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文楽「寿式三番叟」「伊勢音頭恋寝刃」「日高川入相花王」

文楽公演第167回 第1部 09年5月

2週おいて、今度は大人気の1部に行った。国立劇場小劇場、1等席6500円。左後方でやや残念。11時開演。

まずは4月に大阪で観て、とても楽しかった「寿式三番叟」。今回は舞台後ろのひな壇に大夫、三味線がずらりと並ぶ演出。なんと9人。壮観だ。大阪では休演だった竹本綱大夫さんが元気に翁を語り、渋いです。なんといっても、鶴澤清治さん以下の三味線のリズムの一体感、どんどん速くなる盛り上がりが心地良い。なんてロック。一緒に歌いたいくらいだ。そして桐竹勘十郎、吉田玉女コンビの三番叟の、きびきびした踊り、足を踏み鳴らす音が圧巻。3人で遣っているのが信じられません。それにしても勘十郎さん、乗りすぎ?

30分の休憩を挟み、豪華配役の「伊勢音頭恋寝刃(いせおんどこいのねたば)」。人間関係が複雑な「古市油屋の段」で、キング竹本住大夫さんが登場。怪我はだいぶ回復なさった様子。コミカルなあたりが、さすがにうまくて、正統関西弁が最強だ。特に吉田蓑助が遣う仲居の万野との組み合わせ! 登場の「お紺さ~ん」という呼び声からして、なんと意地悪なことか。それから万野は貢をからかって追いつめてしまうんだけど、蓑助さんが遣うと万野の上目遣いに迫るシーンも何故かチャーミング。手にしている団扇が妙に大きいし、脇にさがって座っているシーンでも目立たず小さく演技しているんですよ。そして、複雑な境遇の女郎お紺は吉田文雀さんが丁寧に遣ってました。
で、刀のすり替えがあって、難解なストーリーかな、と思っていたら、舞台が転換。「奥庭十人斬りの段」になると、理屈はある意味、どうでも良くなってしまうのが文楽の不思議なところ。名刀を取り返そうとする吉田玉女さんの貢が、逆上して遊女らを斬りまくる。凄惨なんだけど、竹本津駒大夫さん、鶴澤寛治さんが明朗で、人形の演出もちょっとコミカルなんですよ。面白いなー。

短い休憩の後、個人的に楽しみにしていた「日高川入相花王(ひだかがわいりあいざくら)」。導入部分の「真那古庄司館の段」で豊竹咲大夫さんが、清姫が嫉妬に取り付かれていく経緯を丁寧に聴かせます。剛寂僧都が鏡で蛇をみせたり、しつこく焚きつけて暗示にかけてしまうあたりに納得。
そして「渡し場の段」。途中から大夫5人、三味線も鶴澤寛太郎さん含め5人で盛り上がる。桐竹紋寿さんが娘清姫の激しい動きで大奮闘。暗い河岸での渡し守とのやりとり、行きつ戻りつする姿、そしてついにガブでの大変身。大がかりに舞台装置が転じ、布で表した河を泳ぎながら、引き抜きで白く輝く蛇の姿に変じる。ここは魔法のように変わるのではなく、人形を持ち替える感じがわかって、それはそれで面白かった。人間の姿に戻り、たどり着いた岸の柳に取りすがったところで、さらにぱあっと背景が変わって遠景に桜が咲き乱れる。その狂気。いやー、凄い話でした。また来よおっと。

文楽へ 1部鑑賞 散歩の途中
09年5月国立劇場 第167回文楽公演「第1部」 ピ吉の鑑賞日記
文楽・東京公演『伊勢音頭恋寝刃』『ひらかな盛衰記』ほか 西新宿で健気に働く元編集チョの日記

文楽 ひらかな盛衰記

文楽公演 第167回 第2部 09年5月

国立劇場小劇場、右後方の1等席6500円。4時開演。

満員御礼の初日に、20年ぶりという二段目、四段目の半通しを観る。鶴澤清志郎さんに三味線解説を伺った後、その清志郎さんと豊竹松香大夫さんで「梶原館の段」。続いて豊竹呂勢大夫さんで「先陣問答の段」、竹本千歳大夫さんで「源太勘当の段」。ここまでで吉田和生さんが遣う源太が勘当に至る事情、吉田玉也さんの延寿が示す母心などが語られる。梶原平三景時の館でのやりとりが続き、全体に地味な印象。

25分の休憩後、豊竹英大夫さんで「辻法印の段」。がらりと雰囲気が変わる「チャリ場」で、義経とともに一ノ谷の合戦に馳せ参じたい源太が、情けない法印に無理矢理、弁慶のふりをさせ、近隣の民をごまかして兵糧米をせしめる。上演は珍しい段ということだけど、ユーモアたっぷりで大夫さんのテンポが良く、人形もツメに至るまで伸び伸びした感じで、とても楽しめた。客席もよく沸いてましたね。ツレ三味線で若手の豊澤龍爾さんがちょっとだけ登場。

10分の休憩があって、いよいよ「神崎揚屋の段」。初役だというベテラン豊竹嶋大夫さんが、渋い声なんだけど、手を振ったり伸び上がったりして、かなりの熱演です。二段目の腰元千鳥の時は控えめだった桐竹勘十郎さんの梅ケ枝が、やっぱり控えめなままでは終わらず、華やかな傾城姿で登場。後半、髪を振り乱し、思いあまって手水鉢を叩こうとするあたり、大夫さんと四つに組み、気合いが入って見応えたっぷり。それにしても、色男の源太が、十分つくしている梅ケ枝に対してさらに我が儘を言ったり、梅ケ枝のほうも源太のためにとにかくお金が欲しいと口走ったり、なかなか下世話で、現代に通じるストーリーだなあ。
最後は「奥座敷の段」。豊竹咲甫大夫さんが、いつも通りよく通る聞きやすい声で語ってくれました。豊竹清十郎さんが遣うお筆が現れ、父の敵と詰め寄られて窮地に陥る源太。しかし延寿が覚悟を示したことで、文楽の時代物には珍しく凄惨な自己犠牲は避けられ、ハッピーエンドとなる。

今回は渋めの演目で、三味線に注目したいと思ったけど、やっぱり始まると大夫の声や人形の動きに、耳と目が奪われてしまいます。まだまだですねー。

 文楽五月公演 第二部  観劇・感激・KANGEKI
5月公演2部(10日) DancingLivingDollsぶんらくはおもしろい

ユニコーンツアー2009

ユニコーンツアー2009 蘇る勤労の日々 09年5月

久々にテレビで観てなんかいいな、と思ってしまったユニコーン16年ぶりのツアーに行ってみた。さいたまスーパーアリーナのスタンド左端。ステージは遠いながら動きがよく見え、細かいところはオペラグラスでチェックしました。7000円。

バンドブーム時代から最近の奥田民生ファンまでなのか、聴衆の年齢層は親子連れを含め幅広い。男女比は半々か、女性がちょっと多い感じ。全体に楽そうな格好は共通。アリーナは1曲目からずっと立ちっぱなしで、上から見ると前方で揃いのつなぎの男性グループがもの凄く踊ってるのが目立ってました。

ライブは紗幕の後ろのシルエットで「ひまわり」を歌いだし、盛り上がるところでどーんと格好良く登場。メンバーは揃いの真っ赤なつなぎ。それから2時間半、アルバム「シャンブル」の曲を中心に、5人だけでギターを交換しながらがんがん演奏しまくる。メンバーが入れ替わり立ち替わり前に出て、ボーカルやラップを担当し、その間、交代でドラムやキーボードもこなす。リズムがしっかり響いて、期待通りバンドらしいバンド!という感じで気持ち良かったー。
個人的に洒落てるな、と感じたのは「自転車泥棒」のキーボード。そして民生がカウベルを構えて始まる「WAO!」では、テッシーのギターで大盛り上がり。演出はほとんど照明だけながら、演奏する5人のアップが前方のスクリーンに並ぶと、とても格好良い。スケールの大きい「HELLO」に感動。

MCは案外控えめだったけれど、アンコールで横山やすしスタイルで登場した後、阿部Bが「ピカチュウスタイル」に変わって手裏剣を投げたり、下ネタに反応した客席に下りたりの脱線ぶりで、楽しませました。2度目のアンコールでは、ユニクロ風のシンプルなTシャツに着替え、名曲「開店休業」で渋く締めました。あー、楽しかった。

以下、曲目です。

1. ひまわり
2. スカイハイ
3. スターな男
4. ボルボレロ
5. 働く男
6. 水の戯れ~ランチャのテーマ~
7. オッサンマーチ
8. キミトデカケタ
9. ロック幸せ
10. AUTUMN LEAVES
11. 自転車泥棒
12. ザギンデビュー
13. PTA ~光のネットワーク~
14. WAO!
15. BLACKTIGER
16. R&R IS NO DEAD
17. サラウンド
18. 大迷惑
19. ヒゲとボイン
20. 車も電話もないけれど
21. HELLO
22. 人生は上々だ~忍者ロック~人生は上々だ
23. 開店休業

開演前と終演後に、訃報が届いたばかりの清志郎の曲が流れ、切なくなった。そういえば去年行ったコンサートは武道館の復活ライブだった。ユニコーンはあえて言及しなかったけど、聴衆が静かな拍手を送ってました。うう…

ユニコーンツアー2009 miminarism

文楽「義経千本桜」 

国立文楽劇場 第114回公演=開場25周年記念 09年4月

初めての本場、国立文楽劇場に二日がかりで繰り出した。1日目は第二部で、前のほう9列左寄り。2日目に第一部で、通路を前にした10列の床に近い席。いずれも1等席5800円。今回の目的は、大阪で文楽を観るということと、「通し」というものを経験すること。

まず午後4時から、通し狂言「義経千本桜」の後半。1Fの展示を眺め、レストランで夕食を予約してから場内へ。歌舞伎座などよりゆったりしている。観客は若いカップルもいて幅広い。楽しみにしていた桐竹勘十郎さんの記念スタンプをパンフレットに捺す。始まる前から盛り上がるなあ。

三段目「椎の木の段」では人形が皆、黒子姿で登場し、椎の実をちまちま拾う姿がユーモラスだ。「小金吾討死の段」で幸助さんが登場するも、すぐに死んでしまってちょっと残念。内侍の豊竹つばさ大夫さんが、歯切れが良くて良い感じ。

休憩後、「すしやの段」でお待ちかねキング竹本住大夫さん登場。最近、転んで顔を打たれたらしく、痛々しいお姿で、こころなしか声も元気がないような。でも味わい深さは、さすがです。吉田蓑助さんが遣う娘お里が、やることなすこと、お茶目でなんとも可愛らしい。悲劇が高まる奥では、竹本千歳大夫さんがいつも通りの熱演。まさに滅びの美学というか、庶民であるいがみの権太の、一世一代の自己犠牲も、梶原景時、その裏にいて姿は見せない権力者、頼朝の深謀遠慮には勝てないというあたり、なんとも切ないお話だ。

四段目はがらりと雰囲気が変わり、満開の桜が華やかな「道行初音旅」。振れ幅の大きさに圧倒される。鶴澤寛治さんのリードで旅する、蓑助さんの静御前と勘十郎さんの忠信が美しい。人形も床も衣装が派手でサービス精神たっぷりだし、扇を投げるシーンも決まってましたね。
最後は「河連法眼館の段」で、豊竹嶋大夫さんが締める。心ならずも兄と対立してしまった義経の悲しさ。そして何といっても、勘十郎さんが縦横無尽の大活躍で、忠信と狐のたびたびの早変わり、鼓や木の陰からの飛び出しなど、目が離せない。最後は大がかりな場面転換があり、なんと圧巻の宙乗りで、上空から桜の花びらを撒き散らしてました。口あんぐり! 格好いいなあ。

二日目に11時から第一部を鑑賞。まず開場25周年の「寿式三番叟」。すがすがしい能舞台のしつらえで、なんと大夫がずらり7人も登場。竹本綱大夫さんが病気休演で、豊竹呂勢大夫さんが翁を語る。手前に三味線も同じく7人。これがすごく楽しかった! 席が床に近かったせいか、鶴澤清治さん筆頭に7人のリズムが響いてきて、のりのり。もちろん人形の三番叟、ユーモラスで弾けるような動きの勘十郎さんと、端正な玉女さんのコンビも明るくて気持ちが良かった。

休憩のあと、「義経千本桜」初段の切から。「堀川御所の段」は義経と川越太郎の行き詰まるやりとり、卿の君の自己犠牲と、またまた強引かつドラマチックな展開。それにつけても弁慶があきれるほど短絡的で、このへんは勧進帳などの造形と違っていて面白い。
二段目「伏見稲荷の段」では、勘十郎さんが早くも忠信で狐の仕草をしており、昨日観た後半とのつながりがよくわかった。

そしていよいよ「渡海屋・大物浦の段」。能の「船弁慶」に似た設定だけど、こちらは平知盛が亡霊ではなく生きて潜伏していて、義経一行を狙うというスリリングなストーリー。豊竹咲甫大夫さんがなかなか明朗に語り、最後は切場語りに昇格した豊竹咲大夫さんがしっかり締めます。
お話は、やはり滅びの美学という印象が強く、吉田文雀さんの典侍局が覚悟を決め、幼いながらも賢い安徳天皇を抱いてしずしずと海に向かうシーンがなんとも哀しい。敵であっても助けるべきは助ける、という義経の英断が、わずかな救いを感じさせる。昨日に負けず劣らず場面転換が大がかりで、特に海の場面が雄大。ラストで玉女さんの知盛が、大碇の綱を体に巻き付けて後ろへばったりと倒れ込むと、客席は大拍手でした。

いやー、観どころ聴きどころが満載。さすがに少々くたびれたけど、文楽三昧で満喫しました。

4月文楽公演 歌季句気呼
4月文楽公演 別無工夫

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