« 2008年11月 | トップページ | 2009年2月 »

2008年喝采づくし

2008年は夫婦して、かつてなく熱心に舞台に足を運びました。もう、喝采漬けの日々。特に文楽デビューを果たし、文楽、能狂言、歌舞伎、落語のリンケージをかいま見たこと、そしてオペラと並んでオーケストラコンサートを体験したことが、至福でしたねー。ちょとまとめ。

クラシックは何といってもムーティ! ウイーン国立歌劇場「コシ・ファン・トゥッテ」(10月)と、ウイーンフィル(9月)が甘美で夢見るようでした。オペラは新国立劇場「アイーダ」(3月)、ゲルギエフ指揮のマリインスキーオペラ「イーゴリ公」(2月)も大迫力だったなあ。
デビューした文楽は計3回行きましたが、やっぱり国立劇場文楽公演9月。豊松清十郎襲名披露で豪華な顔ぶれ。80歳を過ぎた竹本住大夫さんの人間力が凄い! 桐竹勘十郎さんも格好いいし。これは奥深い予感。
歌舞伎は平成中村座。コクーンの「夏祭浪花鑑」(6月)が、これでもかというサービス精神で、楽しませてくれました。京都南座の顔見世(12月)まで足を伸ばし、充実しました。
忘れちゃならない落語は、立川談春独演会(12月)。08年に「赤めだか」でもブレイクした古典本格派! 憧れの談志さんも見ることができたし、志の輔さんも知的で工夫満載で好きだけど、談春さんにはリアルな人間描写の凄みがある。楽しみですねえ。
演劇は岩松了「羊の兵隊」(7月)。初めて本多劇場に行きました。中村獅童さんが存在感あったなあ。あ、この人も歌舞伎だな。三谷幸喜「グッドナイト スリイプタイト」(11月)はお洒落で、安心して楽しめました。
コンサートは武道館「忌野清志郎完全復活祭」(2月)ではじけた。復活の感慨にひたったのもつかの間、7月にガンの転移を発表して再び治療に専念している。再復活を祈るばかり。
変わり種でシルク・ドゥ・ソレイユにも行きましたね。ディズニーリゾートの常設劇場で「ZED」(10月)。無重力かのようなパフォーマンスの驚きと、衣装や照明の美しさとの調和が素晴らしかった。

オペラに続いて文楽を知り、何か抜け出しがたい世界に足を踏み入れた気がしていますが、まあ、09年も楽しみたいです!

顔見世「傾城反魂香」「大石最後の一日」「信濃路紅葉鬼揃」

當る丑歳吉例顔見世興行 東西合同大歌舞伎 08年12月

京都・南座。2階の4列。1等2万5000円。

顔見世というものを観てみたくて、やっと手に入ったチケットを握り、なんと京都まで行っちゃいました。「まねき」があがった南座の様子には、やっぱり浮き浮き。席はかなり狭いけれど、ロビーにご贔屓からの「竹馬」がずらりと並んで、それらしい雰囲気を味わう。

夜の部は、まず4時15分から5時40分まで「傾城反魂香」。冒頭ちょっと眠かったけど、中村翫雀の又平はいかにも上方喜劇という印象。前半の名字へのこだわりや死の覚悟を示すところ、後半の、絵の奇跡が認められて浮き浮きするコミカルなところまで、すべてがネッチリしている。それに比べると、坂田藤十郎の女房おとくは案外控えめだった。親子で夫婦役というのも歌舞伎ならではですねえ。

30分の幕間の後、「大石最後の一日」を7時半まで。うって変わって、犠牲と初志貫徹の、理屈が先に立つセリフ劇。中村吉右衛門の大石が、腹のさぐり合いというか、重厚ですべてお見通しという感じの人物像をたっぷり見せる。純粋な磯貝とおみのの秘めた恋に、客席は本気ですすり泣き。

15分の幕間があって、「信濃路紅葉鬼揃」。昨年初演したという舞踏劇。松羽目に紅葉をちらした背景、正面に長唄、三味線、太鼓、笛が並び、右下の「床」に浄瑠璃と三味線がいて掛け合うという、何でもありの面白い構成だ。
役者も能装束に、面のような無表情で登場する。鬼女、玉三郎と侍女たちのきらびやかな衣装、微妙にリズミカルな踊りが美しくて、まず目を奪われる。伴奏が浄瑠璃に替わり、平惟茂の海老蔵が花道を歩いてくると、客席の雰囲気が一変して、女性が皆、身を乗り出す感じ。さすがスター! お酒を勧められて寝こけてしまうところが初々しい。
鬼女が一時いなくなる間、花道のスッポンから片岡仁左衛門の山神が太刀を持って駆けつけ、ひとしきり踊って退場。このあたりから歌舞伎らしい、きびきびした動きになってくる。そしていよいよ再登場した鬼たちが、恐ろしい隈取りで正体を現し、連獅子のように髪を振り回して、一同大拍手。笛や太鼓が激しく鳴り響き、最後はまるで絵画のように、玉三郎が口を開けてポーズを決めて幕となる。これは相当盛り上がりました。

ここであと1演目残し、残念ながら新幹線で帰京。それでも役者が揃い、演目にも変化があって、サービス満点の舞台でしたね。満足。

京都南座の顔見世 その3  おとらのブログ
狩衣 きままに写楽

038

立川談春独演会 「大工調べ」「文七元結」

立川談春独演会 08年12月

読売ホール。二階F列。3500円。

「赤めだか」を読み、楽しみにしていた独演会。この日はまず「大工調べ」。棟梁と与太郎が大家のところへ怒鳴り込むくだりまで。与太郎の駄目さ加減のおかしさと共に、談春さん自身も何か別のことを考えながら話しているような、奇妙な感じがある。しかし、棟梁と大家が売り言葉に買い言葉で、互いに怒りがふつふつとわき上がるシーンが、もの凄くリアルで、見ていて怖くなるほど。やっぱりたいした演技力だなあ。立て板に水の、江戸っ子啖呵も聞かせます。

談春さんが引っ込むと、メクリにスペシャルゲスト、月亭可朝さんの名が出て、会場がどよめくなか、カンカン帽でご本人登場。「世帯念仏」だけど、ストーカー容疑で略式命令を受けた話が長くなり、漫談調。その後、談春さんが加わって対談になる。この顔合わせだけに、当然のごとくギャンブルの話題。可朝さんは「芸の肥やし」になるなどという都合のいい解釈は真っ向から否定、「とにかくこれほど面白いモノはない、薬物以上だ」、とどんどん危ない方向に流れていく。可朝さんの強烈なキャラクターと、それをかわしつつ受け止める談春さんが立川流らしくて、面白すぎ。

中入り後、お待ちかね年末らしい「文七元結」。前半の「大工調べ」に続いて、駄目なやつなんだけど腕はいい職人のお話ですね。もちろん人情話なんだけど、佐野槌(さのづち)の女将と番頭さんの造形が秀逸。決して日向の存在でない人物の怪しさ、凄みが真に迫っている。緩急のめりはりがうまいのかなあ。見せ場の長兵衛が文七に五十両あげちゃうところも、単に逡巡するというより、せっかく腕があるのに真面目に働かずにきた自分に自分で腹を立てる、もどかしいような複雑な心理が、なんとも切ない。

帰って志ん朝さんのDVDで、同じ演目を観たら、結構あっさりした味わい。談春さんはこってりしているのが、持ち味ですねー。笑って泣いて手締めをして、堪能しました!(2008・12)Photo_2

 お他人様の子でも救ったって 昔の江戸っ子はえれえなあ 立川談春 独演会〈読売ホール)  梟通信
読売ホールにて立川談春独演会を見る   余計な日常・余計なもの思い

文楽「源平布引滝」

第165回 文楽公演 08年12月

国立劇場小劇場。15列。5700円。

12月は中堅若手が出演とのことで、プログラムに顔写真入りの紹介がなく、ちょっと驚いた。大夫さんも、前半はちょっと初々しい印象。鑑賞3回目の私がいうことじゃありませんが。

演目は「源平布引滝」。午後2時スタートで休憩をはさみつつ、6時まで一つの演目。たぶん観客は「源平盛衰記」とか「平家物語」を知っている、という前提で伏線を張っており、人間関係も複雑なので、たっぷり観た、という感じがする。
内容は木曽義仲の誕生秘話。平治の乱に破れて源氏が劣勢になっている時期に、象徴である白旗を守るべく、腕を切り落とすとか、首を落とすとか、壮絶で血なまぐさい場面が展開します。人形だから綺麗なのだけど、なかなかどうして、手に力が入る。

まず昭和45年以来の再演という2段目「義賢館」。桐竹勘十郎さんの義賢が、すごく二枚目です。出だしは療養中を装う地味な外見で、横暴な平氏の使者の言動にぐっと耐えている。それでも怒りがわきあがり、結局大暴れ。吉田幸助さんの進野次郎宗政が背後に迫ったところを、なんと我が身もろとも刀で突き刺しちゃう。長身の幸助さん、よく勘十郎さんの左を遣っているとかで、呼吸がいいのかも。それから妻子を逃がし、自分は階段上でばったり倒れる、というスピード感ある展開。いやー、盛り上がります。

続く「矢橋の段」「竹生島遊覧の段」は琵琶湖の湖畔と、船の上という、美しく解放感があるシーン。小まんが白旗を守って、追っ手を次々投げ飛ばす大活躍で、観客も大喜び。行綱の妻とはいえ、百姓の娘なのに随分頑張るなあ、とちょっと疑問なのだけど、この後、出生の秘密が明かされて納得するのでした。

最後に「九郎助内の段」。吉田玉女さんの斎藤実盛が、平氏方だけど源氏にシンパシーを持っていて、義仲親子を守るという、複雑で胆力のある役で格好いい。特に最後の颯爽と馬にまたがるあたり。若い吉田蓑紫郎さんの太郎吉が真似をして、綿繰り道具にまたがる図柄も微笑ましい。この段では入れ替わり立ち替わり4人の大夫さんが登場。最後のお二人のうち、竹本千歳大夫さんはいつものように熱演。豊竹咲甫大夫さんが、声が通って気持ちよかったです。
いやー、楽しみました。

源平布引滝 ~色っぽいぜ義賢~ 観劇値千金

表裏源内蛙合戦

表裏源内蛙合戦 08年11月

井上ひさし作、蜷川幸雄演出、朝比奈尚行音楽。シアターコクーンの1階C列。9500円。

江戸の奇人、平賀源内の生涯をコミカルに綴る音楽劇。というくらいの事前情報だけで足を運んだんだけど、いやー、観劇慣れしてない身にはきつかった。エロいし、露悪的だし。
初演は1970年のテアトル・エコーこけら落とし公演。時代の雰囲気というのも背景にあるのかな。NHKドラマ「天下御免」(71年)より前だから、源内を取り上げたこと自体、斬新だったのでは。そして無能で横暴な為政者、天才を理解しない残酷で、したたかな大衆(鏡に観客が映し出されます)、といったものが、赤裸々に描かれる。70歳過ぎて、こういう舞台を作っちゃう演出家って、やっぱりただ者じゃない。

音楽が洒落ていて、長崎の歌とかが楽しかった。字幕に歌詞が出るので、観ているほうは結構忙しいけど。源内の上川隆也が、お芝居も歌もうまくてびっくり。声が通り、華もあって、劇場全体を大きく掌握する感じ。源内のもう一人の人格を演じる勝村政信は、小技が効いているというか、観客ひとりひとりをターゲットにしている印象。苦笑いしながら演じる、ちょっと崩れた雰囲気が、演目に合っていたかも。それから高岡早紀が、顔が小さくて綺麗だったな。あと茂手木桜子という女優さんが、振り切れすぎてて驚愕。

休憩をはさんでなんと4時間。同じ俳優がいろんな役を演じたり、まあ、とにかく凄いエネルギーでした。

「表裏源内蛙合戦」観劇 Re

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団来日公演

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団来日公演 08年11月

指揮サイモン・ラトル。サントリーホール。1階13列の真ん中あたり。

ぎりぎり間に合って、最初から聴けてラッキー。まずハイドン交響曲第92番「オックスフォード」。少人数の編成で、繊細。先日のウィーンフィルより手堅くて、ふくよかな印象でしょうか。
それからマーラーのリュッケルトの詩による5つの歌。メゾ・ソプラノはチェコ出身の情熱的なマグダレナ・コジェナー。声の響きに、「われらが歌う時」を思い出しちゃった。
休憩をはさんでベートーヴェン交響曲第6番「田園」。さえずる管楽器が素敵。やっぱり音楽は生に限る、と当たり前のことを考えました。いやー、今年はクラシックもずいぶん楽しませて頂き、幸せ者です。

サイモン・ラトルとベルリン・フィル Ad Maiorem Dei Gloriam

グッドナイト スリイプタイト

グッドナイト スリイプタイト  08年11月

三谷幸喜作・演出。中井貴一、戸田恵子の二人芝居。パルコ劇場のG列。9000円。

どこにでもいる夫婦の、出会いと別れを描くコメディ。装置はシンプル。小さい回り舞台と、二人の心の距離感に合わせてくっついたり離れたりするツインベッドだけ。あと、変なペットも登場するけど。

テーマは夫婦という、いわば最小単位の人間関係。あえて、その心模様に絞り込んだ、非常に「小さい」物語だ。だからこそ、きめ細かい伏線が光る。ちょっと計算され過ぎぐらいだけど。互いに相手を大事にして、あきらめたものがあった、でも、全うできなかった、って感じがすごく切なかった。

主役は30年という時の流れなのかもしれない。舞台上で暗転の間に着替えたりして大活躍の中井貴一が、ちゃんと若々しく見えたり、老けて見えたりする。うまいなあ、と関心。小道具の転換も多くて、ややこしそうなお芝居なのに。まあ、頼りなさ、危うさはちょっと足りないかな。

効果音もこなしちゃう荻野清子さんらのバンドがおしゃれ。楽しかったです!Goodnight

「グッドナイト スリイプタイト」1回目 れいの心模様 

« 2008年11月 | トップページ | 2009年2月 »