金門五山桐
国立劇場花形歌舞伎公演 通し狂言・金門五山桐-石川五右衛門- 2010年3月
ちょうど入り口の桜が早めの満開となった国立劇場。大劇場の5列で花道の見得を切る位置にも近く、すごくいい席でした。1等席8500円。客層は幅広く、外人さんや経済人もちらほら。
演目は秀吉暗殺を企てた石川五右衛門伝説を題材に、橋之助さんが大活躍するもの。並木五瓶の原作をコンパクトにまとめた通し上演なので、スピーディーな展開だ。春らしくケレンもたっぷりで、予想以上に楽しかった。
「柳町揚屋の場」は短慮な兄・久次の片岡亀蔵が実に憎々しい。橋之助はのっけから五右衛門と、久次の守り役・大炊之助の2役。薗生の方の扇雀さんが母の苦悩をきめ細かく描いて、さすがに巧いなあ。
「大炊之助館の場」は人間関係が複雑。蛇骨婆、萬次郎さんのコミカルなシーンの後、大炊之助が久次を刺し、実は明の将軍・宋蘇卿だったと明かすびっくりの展開だ。その部下・順喜観の見顕しはわかりにくかったけど、板東亀三郎さんが溌剌として声がよく通る。岸田民部の中村種太郎さんも2枚目で格好良い。
続く「奥庭亭座敷の場」は秀吉の軍勢に囲まれた蘇卿が香木を炊いたり琴をかなでたり、五感を刺激する演出。その妖術で掛け軸から抜け出た鷹が密書をくわえるのだけれど、飛び去るときに落ちるハプニングも。
休憩の後、お待ちかね名場面の「南禅寺山門の場」。浅葱幕が落ちると舞台いっぱい、真っ赤な大門を桜が取り巻き、いきなり五右衛門の「絶景かな」の名ぜりふで大拍手です。橋之助さんは、大泥棒にしてはスマートかもしれないけど。その後、大ゼリで山門ごとせり上がり、巡礼姿の久吉、扇雀さんが登場するスペクタクルは、ただただ圧巻。手裏剣を柄杓で受ける場面は、仕掛けがわからないほど鮮やかでした。
方広寺門前の「大仏餅屋の場」も筋が複雑。亀蔵さんの主人がいまわの際、扇雀さん演じる娘おりつに、自分は光秀の残党、婿が五右衛門だと明かして、またびっくり。幕切れで花道から吊り上げられた葛籠が割れて五右衛門が登場。「大成駒(五代目)ひいじいさんの面影しのび、耳に覚えし河内屋(延若)のガキのころより焦がるる五右衛門」と見栄をきって、大向を沸かせ、悠々と2階席に飛び去りました。
「抜け道の場」は地下の立ち回り。明の王子を連れて逃げる、王明安役のお兄ちゃん・国生くんがぷくぷくして微笑ましい。
いよいよ大詰め、「桃山御殿の場」では五右衛門がなんと後ろ向きの宙乗りで再登場し、続く襖絵が美しい「時雨の間の場」で、扇雀さんの久吉と対決する。二人が突然くだけた調子でやり合うセリフ回しが、なんとも歌舞伎らしくて痛快だ。権力者をやりこめつつ、その権力者も人物の大きいところを見せる。
「奥庭の場」、最後の最後に来て順喜観が実は久吉側の加藤清正だったと明かされ、3度びっくり。登場人物がずらりと並ぶ幕切れは、お芝居を観た!という感じがしました~。