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竹本住大夫 素浄瑠璃の会 「菅原伝授手習鑑」

竹本住大夫 素浄瑠璃の会「菅原伝授手習鑑 桜丸切腹の段」 09年9月

日経ホール、左寄り後方のR列。6500円。

いよいよ素浄瑠璃を初体験です。年配男性を中心に、大手町に文楽ファンが集結!

「トザイ、トーザイ」はなく、緞帳が上がると明るいステージの中央、金屏風を背に住大夫さんと野澤錦糸さんが並んでいて、おもむろに三味線が始まる。人形がいない分、語りのリズム、節回しや豊かな演技が際立つ。同時に、三味線の様々な変化もよくわかって面白い。
字幕もないので、皆パンフレットの床本を追いつつ、熱心に聞き入る。さすがは住大夫師匠、全く中だるみせず1時間弱があっという間だ。最初に掛け声がかかり、「泣くない」「アイ」のところで皆、気持ちよく拍手。それにしても文楽は、これに人形までついてくるのだから、贅沢な芸能だよねー。

20分の休憩のあと、赤川次郎さんとの対談。いつものように修業の苦労、若手への苦言などチャーミングな語りを1時間ほど聞かせ、最後は立ち上がって丁寧にお辞儀していました。

竹本住大夫 素浄瑠璃の会 @ 日経ホール おりおん日記

「ネジと紙幣」

ネジと紙幣 09年9月

天王洲・銀河劇場。2階C列のやや右、S席で8000円。観客は20代、30代が中心かな。

300年前の近松「女殺油地獄」を現代に移し、倉持裕が作・演出。引き締まった舞台だったと思う。2時間強を休憩なしで暗転と幕だけでつなぎ、全然飽きさせない。

以前、文楽で観た「油地獄」という物語の普遍性を、まずは再確認。中核をなす、何をやってもうまくいかない主人公、行人の若くて苦い焦燥がリアルだ。取り巻く人々との歯車のズレ方も、丁寧に描かれている。浄瑠璃バージョンよりも、桃子夫婦の悩みや、行人と桃子の関係が密なので、そのあたりの意味合いは随分複雑になっているけど。

冒頭、喧嘩のシーンでの花火を表すライティングや、小屋が崩れかかるところ、中盤の親子の殴り合い、クライマックスで殺人現場となる町工場の蒸し暑さと、粗末なガラス戸を染める真っ赤な夕暮れ。心理劇だけど、映像的なアクセントもきいていてテンポがいい。

俳優陣は全員、危なげがなかった感じ。ストレートプレイ初挑戦という森山未来がしなやかに動き、独特の繊細さを発揮して、がんばっていたし、結果的に行人を追いつめる複雑な役どころのともさかりえが、スリムな姿が上品でとてもよかった。小悪党の長谷川朝晴、行人と対照的で無口な工員・野間口徹は、キャラクターがはっきりしていてそれぞれ納得がいく。もちろん父親・田口浩正、母親・根岸季衣は存在感があり、狂言回し的な役割があるガールフレンド江口のりこのコミカルさも、後半はうまくフィットしていた。

床に流れた油に滑りながらの、丁寧なカーテンコールが気持ちよかったです。ホリプロ企画制作。観客席にはまた、松重さんがみえてましたね。Photo_2

 観劇「ネジと紙幣」 名古屋の負け犬OL徒然草

KOBUKURO LIVE TOUR’09 ”CALLING”

KOBUKURO LIVE TOUR’09 ”CALLING”  09年9月

なかなかチケットをとれないので、なんと「仙台セキスイハイムスーパーアリーナ グランディ21」まで遠征しちゃいました! 会場でのやりとりでは、長崎からの聴衆もいらしたようですが。席は「小渕さん側」の東スタンド15列。上の方だけど、ステージとスタンド前の花道を横から眺められた。5700円。

早めに到着し、黄色のツアートラックを背景に記念撮影。あちこちに小さくサインが入っていて面白い。聴衆は7000人とアリーナにしては小ぶりか。若い女性グルールを中心としつつ、カップル、家族連れなども。入り口できちんとチケットと身分証明書をチェックしてましたね。開演前のBGMはフォーク系。協賛のJALのCM上映が控えめで、好感がもてる。

コンサートは17時過ぎ、ほぼ時間通りにスタートしてたっぷり3時間半! ライブだからといってあまり特別なことはせず、演出は銀テープと照明ぐらい。バンドとストリングス4人をバックに、関西ノリの面白MCを長めに挟みつつも、アンコールを含め19曲、比較的シンプルに歌う。最後まで二人の声に不安がないのが、さすが。
特にギター1本のバラードで、広い会場をもたせられるのが気持ちいい。日替わりの1曲「風見鶏」のラストは、マイク無しで聞かせ、そして何といっても「To calling of love」。黒田さんのボーカルが感動的で圧巻。終わってぐったりしてました。
「Summer Rain」や「Moon Light Party」はノリノリで、小渕さんがギター、エレキを抱え、左右の花道を全力で走る。ちょっとテンション高すぎの気もするけれど、合間合間に黒田さんが上手にボケてクールダウンするのが、いい呼吸です。

黒田さんといえば、ハプニングがあった。出だしでツアータイトルを格好良くコールする映像が流れ、幕を落としてアップテンポで2曲。その後、いったん黒田さんが袖に引っ込んでしまう。なんでも登場直前にストレッチをしていてパンツが裂け、応急措置で歌い始めたものの気が気でなく、着替えに戻ったとか。爆笑。中盤で差し入れのラスク(高崎のガトーフェスタ・ハラダ)を絶賛してドラマーに食べさせたり、お茶目です。
メンバー紹介で二人はなぜかハウンドドッグを熱唱。それからウエーブタイムでは「ギンギラギンにさりげなく」をBGMにして、小渕さんがわざわざスパンコールのジャケットを羽織ってた。このあたり、77年生まれにしてはちょっとターゲット年齢が高めの感じも。

会場は妙に媚びる風もなく、ノリが良かった気がする。アンコール前、一部のファンが「ストリートのテーマ」を歌うのは恒例とか。再登場した小渕さんが指笛でこたえて、温かい雰囲気でした。あー、楽しかった!Photo

以下、曲目です。

1 サヨナラHERO
2 虹
3 NOTE
4 Sundeay Kitchen
5 Summer Rain
6 君といたいのに
7 風見鶏
8 ルルル
9 恋心
10 天使達の歌
11 To calling of love
12 Moon Light Party
13 LOVER’S SURF
14 神風
15 轍
16 赤い糸
17 STAY
EN1 ここにしか咲かない花
EN2 時の足音

歌舞伎 「浮世柄比翼稲妻」「勧進帳」「松竹梅湯島掛額」

九月大歌舞伎 09年9月

歌舞伎座のさよなら公演の第二部。平日なのでお年寄りが目立つものの、なかなかの入りだ。1等席で1F少し右前方、1万6000円。

今回は様々な伝統の「型」「様式美」が揃い、硬軟のバリエーションもある面白い演目が並んでました。
まず鶴屋南北作「浮世柄比翼稲妻(うきよづかひよくのいなづま)」。1幕目の「鞘當」は「恋のさや当て」の語源といわれ、たわいない喧嘩のシーンだけど、吉原に夜桜が満開で、華やか。伴左衛門を演じる松緑と、ライバル名古屋山三の染五郎がそれぞれお洒落をして登場するシーン「丹前六方」や、七五調で掛け合う「渡り台詞」を見せる。
装置が変わって、2幕目「鈴ヶ森」は中央に巨大な供養塔が立つ暗い場面。しかし梅玉演じる白井権八が、雲助を次々切り捨てるくだりは文楽のような「特殊効果」があって、これがちゃちなだけに笑いを誘ってました。侠客、幡随院長兵衛が吉右衛門で、さすがの安定感。

休憩後は松羽目の元祖、お待ちかね「勧進帳」だ。7世幸四郎没後60年ということで幸四郎の弁慶、染五郎の義経、吉右衛門の富樫と、ゆかりの役者がろい踏み。客席からの掛け声も盛り上がりまくりです。
リズミカルな勧進帳の読み上げと山伏問答、弁慶が義経を打つ機転、それを察した富樫の人物の大きさ。見どころの連続ですね。後半は弁慶を許す義経の悲運ぶりが泣かせたあと、一転してコミカルな弁慶の延年の舞、見送る富樫、そしてクライマックスの飛び六方。幸四郎さんは決して大迫力の豪傑ではなく、必死で愛らしい弁慶という感じがしました。
これからは染五郎の出番ですね。線が細いだけに果たしてどう演じるのか、楽しみで、ちょっと怖いかも。

最後は「松竹梅湯島掛額(ゆしまのかけがく)」。勧進帳からうって変わり、1幕「吉祥院お土砂の場」は思いきり大衆的なチャリ場でびっくり。松竹新喜劇かと思うほど。ストーリーは天女に似た美人の八百屋お七が、左甚五郎作の欄間の彫り物に成りすますとか、祈祷した灰をかけると皆、体がグニャグニャになるとか、何とも馬鹿馬鹿しい。これを台詞に現代風を混ぜ、ラストでは新派俳優が乱入したり、幕を引く黒衣までグニャグニャになったり、ちょっと悪のり気味に仕立てている。紅長役の吉右衛門さんは、先ほどの富樫と同じ人とは思えないほど喜劇に徹していて、さすが。お七の福助、吉三郎の錦之助さんが可憐です。
2幕「四ツ木戸火の見櫓の場」では一転して静かになって、雪が降りしきる場面。ほとんど福助さんの一人舞台で、無表情のままブレイクダンスのように「人形ぶり」を熱演。

今回は、歌舞伎が能や文楽と密接に関係していることがよくわかったし、初めてみる趣向も多く、本当に盛りだくさんでした!

歌舞伎座『九月大歌舞伎』夜の部 芳月日記

ドン・カルロ

ミラノスカラ座「ドン・カルロ」 09年9月

東京文化会館、1階左のA席5万2000円。シュテファン・ブラウンシュヴァイク演出の4幕イタリア語版を、2回の休憩を挟んで4時間半で。ダニエレ・ガッティ指揮。

いやー、楽しかったです。ホールがいいこともあり、印象的なホルンで始まる前奏曲から、ピットぎっしりのオケを堪能。席が横方向だったので、ガッティが合唱と一緒に歌ったりする情熱ぶりも丸見えだ。

歌手陣は高音、低音とも、それぞれに美しいアリアがあり、聞きどころが満載。タイトロールのスチュアート・ニールと、ひたすら格好よくて得な役回りの親友ロドリーゴ役ダリボール・イェニスは、ちょっと線が細いかもしれないけど、のびのびとして安心感がある。特に全編でモチーフが繰り返される第1幕の二重唱「主よ、われらの魂に」が爽快だ。
孤独で屈折した父、フィリッポ二世がキャストの交代でルネ・パーペになったのは、つくづくラッキーでした。座ったまま歌う第3幕の「彼女は私を愛したことがない」の苦悩ぶり、切なさたるや、バスだけど威風堂々というだけではなく、陰影が豊か。気性が激しいエボリ公女の、アンナ・スミルノヴァが聞かせる、メゾとは思えない高音を含めた超絶技巧もさすがだ。
そして何と言っても、お楽しみエリザベッタのバルバラ・フリットリ。昨年の「コシ」と比べると、色気少なめの抑制した役どころなので、前半は意外に目立たなかったけれど、舞台に現れただけで存在感がある。そして第4幕になると独壇場で、「世のむなしさを知る神よ」の追憶と諦念が圧巻!

ストーリーは、素人にとってはけっこう複雑。新旧の価値観の対立とか、権力の誤謬とか。幕切れの悲劇など、あれ、どうしてこうなるの、という感じもしたけれど、1867年初演とは思えない現代的なニュアンスを含んでいて見応えがある。
そのストーリーを今回の演出では、衣装は16世紀スペイン、舞台装置は無機質なモノトーンを軸に深い森の背景や、紗幕を効果的に使って、お洒落に表現していた。奥行きがあって美しい舞台。主要登場人物3人 の影の存在として、ものを言わない子役3人が登場し、宙づりにされたりして大活躍。私としては映像的で、なかなか楽しめた。カーテンコールでも拍手を浴びてましたね。

ミラノ・スカラ座の来日公演「ドン・カルロ」@東京文化会館(9/8)  ETUDE 

文楽「伊賀越道中双六」「艶容女舞衣」

文楽公演 第168回 第2部 09年9月

国立劇場小劇場、左後方の1等席5700円。3時開演。相変わらず客層は幅広い。

大夫ふたり、人形ふたり。なぜか人間国宝そろい踏みの豪華配役となった2部を鑑賞した。
イヤホンガイド高木さんの解説を伺った後、まず「伊賀越道中双六」沼津の段。前半が渋く竹本綱大夫。珍しく女性客から声がかかる。鶴澤清二郎、清馗(せいき)の三味線も賑やかに、語りだしの凝った節回しが面白い。人形は桐竹勘十郎さんが遣う父・平作の、足取りがおぼつかない感じがコミカルで、背景の木を動かして東海道を歩く様子を表すのも、いかにも芝居って感じ。
後半は堂々、竹本住大夫登場。さすがの声量です。ますますお元気だなあ。舞台が暗くなって、いよいよクライマックス千本松原の場面に突入すると、野澤錦糸さんの三味線に豊澤龍爾(りょうじ)さんの胡弓が加わってなんとも哀切。平作の今際のきわの、言葉にならない「南無阿弥陀仏」が悲しい。吉田蓑助さんが遣うりりしい十兵衛が、忠と孝の狭間で苦悩する様子もひしひしと伝わってきて、胸に響きましたね。

15分の休憩後、「艶容(はですがた)女舞衣」酒屋の段。前半は豊竹英大夫。後半で豊竹嶋大夫さんが大熱演です。三味線は鶴澤清友さん。
有名なお園のクドキは、夫・半七は妻を裏切り、人を殺めて逃げているひどい奴なのに、その身をひたすら案じるという、あり得ない設定。しかし、人形の吉田文雀さんがさすがの存在感で、小道具の行灯を効果的に使い、「うしろぶり」を美しくみせる。動きは全体に、想像したより抑えめで丁寧な印象でしょうか。
ラストで吉田玉輝さんの舅・半兵衛、玉女さんの親・宗岸らが、半七の書き置きを回し読みして「私の小さく成りしと」「未来は夫婦」といったフレーズを繰り返すところは、音楽的で面白かった。意外にこのお話は、群像劇でしたね。
いやー、とにかく贅沢なものを見せてもらいました。

第二部も見たんです。 百舌鳥廼舎(もずのや)

アイーダ

ミラノ・スカラ座「アイーダ」 2009年9月

NHKホール。A席、2F右で5万9000円。フランコ・ゼッフィレッリ演出、ダニエル・バレンボイム指揮による来日公演。

スカラ座のヴェルディ、しかも大合唱があり、セットも絢爛豪華な演目とあって期待大。実際、オケは重厚で大活躍。もっとも直前に体調不良でキャストの交代があったせいか、ホールのせいか、歌手とのバランスがイマイチな印象で、特にラダメスのヨハン・ポータが出だしで躓いたときは、はらはらした空気が流れちゃいました。

しかし! 貫禄たっぷりのアイーダのヴィオレッタ・ウルマーナをはじめ、歌手陣も徐々に持ち直し、暗転後の第2幕からは調子を上げてました。さすがです。アムネリスのエカテリーナ・グバノヴァは、急遽登板したにもかかわらず、複雑な愛憎を歌い上げて迫力がある。バレエでは「アムネリスの居室」で東京バレエ学校の子供たちがきびきびと踊り、「テーベの城門」ではサブリナ・ブラッツォとアンドレア・ヴォルピンテスタが色気たっぷりでした。
休憩をはさみつつ、3幕、4幕と進むにつれて舞台の緊迫感が高まり、終盤の悲劇に向かう表現ではすっかり引き込まれちゃった。

舞台装置は同じゼッフィレッリ演出でも、奥行きがある新国立版と比べるとむしろシンプル。後方に水平に浮かべたパイプが、金色に光って目を引きました。空間の広がりを意味しているのかしらん。
カーテンコールでは主要キャストのほか、アイーダの父アモナスロ役で堂々としていたホアン・ポンスに対する拍手が多かった感じ。最後はバレンボイムに加え、オケも全員ステージに上がる珍しいスタイルで、オケも皆さん格好よかったです。客席には財界人、神田うのさんもいましたね~。

ミラノ・スカラ座「アイーダ」(9/6) ちゃむのバレエとオペラ観劇日記

RENT

RENT The Broadway Tour  09年8月

赤坂ACTシアター。1F右の中程の席。1万2600円。

大ヒットし、映画にもなったロック・ミュージカルの来日公演を観る。「ラ・ボエーム」を下敷きに、不況が覆うNYイーストビレッジで夢を追う、若きボヘミアン・アーティストたちを描く。作者ジョナサン・ラーソンがオフ・ブロードウエイ初演の日に急死したこと、その後、レントヘッズと呼ばれる熱狂的なマニアが生まれ大成功したことなどで、伝説化している作品だ。主役二人はオリジナルキャストのアンソニー・ラップとアダム・パスカル。

この日の観客も、立ち見も含めて女性グループや若いカップルが多く、きちんとツボを心得たノリの良さだった。後ろの席の女性が、彼に見どころを教えてあげてたりして。とりわけ、外見はド派手だけど心優しいドラッグクイーンのエンジェルが登場するシーン、はたまた、奔放なモーリーンが思い切り傍若無人に振る舞うシーンなどでは、待ちかまえたように拍手と歓声が起きて、一体感がある。

舞台は左にバンドが控え、鉄階段やテーブルなどで比較的シンプル。全編、伸びやなロックボーカルがたっぷりだ。特に2幕目はじめ、グェン・スチュアートのゴスペルをまじえ、キャストが横一列に並んで力強く愛を歌い上げる「Seasons of Love」は鳥肌もの。

登場人物たちはみな、極めて現代的な貧困やHIV、ドラッグ中毒に苦しんでいる。しかし根底にある、自分の才能を信じる気持ちと疑う気持ち、夢と絶望の狭間で揺れ動くもどかしさには、普遍性を感じた。それは、ひとことで言ってしまえば「若さ」。そして若さ故の焦燥ではないだろうか。作者が急逝して、いわば未熟だけど繊細な感性がそのまま保存されたような…

ロジャー役アダム・パスカルの、ちょっと頼りなげな歌声が雰囲気にぴったりだ。ミミ役のレクシー・ローソンも可愛いかったなぁ。楽しかったです!Photo_13

RENT こんなことを思ったり。
RENT 09.8.14マチネ missiys

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