TERROR テロ

TERROR テロ    2018年1月

7万人の命を救うために、164人を犠牲にした男は有罪か無罪か? 決めるのは観客。ミステリー連作「犯罪」がとても良かったフェルディナント・フォン・シーラッハの、知的で緊張感ある法廷劇だ。酒寄進一訳、最近では「謎の変奏曲」が秀逸だった森新太郎の演出で。
パルコと兵庫県立芸術文化センターの共同製作で、演劇ファンが集まった感じの紀伊国屋サザンシアターTAKASHIMAYA、上手寄りかなり前方で7800円。休憩2回を挟んで3時間。

観客は「参審員」として法廷に参加し、判断を迫られる。入り口でカードが配られ、2幕終了後に有罪、無罪の箱に投票、その評決に応じて終幕が変化する仕掛けだ。
ベルリンの刑事弁護士でもある作家が提示する設定は、実に重い。テロリストが民間機をジャックして、サッカー場への墜落を宣言。独断で機を撃墜し、大勢のサッカー観戦客を救う代わりに乗員乗客を死に追いやった空軍少佐コッホ(松下洸平)が殺人罪に問われる。観客に向かって、老獪な弁護士(橋爪功)はテロの脅威と、超法規的措置の必要を説き、対する検察官(神野三鈴)は厳然と、命を数で天秤にかけることの罪、人間の尊厳を主張する。
コッホの上司(堀部圭亮)に、暗黙の了承があったのか。サッカー場からの大規模避難や、被害者遺族(前田亜季)が叫ぶような乗員乗客によるテロリスト制圧という可能性はあったのか。
どれも、簡単に答えられるような問いではない。机と椅子数個のみのシンプルなセットで、今井朋彦の裁判長があくまで冷静に審議を進めるだけに、観る者の思考を追い込むような言葉のバトルが際立つ。美術は「足跡姫」などでお馴染み堀尾幸男。

初演の2015年はパリのシャルリー・エブド襲撃事件が、世界に大きな衝撃を与え、その後も各地で理不尽な事件が続いている。現実は厳しい。プログラムには18年1月6日現在の上演記録が掲載されており、それによると観客投票の61%が無罪。多数決の結果では、欧米や中東、オーストラリアの上演で無罪が多いのに対し、日本(2016年公演)や中国では有罪が目立つ。これはテロの不安との距離感なのか。この比率は今後、どうなっていくのか…

2013年からシーラッハの朗読を手がける橋爪が、さすがの練度。凛とした神野と、いい対照だ。抑制から感情の爆発に至る前田が熱演。
客席には山田洋次さんらしき姿も。

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志の輔「買い物ブギ」「徂徠豆腐」

志の輔らくご GINZA MODE  2018年1月

パルコ劇場改装中の志の輔さん、新年はなんと昨年オープンし話題となったGINZA SIX地下3F・観世能楽堂で10日間。銀座モードと銀座詣をかけたタイトルです。幅広い志の輔ファンが集まった感じで、非日常感、ウキウキ感が素晴らしい。さすが工夫しているなあ。脇正面の前の方で、上手真横の角度で6000円。3時間弱。

すでに昨年6月のこけら落としに登場したけど、会場への経路がわかりにくい、橋掛かりの中央を歩いちゃいけないと叱られた、目付柱をはずしてもらった、などの苦労を語り、小咄を立て続けにやって雰囲気を確かめてから、新作「買い物ブギ」。初めて聴くけど、日常の疑問ものでいかにも定番の安定感だ。ドラッグストアで客が、洗剤の細かく指定された用途やらをしつこく質問し、バイトも店長も混乱していく。笑いたっぷりで、巧い。
お楽しみはこの会場だから、映像は無く、松永鉄九郎ら長唄連中がしずしずと登場。めでたい演目のメドレーなど。三味線は清々しくて格好いいなあ。

短い仲入りを挟んで、数あるジャンルから長唄を選ぶとか、職業には神に呼ばれるものがある、といった感慨から、後半は古典「徂徠豆腐」をたっぷり。講談や正蔵さんで聞いたことがある、しみじみ人情噺だ。ろくに食べずに本を読んでばかりいる長屋住まいの学者と、それを尊敬し、気にかける人の良い豆腐屋。立場を超えた2人の友情は、真面目な志の輔さんらしくて、説得力がある。振り袖火事とは、荻生徂徠とは。忠臣蔵という演目の人気も含めて、とても丁寧な解説を挟み、ガッテン!の世界になっちゃうのも、この人らしい。

帰りに「福のおすそ分け」として、博多木札(喜富多)ストラップを配ってくれた。サービス精神にあふれてます。

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こがねい落語「元犬」「反対俥」「子別れ」「看板のピン」「品川心中」

こがねい落語特選 新春 温故知新~革新の落語家たち  2018年1月

武蔵小金井駅前の立派なホールの落語会シリーズに足を運んでみた。特選と銘打つだけあって、ハイレベルなラインアップだ。古典、かつ太神楽まで入って寄席・豪華版のよう。お得だなあ。ロビーで地元和菓子店のおまんじゅうを売っていたり、地域密着の雰囲気も楽しい。小金井宮地楽器ホール大ホール、前の方で3500円。

橘家門朗(もんろう、橘家文蔵さんの弟子)が開口一番で、おなじみ「元犬」をしゃきっと。本編のトップバッターは林家彦いちが、会場で「録音を始めます」と電子音が響くとか、空港の「機長が来ていないので欠航します」騒動とかで笑わせてから、「反対俥(はんたいぐるま)」。急いでいるので人力車に乗ったのに、車引きはよたよた、車もオンボロ。仕方なく乗り換えると、今度は元気いっぱいなのはいいが、障害物をものともせず暴走しちゃう。木久扇さん門下らしく、個性的ないかつい風貌とスポーツウエア風のライン入り着物で、一気に。
続く橘家文蔵が、うって変わってなんと「子別れ」下をたっぷりと。正調・人情噺で、父親がいじめっ子の存在にいきりたつあたり、泣かせます。父母それぞれから互いの様子を探られ、いらつく亀がなぜか猪木風になるくすぐりも。文左衛門時代の2012年に聴いて以来の、林家彦六の孫弟子。丁寧です。

というわけで仲入り後の三遊亭遊雀は、「子別れは長いだろ~」、客席の物音に「子別れ中だったら大変よ~」と笑わせつつ、兼好、文楽で聴いたことがある「看板のピン」をさらっと、しかしポイントはしっかりと。初めて聴く噺家さん。1965年生まれで、白髪の風貌と雰囲気がなかなか粋ですねえ。
続いて色物で、鏡味正二郎(かがみ・せいじろう)の太神楽曲芸。72年生まれでキビキビ、ハラハラ。文句なしに楽しい。
トリは本命・喬太郎さん、どうするかと思いきや、北の若旦那とダイコ持ちのギャグを振っておいて、「品川心中」上。女郎・お染がカネに詰まり、仲間に軽んじられるのが嫌さにお客と心中しようとする。お客を選ぶくだり、今日の出演陣の人物評が可笑しい。お客を桟橋から突き落としたところへ、カネが工面できたとの知らせがあり、ひとり店に戻っちゃう。遠浅だったため、お客は死なずに親方のところへ戻り、ひと騒動、さて仕返しは…。現金な女郎の造形がさすがに巧い。充実してました!

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「双蝶々曲輪日記」口上「勧進帳」「相生獅子・三人形」

壽新春大歌舞伎 夜の部  2018年1月

歌舞伎座130年の新春幕開けは、37年ぶり高麗屋3代襲名で大盛り上がりだ。週末は無理と言われたものの、なんとか2階7列のやや下手寄りを確保。2万円。花道は見えにくかったけど、がんばる新幸四郎、楽しみな新染五郎を十分楽しめた~ 休憩3回をはさんで4時間半。

まず2016年に同じ芝翫(当時は橋之助)の濡髪長五郎で観た「双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)」角力場から。登場シーンで、堀江の角力小屋の扉が開くとき、顔まで見えない「大きさ」が格好いい。上方世話狂言の男っぽい側面ですね。前回菊之助だった山崎屋与五郎と放駒長吉の2役は、愛之助。上方世話物らしい鷹揚なつっころばしから、後半は虚勢を張る相撲とりへと、愛嬌があってなかなかいい。遊女吾妻は七之助。

25分の休憩に続いて、いよいよ口上。大御所・藤十郎の紹介に続いて鴈治郎、扇雀、秀太郎、孝太郎、愛之助、梅玉、魁春、東蔵、芝翫、勘九郎、七之助、彌十郎、左團次、高麗蔵、吉右衛門、歌六、又五郎、雀右衛門がお祝いを述べる。白鸚がけっこう喋るのは予想通りとして、一番ウケたのは幸四郎の「この後の襲名狂言が、ことのほか厳しい関となる」との言葉でした。そして目元すずしい染五郎が格好よくて色気がある!

食事休憩の後は、緊迫の「勧進帳」。長唄囃子をバックに、幸四郎の弁慶がことのほか丁寧で一生懸命。堂々とした弁慶役者ではないかもしれないけど、この切なさは嫌いじゃない。初役で義経の染五郎と合わせて、客席が応援モードに包まれるのも、この人独特では。
対峙する吉右衛門の富樫は、威圧感が半端じゃない。四天王もまさかの鴈治郎、芝翫、愛之助、歌六と揃って、いやがおうにも襲名感を盛り上げちゃう。後見にいたっては若手・廣太郎(友右衛門の長男)、ベテラン錦吾(初代白鸚の部屋子)でした~

名作を堪能した後、短い休憩を挟んで打ち出しは華やかに舞踏2題。上「相生獅子」は長唄囃子の石橋物で、艷やか。大名家の大広間で、扇雀、孝太郎の姫二人が、恋に悩むクドキ、扇獅子を使った舞(2017年2月に観た清元舞踊に似ている)、牡丹に戯れる獅子の狂いをみせる。
続く下「三人形(みつにんぎょう)」は常磐津囃子となり、古風でコミカル。箱から人形三体が飛び出し、魂が宿って動き出す。若衆(鴈治郎)、奴(又五郎)が丹前六方の伊達男風で廓通いをみせれば、傾城(雀右衛門)が花魁道中、お座敷の拳遊び。奴の足拍子から、揃っての手踊りで賑やかに〆ました。面白かったです!

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談春「六尺棒」「藪入り」「包丁」

立川談春独演会2018  2018年1月

初エンタメは談春さん。前座もトークも無しで3席をさらさらっと。巧いなあ。幅広い落語好きが集まった紀伊国屋サザンシアターTAKASHIMAYA、前のほう中央のいい席で4320円。中入りをはさみ2時間強。

前座無しでまずは「六尺棒」をさらっと。吉原帰りの道楽息子が、逆に父親を締め出して反撃しちゃうのが滑稽だ。
続いて明治期のネズミ駆除の懸賞制度を説明してから「藪入り」。ネタおろしだそうです。2006年に小朝で聴いたことがある噺。冒頭、奉公している息子の里帰りを心待ちにする父親の愛情が切ない。財布に大金を見つけて激怒するものの、ネズミの懸賞で得たと知ってほっとする。息子も可愛らしいし、素直に泣かせるなあ。

仲入り後は安定の「庖丁」。弟分・寅が2枚目の兄貴・常から、同居している清元の師匠と別れたいので、ひと芝居打とうと持ちかけられる。乗り込んだ寅は、師匠とつまみの佃煮などをめぐってチグハグなやりとりをした挙句、剣突をくらってたくらみを白状しちゃう。逆に師匠と手を組んで、庖丁ですごもうとしていた常をやりこめる。3人が3人とも、小悪党だけど憎めない。こういう人物造形は抜群ですね~

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2017年喝采づくし

ニナガワ亡き後の2017年は、翻訳劇に発見が多い年となりました。ベストは「リチャード三世」! ルーマニアの鬼才プルカレーテが、虚無的なまでの悪を描き、佐々木蔵之介の怪演もあって圧巻でした。ほかに上村聡史演出、麻実れい主演の「炎アンサンディ」が人間の尊厳を、小川絵梨子演出、鷲尾真知子と那須佐代子の「The Beauty Queen of Leenane」が行き詰まる母娘の愛憎を観る者に突きつけ、国内劇団では前川知大のイキウメ「散歩する侵略者」が、不穏な世界情勢を背景に、形のない「愛」の重みを鮮烈にみせてくれた。
定番では野田秀樹作・演出、宮沢りえ主演「足跡姫」が中村勘三郎へのオマージュで泣かせ、大好きな岩松了さん「薄い桃色のかたまり」が、震災の傷跡に蜷川幸雄へのオマージュを重ねてしみじみ。新感線「髑髏城の七人」は大掛かりな360度劇場で、テーマパークみたいに興奮しました~
俳優陣では中嶋しゅうの急逝が残念だったけど、上記作の出演陣に加え、段田安則、黒木華らが実力を発揮。若手の中村倫也、小柳友が楽しみ。

伝統芸能に目を転じると、まず歌舞伎の市川海老蔵が、プライベートの苦労もあいまって、「伽蘿先代萩」仁木弾正、「義賢最期」木曽義賢と凄み、哀切を存分に表現。吉右衛門「奥州安達原」、菊五郎「直侍」という大看板の至芸のほか、襲名を控えた染五郎「鯉つかみ」のケレンも楽しかった。
文楽は呂太夫襲名イベントがあったほか、試練の太夫陣で千歳太夫、文字久太夫が健闘。充実の人形陣では「玉藻前曦袂」九尾の狐などで勘十郎が大活躍し、「逆櫓」では襲名を控えた幸助が躍動。三味線の清志郎も格好よかった。

能は夜桜能「西行桜」や、名月・飛鳥山薪能のスペクタクル「大般若」で季節感を味わう。話題スポットの銀座の能楽堂にも足を運んだ。揺本を読むようになって、少しは理解が進んだかな。

落語は初の寄席で新宿末広亭に足を運んだほか、天満天神繁盛亭では文楽人形とのコラボイベントを体験。ベテラン権太楼「たちきり」や談春「明烏」が印象に残った。

音楽ではクラシックのバイエルン国立管弦楽団で、ペトレンコが初来日。美声フォークトとの「ワルキューレ」第1幕が大迫力だった。来日ではゲオルギュー「トスカ」も古風で味わい深く、METライブビューイングのラドヴァノフスキー「ノルマ」がドラマチック。レヴァインの不祥事は悲しかったけど。開場20周年となる新国立劇場では、グールド&ラングの安定コンビで「神々の黄昏」を堪能。
ポピュラーコンサートが大充実で、なんといっても松任谷由実「宇宙図書館」ツアーはまさかの7列目、ユーミンが目の前で歌っちゃってテンション最高潮。ほかに久保田利伸などがご機嫌だったし、武部聡志の還暦イベントでもユーミン、久保田利伸らが名曲を歌って贅沢。珍しく来日で懐かしいEARTH,WIND&FIRE 、ミュージカルの「天使にラブ・ソングを…」がノリノリでした~

2018年も素敵なステージに出会えますように!

 

 

アテネのタイモン

彩の国シェイクスピア・シリーズ第33弾「アテネのタイモン」  2017年12月

2017年の観劇納めは、亡き蜷川幸雄からシリーズ芸術監督を引き継いだ吉田鋼太郎演出作の千秋楽。観客も俳優陣も、鋼太郎応援モードですね。特に2幕、藤原竜也との論争&取っ組み合いが、役の上でもリアルでも、互いに認め合う雰囲気が伝わって涙を誘う。人はなぜ、真に尊重すべき相手の言葉に、正しいタイミングで耳を傾けられないのか。現代の企業経営に通じるかも。
男性が目立つSSS固定客に、柿澤勇人の女性ファンも加わった感じの、彩の国さいたま芸術劇場大ホール、前のほう中央のいい席で9500円。休憩を挟んで3時間弱。

戯曲は英語圏でも上演機会が少ないとあって、なんだかすっきりしない。研究では若手ミドルトンとの合作とか、実際に上演していなくて未完成だとか指摘されているようだ。笑いとケレンでリズムをつけようとする苦心が伺える。
衰退期アテネの富豪タイモン(吉田)はお人好しで、貴族たちや芸術家、商人に惜しげなく金品を与えていた。ところがついに破産すると誰も助けてくれず、屋敷に火を放って森をさまよう。人間不信に陥り、ひとり耳の痛い助言をしてくれていた哲学者アペマンタス(藤原)、変わらず忠誠を示す執事フレヴィアス(横田栄司)に背を向け、追放された武将アルシバイアディーズ(柿澤)が蜂起して、身勝手な元老院議員が助けを求めてきてもこれを拒絶。激しく怒り、世界を呪いながら死んでいく。
さんざんお追従を言いながら、しれっとタイモンを裏切っちゃう貴族たちはもちろん、散財を止めきれなかったアペマンタス、フレヴィアスにも罪はある。「あの時は誉めてたじゃないか」というタイモンの反論が切なく、誠実とは何かを考えさせる。

吉田はもちろん藤原、柿澤ものっけから声を張り、客席通路を歩き回って気迫の熱演。さしずめ「全員鋼太郎」の様相だ。個人的には「海辺のカフカ」の柿澤が、暗い色気で存在感を示したのが収穫。ほかに詩人の大石継太、貴族の谷田歩や松田慎也、召使の河内大和、松本こうせい、使者の白川大などよく拝見している俳優陣が安定。
俳優たちがウォーミングアップし、吉田が「始めよう」と声をかけてスタートし、前半は屋敷前の白い階段、大量の赤い証文を効果的に使用。貴族たちが次々タイモンを裏切っちゃうくだりでは、入浴シーンなどでテンポよく笑わせ、横一列に並んだ「最後の晩餐」と赤い照明で破滅を印象づける。後半は枯れ枝を敷き詰めた暗い森、巨大な城壁をダイナミックに転換。踊り子たちの色っぽい群舞や、アルシバイアディーズ軍の背の高い旗がアクセントに。墓碑銘が読み上げられた後も、タイモンが後方の高台から世界を睨みつけて幕となりました。

カーテンコールで吉田鋼太郎が蜷川組スタッフへの感謝などを語り、拍手。ホワイエには堀威夫さん、客席には白石加代子さんと、関係者が多い感じでした~

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流山ブルーバード

M&Oplaysプロデュース 流山ブルーバード  2017年12月

観るのは今年3本目の赤堀雅秋作・演出。お馴染み庶民のダラダラした日常と、危うさと背中合わせの「青い鳥」探しを、今回は若手がしっかりとみせる。特に賀来賢人の曖昧さ、暗い色気がはまってたなあ。幅広い演劇ファンが集まった感じの本多劇場、なんと前から2列目中央で7000円。休憩無しの2時間強。

兄・国男(皆川猿時)と実家の魚屋で働く高橋徹(賀来)は、中学以来の親友で土木関係の足立健(太賀)と遊んでいながら、身勝手にも健の妻・美咲(小野ゆり子)と浮気中。そこへ東京で役者を目指していた古川浩一(若葉竜也)が転がり込んできて、隣人のクレーマー黒岩順子(平田敦子)、スナックの美人ママ田畑典子(宮下今日子)と夫・幹夫(赤堀)、それぞれの屈託が交錯していく。さらに近隣では連続通り魔事件が起きており、キレやすい伊藤(柄本時生)とゲーセンで知り合った野宮(駒木根隆介)の噛み合わない会話が、どんどん不穏になっていく…

人当たりのいい徹の、間違っていると知りつつ状況に流されていく態度や、幹夫が駅ですれ違った人に舌打ちしちゃう不用意さは、誰でもちょっと覚えがあること。「俺、見えてます?」という野宮のセリフが、ありふれた生活にひそむ不安を思わせる。だから未明のダイニングで国男が持ち出す、くだらないけど「大事な話」が染みる。
最低なダメ男・賀来に対し、今回の太賀は引き気味だけど、懸命さが可愛く、お約束スナックシーンでは達者なカラオケも披露。小野は透明感が光り、若葉もきめ細かい表情の変化が達者だ。赤堀映画「葛城事件」で知られるほか、NINAGAWA「ロミオとジュリエット」の親友ベンヴォーリオで観た役者さんですね。そして柄本は得体の知れなさが、さすがの存在感。まあ結局、髪を切って、意外にも暴走を封印した皆川が、すべてをもっていくのだけれど。

回り舞台で3つのセットを切り替え、2階の歩道橋も使用。美術は二村周作。プログラムで赤堀自身が「劇中でカラオケを使うことを”アカホリ”って言うようにならないかな」とつぶやいていて笑った。登場人物がやたらとトイレに行くのも定番。トホホ感を印象付けてた。

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ビューティー・クイーン・オブ・リナーン

風姿花伝プロデュースvol.4 The Beauty Queen of Leenane  2017年12月

演劇通の知人の勧めで、目白通り沿いの小さな劇場へ。息詰まる空間での母娘の愛憎が、多面的、かつ悲しく胸に迫る名舞台だ。いったいどこで歯車が狂ってしまったのか。新国立劇場芸術監督就任を控える小川絵梨子が翻訳・演出で、コメディー要素も効いている。100席ほどで濃密なシアター風姿花伝は男性客が目立ち、顔見知りの演劇関係者が多い感じ。中段上手端で5500円。10分の休憩を挟んで2時間強。

戯曲が実に秀逸。「ロンサム・ウェスト」「イシュマン島のビリー」を観たマーティン・マクドナーのデビュー作(1996年初演)だ。アイルランドの片田舎リナーンに暮らす病身のマグ(鷲尾真知子)は、娘モーリーン(那須佐代子)に身の回り一切を世話になっているのに、いがみあってばかり。ある日、レイ(内藤栄一)が親戚の集まりを知らせに訪れ、出掛けていったモーリーンがレイの兄パト(吉原光夫)と再会したことで、破滅へとなだれ込んでいく。
高圧的な母と娘の構図だけど、7月の「Other Desert Cities」とは全く違った。2人の関係は一面的でなく、背景には圧倒的な貧しさや、神父の噂話などが示すコミュニティーの閉塞、出稼ぎの辛苦と差別、病に対する偏見、40歳独身女性の孤独、さらには閉じた空間が招く虐待が横たわる。
実はもたれ合い、かばい合い、だからこそ救いようなく歪んでいく。なんという哀切。閉じこもっているマグの生きる意味は、テレビとラジオぐらい。終幕でマグそっくりのモーリーンが耳にするリクエスト番組が、なんとも皮肉だ。そして揺れるロッキングチェア。

たった4人の俳優がまた素晴らしい。これまではワキの感じだった鷲尾の表情に目を奪われる。どうしようもない年寄りだけど、どこかチャーミングで、切ない存在感。対する那須も「炎アンサンディ」などのワキで観ていたが、これほど美しいとは。惨めな設定なのに凛としていて、ドライな印象がいい。
四季出身の吉原光夫は長身でゆったりした色気があり、海外ドラマのよう。闖入者として持ち込んでくる笑いと、唯一開いた窓のようなアメリカへの切ない憧れが際立つ。「レ・ミゼ」の最年少ジャン・バルジャンや映画「美女と野獣」の吹替の人なんですね。そして今回の発見は内藤栄一。粗雑で欠落の多い造形、飄々としたリズムが舞台をかき回す。松本で串田和美演出の音楽劇に出ていたとか。この戯曲はかつて大竹しのぶ、白石加代子、田中哲司、長塚圭史(演出も)で上演したそうだけど、負けない贅沢さだったのでは。
雑然とした居間兼台所のワンセットで、最小限の照明が効果的。客席通路に扉(美術は島次郎)。

劇場は那須の父が作り、那須が支配人。狭い階段でコーヒーを売っていたり、小さいながら充実している。椅子はさすがに窮屈だけど。今回は年1回のプロデュース公演で、7月に急逝してしまった中嶋しゅうの企画だ。妻・鷲尾さんの素敵さもあり、カーテンコールに涙。客席には生田斗真らしき姿も。勉強してて立派!

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文楽「ひらかな盛衰記」

第二〇一回文楽公演  2017年12月

年末の本公演は恒例で中堅中心。とはいえ休憩1回で4時間と充実。襲名を控えた幸助さんが躍動し、スケールの大きい舞台でした~国立劇場小劇場、やや下手寄り前の方で6000円。

「ひらかな盛衰記」は文楽、歌舞伎で観たけれど、今回は意外に初めての「逆櫓」に至るくだりだ。冒頭、義仲館の段の上演は1988年以来とか。朝敵となってしまった木曽義仲(玉佳)が、巴御前(一輔)と覚悟の出陣。腰元お筆(勘彌)が奥方・山吹御前(清五郎)と一子・駒若君(大人しい勘介)を連れて逃げる。
続く木津宿屋の段はぐっと庶民的になり、靖太夫・錦糸がきめ細やかに。大津の宿屋で、お筆一行と順礼・権四郎(玉也)一家が隣合わせ、駒若君を大津絵であやしたのをきっかけに交流する。追手・番場忠太(玉勢)が踏み込む混乱のなか、暗闇でお筆は駒若君と権四郎家の幼子・槌松を取り違えちゃう。
前半のクライマックス、笹引きの段は、襲名を控えた咲甫太夫と清友が明朗に。お筆が果敢に追手と戦うものの、槌松は殺され、山吹御前も心労からあえなく落命。お筆は笹の枝に亡骸を載せて引いていく。悲壮だけど、ダイナミックな舞踊の要素も。いつも観ていた劇場ロビーの絵画は、このシーンだったんですね。

後半は松右衛門内の段から。権四郎が槌松の行方不明について語ったところへ、婿の松右衛門(颯爽と幸助)が帰宅。権四郎直伝の逆櫓の技術のおかげで、義経の船頭に起用されそうだと喜ぶ。
激情が交錯する奥は、呂太夫・清介が渋く。お筆が訪ねてきて槌松の死を打ち明け、駒若君を取り戻そうとするので、身勝手さに権四郎は激怒。すると奥から松右衛門が登場し、実は義仲四天王のひとり、樋口だと正体を明かして、権四郎に頭を下げる。権四郎も激しく嘆きつつ、なんとか納得し、皆で槌松を弔う。
大詰め逆櫓の段は、海、船、松と装置が大掛かりで、怒涛の展開だ。清志郎の三味線が格好いい! 樋口は勇壮な「ヤッシッシ」の掛け声で、逆櫓を稽古。義経側についた船頭たちを蹴散らすものの、鐘や太鼓が響いてきて、松に登って物見すると、周囲はすっかり敵だらけ。実は権四郎があえて訴人して、駒若君を救ったのだった! 樋口は若君に別れを告げ、権四郎が弘誓の舟唄で送って幕となりました。あ~、面白かった。

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