」と嘘をついて、客の墓参を案内する羽目になるという話。

中入り後、いつもの松元ヒロさんの達者な政治風刺があって、トリは談志さん。声がかすれていて落語は無理、ということで、スーツ姿で登場し、ジョークをいくつか披露。それから客席にいるはずの山中秀樹さんと、椅子に座ってトーク。それでも「客の前に出ると何とかしようと思う」と、そでの志らくさんまで引っ張り出して1時間近く、談春、志らく、そして何といっても志の輔かな、などと語り、ラストは小話を連発してました。

あんまり寸法が合ってないようなスーツ姿はちょっと寂しいけど、まあまあ元気そうだったし、終演後に家電店を抜けて帰っていく姿までカメラが追うのを見かけて、妙に「ああ、芸人さんなんだなあ」と感じました。

Photo

ムサシ

ムサシ ロンドン・NYバージョン 2010年5月

井上ひさし作、蜷川幸雄演出。彩の国さいたま芸術劇場大ホール。2階前の方のS席1万500円。

2009年の再演で、ロンドンを経た凱旋公演。直前の4月9日に井上ひさしが亡くなったため、ホールには海外公演の劇評と並んで作者追悼のパネルなどが設置されていた。観客は若い人が多めかな。寺島しのぶさんや周防正行・草刈民代ご夫妻の姿も。

世に名高い舟島の決闘から6年後の1618年夏。鎌倉の小さな禅寺にひっそりと滞在する武蔵を、小次郎が見つけ出して再度果たし合いを申し込む。

やっぱり出色だったのは、武蔵の藤原竜也。受け身の抑えたポジションだったけど、期待通り立ち姿がすっくとしていて、色気があった。小次郎の勝地涼クンは出だし、ちょっと余裕がなかったかな~。屈折していて、難しい役どころだし(初演は観てないけど小栗旬)。でもラスト近くになっていい味だしてましたね。

内容は巌流島の後日談という、ちょっとずらした視点がいかにも井上さんらしい。前半は、いつもの大衆的な匂いのするドタバタ。言葉遊びやコミカルなアクションを、大物・柳生宗矩の吉田鋼太郎さんらが肩の力を抜いてこなしていて、いい感じ。後半は筆問屋主人の鈴木杏、材木問屋隠居の白石加代子を先導役に、一転して摩訶不思議な幻想世界になだれ込む。怨みの連鎖の愚かしさを訴えるメッセージが、けっこうストレートに伝わってきました。

装置は蜷川さんとしては大人しかったかもしれないけど、ざわめく竹林が美しい。能、座禅のシーンなど日本文化の香りも面白かったですね。

ドリームガールズ

ブロードウェイ・ミュージカル「ドリームガールズ」 2010年5月

Bunkamuraオーチャードホール。なんとオーケストラボックスの上に作った最前列やや右の大迫力。S席1万2600円。若い女性グループが多かったかな。

ご存じスプリームスをモデルにしたブラックミュージカルのヒット作。以前に観た映画版はモータウンの光と影とか、時代背景も描きこんでいたけれど、舞台はもっとシンプル。とにかくパワフルな歌が主役で、爽快でした! セットは最小限で、後方のLEDを埋め込んだパネルを効果的に使い、映像を映し出したり、ステージの裾に見立てて遠近感をだしたり。

歌はもちろんソウル・R&B節で、ほんとノリノリです。極小のマイクを各人が額に貼って声を拾うスタイルだったけど、エフィー役のモヤ・アンジェラはほとんど地声でしたね。1幕のラストで去っていくカーティスへの思いを歌い上げるソロや、2幕冒頭で身勝手だった自分を反省するソロ、そしてなんといっても圧巻は、終盤にディーナ役のサイーシャ・メルカードとデュエットする名曲「リッスン」! 映画版オリジナルで、ビヨンセのソロだった印象的なナンバー。今回の舞台では二人でディーナの自立、友情の復活を力強く歌い上げて、涙がにじみました。ローレル役のエイドリアン・ワーレンも声に華があった。

男性陣はサブキャストの日で、マネジャーから音楽ビジネスの大立者に成り上がるカーティスはジェームズ・ハークネス、ダメ男のスター、ジミー役はダグラス・リオンスだったけど、二人とも危なげなく、なかなか色気がありました。ダグラスはカーテンコールもお茶目な感じだったし。

名唱ぞろいな分、踊りはさほど派手ではないけれど、1幕でカーティスらが各地のFM局に売り込みに行くシーン「バッドサイド」の輪になって踊るダンスが面白かった。華やかな衣装も楽しく、満足。

Photo

« 2010年5月 | トップページ | 2010年8月 »