東京ミッドタウン能狂言
第二回東京ミッドタウン能狂言 08年9月
東京タワーが見える六本木ミッドタウンの芝生広場に、2000近い椅子を並べ、スピーカーで聞かせる趣向。二日公演の第二夜で、第一夜が台風接近で中止になりはらはらしたが、この日はちょうどいい気候でラッキー。
個人的には「伝統芸能強化月間」で、文楽、歌舞伎ときてついに能狂言。昨年の薪能以来です。平らなところに席が並んでいるので、10列目でも舞台はいまひとつよく見えず、会場内であんみつを売っていたのにゴミ箱やトイレにはミッドタウンのビルまで歩く必要があって、やや不便。とはいえ野外とあって、虫の音を聞きながら非日常の雰囲気をゆったり味わえた。6000円。
7時開演で、まず喜多流舞囃子「高砂」。この夏、人間国宝に認定された68歳の友枝昭世(あきよ)が、紋付袴で面をつけずに舞う。
続いてお楽しみの和泉流狂言「棒縛」。太郎冠者に野村萬斎、次郎冠者に深田博治。共に40歳そこそこの二人に、ベテラン野村万之介が主で組む。たまたま先週観た赤坂大歌舞伎の舞踊のもとになった演目で、比較ができて興味深かった。内容は歌舞伎版よりシンプルで、その分、縛られたまま酒蔵の扉を開けたり、酒をくみ、酔って踊ったりする所作の面白さが際立っていた。飲みたい一心の二人のやりとりや、酒に映った主の顔に驚くあたりの「間」が絶妙で、客席から笑いが起こる。シンプルだけど、誰でも心当たるようなシチュエーションで、自分も含めた人間の愚かさを笑う感じが面白い。
20分の休憩を挟んで、喜多流能「船弁慶」。前場(まえば)静御前と後場(のちば)平知盛の霊だけが、シテとして面を着けており、塩津哲生(あきお)が演じた。涙に暮れ、後ろ髪ひかれ何度も振り返りつつ去る前場と、角のある恐ろしい姿で、無念に荒れ狂う後場という、変化が鮮やか。
義経は友枝雄太郎で、お父さんの友枝雄人(たけひと)が後見についていた。10歳ぐらいなのに1時間超でずっぱりで、「少しも騒がず」の決めせりふや刀を振るうシーンもこなしていた。偉いなあ。弁慶は人間国宝、宝生閑(かん)。74歳ぐらいだけど、重みがありつつ、きびきびしていて、とても良かったと思う。石田幸雄の船頭の「波波波」というセリフが、狂言役者らしくリズミカルで、ちょっと笑ってしまう。高砂の友枝昭世も地頭で加わり、豪華な舞台。お能がわかるとは、まだ全然言えないけれど、楽しかったです。(2008・9)
台風の中日,爽風の夜 第2回東京ミッドタウン能狂言 1974年のブルース