« 2009年3月 | トップページ | 2009年5月 »

その男

その男 09年4月

東京芸術劇場中ホール、S席1万1000円。前から3列目左側で舞台が目の前でした。初めての劇場だったが、ロビーがガラス張りで明るく、席もゆったりしていていい感じ。

お話は池波正太郎原作の時代劇。激動の幕末を中心に最後は2・26事件まで、主役になれない焦燥を抱えつつ、歴史の目撃者として生きる男の生涯を描く。鈴木聡脚本、ラサール石井演出。客席は主演の上川さんファンらしい女性が圧倒的で、各幕の登場シーンでは必ず拍手がくるのにびっくり。笑えるシーンも多く、大衆演劇の雰囲気。
休憩2回をはさんで3時間45分ほどと、結構長かった。平凡に生きることの、本当の強さを描くストーリーは大人っぽく味わい深いものだけれど、あまり緊張しないで、テレビドラマを観るような気楽さを感じた。木のセットを動かして、頻繁に場面転換する構成のせいか。

上川隆也は舞台袖の小さい花道に来ても顔がびっくりするほど小さく、声がよく通って、やっぱり圧倒的に格好いい。ひとりだけ、いつも目がきらきらしているし。爽やかすぎるくらいかな。それから加藤照男さんを中心に、殺陣の迫力を間近に観たのが収穫。
キムラ緑子、平幹二朗はさすがの貫禄。ユーモラスな池田成志さんは、薩摩弁が大変そうで、ちょっと噛んで笑いかけるシーンもあったけど、演技のやや大仰なところが舞台らしかったかも。内山理名が案外、無理なくはまっていた。

ワルキューレ

ワルキューレ 2009年4月

新国立劇場オペラハウス。S席1階の左端でかなりいい席。トーキョー・リング4部作の二日目は、なんと45分、35分の休憩をはさみ、3幕でほぼ5時間半の超長丁場。でも大迫力で、飽きさせない舞台でした。

「ラインの黄金」に続いてキース・ウォーナー演出。指揮のダン・エッティンガーは伸び上がって歌手に指示したり、忙しい。東京フィルは例によってピットにぎっしりだ。分厚い音の固まりを満喫。

ジークリンデとジークムントが一瞬にして禁断の恋に落ちる1幕は、巨大なテーブルと椅子が部屋を満たし、大小のバランス感覚が崩れるところが面白い。ジークリンデのマルティーナ・セラフィンが、深い声で圧倒的。ジークムントのエンドリック・ヴォトリッヒは声量がいまいちだけれど、そこが繊細で、個人的には悪くなかったな。トネリコの樹を表す赤い矢印はともかく、恋の訪れによって小さい緑の矢印が床から生えてきたのには、びっくり。

2幕は支配欲にとりつかれたヴォータンと、愛の救済を求めるブリュンヒルデとの父娘の葛藤。延々と語るヴォータンのユッカ・ラジライネンが、「ラインの黄金」のときより堂々とした印象で、拍手。ブリュンヒルデのユディット・ネーメットも安定していた。傾斜した床が不安感をかきたて、おもちゃの木馬や映写機など、思わせぶりの小道具もたっぷり。照明は歌手にスポットをあてたり、わざと影を作ったりしていて、うまい。後半、また天井から出現した矢印が登場人物を指し示す動きが面白く、活劇風でメリハリがあった。

そしてやっぱり、見どころは3幕! 「ワルキューレの騎行」からはじまって、著名な旋律が惹起する興奮と感動に身を任せ続ける感じ。特にジークフリートの誕生の示唆が感動的。
演出では、病院の廊下のような白い空間に、赤い非常灯が鮮やかで、騒々しいワルキューレたちの右往左往や、ヴォータンが怒りにまかせてストレッチャーを滑らす動きなどが、緊張感を盛り上げる。装置が大転換して、白い廊下がありえないほど遠のき、巨大な木馬が現れると、父娘が別れる怒濤のクライマックス。いったん幕が下りて炎をかたどった文字が流れ、再び開くと、最後に本物の火がベッドを取り囲む。このシーンは、知っていてものけぞりましたね。

それにしても、ヴォータンが権力を求めつつ、結局挫折していくところが皮肉だなあ。歓声も多く、満足の舞台でした。(2009・4)

 新国立劇場「ワルキューレ」(1回目) ~ 練り上げた照明演出が効果満点  ペラゴロのオペラ日記

歌舞伎「彦山権現誓助剣」「廓文章」「曾根崎心中」

歌舞伎座さよなら公演四月大歌舞伎 09年4月

4時半からの夜の部を観る。1階中央付近の席。1万6000円。ご年配を中心に、満員のようだった。

豊前、大阪を舞台にした3演目で、全体にユーモアが効いた、大人の舞台という印象をもった。まずは「彦山権現誓助剣」の九段目「毛谷村」。吉右衛門さんの剛毅な六助に、福助さんのお園がとてもチャーミング。子どもを抱えて取り落としたり、立ち回りをしながら口説きを語ったり。

休憩を挟んで「廓文章」の「吉田屋」は、まさに絵になる一幕。仁左衛門さんの伊左衛門は、白塗りたっぷり下がり眉で、滑稽かつ上品だ。広い座敷をちょこちょこ走り。そして玉三郎さんの夕霧は登場シーンが圧巻。あえて表情を抑制している感じで、美しさが際立ち、衣装もため息が出ました。

最後にお待ちかね「曾根崎心中」。藤十郎さんのお初は、決して賢くはないし、幼い。だからこそ、突っ走る。そういう切なさが、溢れている。圧倒的な悲恋物語だけれども、それだけではなく、寿治郎さんのお玉ら、脇それぞれのキャラクターも際立っている。そして余韻を残す幕切れ。あー、堪能しました。

« 2009年3月 | トップページ | 2009年5月 »