ヘンリー六世
彩の国シェイクスピア・シリーズ第22弾「ヘンリー六世」 2010年3月
さいたま芸術劇場第ホール。蜷川幸雄演出。1階のなかばやや右で、S席通し券1万9000円。
観ましたよ、15世紀の百年戦争、薔薇戦争を題材にした大長尺の歴史劇。松岡和子訳、河合祥一郎構成で、前後編を15分休憩2回、60分休憩1回を挟み8時間半、一気上演です。
装置は後方の階段に客席を設けているものの、白を基調にしていてシンプル。蜷川演出の妙は、シーンに合わせて、王位をめぐり泥沼の闘いを続けるランカスター家の赤薔薇、ヨーク家の白薔薇、それにフランス王室の百合を、一定のゆっくりしたテンポで降らせたことでしょう。何も降っていないかのように芝居が続くだけに、無為に降る花が観る側をいらいらさせ、また場面展開のたびにゴールド・シアターの女優陣らが淡々と花を片づけるのも、いつの時代も変わらない権力闘争の愚かさを象徴するかのようでした。
物語は裏切りに次ぐ裏切りで、まあ観る方がぐったりするくらいですから、テンションを保つ俳優陣は凄いです。特に前編でジャンヌ・ダルク、後編で王妃マーガレットを演じて、ほぼ出ずっぱりの大竹しのぶ。カリスマから悪女まで、さすがの振幅の大きさです。それに比べると、ヘンリー六世の上川隆也は引き気味の演技。以前に観た「その男」や「蛙合戦」のような華は封印していた。煮え切らないけど、一貫して唯一の「呪わない人」であり続ける役どころだから当然か。弱いだけでもなく、虚しさを知り抜いた最期は泣けた。
アクの強いヨークの吉田鋼太郎がさすがの存在感。ジャンヌ処刑シーンで縄がほどけたり、罪状を書いた札が落ちたりというハプニングがあったけど、落ち着いて突っ込んでましたね。後編から登場するリチャードの高岡蒼甫が、屈折がいまひとつながら意外に頑張っていた。
それから見違えちゃったのが池内博之さん。色黒の不良っぽい俳優さんというイメージがあったけど、いきなりマーガレットと恋に落ちちゃうサフォーク伯爵と、敵味方の間で揺れ動くヨーク兄弟のジョージの2役を演じていて、野心家ながらたたずまいが繊細な感じ。フランス皇太子シャルル、ヨークの長男エドワードの長谷川博己や、若手ではサマセット公爵の星智也が長身で目立ってた。とにかくお疲れさまっ!
ヘンリー六世 シターゴアのつぶやき
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