星の降る時

パルコ・プロデュース2025 星の降る時  2025年5月

英国ベス・スティールの2023年初演作を栗山民也演出で。さびれた炭鉱町マンスフィールドに住む、労働階級一家の1日。下世話であけすけな会話で、三人姉妹それぞれの確執、隠していた不実が無残に暴露されていく。家族というカオス。江口のりこはじめ充実の俳優陣は達者にしゃべりまくるけど、口調がずっとけんか腰で、休憩込み2時間半はくたびれた。小田島則子訳。PARCO劇場、すごく前のほう上手寄りで1万500円。

今日は甘えん坊の三女シルヴィア(三浦透子)とポーランド移民マレク(山崎大輝)の結婚式。長女ヘーゼル(江口)はわびしい倉庫勤務で一家を支えているものの、優しい夫ジョン(近藤公園)は失業中、父トニー(段田安則)は炭鉱夫気質が抜けず、成功した移民に拒否感を隠せない。叔母キャロル(秋山菜津子)が傍若無人にかき回しまくり、反抗期ぎみのヘーゼルの娘リアン(西田ひらり)が姿を消して大騒ぎするなか、実はジョンがよりによって、久々に帰った次女マギー(那須凜)をずっと口説いていたとわかり…

がんがん呑んだ宴会の後半、皆で踊り出すシーンがやけっぱちで印象的。終盤の舞台上の円とあいまって、逃れられない閉塞を思わせる。愚かで身も蓋もない日常に対し、照明が美しい。美術は松井るみ。
丸顔・色白の那須は、ヤンキーっぽさが役にはまって、色気もあっていい。秋山がまさかの飛び道具ぶりを発揮。いちいち口をだして、うざいんだけど、可愛げも漂う。今回ばかりは引き気味の段田は、宇宙の話でじんとさせる。ミュージカルが多いらしい山崎がはじけ、23歳のアイドル西田もけっこう達者。ほか叔父ピートに八十田勇一。

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ハビエル・カマレナ

ハビエル・カマレナ  2025年5月

21世紀の”キング・オブ・ハイC”日本初ソロコンサートと銘打った、メキシコ出身テノールの聴きに。メト・ライブビューイング映像「連隊の娘」のアンコールで知られる。2019年に聴いたフローレスのような煌びやかさとは違って、柔らかい声でごく普通に、するっと難曲を決めちゃう。よく入った東京オペラシティコンサートホール、表情がよく見える前の方下手寄りで1万8500円。休憩を挟み2時間強。

この日は前半に期待通り、「チェネレントラ」の超絶技巧のアジリタ、「連隊の娘」のハイC9回をたっぷり聴かせ、休憩を挟んで後半はお馴染み「ルチア」や「ウェルテル」のカヴァティーナを切々と。歌唱2曲ごとにオケ1曲の構成で、アンコール2曲は故郷メキシコの女性作曲家、そしてバスク生まれ作曲家のサルスエリから。
テノールというとあざとく押しまくるイメージだけれど、カマレナの表現はそのテクニックの割に素朴で含羞が漂って、むしろ拍子抜けするほど。お辞儀も丁寧。これからどんな役柄を歌っていくのかな。表情豊かな園田隆一郎の指揮、オケは東京フィルハーモニー交響楽団。クラリネットのアレッサンドロ・ベヴェラリも目立ってましたね。
ホワイエにはオペラ好きで知られる著名作家らの姿も。

1,エロルド「ザンパ」序曲
2,グノー「ロメオとジュリエット」より「ああ、太陽よ昇れ」
3,ドニゼッティ「ラ・ファヴォリート」より「王の愛妾?…あれほど清らかな天使」
4,ロッシーニ「セビーリャの理髪師」序曲
5,ロッシーニ「チェネレントラ」より「必ず彼女を見つけ出す」
6,ドニゼッティ「連隊の娘」より「ああ友よ!なんと楽しい日!」
7,ヴェルディ「運命の力」序曲
8,ヴェルディ「十字軍のロンバルディア人」より「彼女の美しい心に」
9,ドニゼッティ「ランメルモールのルチア」より「わが祖先の墓よ」
10,マスカーニ「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲
11,マスネ「ウェルテル」より「春風よ、なぜ目覚めさせるのか」
12,チレーア「アルルの女」より「フェデリーコの嘆き」
アンコール:
13,マリア・グレベール「私の愛しい人」
14,パブロ・ソロサバル「港の居酒屋」より「そんなことはありえない」

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文楽「芦屋道満大内鑑」「義経千本桜」

第231回文楽公演 第1部・第2部 2025年5月

今回の文楽東京公演は北千住で、狐つながりの1部・2部を続けて鑑賞。大阪万博イベントの関係で、人間国宝に加えて3月に日本芸術院会員になった桐竹勘十郎さんが、なんと2部の知盛、3部の俊寛を遣う大活躍。そのせいか満席で拍手も多く、大盛り上がりだ。観客同士で挨拶し合う姿が目立ち、文楽好きが集まっている印象。半日たっぷりは、さすがに疲れたけれど。THEATRE1010の、いずれも中段中央あたりのいい席で9000円。

1部は初代竹田出雲による1734年初演の「芦屋道満大内鑑」。朱雀帝の時代(900年代)、信太(しのだ、和泉市葛の葉町)の白狐が陰陽師・安倍晴明を産んだという「信太妻伝説」を描く。「子別れ」は2020年12月に観たけれど、今回は1984年に先代の鶴澤燕三が復曲した前段もたっぷりで、変化に富んでいた。休憩25分を挟んで3時間半。
まず加茂館の段が出るので、陰陽の秘書「金烏玉兎(きんうぎょくと)集」を奪い合う安倍保名(やすな)と芦屋道満の対立という物語の軸がわかる。床は豊竹靖太夫・鶴澤燕二郎がはきはきと。道満サイドの悪者・加茂の後室(堂々と吉田玉助)が秘書を盗んだうえ、継娘の榊の前(桐竹紋臣)と恋人・保名(端正な豊松清十郎)を陥れる。濡れ衣を晴らそうと、なんと榊の前が自害しちゃって、保名が我を失う悲劇。重苦しさから幕切れで一転、アクションになってびっくり! 悪事が露見し、保名の奴(家来)与勘平(吉田玉佳)が後室を成敗する。ド派手です。
続く保名物狂いの段は竹本織太夫、鶴澤藤蔵が朗々。出だし「恋よ恋、我中空になすな恋」の能に寄せた音楽性に、品格が漂う。清元「保名」の原曲だそうです。信田の杜をさまよう保名は、榊の前そっくりの妹、葛の葉姫(桐竹紋秀)と出会って惹かれ合う。芦屋サイドの石川悪右衛門(吉田蓑太郎)にいたぶられるものの、ふたりして阿倍野に落ちのびていく。保名が狩りから逃れた白狐(吉田勘彌)を助けるくだりに躍動感がある。

休憩後、眼目の葛の葉子別れの段は竹本千歳太夫、豊澤富助で迫力たっぷり。あれから6年、阿倍野で保名と機織りをする女房葛の葉(勘彌)、5歳の息子安倍童子(小柄な吉田玉延)がひっそり暮らす家へ、保名サイドの信田庄司(吉田玉輝)夫妻、娘・葛の葉姫が訪ねてくる。えっ、葛の葉が二人いる!と観客もおたつく面白さ。「…、か」と狐言葉を使っていた女房が、正体は白狐だと明かして白毛に変じ、我が子に別れを告げる哀しさ。障子に一首「恋しくば」が現われる展開が鮮やかだ。この狐を母にもつ童子こそ、後の阿倍晴明というわけで、虫を殺して遊んでいる設定がちょっと不気味。
幕切れはまた派手になる信田森二人奴の段。豊竹希太夫・鶴澤清友以下5丁5枚で賑やかに。葛の葉姫をつけ回す悪右衛門を与勘平が追い払うが、今度はそっくりの勘平が二人いる!となり、ひとりは狐の野干平(吉田玉勢)だとわかる。ふたりが肌脱ぎになって仁王さながら、駕籠を高々と持ち上げるアクションや、顔を見合わせ「おらがわれか」「われがおらか」とリズミカルにやりとりするのが痛快。左手が必要になり、3人遣いが考案されたシーンだそうです。泉州・葛葉稲荷の縁起、と語って幕となりました。

2部はお馴染み、3大狂言の「義経千本桜」。勘十郎さんがこの公演では1日だけ登場、しかも得意の狐ではなく碇知盛を演じて存在感を発揮する。10分の休憩2回を挟んで2時間半。
伏見稲荷の段で置いてけぼりの静御前(吉田簑二郎)と佐藤忠信実は源九郎狐(玉助がきめ細かく)が描かれ、短い休憩のあと渡海屋・大物浦の段へ。竹本小住太夫・鶴澤清志郎に説得力があり、豊竹芳穂太夫・野澤錦糸を挟んで、切は渋く竹本錣太夫・竹澤宗助。勘十郎さんがラスト、入水シーンを思い切りよく。男前で勇猛、それでいて切なく哀しく、白糸縅の鎧で自らを亡霊とするしかない宿命の人。義経に吉田玉志、弁慶に珍しく吉田簑紫郎、語りが長い女房おりう実は典侍局は吉田和生。
休憩があって〆は華やかに道行初音旅。悲壮感満載の大物浦から、舞台一面ぱあっと満開の桜に転じるのが爽快だ。豊竹呂勢太夫・鶴澤清治ら5丁5枚がリズムよく、鮮やかにホールを満たす。玉助さんが狐から忠信への裃を含めた早替わり、さらには静が後ろ向きに投げた扇をキャッチする「山越え」の見せ場を見事に。充実していました!

4月に勘十郎さんの孫の桐竹勘吉が技芸員となり、長男の簑太郎と3代揃い踏みでめでたい限り。ロビーには大阪の文楽劇場のお菓子も。
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陽気な幽霊

陽気な幽霊 2025年5月

英国の才人ノエル・カワードが戦時下の1941年に初演してヒット、1945年に「アラビアのロレンス」のデヴィッド・リーンが映画化し、2020年にも再映画化された大人のコメディを、寡作の熊林弘高がお洒落に演出。しょうもない作家チャールズ(田中圭)が若い妻ルース(門脇麦)と、病死した前妻エルヴィラの幽霊(若村麻由美)に挟まれて、散々に翻弄される。早船歌江子訳、ドラマターグは田丸一宏。
どうしても実生活の不倫騒動が重なっちゃうけど、田中はじめ俳優陣がみなチャーミングで、セリフの応酬も確か。笑いたっぷり、ドタバタのなかに、二度と会えない切なさ、それでも消えることのない大切な人への思いというものが、ジンと心に残る秀作だ。田中ファンが目立つシアタークリエの通路前、中央のいい席で1万2000円。休憩を挟んで3時間。

2階建てチャールズ邸のワンセットは、田舎の上流階級風(美術は二村周作)。ホームパーティーでもぴしっと盛装してます。紗幕の多用が非常に効果的で、特に滑り出し、エルヴィラの「気配」を顔写真の大写しで示していて意表をつかれる。思い出のレコードなど、小道具も切ない。

俳優陣はなんといっても、霊媒師マダム・アーカティの高畑淳子が脇ながら大暴れ。インチキ感満載だけどマイペースで妙に含蓄があって、大詰め、送っていくというチャールズを断って、いつも通り自転車で帰る、自分の道はわかっている、というセリフが格好良い。映画版では「恋におちたシェイクスピア」などの名優ジュディ・デンチが演じたんですねえ。
我が儘で浮気っぽい若村が、ひらひら衣装と七色の髪で色気を振りまき、対する生真面目な門脇は、ちょっと声が通りにくかったけど、ブロンドのボブと背伸びした感じ、拗ねモードが可愛い。2人を受け止めざるをえない田中は、シリアスだった「メディスン」とはうってかわって、すらっと細身、持ち前の愛嬌全開ではまり役。スキャンダルがもったいないなあ。ほかに友人の常識的な医師夫妻に、実生活でも夫婦の佐藤B作、あめくみちこ、ラストでキーパースンとなるドジなメイドに天野はな。

東宝のプロデューサー仁平知世が、10年ごしのラブコールで熊林演出を実現したとか。あえて喜劇にチャレンジしたというのも興味深かった。

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團菊祭「義経腰越状」口上「弁天娘女男白浪」

團菊祭五月大歌舞伎 2025年5月

八代目尾上菊五郎、六代目菊之助襲名披露のめでたい芝居を楽しむ。江戸情緒の定番・弁天小僧はもちろん、平均年齢11歳の可愛い勢揃いやら、松緑ゆかりの珍しい演目やらが楽しい。歌舞伎座1階、前の方のいい席で2万3000円。休憩3回でたっぷり4時間強。

幕開けの「義経腰越状 五斗三番叟」は義太夫狂言で、二世松緑が得意としたとか。義経(=豊臣秀頼)が頼朝(=徳川家康)に拒絶され、こともあろうに遊興三昧、という設定。なんとかしようと忠臣・泉三郎(=真田幸村)から軍師に推挙された五斗兵衛(=後藤又兵衛)が主役なんだけど、時代物らしからぬ飄々としたキャラでユニークだ。
冒頭、雀踊り(「べらぼう」で吉原のダンスバトルに出てきました)の群衆にまぎれて現われた家臣・亀井六郎(尾上左近)が、義経に諫言するけど追い返される。そこで五斗(尾上松緑)が登場。周りは大時代な武将なのに、ひとり顔も装束もいたって普通。しかも、おどおどして頼りない。裏切り者の錦戸太郎(坂東亀蔵)、伊達次郎(赤面の種之助)兄弟から好きな酒を勧められ、「かかに止められている」とか言って固辞するものの、結局ぐいぐい呑んじゃう。「滝呑み」なんかも披露してぐでんぐでん、もちろん義経との対面は台無しだ。なんともコミカル。
ところが、へのへのもへじ顔の竹田奴たちが、奇声をあげピョンピョン跳ねながら追い払いにくると、とたんに大暴れ。悠々と三番叟を舞い、凧揚げ、紙相撲などで奴をあしらっちゃう。最後は奴たちを馬にして悠々と引き上げる。大らかでした!

お楽しみ口上は七代目菊五郎が披露し、梅玉さんを筆頭に、ひとり柿渋色の裃の團十郎が楽屋話で笑わせ、松緑、噛んで含めるような玉三郎、大御所楽善さんという顔ぶれ。やっぱり團十郎は華があるなあ。

メーンは待ってました「弁天娘女男白浪」。言わずと知れた五世菊五郎初演の、音羽屋代々の当たり役。序幕の浜松屋見世先、八代目の弁天がちょっと真面目でテンポが速めなのは、この人らしい。南郷力丸の松也が格好よく、日本駄右衛門の團十郎も堂々。鳶頭の松緑、主人・幸兵衛の歌六と初役が多い。
続く稲瀬川勢揃いが傑作で、子供世代の御曹司たち五人がうち揃い、微笑ましいやら頼もしいやら。弁天にきりっと菊之助、忠信利平に亀三郎、赤星十三郎にちっちゃな梅枝、南郷力丸にぐんぐん背が伸びる眞秀、日本駄右衛門に端正な新之助。
二幕目は大人世代に戻ってアクションに次ぐアクションだ。極楽寺屋根立腹の場で弁天が大立廻りの末に最期をとげ、ダイナミックな「がんどう返し」。極楽寺山門の場で日本駄右衛門が追手を蹴散らし、滑川土橋の場でついに七代目が青砥左衛門藤綱として悠々と登場。八代目と並んで、川に落とした十銭を拾うエピソードののち、最後はセット上方の日本駄右衛門に情けを示して華やかに幕。

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俺のミヤトガワ

俺のミヤトガワ 2025年4月

毎回お題を掲げて古典、新作を織り交ぜるらくご@座主催「俺の」シリーズに初参加。今回のテーマは「宮戸川」だ。聴いたことがないと思ったら、特に後半は後味が悪過ぎるため滅多にかからない演目だそうです。柳家三三が三遊亭白鳥との「両極端の会」で披露した新作が企画のきっかけ。個人的には三遊亭兼好がよかったかな。紀伊國屋ホール、後ろの方で4000円。仲入を挟み二時間強。

開口一番は兼好門下・三遊亭けろよんがはきはきと「桃太郎」。本編、まずは柳亭小痴楽が「宮戸川・上」。「芸協がコンプラ委員会を作った。会長はいいかもしれないけど」と憤慨しつつ、「お花半七」として口演される馴れ初めを。帰りが遅れて家を閉め出された小網町の半七が、霊岸島の叔父宅へ向かうと、同じ目に遭った幼なじみのお花が強引についてきちゃう。半七が恐れた通り、「みなまで言うな、任せとけ」が口癖の叔父は二人が恋仲だと早合点し…。昭和のガキ大将が大人になったような小痴楽、下世話だけど愛嬌があって可笑しい。お花も叔母さんも強烈でした。
続いて兼好が「小痴楽は足立区の高校生になっちゃう」などと笑わせてから、「宮戸川(下・改作)」。本来、二人が夫婦になったのち、お花が行方不明になり、一年後、半七が乗り合わせた船頭が、かつて女をさらって宮戸川に捨てたと告白するというもの。まさかの夢オチなんだけど、救いようのない凄惨さで、兼好は今回、全く別のほんわかした新作に。半七の父親がお花との結婚をなかなか許さない、実は昔、お嬢さん育ちのお花の母親に振り回されたから…。楽屋では「できてない」と言っていたらしいけど、さすがに軽妙で拍手。

仲入後は柳家三三で「バック・トゥ・ザ・半ちゃん」。大好きな「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のストーリーを解説してから噺に入ると、なんと人間国宝(!)になった暴れん坊・白鳥に三三が稽古してもらっているという設定。叔父さんが堅物で半七についてきたお花を追い返しちゃうので、三三が筋が違うと突っ込むと、白鳥は「お前はただの行儀のいい中堅真打だな」。爆笑。その後、半七が父親兄弟とお花の母親の青春時代に紛れ込み、映画そっくりの展開に。前の演者のネタをいじったりして笑わせつつ、映画を踏まえた「落雷」オチまで見事な展開だ。複雑で、ちょっと凝りすぎな気もするけど。
3人のエンディングトークも。小痴楽が「三三は前の2人の噺に合わせて、稽古していた登場人物の名前や商売を細かく変えていた」と感心しきり。リアルならではの噺家の創造性と切磋琢磨。ハイレベルでした!

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ゴスペルライブVoices

Sound of Joy meets Qesheth NoteS  Voices   2025年4月

気鋭のゴスペルディレクター、シンガーのユニットQesheth NoteS が、先生と呼ばれるレジェンド、淡野保昌79歳!率いるアカペラグループSound of Joyを迎えたジョイントライブ。Sound of Joyのよく練られたハーモニーに感心。ゴスペル好きが集まった南大塚ホール、自由席の後ろの方で5500円。休憩を挟んで2時間半。

まず2グループでアカペラ2曲、それからQesheth NoteSがアカペラや得意のレパートリー、オリジナルをアイドルのりの振りもまじえて。ピアニストは我らがナッティ、名手久詞。
休憩後はSound Of Joyがゴスペル史を解説しつつ、黒人霊歌からコンテンポラリーまで。艶やかなソロの個性はもちろん、ボイパを含むアレンジがさすが。淡野先生の声は衰えてなくて、とにかくバスにこだわっているそうです。ラストはまた2グループで、定番Every Praise、You Are Goodはお約束の総立ち。アンコールは嬉しいBridge Over Troubled Waterでした~

ロビーにはWorld Picnic Programという団体による、奴隷解放記念日Juneteenthにちなんだ展示も。

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やなぎにツバメは

シス・カンパニー公演「やなぎにツバメは」  2025年3月

2024年「う蝕」が強烈だった横山拓也の新作を、2022年「ピローマン」などの寺十(じつなし)吾演出で。大竹しのぶはじめシスカンならではの豪華キャストが、ごく普通の人生の閉じ方、ありふれた老いと孤独の心のひだをカラッと描く。笑いたっぷり、軽妙で緻密な会話劇、しかも手練れ揃いの6人でテンポが抜群だ。完成度が高いなあ。いっぱいの紀伊國屋ホール、上手寄り前の方で8000円。休憩無しの1時間半強。

美栄子(大竹)が母つばめの自宅葬を終えたところ。苦労した介護も一区切りだ。つばめが営んだスナックの常連で、葬儀屋の洋輝(段田安則)、内装デザインの祐美(木野花)を20年来の親友と呼び、グループリビングを夢見る。そこへ看護師の娘・花恋(松岡茉優)と料理人で洋輝の息子・修斗(林遣都)の婚約、独立話に、別れた夫で設計士・賢吾(浅野和之)がからみ、それぞれの切実な思いが交錯して右往左往…

大竹がさすがの存在感。パートのおばさんのくたびれ感も、愛人として生きたつばめへの愛憎も、切なく可愛いらしい恋心も自由自在だ。大事なことに気づかないふりの優しくも無責任な段田、悪気はないけど終始マイペースの木野はもちろん、愛情も寛容さもあるのに追い出されちゃってトホホの浅野が実にいい味。林の一生懸命なだけに間が悪い可笑しさが絶妙で、そんな恋人を叱咤し続ける松岡は、大竹を応援するまっすぐなキャラが気持ちいい。けっこういい脇かも。

ワンセットの美栄子宅リビングは、一角につばめのスナックを再現したという設定で、回想の昭和シーンが挟まる。終盤、ツバメの巣で雛がかえる明るさ、大竹の歌に拍手! 繰り返される古い歌謡曲「胸の振り子」はなんとサトウハチロー詞・服部良一曲で1947年発表、石原裕次郎らがカバーしているとか。確かにいい曲だし、よく見つけてきたものです。美術の平山正太郎は松井るみのアシスタントだったんですねえ。
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北斎とジャポニズムコンサート

北斎とジャポニズムコンサート  2025年3月

文化財のデジタル保存を手がけるNTTアートテクノロジーが主催、北斎作品の高精細画像を背景に、ジャポニズムに影響を受けたクラシックを聴くという企画に参加してみた。英国からオンライン登壇の藤倉大さんと案内役の演出家・宮城聰さんの、うちとけた対談が面白かった~ 藤倉さんは北斎の生涯をテーマに新作オペラを作曲中とか。はて、どんな作品になるのか。角田綱亮指揮、東京フィルハーモニー交響楽団。家族連れが目立ち和やかなオーチャードホール、2階前のほう。無料。休憩を挟んで2時間。

以前、浮世絵のレクチャーで、印象派の画家のみならず音楽にも影響を与えた、ドビュッシーがパリの仕事部屋の壁にご存知「神奈川沖浪裏」を飾っていた、と聞いてなんだか嬉しくなった。第一部ではやはり「浪裏」に着想を得た、ラヴェルの「洋上の小舟」で、翻弄される舟に身を任せる。ピアノ曲集「鏡」の第3曲をオケ版で。続くLEOの「箏協奏曲」は抽象的で難しかったけど。
休憩を挟んで同時代のビゼー「カルメン」前奏曲、そして無敵の「ハバネラ」を清水華澄が余裕たっぷりに。トークを挟んで吉田珠代が加わり、プッチーニ「蝶々夫人」から花の二重唱「桜の枝をゆすぶって」、お馴染み「ある晴れた日に」。〆は作曲家本人の希望で、楽譜初版の表紙に「浪裏」をデザインしたことで有名な真打ドビュッシーの交響曲「海」から「風と海の対話」でした。

ロビーには高精細データによるレプリカなど。

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一中節「唐崎心中」「道成寺」

一中節演奏会  2025年3月

いつも勉強になる古曲、一中節のホール演奏会へ。落ち着いた雰囲気の紀尾井小ホール、自由席で6000円。休憩を挟んで2時間ほど。

前半は「唐崎心中」を了中さんの聴きやすい浄瑠璃、一中さんの三味線で。まず一中さんがいつものようにユーモアをまじえつつ解説。近江八景とは江戸初期に近衛家当主が中国の瀟湘八景にならって発案したそうだけど、本作は元禄年間の少し後、遊女小稲と稲野屋半兵衛が唐崎の松のほとりで心中した事件が題材で、舞台となった近江八景を織り込んだのが特徴だ。八景といえば時代はくだって文政年間、5世一中の三味線方で一中節中興の祖ともいわれる菅野序遊が「吉原八景」を作曲、これが常磐津「廓八景」に受け継がれた。庶民に浸透し、芥川龍之介が書簡に「恋路の八景」を書いていて、その詞章が見事に三味線にのるのだと。なるほど~
改めて聴いてみると、広重の浮世絵で観る当時の姿や、一昨年秋に訪れた折の雨模様の湖が目に浮かんで美しい。大詰め「たましいもぬけから崎の ひとつ松にぞ着にける」と、雨風を受けた2人の放心したさまが印象的。

続いて後半の「道成寺」に先立ち、了中さんの明朗な解説。今回はプログラムに、了中さんの現代語意訳が併記されていてわかりやすい。道成寺といえば能の大曲で、さまざまな音曲になっている。明治期の都派では冒頭の住職と能力のやりとりから、シンプルながらほぼ忠実に能の流れをたどる。白拍子の舞の「月落ち鳥啼いて霜雪天に 満ち潮程なく此の寺の 江火の漁火」は漢詩「楓橋夜泊(ふうきょうやはく)」の引用で、孤独と鐘の音を連想させ、クライマックスの僧の祈りの「恒沙(ごうしゃ)の龍王」は、ガンジスの砂から転じて無数の龍王たちへの呼びかけだと。昔の人は教養があったんだなあ。
休憩を挟んでその「道成寺」を了中さんの浄瑠璃、一中さんの三味線に、楽中さんの上調子で。中盤「花の外には松ばかり」で三味線と掛け声の乱拍子から緊張感がぐんぐん高まり、白拍子の舞の「鐘尽くし」から鐘入り、祈りとダイナミック。蛇体がついに「猛火となりて失せにけり」と、自らの炎で消えちゃう圧巻の幕切れ。鮮やかで哀しい名作に、聴衆がふうっと溜息をついて幕となりました。

客席には常連の経済人や、なんと雀右衛門さんの姿も。

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