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月亭可朝 立川談春 二人会「狸賽」「百川」

日経ホール落語第五回 月亭可朝 立川談春 二人会 2010年5月

中央前の方で、舞台上と目が合うようないい席。客層はかなり幅広い。4000円。

いきなり壇上に座布団が2枚並んで、お二人のトークが始まりました。お馴染みの可朝さんのギャンブル話から。負けを一気に取り返すべく、家を抵当に入れて連戦負けのクラウンに賭けた逸話は凄い。緊張のあまりテレビ収録に向かう車をとめて、深呼吸したのを、同乗していた談志さんが「万歳した」と面白くして広めたとか、局で勝敗を確かめに行ったのが上岡龍太郎さんだとか。その後、談春さんが芸談をふり、可朝さんは自分は永遠に前座のつもりだから羽織を着ないとか、大御所米朝さんは巧いけど、巧さが感じられるようでは最高峰の一流ではないか、面白いこと言ってましたね。

続いて可朝さんが一席。カンカン帽はかぶったままでしたね。ほとんど漫談のような大阪のおばはんの話が続き、ギャンブルつながりで「狸賽」。語りはゆっくりしているけど、味がありました。

休憩を挟んでお楽しみ談春さん。導入なしで、可朝さんが批判した「本で覚えた話」という「百川」。あえて人情ものではなく、馬鹿馬鹿しい話をぶつけてきたのかな。人物の描きわけが見事で、楽しめました!Photo_15

裏切りの街

パルコ・プロデュース公演「裏切りの街」 2010年5月

パルコ劇場。舞台至近のY列ほぼ中央で7350円。作・演出は三浦大輔。観客は20代が中心だけど、中年男性も散見されけっこう幅広い。

予備知識無しで、正直あまり期待していなかったんだけど、面白かった。ストーリーは言ってしまえば、無気力なフリーター25歳と30代専業主婦との、行きずりでだらだらした関係を描くだけ。15分の休憩を挟んでほぼ3時間、びっくりするようなことはほとんど起こらない。回り舞台で転換する装置も2人の家、駅前、ホテルくらいでシンプルかつ地味。
しかし主役の秋山菜津子、田中圭にとても色気があって、魅力的だった。秋山のいつも眉をひそめていてうまく笑えない感じとか、田中の卑屈に猫背、うつむき加減で力無く手を差し出すしぐさとか、演出がきめ細かい。安藤サクラ(奥田瑛二の娘さん)、松尾スズキらも上手。過激なシーンなんか、下手だったらとても観ていられないだろうなあ。素っ気ないカーテンコールまで、観客がいないかのような自然さで、でも、妙な緊迫感がある。

周囲も含めて、ダメでない人はひとりとして登場しない。ケレンの対極で普遍的なダメ人間を描いているからこそ、ラストシーンのやりとりにはっとする現代的要素があって巧い。作家、俳優陣とも要注目。音楽は銀杏BOYZ。

文楽「祇園祭礼信仰記」「碁太平記白石噺」「連獅子」

文楽五月公演 第1部 2010年5月

前日に続いて文楽観劇。国立劇場小劇場で1等席6500円。今日は少し右寄りで観やすい席でした。

まず秀吉出世談の時代物「祇園祭礼信仰記」が1時間半。金閣寺が舞台だけに、仕掛けが派手で変化に富んでいる。三味線は清治さん、寛治さんの人間国宝リレーだ。
「金閣寺の段」は呂勢大夫さん。こういう大時代な感じ、いいんじゃないでしょうか。「碁立て」と呼ばれるシーンだそうで、玉也さんの松永大膳と、乗り込んできた玉女さんの此下東吉が、囲碁をうちながらハラを探り合う緊迫した場面や、東吉が知恵を働かせ、井戸に滝の水を流し込んで、投げ込まれた碁笥を浮かせてとる趣向が面白い。大膳は大物で、敵にしては格好良いけど、あからさまに囚われの身の雪姫に迫ったりして、けっこう身も蓋もない奴だなあ。

「爪先鼠の段」は津駒大夫さん、文字久大夫さん。人形は勘十郎さんが初役で遣う雪姫の見せ場だ。個人的にはこれで八重垣姫、時姫の「三姫」をすべて観たことになる。まず大膳が宝刀を滝にかざし、龍の姿を浮かび上がらせる超常現象の前触れがある。その後、宝刀を取り返そうとして桜の木に縛られてしまったけなげな雪姫が、足で花びらを集めて鼠を描くと、本物(小さな人形)に変じて綱を切ってくれる! 雪姫の祖父・雪舟の故事にちなんでいるそうだ。
東吉が人質を救うべく、金閣を登るシーンではなんと三層の大ゼリが登場。狼煙をたいたり、竹をしならせて階上から飛び降りたり、人形ならではのスペクタクルの連続で楽しい。東吉は武芸というより上方好みの知略の人だったり、敵方の武士が実は東吉配下の加藤清正だったり、お約束の人物設定も面白かったです。

休憩中に食堂で手早くランチを済ませ、続いて「碁太平記白石噺」を1時間半。豪商・三井次郎右衛門、大工の棟梁で落語中興の祖・立川焉馬(えんば)ら通人の合作だそうで、廓を舞台に遊びが多い筋書き。こちらも変化に富んでいる。
「浅草雷門の段」は始大夫さん、千歳大夫さんで、田舎から出てきた少女おのぶの素っ頓狂な奥州訛りなどが軽妙。ストーリーは大道芸人のどじょうが活躍するチャリ場です。どじょうは幕開けでまず手品を演じ、花を客席に投げて大サービス。後半には、おのぶを売り飛ばした悪い金貸しの観九郎から、地蔵に化けて言葉たくみに五十両をだまし取り、痛快だ。
途中で地震があるハプニング。客席にいてもグラッと感じたけれど、千歳さん少しも騒がず、続けてました。後できいたら震度3。さすがですねえ。人形は全員、頭巾をかぶって遣ってました。

続く「新吉原揚屋の段」は嶋大夫さんが熱演! 場面は花魁・宮城野のいわば控え室で、箪笥など細々した調度、装飾や、三代敵討ちの「曽我物語」の本を愛読しているところが、若者風俗ぽくて興味深い。和生さんが宮城野、文雀さんが純朴なおのぶを遣い、師弟で姉妹の情を演じる。父の敵を討つため廓を抜け出そうとする姉妹を、曽我物語を引用して諭す主人の惣六(文司さん)がやけに格好良かった。

短い休憩を挟んで最後は「連獅子」。能の石橋を元にした舞踏で、大夫が英大夫さんら4人、三味線が龍爾さん、寛太郎さんら5人。人形が最初は中国風の装束で登場。子獅子の遣い手三人が、一緒に崖を飛び降りるシーンに息を呑む。終盤はお馴染みの髪を振り立てる振付「クルイ」があり、めでたく幕となりました。面白かったです!

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文楽「新版歌祭文」「団子売」

文楽五月公演 第二部 2010年5月

国立劇場小劇場、1等席6500円。1Fほぼ中央で舞台を見づらいのが残念だった。客席は大学生らしき熱心な男性や、外国人も目立ち多彩。

「新版歌祭文(しんぱんうたざいもん)」はまず有名な「野崎村の段」。文字久大夫、綱大夫、住大夫という豪華リレーでたっぷり2時間。ツレ三味線で龍爾さんもちょこっと参加してました。
人形も豪華キャストだ。なかでも蓑助さん。お染・久松の恋に翻弄される無邪気な娘おみつ役で、前半の焼き餅を焼く幼さがぴったり。この幼さがあるからこそ、後半、出家を決意をする悲劇が際立つんでしょう。お染は紋壽さん、久松が清十郎さん、おみつの父久作が玉女さん。
登場人物が多く、筋が複雑でちょっと苦労した。幕切れの堤を行く船と、土手の駕籠という絵柄が妙に明るくて不思議な感じ。途中、歌祭文「お夏清十郎」を引き合いに出してたけど、これは現在の浪曲のようなものだとか。もとは西鶴「好色五人女」(1686年)の1編で、浄瑠璃は初演が1780年だから 、当時すでに長く親しまれたエンタテインメントだったんですねえ。

エンタテインメントといえば、休憩をはさんで続く「油屋の段」では、「仮名手本忠臣蔵」の「山科閑居の段」のパロディが出てきて面白かった。いつものように朗々とした咲甫大夫さんと清志郎さん、切は安定感ある咲大夫さん、燕三さんで聴きやすかったです。
人形のほうは珍しく、勘十郎さんが小悪党の小助役で、のびのびとコミカル。盗んだ十両を飯椀のなかに隠すって、ありえません! 乱暴な「だは」の勘六(玉也さん)が、実は味方だったとわかるどんでん返し。
続いて「蔵場の段」は、役ごとに大夫さんがつく形式。上演は珍しいそうです。思い詰めたお染と久松が、蔵の内外ですれ違う演出がスリリングでした。

10分の休憩後、楽しい「団子売」。杵蔵に幸助さん、お臼に一輔さん。幸助さんはいっとき襷が腕に引っかかってたけど、事なきを得ましたね。大夫は南都大夫、咲甫大夫ほか5人、三味線も清志郎さんを筆頭に寛太郎さんら5人と賑やか。餅つきを男女の仲に例えた軽妙な舞踊で、めでたい感じが伝わってきました。

三遊亭王楽独演会「つる」「粗忽長屋」「片棒」「子別れ」

三遊亭王楽 真打ち披露興行大独演会その2 2010年4月

よみうりホール、1階で3500円。ホールで駄菓子などを売っていて、これが王楽さん家族総出だそうで、なごやかな雰囲気。独演会と銘打っているけれど、ゲストが豪華でいろいろなタイプの噺を楽しめた。

まずお父さんの好楽さん。さすがに余裕で、ばかばかしい「つる」を軽妙に。林家たい平さんは元気いっぱいだ。「粗忽長屋」も明るくはきはきしていて、気持ちよく笑える。柳亭市馬さんの「片棒」は、ケチな商人が息子三人の了見を見極めるため、自分の葬儀の算段をきくナンセンス話。お約束の神田囃子なんぞの鳴り物を、見事に口で演じて楽しい。

中入り後に口上。たい平さんが司会を務め、談春さんがシニカルにお祝いを述べ、市馬さんが朗々と相撲甚句を聞かせて盛りだくさんだ。
そしていよいよお目当ての談春さんが登場し、「子別れ」の上。続いて王楽さんが、下の「子はかすがい」につなげて締める趣向だ。あとで王楽さんが、談春さんの熊五郎は大工というよりヤクザだよ、と言っていたけれど、前半のダメ男の造形は、濃口の感じもするけれど、やっぱり秀逸ではないでしょうか。後半、改心してからの王楽さんのパートは、語り口、筋運びとも危なげなくあっさりした印象でした。このへんの対象が面白かったです。

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大歌舞伎「寺子屋」「三人吉三巴白浪」「藤娘」「実録先代萩」「助六由縁江戸桜」

歌舞伎座さよなら公演 御名残四月大歌舞伎 2010年4月

いよいよ歌舞伎座が休場前の大詰めとなり、思い切って第二部、第三部を続けて観た。午後3時の開演より早めに劇場に行くと、すでに記念撮影の人波。開幕前には客席でも、今月ばかりはカメラを構える人が多い。

まずは先月の歌舞伎座で予習ばっちりの菅原伝授から、「寺子屋」。武部源蔵の仁左衛門さんが、さすがにきめ細やかな演技で、勘三郎さんが意外な戸浪を演じて切迫感を出していた。有名な子ども役の涎くり与太郎は高麗蔵さん。コミカルさは抑えめで、芸達者な印象。千代の玉三郎さんは白装束になるあたり、上品で目を奪われる。後半の見せ場、首実検で幸四郎さんの松王丸に善人さが先に立つのは、この人らしいのかも。

がらっと派手になって「三人吉三巴白浪」の「大川端」。節分の夜更けという設定なんですね。やくざなお嬢吉三の菊五郎さんが、七五調で啖呵を切り、お坊吉三の吉右衛門さんが色気たっぷりに掛け合う。そして、おもむろに仲裁に入る和尚吉三はちょっと陰りを漂わせた団十郎さん。重みがあるなあ。

二部の締めくくりは人間国宝、藤十郎さんの舞踊「藤娘」。花いっぱいの明るい舞台に長唄囃子連中を従え、あくまで可憐に恋心を踊る。舞台上で松の大木に隠れての衣装替えが何度もあり、とても80歳とは思えませんでした。

1時間の休憩中に館内で食事をし、6時20分から第三部。まずは渋く「実録先代萩」。気丈な乳人浅岡で大御所、中村芝翫さんが風格を見せる。忠臣・松前鉄之助に橋之助さん、家老・片倉小十郎に幸四郎さんという贅沢な配役が脇を支えます。さすがに全体に動きが少なかったけれど、藩主・亀千代役の千之助、浅岡の実子・千代松役で実際に孫にあたる宜生という二人の子役が、ほとんど出ずっぱりで健気に演じ、可愛かった。

最後にお待ちかね「助六由縁江戸桜」。まず海老蔵の若々しい口上があって、御簾の向こうの河東節十寸見会御連中を紹介します。成田屋の家の芸、歌舞伎十八番という格別さが盛り上がる。
内容はとにかく圧倒されっぱなし。まずは女帝・玉三郎さんの揚巻の、ド派手な衣装。最後には全身七夕になってましたよ。悪態も格好いいし。髭の意休の左団次さん、白玉の福助さんが脇を締めます。
そして何と言っても、無頼なヒーロー団十郎さんの助六です。登場していきなり、花道で傘をかついで延々と見得を切ります。長い長い。セリフ回しもゆったり大らかで、とにかくスケールがでかい。福山かつぎ寿吉の三津五郎さんはいなせで、くわんぺら門兵衛の仁左衛門さんはほどよくコミカル。
中盤は助六(曽我五郎)の兄、白酒売(曽我十郎)役で菊五郎さんが登場し、ぐっとくだけて巧さに拍車がかかる。重宝・友切丸を探すため、助六と一緒になって通行人に次々喧嘩を売るシーンで、通人里暁の勘三郎さんがお二人の家族のことを話題にしたり、歌舞伎座閉場を惜しんだりして、大拍手。おいしいところを持っていきますね~。母・曽我満江で東蔵さんも現れ、華やかに幕となりました。
いやー、なんと痛快な現実離れなんでしょう。ここまで理屈を超越した演目が、2010年の現代に説得力をもって存在していること自体、信じられない気さえして、堪能しました。歌舞伎恐るべし。果たして三年後の新歌舞伎座では、どういう顔ぶれが何をどう演じるのか。それもまた、楽しみです。

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