炎 アンサンディ

炎 アンサンディ  2017年3月

レバノン出身、カナダ、フランスで活動するワジディ・ムワワドの2003年の戯曲を、早大教授の藤井慎太郎が翻訳、文学座の上村聡史が演出。2014年に数々の演劇賞を受けた舞台の再演を、最終日滑り込みで観ることができた。
人はどこまで残酷になれるのか、沈黙を貫くということ、そして約束を果たすこととは。初演のスタッフ、キャストが集結し、人間の尊厳を問う重いストーリー、秀逸な演出、演技が激しく心を揺さぶる。年配の芝居好きが集まったシアタートラムの下手中段で6800円。休憩を挟み、緊迫の3時間半だ。

5年も心を閉ざしていた中東系カナダ女性ナワル(麻実れい)が、世を去った。公証人エルミル(中嶋しゅう)は双子の子供、数学者ジャンヌ(文学座の栗田桃子)とボクサーのシモン(小柳友)に謎の遺言を伝える。「あなたたちの父と兄を探しだし、手紙を届けてほしい」と。姉弟は戸惑い反発しながらも、封印された母の過去をたどり始める。
中東の内戦を舞台にしているが、世界の不確実性が高まる現在、憎しみの連鎖の不条理が鮮烈に迫ってくる。目を背けたくなる過酷さに対し、戯曲は決して声高に理屈を叫ばない。スリリングな謎解きでぐいぐい引っ張り、衝撃の真実が明らかになってからは、一人ひとりの愛する力を信じる、静かで強靭なメッセージへとなだれ込む。

俳優陣が頼もしい。なんといっても、ナワルの恋する少女時代から闘う40代、深い悔恨を示す60代までを演じ切る麻実が圧巻。凛としたたたずまいと深い声で、説得力抜群だ。また岡本健一も見事で、ナワルの純な恋人や、ロックを歌いながら殺戮を繰り返しちゃうキレキレの狙撃兵ら、雰囲気の違うキーマン数役をこなす。
劇中で成長していく栗田、小柳に切なさがあるし、お馴染みの中嶋は飄々と温かい雰囲気がいい。ナワルの親友サウダなどの那須佐代子(青年座)、元看護士アントワーヌなどの中村彰男(文学座)も達者。特に小柳はチャーミングで、「マーキュリー・ファー」「BENT」と、実にいい仕事を選んでいるなあ。

演出も洗練されており、時空を超えて人物が交錯する複雑な設定を、小ぶりの椅子、大きな布などのシンプルなセットで、手際よく提示する。意表をついて人物が出入りする小さい穴や、雨のなか家族を包むシートの存在が印象的だ。美術は「豚小屋」などの長田佳代子。

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足跡姫

NODA・MAP第21回公演「足跡姫」~時代錯誤冬幽霊(ときあやまってふゆのゆうれい)~  2017年3月

作・演出野田秀樹。2012年にみとった盟友18代目中村勘三郎へのオマージュと宣言し、肉体の芸術が死によって消える切なさ、それでも滅びない情熱=足跡、舞台人の覚悟を、実力派キャストでストレートに歌いあげた。
近作に目立った政治メッセージは影をひそめ、掛け言葉やリズミカルな足拍子など、遊びがぎっしり。イメージの奔流、そしてほとんど反則技の涙で押し切っちゃう。潔いなあ。男性客が目立つ東京芸術劇場プレイハウス、下手バルコニートップのいい席で9800円。休憩を挟み3時間弱。

江戸時代のどこか。踊り子の三、四代目出雲阿国(宮沢りえ)と、弟で劇作家となる淋しがり屋サルワカ(妻夫木聡)は禁制の女歌舞伎を続けるため、将軍御前での上演を目指す。
勘三郎を体現する宮沢が、いつもの透明感で舞台を強力に牽引。阿国の色気と足跡姫の野性の対比が際立つし、ダンスも進化(振付は「逆鱗」などの井手茂太)。対する野田の役回りとなる妻夫木は、声が通って、頼りなさと明るさがいい。2007年「キル」から「南へ」「エッグ」と、戯曲に押され気味かと思ってたけど、確実に成長してますねえ。
サルワカを助ける売れない幽霊小説家(古田新太、得意の殺陣も少し)、実は幕府転覆を企てた由井正雪の亡霊や、正雪配下の戯けもの(佐藤隆太)、正雪の遺体を追う腑分けもの(野田秀樹)、座長・万歳三唱太夫(池谷のぶえ)と妹分・踊り子ヤワハダ(鈴木杏)が複雑にからんでいく。皆さすがの安定感だ。伊達の十役人を、野田版やコクーン歌舞伎、平成中村座の参謀だった中村扇雀が演じ、コミカルに舞台回しを務める。

ベースになるのは2月の歌舞伎座で予習した、寛永元年(1624年)に江戸歌舞伎を開いた初代勘三郎の物語。盆と花道を備えたシンプルなセットに、修羅能「田村」からすっぽん、揚幕の金輪まで、歌舞伎っぽさを散りばめていて楽しい。さらにはカヴァレリア・ルスティカーナ間奏曲! シネマ歌舞伎で観た「野田版研辰の討たれ」を思わせる仕掛けは、問答無用の慟哭だ。すべてが虚構である舞台を、共に体験できる幸せ。美術はお馴染み堀尾幸男、ドキッとする薄物など衣装はひびのこづえ、作調は田中傳左衛門で囃子も。
分厚いパンフレットで、野田さんが綴る勘三郎の足跡のエピソードが素晴らしい。戯曲の載った「新潮」も買っちゃった。

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METライブビューイング「ロメオとジュリエット」

METライブビューイング2016-17第5作「ロメオとジュリエット」  2017年2月

いわずとしれたシェイクスピア劇を、「ファウスト」のシャルル・グノーがオペラ化、パリ万博に合わせて1967年に初演した作品とのこと。実力容姿兼ね備えたタイトロール2人が甘い恋を存分に。ただ曲調は、まったりした印象だったかな。聴衆のブラボーが多い1月21日上演。割と空席がある東劇中央あたり、休憩1回で3時間15分。

NYで観劇できて、素晴らしかった2015年「真珠採り」と同じ、指揮ジャナンドレア・ノセダ、ジュリエットにドイツ出身のコロラトゥーラ・ソプラノの女王、ディアナ・ダムラウという安定コンビだ。ダムラウは1幕「私は夢に生きたい」から技巧ばりばり、後半で強い女性に変貌してからは迫力も十分。インタビューで「ヴィオレッタ(椿姫)ごめんなさい、こっちの方が好き」と語ってましたね。対するロメオも美形ヴィットーリオ・グリゴーロ(イタリアのテノール)で、2幕「昇れ、太陽よ」などが甘美かつ繊細。幕切れ「愛の2重唱」まで、相性のいい2人が舞台を支配する。
主役に焦点が絞られ、脇はあまり目立たない演目だけど、マキューシオのエリオット・マドール(METオーディション出身、カナダのバリトン)に色気があって楽しみだ。ローラン神父のミハイル・ペトレンコ(ロシアのバス)はこのロマンチックな内容には存在感があり過ぎかも。ほかにズボン役・小姓ステファーノにヴィルジニー・ヴェレーズ(メゾ)。

「王様と私」のトニー賞受賞者、バートレット・シャーによる新演出は、18世紀半ばの設定だそうで、暗い広場のワンセットを照明などで転換していく。巨大な1枚布が広いベッドから結婚式のドレスへ転換していく手法がお洒落だ。
動きが激しく、ダムラウは駆けまわるし、グリゴーロも壁によじ登ったり。衣装は古風で美しい。それでもやや平板な印象が否めなかったのは、たまたま蜷川幸雄や藤田貴大の鮮烈な演劇で観てきたストーリーだからかなあ。カーテンコールでグリゴーロがダムラウをお姫様抱っこして、盛り上がってました~

司会は2010年ロイヤルオペラ来日公演の「椿姫」で、なんと代役の代役でピンチを救った可愛いアイリーン・ペレス。活躍してるんですねえ。懐かしいな。

武部聡志ORIGINAL AWARD SHOW~Happy60~

武部聡志ORIGINAL AWARD SHOW~Happy60~   2017年2月

作・編曲家、プロデューサー武部聡志の還暦を祝うイベントに足を運んでみた。なんと松任谷由実、久保田利伸をはじめとして、超豪華メンバーが次々に名曲を歌ってとっても贅沢! 温かいお祝いムードも気持ちが良かった。
総合演出は松任谷正隆。幅広い年齢層が集まった東京国際フォーラム、ホールAの2F、上手寄りで1万3000円。2Fでものっけからスタンディングオベーションが多くて驚く。休憩無しのたっぷり3時間半。

舞台前の丸テーブルに出演者が座り、恵俊彰が司会する音楽祭形式。2巨頭のほかにも超巧い平井堅、グルーブがあるスガシカオ、演技力抜群の斉藤由貴や一青窈、いつもながら楽しそうなゴスペラーズ、伸び伸びmiwaらが、武部さんゆかりの曲を披露した。デビューから面倒をみてきた才能あるアーティストが、たくさんいるんですねえ。さらにプレゼンター(出演者の紹介役)としてユーモアたっぷりの小山薫堂などなども登場。
武部さんがミュージシャンを目指したルーツだというスティービー・ワンダーのメドレーは1976年「キー・オブ・ライフ」からで、私自身さんざん聴いたアルバムだけに大感激。特に久保田利伸の「AnotherStar」が格好いい! そしてプロへの道を開いた恩人だというムッシュかまやつの、従妹・森山良子が届けた「ぐるぐる」だらけの不思議な手紙を読んでから、ムッシュメドレーへ。本編はバンマス武部、ボーカルがスガシカオのkokuaが締めました。
幅広い活躍の背景にはスタイリッシュなブラックミュージックの感覚と、音大出身の技術があるんだなあ、と納得。

アンコールもたっぷりで、武部さんのピアノを囲んで出演陣がノンストップで歌い継ぐ。久保田利伸が大サービスの「Missing」、オオトリのユーミンは2013年40周年コンサートでも、ふたりによるアンコールだった「卒業写真」という、問答無用の惜しみない選曲。内容が濃くて素晴らしかったです~

と、大満足してたら、なんとコンサート2日後に、ムッシュの訃報が届いてしまい、しんみりしました… 「ゴロワーズを吸ったことがあるかい」、格好良かったなあ。

歌舞伎「猿若江戸の初櫓」「大商蛭子島」「四千両小判梅葉」「扇獅子」

江戸歌舞伎三百九十年 猿若祭二月大歌舞伎 昼の部  2017年2月

夜の部の中村勘太郎、長三郎兄弟初舞台が話題の歌舞伎座。そちらはテレビドキュメンタリーで観ることにして、あえて昼の部に足を運んでみた。東京マラソンとかちあった千秋楽は、前の方に空席があったけど、江戸歌舞伎の歴史を感じる珍しい演目が並んで面白かった。歌舞伎座中央前の方のいい席で1万8000円。休憩3回を挟み5時間弱。

幕開けは1987年江戸歌舞伎360年記念の猿若祭時に初演した、田中青滋作の長唄・筝曲舞踊「猿若江戸の初櫓(はつやぐら)」。寛永元年(1624年)、中橋(現在の日本橋人形町3丁目)に勘三郎が猿若座を創設したエピソードを描いた、めでたいフィクションだ。
新年に上方からくだってきた猿若(勘九郎)と阿国(七之助)が、木材商・福富屋(鴈治郎)を助けて荷車を曳く。感心した奉行・板倉(彌十郎)が所領に芝居小屋を建てることを赦し、福富屋が援助することに。喜んで、まず阿国が厳粛に、続いて朱色の綱紐を巻いた猿若が軽妙に踊る。
朱色を基調に、銀杏をくわえた鶴の紋の櫓が登場して、華やか。同時に勘九郎持ち前の愛嬌とリズム感に、江戸歌舞伎開祖のプライド、さらには一座の者やスポンサーを上手にのせちゃうプロデューサーとしての魅力が重なって、実に感慨深い。若手の児太郎、橋之助や鶴松が参加。

早めのランチ休憩の後、「大商蛭子島(おおあきないひるがこじま)」。洒落本や俳句といった文化が花開いた天明4年(1784年)、中村座顔見世で初演し、1962年に復活したという、古風でおおらかな狂言だ。国立劇場での上演を挟んで今回がなんと48年ぶり。
源平の設定だけど、第一場・正木幸左衛門内の場の前半は、まるきり江戸庶民のエロチックコメディ。伊豆に配流中の頼朝(松緑)は手習の師匠に化け、やたらと弟子(芝のぶら)にちょっかいを出す。頼朝を慕う北条時政の娘・政子(七之助)とお付きの清滝(児太郎)が訪れ、頼朝との濡れ場へ。妻・辰姫(時蔵)は時政のバックアップを受けるため身を引くが、長唄「黒髪」にのせて切ない嫉妬を語る。小道具で父・義朝の髑髏や北条の宝・三鱗が登場。
後半から時代に転じ、文覚上人(目つきが巧い勘九郎)が後白河院の平家追討の院宣を届け、ぶっ返りで白紫衣装となった頼朝も決起を表明。下男に化けていた敵方武将(亀寿)や、義朝の仇(團蔵)を討つ。
続く第二場・源氏旗揚げの場で、雄大な富士をバックに、源氏の白旗を掲げて出陣していく。幕切れは巨大な朝日までのぼってまたまためでたい。若手は男女蔵の長男・男寅や福之助らが参加。

休憩を挟んで、黙阿弥晩年、明治18年(1885年)の初演作「四千両小判梅葉(しせんりょうこばんのうめのは)」。安政2年(1855年)に起きた御金蔵破りを素材に、牢の風習などをリアルに描き、現代劇への橋渡しに位置する。菊五郎、梅玉の古風な存在感が大きい。
序幕第一場・四谷見附外の場は夜のお堀端。おでん屋台の亭主でスケールの大きい富蔵(菊五郎)が、小悪党の藤十郎(梅玉)を御金蔵破りに誘う。第二場・牛込寺門前藤岡内の場で2人は緊迫しつつも、盗んだ金を床下に埋めることにする。二幕目・中仙道熊谷土手の場は雪のなか、捕われて唐丸籠で江戸へ向かう富蔵が、女房(時蔵)、舅(東蔵)、幼い娘と別れる愁嘆場。
三幕目第一場・伝馬町西大牢の場でも富蔵が大物ぶりを発揮。蔓と呼ばれる金品の扱いや、きめ板の仕置き、紙で作った数珠などのしきたり、重ねた畳に座る牢名主(左團次)、隅の隠居(歌六)、囚人たち(亀三郎、亀寿)、新入り(松緑、菊之助)らの生態が描かれる。ユニークだなあ。第二場・牢屋敷言渡しの場で、役人(秀調、松江)が重々しく刑を告げ、囚人たちの題目をバックに菱形の縄を受けた富蔵、藤十郎が、遠くをみる立ち姿で幕となりました。

短い休憩の後、打ち出しは明るく清元舞踊「扇獅子」。鳶頭・梅玉と芸者・雀右衛門がいなせに日本橋の四季を描く。獅子頭に見立てた扇、橋と鮮やかな牡丹の屋台というド派手なセットが楽しかったです。

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「扇獅子」

陥没

シアターコクーン・オンレパートリー2017 キューブ20th.2017 陥没  2017年2月

作・演出ケラリーノ・サンドロヴィッチ。2009年「東京月光魔曲」、2010年「黴菌」に続く昭和3部作の最終作ということだけど、従来の妖しさ、毒気はすっかり影をひそめ、ハートウォーミングなほどの人間喜劇だ。五輪の前、歴史上まれな高度成長という時代の明るさ、余計なことを考えずにすんだ日常へのオマージュということか。豪華キャストが皆、非常にはまり役だし、照明などが高水準で、まとまりがある。客層が幅広いコクーン、上手寄り後ろの方で1万円。休憩を挟み3時間半だが、長さは感じない。

昭和38年、東京。瞳(小池栄子)は亡き父が遺したホテルのプレオープンで、前夫・是晴(井上芳雄)と若い結(松岡茉優)の婚約披露パーティーを引き受けるが、浮浪者の一団が部屋に入り込む騒ぎに。ダメ夫・真(生瀬勝久)を含む、じれったい4角関係を軸に、是晴の母(安定感の犬山イヌコ)や弟(瀬戸康史)、結の恩師(色っぽい山西惇)らが出入りし、互いを思う大人の群像劇が、小津安二郎ばりにしみじみさせる。さらに瞳の父(山崎一)の亡霊が是晴との復縁を画策して「魔法」を使うあたりは、「奥さまは魔女」のようで、ベタなほどのファンタジックコメディだ。

俳優陣はそれぞれ持ち味を発揮。背筋の伸びた小池は凛として健気、井上はだらしないけど善人。ピュアな瀬戸が達者で、影がある松岡と好対照を見せる。何やら画策する生瀬は胡散臭く、瀬戸についてきた長髪男や金貸しの山内圭哉はもっと胡散臭い。ホテルスタッフで小池の親友・緒川たまきの軽妙なリズム感が際立ち、瞳の幼馴染の趣里、そのマネージャー・近藤公園も安定。美しいマジシャン高橋惠子が、貫禄で全体を引き締める。神様の声はお馴染み峯村リエと三宅弘城。

ホテルロビーの3階建てワンセットと、背景で揺れる色づいた樹木がお洒落(美術・BOKETA)。照明(関口裕二)も冒頭・回想シーンのモノクロ風や、白塗り亡霊へのスポットが巧く、オープニングクレジットの客席横まで使ったプロジェクションマッピングも美しい(映像・上田大樹)。
テニスとか新幹線といった昭和なキーワード、そして家具調の東芝!製テレビから電器屋が謎のミイラを取り出すエピソードやらが楽しい。それにしてもタイトルの意味は何だったんだろうなあ…

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お勢登場

お勢登場  2017年2月

作・演出倉持裕。やや年齢層若めのシアタートラム、上手寄り中段で6800円。休憩無しの2時間半。
江戸川乱歩の8本もの短編を、謎の女・お勢(黒木華)を軸に構成。ナンセンスコメディやテレビコントも書く作家だけど、今作は奇妙な味わいと、バラバラの物語をパズルのようにつないでいく技巧が際立つ。1Fに並べた3セットを前後に出し入れし、セットの2F部分、紗幕や映像も駆使。一つひとつシチュエーションの意味を細かく説明しないけれど、テンポが速くて心地いい。複雑な美術は「シブヤから遠く離れて」などでお馴染みの二村周作。

盛り込まれたエピソードは、乱歩デビュー作である「二銭銅貨」の暗号や、明智が初登場した「D坂の殺人事件」の密室という「本格」要素もさることながら、いかにも乱歩らしい人間心理の倒錯がたっぷり。病身の夫を衝動的に長持に閉じこめる「お勢登場」や、生々しい絵が題材の「押絵と旅する男」、変装して自分の妻と浮気しちゃう「一人二役」などが、観る者をぞくっとさせる。大正から昭和にかけての凌雲閣、花屋敷の木馬、見世物小屋の覗きからくりといった道具立てもキッチュで怪しい。

とはいえ、コケ脅しのエログロはほとんどなし。トントンと舞台転換していくせいか、透明感のある黒木の持ち味なのか。笑いも随所に散りばめられ、突如高らかにスタイリスティックスを吹く梶原善や、警官役までこなしちゃうお馴染み片桐はいりが達者だ。
「マーキュリー・ファー」のナズが印象的だった長身の水田航生は、探偵役などで爽やか。ほかに寺十吾(じつなし・さとる)、千葉雅子、川口覚らがくるくると何役も演じて巧かった。

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生きてる時間

カタルシツ演芸会 生きてる時間  2017年2月

作・演出前川知大。イキウメ別室カタルシツの5作目は、なんと古典落語の柳家三三と共演する意欲作だ。2008年上演の戯曲「表と裏と、その向こう」の設定をベースにしたという(内容はだいぶ違うらしい)独特のブラックSF。「座布団一枚の小宇宙」落語が持つ最強のイメージ喚起力と、冷静な語り部でもあるという役回りが、同様にイメージ豊かなイキウメ節と噛み合って、面白い。あうるすぽっと(豊島区立舞台芸術交流センター)、なんと2列目で4000円。休憩無しの約2時間。

近未来のとある町。全住民が埋め込み型IDチップでプライバシーを管理されるかわりに、税金はタダ、という社会実験中だ。裏では集めたデータからそれぞれの寿命を算出し、「生きる時間」の売買が横行している…
時の流れというものは誰にも平等なようでいて、実は一分一秒の重みは人と場合によってずいぶん違う。そして時間は濃密であれば幸せ、というわけでもないのだ。管理された時間からの、勇気ある逃走。

白いボックスを並べただけのシンプルなセットに、まず三三が登場。歌丸さんの近況、池袋は落ち着く、お客さんのファッションもしまむら?といった軽妙なマクラから、町の秘密を知る老医師夫婦のエピソードを語る。続いてコンビニの男(安井順平)、謎にせまる若い甥(田村健太郎)、フリーライター(盛隆二)がからむ芝居と、落語とが交互に進んでいく趣向で、情報量が多い。横からスポットライトで照らし、見えない者と会話する演出もはまっている。

盛と、最近はドラマでも活躍する安井の、息の合った笑いがさすが。客演の田村が瑞々しい。チラシの裏は英文で、盛の達者なイラスト付き。これからもいろんな語り口にチャレンジしてほしいものです。

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シネマ歌舞伎「女殺油地獄」

シネマ歌舞伎「女殺油地獄」 2017年2月

文楽に続いて、近松シリーズの名作世話物「女殺油地獄」を、2009年6月歌舞伎座さよなら公演のシネマ版で。当たり役・仁左衛門「一世一代」だ。よく入った東劇のやや後ろのほう、通路沿いの見やすい席で2100円。休憩無しの2時間弱。

リアルでは2011年に染五郎・亀治郎(猿之助)で観た演目だが、やはり関西弁が自然だといいなあ。冒頭、徳庵寺堤の場から、野崎参り途中で喧嘩沙汰を引き起こす与兵衛のちゃらんぽらんさ、見栄っ張り、そして弱々しさが魅力的だ。対するお吉は孝太郎、娘お光は千之助という親子三代共演。
公演当時のインタビューを読むと、仁左衛門はお吉とは恋愛感情はない、「家族同様の近所のお姉ちゃん」としており、孝太郎の色っぽ過ぎない感じがはまっている。豊島屋主人の梅玉が安定感。ほかに通りかかる侍で、坂東弥十郎・新悟親子。

続く河内屋内の場から豊島屋油店の場の前半は、追い詰められて暴れる与兵衛の未熟さと、父・歌六、母・秀太郎(芸者小菊と2役)との愁嘆場を描く。妹は梅枝。
後半でいよいよ殺しの心理劇となる。スクリーンで表情を確かめられるので、お吉からなんとか金をせしめようとする小狡さ、後先考えない暴走、快楽、そして激しい恐怖と、与兵衛の変化に見応えがある。これは文楽ともまた違う醍醐味。振付としては凄惨というより、アクロバティックな様式美で、若さが前面に出る。三味線の効果音がなんともクールだ。なんとか継承してほしいなあ。

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談春「大工調べ」「明烏」

春風亭昇太プロデュース「下北沢演芸祭2017」 立川談春独演会 2017年2月

人気者・春風亭昇太プロデュースによる意欲的な落語シリーズ。ロビーには昇太が大河ドラマで演じる「今川義元より」といった、謎の花が並ぶ本多劇場。中ほどの見やすい席で3500円。中入りを挟み約2時間。

前座は1月と同じ弟子ちはるが、ハキハキと小噺。談春さんが登場し、「弟子が出てくると可哀そうって雰囲気になるの、やめて」と笑わせてから、昇太の人物評を「怒らせるとまずいのが志の輔、めったに怒らないけど怒らせてはいけないのが昇太」と解説して、怒りが印象的な「大工調べ」へ。大家のところへ乗り込むまでの「上」だ。以前、談春や三三で聴いたことがある。棟梁の迫力ある啖呵のスピード感と、すっとぼけているようで実は世の中がみえている与太郎との対比。鮮やかだなあ。
続いて普段着の昇太が登場し、談春とトーク。若かりし頃の出会い、「今はいいけど、先行きはねえ」と批評され続けたこと、談志が新作をつけてもらったけど実演できなかったこと、昇太が談志を怒らせたエピソードなど。最初は立ってたけど、途中から2人とも高座に腰かけちゃって、「これだけで、あと落語しなくてもいいなあ」と談春。小柄な昇太さんの明るさ、腹が据わっている感じがいいなあ。入門35周年、機微の感受性も豊かだし、爆笑させつつ、時に深いやり取りでした。

中入りを挟んで談春2席目は、昇太兄さんに教えたけど、高座にかけなかった、後から聞いたら「台詞が多すぎ」だったとのこと、というマクラから「明烏」。談四楼で聴いたことがある廓噺だ。冒頭、若旦那を心配する母親からして、実に可笑しい。甘納豆を食べるところでは、所作の心得をブツブツと。そして初めての吉原で、いっぱしになっちゃう若旦那の色気がさすがだ。面白かったです!

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