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チェネレントラ

チェネレントラ 2009年6月

新国立劇場。1階後方のほぼ中央。2万円。

ジャン=ピエール・ポネル演出、デイヴィッド・サイラス指揮。楽しみにしていた、豪華キャストによるロッシーニのオペラ・ブッッファを堪能した。
筋書きは18世紀イタリアを舞台としているが、ほぼ原作のシンデレラそのものでひねりはない。リボン模様の幕と、いかにも書き割りという雰囲気のセットを巨大紙芝居のように動かして、大衆演劇の雰囲気。だからこそ超絶技巧の歌をたっぷり楽しめるという趣向だ。

とにかく歌手陣が圧巻。特に王子ラミーロ役のシラグーザが若々しい!若々しすぎて重みはないけれど、2幕のアリア「誓って彼女を見つけ出す」のハイCを軽々と歌い、拍手にこたえてもう一度聞かせ、客席を大いに盛り上げた。タイトロールのカサロヴァは、メゾの低音が貫禄ありすぎなくらいだけど、コロコロした節回しのアジリタ唱法満載で堂々たるもの。この二人は声だけで、広い会場を完全に自分のものにしていました。
さらに身勝手な父親マニフィコ役のデ・シモーネ、偽王子を満喫する従者ダンディーニのカンディアは歌に加えて、コミカルな身振り手振りやステップをこなし、日本語を交えるなど小技も効かせた喜劇役者ぶりが素晴らしかった。いじわるな姉の幸田浩子さんも、人形のような卒倒ぶりが可憐。それぞれ個人技だけでなく、スタッカートや早口を駆使した驚異的に難しそうなアンサンブルも、たっぷり聞かせる。また演出ではシンプルななかにも、グロイスペッグのアリドーロの見せ場で、幕に大きく影が投影されるところが幻想的で素敵。

深く考えさせる作品や奇抜な演出もいいけれど、こういう音楽の底抜けの楽しさを満喫させてくれる舞台は、現場に足を運んで良かったーと文句なく思いますね!

新国立劇場「ロッシーニ:チェネレントラ」 はろるど・わーど
チェネレントラ Enoの音楽日記

桜姫

清玄阿闍梨改始於南米版「桜姫」 09年6月

シアターコクーン。鶴屋南北の「桜姫東文章」を、舞台を南米に置き換えた現代劇。長塚圭史脚本、串田和美演出。2階席で1万2000円。客層はかなり幅広い。

セットはほとんど無くてシンプルだけれど、舞台を取り囲むように動く客席や、いろいろな形の複数のセリ、空中を横切る小さい列車、ごみを吹き飛ばす風など、随所に散りばめられた立体的な仕掛けが面白い。アクシデントだと思うけど、墓守など狂言回し役の笹野高史が冒頭でちょっと躓いたり、セリフに小ネタが散りばめられていたり、けっこうリラックスした感じ。

実は本家の歌舞伎版を観たことがないのだけれど、パンフを読むと若い桜姫の許されざる恋がかなりアナーキー。桜姫改めマリア役は大竹しのぶなので、どれほどどろどろして迫力があるか、と想像していた。しかしマリアは意外と淡々とした印象。むしろ白井晃の聖職者セルゲイと、中村勘三郎のワルの革命家ゴンザレスという二人の対照的な男の、善悪、清濁が対立しつつ、だんだん判別できなくなっていく不条理さが前面に出ていた。特に亡くなった心中相手とマリアを重ねて見てしまうセルゲイの二面性が複雑。

もっとも、そういう業の深さという点では、悪党ココージオの古田新太、イヴァの秋山菜津子の方が伸び伸び表現していたかな。ルカの井之上隆志も重みがあって良かった。

桜姫〜清玄阿闍梨改始於南米版 in シアターコクーン・最も輝いた者が主演だ 風知草

NINAGAWA十二夜

NINAGAWA十二夜 09年6月

新橋演舞場、1Fの中央で。1万5000円。今井豊茂脚本、蜷川幸雄演出。シェークスピア劇を歌舞伎に置き換えた本作。私は2007年の再演を観ているが、今回はロンドン・バービカンシアターでの上演を経た凱旋公演版だ。

客席を映し出す巨大な鏡や、透ける幕を使った演出の美しさは、前回の印象通り。主膳之助、琵琶姫二役を演じる尾上菊之助さんは、声がよく通り、存在感を増した感じがした。男と女の演じ分けも鮮やかだ。
とはいえ前回に比べると、菊之助さんが2幕の冒頭でエビぞりをみせる優美な踊りのシーンとか、菊之助さん、菊五郎さんのたびたび早替わりとかの演出が与える驚きは、ややおとなしくなった気がした。ロンドン公演のために全体が2幕に刈り込まれ、テンポアップしたせいか。

ストーリー上の印象も、訳あって男装となっている琵琶姫と、中村時蔵演じる織笛姫を軸にした恋のドタバタのおかしみが、若干後退したかもしれない。
一方で、脇筋である3人の小悪党のコメディアンぶりに磨きがかかっていた。安藤英竹役の中村翫雀は英語を乱発するし、何より麻阿の市川亀治郎が凄い。表情の変化や細かい身振りなど、一時も目を離せない堂に入った悪女ぶり。なにしろパンフレットを読むと、人物造形では傑作ミュージカル「シカゴ」などを参考にしたというのだから、そりゃあ一筋縄ではいかないはずだ。小悪党たちのインパクトによって、「本当に賢い人なんていない」というシニカルさがよく伝わってきた。

ちなみに上演していた時期、蜷川さんは脳梗塞で倒れていた由、大事に至らなくて本当に良かったです…

『NINAGAWA二夜』凱旋公演の感想 六条亭の東屋
「NINAGAWA十二夜」を見る 芝居遊歴控

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