歌舞伎「夏祭浪花鑑」「天守物語」
7月大歌舞伎 09年7月
歌舞伎座の夜の部を観る。1等席で1F右寄り。1万6000円。
スター海老蔵を中心にした、対照的な2演目を楽しむ。満席で、年配女性が圧倒的。やっぱり姿の良い役者は、観ていて気持ちがいいですもんね。
16時30分からの「夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)」は以前にコクーン歌舞伎で観た演目。そのときは、「チョーサヤ、ヨーサ!」という祭りの興奮をバックに、凄惨な終盤へとなだれ込む、人の心の不条理とか運命の皮肉とかが非常に印象的だった。
そんな勘三郎に比べて今回、団七九郎兵衛の海老蔵は、当然ながらぐっと若々しくて、細い。だから、とにかく錦絵そのままの華やかな決めポーズに喝采!という感じ。「住吉鳥居前の場」の、ひげを剃って颯爽と再登場するシーンとか、獅童さんの一寸徳兵衛との立て札を持っての立ち回りとか。さらには「難波三婦内の場」で、獅童さんと色違いの粋な単衣姿で、喧嘩から威勢よく帰ってくるところや、「長町裏の場」の泥まみれの立ち回り、最後に井戸の水を頭からかぶるところまで、すべてがピシリと決まっています。獅童さんも繊細だし。
その分、コクーンでも観たお辰役の勘太郎さんは、泥臭いところを引き受けて熱演だった感じ。また、琴浦を演じた市川春猿さんが、ほっそりしていて異様に綺麗なのが目を引きました。
休憩をはさんで、お待ちかね玉三郎極め付きの「天守物語」。泉鏡花原作の幻想的な戯曲を、照明や映像、効果音を駆使し非常にモダンな演出でみせる。玉三郎さんのたゆまぬ工夫が満載です。
もちろん役者としても、玉三郎演じる富姫の存在感が圧倒的。生身で舞台に立っていて、「人間じゃない」といわれても素直にうなずける雰囲気は凄い。前半で人間界の愚かさを指摘するあたり、ハリーポッターも驚くファンタジーの説得力。後半、図書之助役の海老蔵とのやりとりからは可愛さが加わり、さらにぐっと引き込まれた。詩のように饒舌なセリフも美しい。
主役二人は、重厚に桃六を演じた我當さんもまじえてカーテンコールにこたえました。いやー、9時過ぎまでたっぷり楽しみました。