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フロスト/ニクソン

フロスト/ニクソン 09年11月

映画化もされたピーター・モーガンの作品をもとに、鈴木勝秀が上演台本・演出。天王洲銀河劇場。見やすい2Fの前のほうで8500円。客層は老若男女幅広いが、総じて落ち着いた雰囲気でした。

辞任3年後に実現した歴史的インタビューでの、ニクソンとテレビジャーナリストの丁々発止を描く。2時間弱休憩無しだけど、なんだかあっという間だった。シンプルな階段上のセットを、控えめな背景映像や照明だけで、海辺のニクソンの邸宅や飛行場やテレビスタジオにみたてる。開幕とラストのもの悲しい音楽以外、音響も抑えめで会話に集中できる。

登場人物は男性ばかり7人だけ。予想通り、ニクソン役の北大路欣也さんが威風堂々。傲慢さは抑えめで、むしろカギとなる深夜の電話でのしゃべくりシーンなどでは可愛い印象さえした。けれど、決して哀れではない。楽しみにしていたのは、対するフロストの仲村トオルさん。中井貴一を追う、悪役もできる2枚目、と勝手に思ってるんですが、声がけっこういい。今回は軽すぎず重すぎず、終盤、インタビュー前の大事な台詞も決まってましたね。映像でみるのと違って、相手に耳を傾ける時間が長いインタビューシーンなどでは、長い足をもてあましている印象はしたけど。
脇役陣も安定していた。舞台回し役で、はつらつと動き回りながら複雑な背景を説明しなければならない佐藤アツヒロさんが、ちょっと聞きづらかったのは残念。でも雰囲気はよかった。

もちろんフィクションだけど、メディアというビジネスのご都合主義な部分や、政治家のイメージ戦略の危うさが伝わってくる。そして権力者が陥る猜疑心という、どうしようもない孤独も。

 「フロスト/ニクソン」を観る かのこの劇場メモ

歌舞伎「通し狂言仮名手本忠臣蔵」

歌舞伎座さよなら公演 吉例顔見世大歌舞伎 09年11月

歌舞伎座11月公演は定番「通し狂言仮名手本忠臣蔵」。その夜の部を観に行く。なんと1F桟敷席を初体験。花道側の西桟敷で1万8000円です。ドアを開けると小さいタタキがあり、靴箱らしきものと鏡。カーテンの向こうが掘り炬燵式の2人席になっている。狭いけれど、テーブルにお茶セットが用意されていてくつろげるし、劇場全体の雰囲気、観客の表情を横から眺められるのが面白い。役者さんが出てくると正面から照明があたるので、誰も観てないと思いつつ恥ずかしいのも一興。

まず五段目、六段目を2時間近い長丁場で。七段目までは08年10月に平成中村座で観ており、そのときは勘太郎の勘平、七之助のおかるという若々しい配役でした。
それに比べ今回、勘平は大御所菊五郎さん。「山崎街道鉄砲渡しの場」以下の暗闇の無言劇から、一転して「与市兵衛内勘平切腹の場」では派手な浅黄の紋服に着替え、大衆芸としての芝居っけたっぷりだなあ、と改めて思う。現代からすれば無茶で理不尽なストーリーをものともしない、存在の芯の強さというか。一方、お軽の時蔵さんはすらりとして端正。お才の芝翫さんが祇園の女将ながら、江戸風の気っぷが良い感じで、黙って座っていてもさすがの貫禄です。火縄や煙草など、やけに本物の火を使うのでドキドキ。終盤、背後に注文した食事が届く気配がしました。

Photo_21 30分の休憩でお寿司を食べ、コーヒーを飲みつつ、七段目の「祇園一力茶屋の場」。由良之助の仁左衛門さんはすらりとして軽みがあって、お軽とじゃらつくところなんか、なんとも色っぽい。わかっていても、駄目な遊び人にしかみえません。けれど耐えに耐え、最後にきて九太夫に対し怒りを爆発させるところは、激しさが前面に出てスカッとする。格好良いなあ。
一方の主役といえる寺岡平右衛門は、贅沢に幸四郎さん。こういう実直な役、似合うんじゃないでしょうか。じんと来ます。アクションがちょっと大変そうだったけど。お軽の福助さんはおきゃんな感じか。

短い休憩を挟み、大詰め十一段目。初めて観る「高家表門討入りの場」は、舞台いっぱいに浪士が勢揃いして壮観だ。「奥庭泉水の場」での、歌昇の小林平八郎と錦之助の竹森喜多八の立ち回りは予想以上にリアル。
そして本懐をとげ、明るい太鼓橋の向こうから仁左衛門さんらが登ってくる「引揚の場」は、スケールがあってすがすがしい。
ロビーに注意書きがあって、今回は橋を渡る演出にしたため、パンフにあった両国橋の設定を花水橋(永代橋)に修正したとのこと。当事者のブログを拝読すると、どんなに定番の演目でも、常に何か試みていることがよくわかって、感じ入ります。最後に馬で登場する、痛快な服部逸郎は梅玉さん。やっぱり引き揚げまで観ると大団円!という実感があって、これぞお芝居見物、でしたねえ。

やり遂げた感は抜群です 梅之芝居日記

歌舞伎「外郎売」「傾城反魂香」「大津絵道成寺」

国立劇場11月歌舞伎公演  09年11月

国立劇場大劇場。1階なんと3列目の中央という、贅沢な席です。1万2000円。

東西の大名跡、団十郎と藤十郎の顔合わせ。ロビーにはういろうの売店もあって賑やかだ。

まず歌舞伎十八番で家の芸である「外郎売」。背景に大きな富士山、前方には屋根があって、柱に役者の名前が掛けてあり、芝居気分たっぷり。壇上で坂東彌十郎さんの工藤が、大人物らしさをかもす。周囲に鎌倉大名と高級遊女たちがずらりと控え、めいっぱい派手な設定を整えたところで、花道から団十郎さん登場です。まず舞台中央に手をついて今年、白血病を克服、舞台復帰を果たした感謝の挨拶をしてからお芝居に戻る。楽しいなあ。有名な長い口上「言い立て」に大拍手。思ったほど早口ではなく、むしろゆったり大らかだ。伝統芸らしい朗らかな雰囲気は、この人独特なのかもしれません。

休憩後、弁舌爽やかだった団十郎さんが、近松の「傾城反魂香」土佐将監閑居の場で正反対の「吃又」を演じるのが、面白い。昨年末、南座の顔見世で観た演目。あのときの中村翫雀の又平に比べると、大げさで明るい雰囲気だ。女房おとくは前回同様、藤十郎さん。一歩引いた細かい仕草や目つきに、優しさを感じさせる。亀鶴の土佐修理之助が端正。絵が抜ける手水鉢は同じセットにみえ、前より近かったけれど、今回も仕掛けはよくわからなかった。

短い休憩を挟み、最後は「大津絵道成寺」。今度は又平が糊口を凌いでいた大津絵にちなむ演目、という趣向だ。工夫してますね。
旅の土産物で、お守りの意味もあった大津絵の中の人物や動物が抜け出て、次々舞台に登場する華やかな舞踏劇。藤十郎さんがほとんど出ずっぱりの早変わりで、藤娘など5役を務める。とても77歳とは思えません。コミカルな外方の市蔵さんが「文化勲章の」、と紹介して、また大拍手。衣装の色遣いも素晴らしいなあ。
音楽は左手に常磐津連中、舞台後方に長唄連中が控えていて重層的。常磐津は語り物で中竿で、長唄はBGMで細竿で、とかいう違いはさっぱりわかりませんが。とにかく1日、有り難いものを見せて頂きました~

外郎売 春の夜の夢

魔笛

魔笛  2009年11月

新国立劇場。1F左方向のS席1万8900円。2006年の公演に引き続きミヒャエル・ハンペ演出、アルフレート・エシュヴェ指揮。

かねてより一度観たかった人気演目で、期待通りの楽しさ。休憩を挟んで2幕3時間強は短い気さえした。やっぱりモーツアルトは起伏があって華やかで、音のシャワーを浴びると体に良い!という実感がわきます。

今回は歌手陣が新鮮で、なんといっても夜の女王の安井陽子さん。有名な2度の超絶技巧コロラトゥーラのアリアでは、観客がみな息を飲んで応援するような雰囲気でした。本当にすさまじい役だなあ。ザラストロの松位浩さんが堂々として格好いいし、パミーナのカミラ・ティリングは可憐。また、コミカルな侍女3人に抜群の安定感があった。タミーノのステファノ・フェラーリは主役としては声量が今ひとつな印象で、中盤、武士の成田勝美さんらに押され気味のシーンもありましたが。

ストーリーはルネ・パペがでていた映画で予習済み。フランス革命の時代に、庶民に向けて市民階層の道徳と友愛を説く、という精神性にまず驚く。演出は、そういう内容を上手にファンタジーで包んでいました。特に、女性が演じる3人の童子が宇宙の統一を表すような銀の輪に乗り、きらきらの銀ラメ衣装で飛翔するのには目を奪われた。1幕終盤で、笛の音につられて怪しい動物がわらわらと集まってくるところは、まるで暗めの「ライオンキング」だし。

とはいえやはり、理想論を語るストーリーの中で光るのは鳥刺しパパゲーノの存在でしょう。ささやかな家庭の幸せを求め、理想と現実に揺れ動く庶民的な様子がなんとも愛らしい。マルクス・ブッターが巧みな演技力をみせ、カーテンコールでも拍手を集めてましたね。「パ」「パ」と口ずさみながら、家路につきました…

 新国立劇場オペラ「魔笛」(10月31日) B級グルメと猫とオペラ鑑賞が好きな産休中OLの日記(仮題)
3年ぶりの魔笛 夜の女王で安井陽子さんが好演 シュタイントギルの旅人

志の輔らくご 「はんどたおる」「ねずみ」「政談月の鏡」

志の輔らくご in ACT 09年10月

赤坂ACTシアター。1F右のほうでS席6000円。18時半に息せき切って駆け付けて、中入りを挟み21時過ぎまで。1300席ほどが満員で、客層も幅広く、相変わらずの人気。ロビーも芸能関係者からの花でいっぱいです。

ゴルファー石川遼くんの大人っぽさを誉めつつ、ちょうど遅れて入ってくるお客さんをくすぐる上手なマクラがあって、まず新作「はんどたおる」。志の輔さんらしい、大真面目同士のすれ違いもの。シュークリームをたくさん買って、景品のハンドタオルを貰うのが賢いのかどうか、夫婦が延々と口論を繰り広げる。テンポ良く、話の噛み合わなさ加減を畳みかけていくところは、以前きいた「みどりの窓口」に通じるけれど、より日常的で罪のない感じが軽妙。やっぱり声に安定感があります。

三味線をはさんで、古典「ねずみ」。こちらは以前きいた「抜け雀」に近い内容。縁あって仙台の宿場の貧乏宿に一泊した左甚五郎が、木彫りの鼠を残していく伝説。浪曲が元になっているとあって、子どもが健気で泣かせるし、最後には陰険な奴を見返すという爽快さもある。あの渋い声で、子どもを表現するところが巧くて、肩の力が抜けている。

中入り後は「政談月の鏡」。これは07年9月に国立大劇場できいた演目でした。志の輔さん一流の研究熱心さを映して、複雑なストーリーの古典を「24」風の映像で料理するという実験作。ただ、導入から前回とほぼ同じ展開だった気がして、どうも乗りにくかった。2度みるのは、正直きついかな~。全体に、志の輔さんの真面目さを感じた一夜でした。

『志の輔らくご in ACT』/立川志の輔 読書日記と着物あれこれ

「印獣」

”ねずみの三銃士”第2回企画公演「印獣」 09年10月

作・宮藤官九郎、演出・河原雅彦。パルコ劇場、右後方の席で8400円。客席は若い演劇ファンのなかに、三田佳子さんファンなのか年配のかたもちらほらで、なかなか興味深い感じ。

3人の物書きが「印税」につられて軟禁の身となり、ある女優の評伝を書くことになるが…というストーリー。クドカンらしく下世話な笑いたっぷりで、次第に3人と女優との因縁が明かされていく、という筋立てにはミステリ性がある。

オープニングの映像を使ったドライブシーン、特にコンビニがずらりと並ぶところとか、館の玄関から地下へと上下に動く舞台とか、仕掛けも凝っている。けれど、ぐぐっと引き込まれるほどではなかったかなあ。
主演の名実ともに大女優、三田佳子さんに大期待してましたが、舞台としてはちょっと優等生的だったか。それが狙いかも知れませんが。三田さんといえば、私にとっては「Wの悲劇」。むしろ映像の人という印象かしらん。

対する、ねずみの三銃士は生瀬勝久、池田成志、古田新太という、これ以上なさそうな濃い取り合わせ。でも案外、弾け方は抑えめの印象。それと比べると、編集者役の岡田義徳さんが印象的でした! 怪しいし、人格の振れ幅が大きいし、それを伝えるメリハリもある。ドラマ「セクシーボイスアンドロボ」とかが良かったけど、舞台でも注目ですねー。沖縄弁でまくしたてる上地春奈も面白かった。

印獣 てっしーずのおでかけ日記
印獣 rabona Inc.blog15

歌舞伎「通し狂言義経千本桜」

芸術祭十月大歌舞伎 09年10月

歌舞伎座さよなら公演の折り返しで、夜の部に行った。1階ほぼ中央。1等席1万6000円。

演目は「通し狂言義経千本桜」で、今年文楽でみたのでイヤホンガイド無しで楽しむ。前半「渡海屋」「大物浦」は知盛の吉右衛門が、とにかく人物の大きさを存分に発揮。典侍の局の玉三郎は、お柳として登場するシーンから上品さと、何とも言えない芯の強さを漂わせていてさすがです。前半は相模五郎の歌六、入江丹蔵の歌昇が歌舞伎独自の「魚づくし」で笑わせ、玉三郎の「洗濯のしゃべり」で拍手。
後半は海を望むセットに広がりがあり、幼い安徳天皇ががんばって演技していたのも印象的。典侍の局の逡巡は文楽よりあっさりした印象だが、碇知盛はやっぱり、人形より俳優の方が迫力がある感じだ。

休憩でお弁当を食べ、「吉野山」「川連法眼館」。菊五郎さんの忠信、菊之助さんの美しい静御前で、まず華やかな道行。後半、時蔵さんの義経に哀愁が漂っていて良かった~。狐忠信はどうしても人形の方が、ファンタジー度が高いかも、と思いますが。

文楽と見比べるなど、今回はだいぶ歌舞伎にも慣れてきたかなあ。まあ、最近毎月のように観ているしね。

「吉野山」「川連法眼館」-『義経千本桜』十月大歌舞伎夜の部の感想(その二) 六条亭の東屋

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