名手久詞LIVE

名手久詞 昭和50年50歳 Special Birthday Live 2025年11月

ピアニスト、ナッティさんのバースデーライブで南青山MANDALAへ。サポートしているGospelチームのメンバーで満員だ。休憩無しでたっぷり3時間。5000円にドリンク、おつまみを追加して7100円。
ご本人の弾き語り、ハーモニカをまじえた「ピアノ・マン」でスタート。 GGB新宿(Dir.長谷川繁)がお馴染み「Fire」で勢いをつけ、後藤美幸&Miyuki Family Gospel Singersが「When I Think About The Lord」を熱唱。メンバーもそれぞれ巧い。水帆&Shout Praise+は男性ソロのあと、「Hallelujah Salvation&Glory」で聴衆を巻き込み、サプライズで奥さん、お嬢さんからの花束贈呈。最後は司会を兼ねていた横浜 Fun★key Singersが昭和歌謡と洋楽をつなげたり、CMソングを畳みかけて笑い一杯。ラストは皆で「That's What Friends Are For」を歌ってお開きでした。

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my&Jennie

my&Jennie 15th Anniversary Live "Gratitude" ~東京編 2025年10月

激しい雨のなか、四谷駅にほど近いライブハウス「Sound Creek Doppo」へ。ピアノの高橋麻衣子とカホンのJennie藤田(藤田紗耶可)によるインストゥルメンタル・デュオ。お洒落なオリジナル曲で、森や星の景色が目に浮かぶ演奏を楽しむ。休憩を挟んで2時間弱。前売り3500円。
それぞれが様々なミュージシャン・アーティストのサポートを務めるなど、北海道内各地で幅広く、精力的に活動中。パーカッションの切れが良い。休憩後はゲストでヴァイオリンの小夜子が参加。楽しかった~

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星野源 MAD HOPE

Gen Hoshino presents MAD HOPE  2025年10月

星野源の6年ぶり、半年にわたるツアー。抽選に外れたり、当選したのに日程が合わなかったり、いろいろあった末、アジアツアーをへた追加公演最終日のKアリーナ横浜を、奇跡的にゲット。崖のような上層階を覚悟して入場してみたら、なんとアリーナ前のほう上手寄り、A3ブロック7列で、星野源が目の前に… 何が起こったのか。早めに着いてTシャツを着込んで、たっぷり3時間。シンプルなセットと照明の変化で、ひたすらお洒落でビートが効いていて、完成度の高いナンバーを堪能しました。

全国47都道府県、海外15都市でのライブビューイングも実施されていて、スペシャルな日だったけれど、妙な気負いはない。冒頭、自ら脚本を書いたというボイスドラマ(サル、カッパ、ヒトの会話。声優は宮野真守、種﨑敦美、安元洋貴)で「自分が存在する意味を見つけたってそこに幸せはない。地獄に落ちることはない、今ここが地獄だから」と言い切り、中央から白基調のパーカの星野がせり上がって「地獄でなぜ悪い」。2024年紅白で歌えなかった経緯もあるし、ただ音楽を楽しむというメッセージが明快。
「朝までやるよ」とおどけながら、大好きな色気っぽい「Ain't Nobody Know」から、ご機嫌な「Pop Virus」の流れが最高。ラップのMC.Waka(オードリーの若林正恭)もビデオで書き下ろしリリックを披露。ニューアルバム「Gen」からミラーボールきらきらの「Eden」などを挟み、「人生を変えた2曲」と紹介して「恋」「SUN」を連発、ちょこっと恋ダンスのサービスも。
ビデオで赤えんぴつ(バナナマンのフォークデュオ)が「OBEN ふんばれ」トーク、おげん作で微妙に格好良い「色えんぴつ」を歌ったあと、星野は自転車でセンターステージへ。アコースティックギター弾き語りで1stフルアルバムから可愛い「子供」、ずしんと「暗闇」。細野晴臣、亡き初代ディレクター東榮一への感謝を語って「くせのうた」。「悪いことは重なるなあ」… 満員の2万人が静まりかえる美しい時間。
インターバル映像で「The Shower」インストバージョンにのせ、今までのPVを振り返る。いやーホント、いてくれてよかったよ。舞台に戻って赤い照明、重量級の「Sayonara」、スモークのなかギターバトルの「Mad Hope」、「Star」、ドラムソロから「2」でYounjiのビデオをまじえつつ、聴衆を巻き込んでがんがん盛り上がる。ボイスドラマと「助けてー!ドラえも~んー!!」のコールも楽しく、「喉がほこりっぽい」と言いながらも難曲「創造」で存分に疾走し、「星野源のライブにはアンコールがあります」と笑わせてから、思い切り「HalloSong」で本編終了。
再びボイスドラマでサルたちが「すべては消える。だから今このどうでもいい一瞬を楽しむんだ」と語り、アンコールはお約束、盟友ニセ明が黒ジャージで。今年リリースした、まさかのメジャーデビュー曲「Fake」はビデオでハマ・オカモト(ウソノ晴臣)、宮野真守(アイドル雅マモル)、上白石萌音(マネ)が登場。アジアツアーの面白エピソードをしゃべり、爽快に「WeekEnd」をカバー。ニセさんがこんなに面白いと思わなかったな!
そして「構成・星野源」に至る長いエンドロール後、着替えていよいよ〆のMC。「この6年、本当にいろんなことがあって心からうんざりして。音楽を作っているときだけは楽しかった」の吐露は、コロナのことか社会状況かプライベートなのか、痛々しいほど。こんなに才能があるってどんな人生なのか。「これからもたくさん音楽を聴いてください。あなたがどん底にいるとき、僕はそこにいるから」と語って、名曲「Eureka」でしみじみエンディング。「ラララ」のシンガロングが染みた~

バンドは長岡亮介(ギター)をバンマスに、三浦淳悟(ベース)、伊吹文裕(ドラム)、櫻田泰啓(キーボード)とストリングス(美央、伊能修、二木美里、村中俊之)、ホーン(武嶋聡、佐瀬悠輔、池本茂貴)。特効テープを2回ともゲットしちゃったりして大満足。でも最後の深ーいお辞儀と「さようなら」に、しばらく音楽はお休みということかなー、星野ファンというより音楽ファンというこの空気は貴重なのになー、と妙に感慨に浸りました。
以下セットリストです。

1,地獄でなぜ悪い
2,化物
3,喜劇
4,Ain't Nobody Know
5,Pop Virus feat. MC.waka
6,Eden
7,不思議
8,恋
9,SUN
 赤えんぴつからのビデオメッセージ
10,子供
11,暗闇
12,くせのうた
 When did you get into Gen Hoshino?
13,Sayonara
14,Mad Hope  feat. Louis Cole, Sam Gendel,Sam Wilkes
15,Star
16,2 feat. Lee Youngji
17,ドラえもん
18,Melody
19,創造
20,異世界混合大舞踏会
21,Hello Song
アンコール #1:
22,Fake by ニセ明
23,Week End by ニセ明
アンコール #2:
24,Eureka

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私を探さないで

M&Oplaysプロデュース 私を探さないで   2025年10月

大好きな岩松了作・演出の新作はぐっとスタイリッシュ。幻想的なセットに、いつまでも忘れられない記憶の断片が息づく。あの言葉は果たしてどんな意味だったのか、自分は何を言えばよかったのか、少女を見つけることができるのか… 失踪した少女を演じる河合優実が、すらっとした立ち姿、つかみ所のない軽やかさで魅力的だ。いっぱいの本多劇場、中央のいい席で8500円。休憩無しの2時間。

婚約を機に海辺の町に帰ってきたアキオ(活地了)が、高校時代の教師で今は作家となった大城(小泉今日子)と十年ぶりに再会。大城の朗読会の準備が進むなか、彼らの前にずっと行方不明のままの三沢晶(河合)が姿を現わして、互いに言わずにきた言葉があふれ出す…
町から船でほど近いところに無人島があって、町そっくりのもう一つの町が、廃墟となって取り残されている。そんなパラレルワールドめいた設定が想像をかきたてる。時空がゆがみ、10年前のワンシーンが今そこで再現されても不思議はない。抽象的な壁やカーテンを動かして、本土の町と島、現在と過去とをシームレスにつなげていく。意味深な二つのグラスや、ラストの堤防でぱあっと視界が開けるのもお洒落。美術は愛甲悦子。

近くにいる人より離れている人の方が「存在」している、出会いできちんと名乗ってくれたから特別な人になった… いつもながら独特のセリフのそこここに引き込まれる。スマホのアラームや呼び出し音が、言いかけた言葉をたびたび遮るじれったさも効果的。こんな緻密な戯曲を2カ月で書いちゃうなんて。
岩松作品ではお馴染み、勝地が堂々の主演ぶり。17歳の時から大人びていた一方で、それゆえ大城と晶に翻弄される戸惑い、繊細さがいい。お馴染み小泉は、とても教師にはおさまらないだろう個性、そんな自分を持て余して後悔だらけ、という切なさが盤石。2024年「メディスン」などの達者な富山えり子が、大城の助手役で関係をかき回し、狂言回しの岩松さんは、まさかのそっくり兄弟2役で笑いをとる。アキオのクラスメートに篠原悠伸と、24年「峠の我が家」などの新名基浩。

客席には宮沢氷魚さん、23年「カモメよ、そこから銀座は見えるか?」の黒島結菜さんの姿も。

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ここが海

ここが海 2025年10月

楽しみにしている加藤拓也作・演出。いつもながら繊細に、人が人をわかりたい、受け入れたいとするのに、思うに任せない焦燥を描く佳作だ。難しい芝居だと思うけれど、橋本淳、黒木華がとんでもなく高水準にナチュラルで、じんわり涙する。アミューズクリエイティブスタジオ企画・製作。秋祭りで賑わう三茶、シアタートラムの前のほう下手寄りで1万1500円。休憩無しの1時間40分。

ライターの岳人(橋本)、友理(黒木)夫妻は、ノマドスタイルで日本各地のホテルを転々としながら、取材・執筆している。ネット高校で学ぶ娘・真琴(中田青渚、せいな)をまじえ、友理の誕生日祝いに出かけようとしたある日、岳人は友理から「性別を変更する」と告白される…
夫婦は同業で社会意識が高く、会話の密度も濃い。繰り返し「え、なんでそうなるの」と指摘し合いながら、なんとか互いを尊重し、つながりを維持しようともがく。トランスジェンダーを中心にすえつつ、表現される感情はそれだけではない。1人ひとり、そして夫婦、父娘、母娘それぞれの関係も変化して多面的だ。

橋本、黒木の巧さはもちろん、中田がはつらつとしていい。海辺のリゾート、雪振りしきるロッジという設定のお洒落さや、中田が菓子の包みをソファの隙間に押し込んじゃったりするギャグで、ひりつくテーマが重くなり過ぎない。
それにしても2023年「いつぞやは」でも観た加藤・橋本コンビは盤石だなあ。タイトルは序盤で橋本が、水槽の魚に囲まれるからアクアショップは苦手、と言ったことに通じるのか。想定外の「海」に放り込まれてからも、人生は続いていくのだ。

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ラ・ボエーム

ラ・ボエーム  2025年10月

新国立劇場2025/2026シーズンの幕開けは、鉄板プッチーニ。とろけるような美しい旋律で、気持ちよく泣く。明朗テノールのルチアーノ・ガンチ(ローマ出身)はじめ、歌手は粒ぞろいで息もピッタリ。7月にお話を聴いた粟國淳さんのプロダクションも、なんと上演8回目という大定番で、私が観るのは2020年コロナ直前以来。照明の変化などが端正で、わちゃわちゃする若者の微笑ましさと、悲恋のドラマが際立つ。
指揮はイタリアオペラを知り尽くしたと言われるパオロ・オルミがじっくりと。オケは東フィル。オペラハウスの下手中段で、解説会・プログラム込み28000円。1幕ほぼ30分とテンポよく、休憩2回で3時間。

詩人ロドルフォのガンチは期待通り、まさに今が旬。第一声からガツンとハリがあり、甘く輝かしく、コロンとした体型とあいまって、これぞテノールだ。2026年も来日予定がありそうで楽しみ。対するグリゼット(お針子)ミミのマリーナ・コスタ=ジャクソン(ラスベガス出身)はドラマティックな歌声、派手な顔だちで存在感がある。注目のソプラノで、3姉妹みなオペラ歌手とか。親友の画家マルチェッロはマッシモ・カヴァレッティ(ルッカ出身のバリトン)。大柄&髭、安定感抜群で演技もきめ細かい。2013年スカラ座引っ越し公演のファルスタッフで、フォードを演じた人なんですねえ。その恋人ムゼッタの伊藤晴(いとう・はれ、「夢遊病の女」で聴いた藤原歌劇団のソプラノ)も堂々、2幕ははすっぱに弾けて、4幕は優しくしっとり。
哲学者コッリーネは痩身アンドレア・ペレグリーニ(パルマのバス)で、「古い外套よ」が泣けた~ ほかにいずれもバリトンで、音楽家ショナールは駒田敏章、大家ベノアは志村文彦、パトロンの議員アルチンドロは晴雅彦。新国の合唱団と世田谷ジュニア合唱団が2幕に活躍し、指導は冨平恭平。

それにしても1896年初演、19世紀パリの青春物語は不朽の名作だと再確認。貧しくても夢がある若者たちの未熟さ、仲の良さと、別れの悲しみのコントラストにもっていかれる。トランペットが印象的な「カフェ・モミュス」などの動機や、名アリア「冷たい手を」「私の名はミミ」「私が街を歩くと」の旋律がそこここに。
そして演出が曲の魅力を存分に引き出す。イブのカルチェラタンの賑わいでは、粟国さんが「機械仕掛けより味わいがある」と言っていたように人力でセットを移動。アンフェール関門に降りしきる雪は、オケもしんしんと凍えそう。余談だけど後ろの席に初オペラらしい学生たちがいて、1・2幕後は「予想の3倍の長さだ」と音を上げかかっていたのが、ラストには「面白かった」と。よかったよかった。

また今回、事前にグリゼットの解説があり、勉強になった。いわく地方出身で独り暮らしする若い女性労働者全般を指し、やがてキャバレーの踊り子にもなった、1905年初演「メリー・ウィドウ」には貴族の奥方たちがキャバレー「マキシム」でグリゼットに扮して騒ぐシーンがある、その源氏名はドドとかジュジュとか同じ音を重ねる習慣があった、と。それでミミなんだ!と今更ながら納得。プッチーニとほぼ同時代のルノワールは母、妻がお針子で、よくグリゼットを描き、プルーストが「ルノワールの女性たち」と呼んだ、代表作「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」は当時の風俗を描いていて、ボヘミアンやグリゼットが集まる2幕に通じる、とも。なるほどー

カーテンコールではガンチがまさかの動画自撮り! お楽しみ終演後の懇親会は、なんとマエストロと主要キャストが勢揃いで、びっくり。皆さん仲がよさそうで、しゃべって呑んで食べて、めちゃくちゃ楽しかったです~

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談春「宮戸川」「棒鱈」「百川」

「白談春・黒談春」立川談春独演会  2025年9月

18年ぶりの企画で「黒」は落語通、「白」は初心者を狙ったとのこと。あまり意識せず、知人を誘って日程が合った2日目の「白」を聴く。もうすぐ還暦の談春が、自家薬籠中の演目をさらっと。聴衆も含め、肩の力が抜けてきた感じで楽しめた。意外にも談春さん2年ぶりという浅草公会堂、前のほう上手寄りで4500円。仲入を挟んで2時間。

いつも通り前座無しで、まず「宮戸川」。押しの強いお花ちゃん、早合点の叔父さんとファンキーなお婆さんで爆笑。続いて何度も聴いている「棒鱈」。田舎侍の12カ月の唄が大らかで、気持ちよく笑わせる。
仲入を挟んで、こちらもお馴染みの「百川」。滑り出しは江戸っ子が田舎者を揶揄する演目の連続かなと、ちょっと気になったけれど、百兵衛さんの訛り、それをどんどん誤解する河岸の若いもんの粗忽さが愛すべき滑稽さ。あきれながらも、ズレをまるっと笑いで包んじゃう。落語っていいなあ。会場全体で記念撮影して、終演となりました~

知人と賑やかな浅草をぶらぶらし、噺に登場する通りを江戸古地図で見せてもらいつつ楽しく打ち上げ。

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講談「星野勘左衛門再仕官」「荒大名の茶の湯」「御神酒徳利」

東池袋の噺小屋 長月の独り看板 神田春陽  2025年9月

大好きな春陽さんの独り看板シリーズも7年目とのこと。任侠ものも怪談もいいけど、今回はちょっと趣向を変えて落語ネタ。爆笑につぐ爆笑で、明るい一夜となりました。あうるすぽっと、前の方の良い席で3900円。仲入を挟んで2時間。

前講で弟子の神田ようかんが「星野勘左衛門再仕官」を明朗に。「三十三間堂誉の通し矢」で知られる尾張藩弓役の若き日。
春陽は2015年以来の「荒大名の茶の湯」でパワー全開。「茶の湯」「荒茶」のタイトルで志の輔らの落語でも聴いたけど、元は講談とのこと。秀吉亡き後、家康軍師の本多佐渡守が恩顧の7大名を味方につけようと茶の湯に招く…という軍談だけど、この1編は無骨な7人の見よう見まねが、笑えるやらバッチイやら。いつもの歯切れ良い語り口で抱腹絶倒。

このシリーズは助演も楽しみで、仲入後はヴォードヴィリアンの上の助空五郎が登場。初めて聴くけど、ダービーハットでウクレレをつまびき、ジャス、ボサノバ、かと思えばタップを踏む。さらさらと力が抜けていて、ちくりと反骨もあり、洒脱でいい。1978年髙山生まれだそうです。
そして春陽の後半は「御神酒徳利(おみきどっくり)」。六代目三遊亭圓生が上方の五代目金原亭馬生に習った噺だそうで、春陽は三遊亭歌奴に教わったとのこと。日本橋馬喰町の旅籠屋の番頭・善六が大掃除の日、家宝の御神酒徳利を、盗まれては大変と台所の水瓶に隠したところ、すっかり失念して大騒ぎに。妻の機転で生涯3度の「そろばん占い」で見つけた、と言いつくろって窮地を脱する。ところがこれを知った鴻池の支配人から占いを懇願される羽目に。断り切れず大坂に向かう途中の神奈川宿でも… 善六がなんとか逃げちゃおうとするさまが可笑しく、解決策が転がり込んでくるラッキーが小気味よく、親孝行な女中を思いやる優しさもあって爽快。教わった落語は30分ほどだったのに、1時間近く熱演したというのは後日談でした~
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最後のドン・キホーテ

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「最後のドン・キホーテ  THE LAST REMAKE of Don Quixote」  2025年9月

商業演劇40年周年というケラリーノ・サンドロヴィッチの作・演出は、期待を裏切らない新作だ。小劇団の芝居で急きょドン・キホーテ役を頼まれたクリンクル73歳が、キホーテになりきって放浪の旅に出ちゃう。その世界はなにやら不穏で、時空が歪んでいて…
現実と妄想が交錯するメタ構造、そして権威をひっくり返す奔放なカーニバル性。17世紀初頭の出版から累計5億部、意外にも聖書に次いで読まれているという小説のリメークだ。ケラさんといえばチェーホフやカフカ、別役実などのアレンジを観てきたけれど、ドン・キホーテって最もぴったりの題材かも。
遠く爆撃音が響く同時代性に加え、テンポ良くシュールな笑いが連続して、休憩を挟んで4時間近くをさして長く感じない。なによりクリンクル役の大倉孝二が、持ち前のチャーミングさを発揮して舞台を牽引する。なんて素敵な俳優なんだろう。ちなみに、くちゃくちゃっと台詞が怪しくなったり、歌の歌詞が飛んだりが繰り返されるんだけど、これ、大倉のイメージだなあ。
そんなナンセンスとファンタジーの果てに、どんなに専横をきわめても、最後は誰しもただ死んでいくだけ、というリアルに不意を突かれる。切ない余韻。いっぱいのKAAT大ホール、前のほうで1万円。

いつもながらキャストは豪華で、群像劇の趣だ。クリンクルを追う演出家に安井順平、相棒の俳優に菅原永二、女優に「無駄な抵抗」などの清水葉月、常連客の少年に木ノ下歌舞伎で観た須賀健太、探偵に武谷公雄。一方、放浪先でかいがいしくクリンクルを世話する看護師(ドルシネア姫)に咲妃みゆ、怪しい医師に音尾琢真、共謀する牧師に山西惇、ピュアな果物屋に「ジャジー・ボーイズ」などの矢崎広。そして犬山イヌコが演劇プロデューサーやクリンクル家の乳母、緒川たまきがあっけらかんとした劇場の売り子、高橋惠子が自伝まで書いている恐ろしげなテロ犯やクリンクルのクールな妻を演じて、いずれも盤石です。とんでもファンタジーをねじ伏せる実力。
元宝塚娘役の咲妃は初めて観たけど、まっすぐな声、立ち姿が凜としていい。いきなり歌いだしても説得力があるし。また安井が公演中止の窮地に追い込まれているのに、クリンクルの幸せな妄想に感化される常識人を存分に演じて魅力的。何かとデニーロを持ち出すマイペースな菅原とのコンビが、いいバランスだ。須賀健太に不思議な存在感があり、70歳の高橋は思い切りがよくて、さすがの貫禄。

巨大シーリングファンから下がる幕が回転して、手前の紗幕とともに大規模に映像を展開(美術は松井るみ、映像は上田大樹)。緻密なステージング(小野寺修二)と生バンド(音楽とトランペットの鈴木光介ら)の高揚感もお馴染みだけど、こうした大がかりな仕掛けは今回が集大成で、しばらくは封印するとか。ちょっと残念な一方で、新機軸も楽しみだな。
いつも凝っているプログラムは今回、小さい判型でなんと500ページ近い。ケラはインタビューで「演劇だと、大事なこと/大事じゃないこと、意味のあるもの/意味の無いものを等価に混在させることができる」と語る。確信あるごちゃ混ぜ感、いい言葉だ。
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歌舞伎「菅原伝授手習鑑」

秀山祭九月大歌舞伎 昼の部Aプロ 2025年9月

凄い舞台に出くわしてしまった。言わずと知れた丸本の三大名作、通し狂言「菅原伝授手習鑑」。吉右衛門ゆかりだと夜の「寺子屋」なんだろうけど、ここは御年81歳、15代目片岡仁左衛門の極め付け菅丞相を、と歌舞伎座へ。
まあ2010年、2015年にも観たしな、と思っていたら、ひときわ神々しく、そして幕切れの花道の引っ込みで頬にまさかの涙。歌舞伎役者が泣くのはあくまで演技、といった聞きかじりを超越した名優の存在感。花道すぐ脇、下手側のいい席だったこともあって圧倒されました~ ほかのキャストもオールスターで、舞台ならでは一期一会の感動を味わう。1万8000円、休憩2回で4時間半。

明るく長閑な「加茂堤」で中村歌昇の桜丸、妻・八重の坂東新悟が笑わせたあと、休憩を挟んで「筆法伝授」。学問所の場で御簾があがり、しずしずと仁左衛門が登場。Bプロでは菅丞相を演じている松本幸四郎が、「伝授は伝授、勘当は勘当」で畏れ、嘆く。悲運を悟って源蔵を巻き込むまいとする菅丞相。まさに伝授を目撃する思い。
門外の場で中村橋之助の梅王丸がきびきびと一子・菅秀才(中村秀之介)を救いだす。御台所・園生の前に心優しい中村雀右衛門、源蔵妻・戸浪に中村時蔵、敵側の三善清行にきびきび坂東亀蔵。源蔵を邪魔する下世話な希世の市村橘太郎が、コミカルでいいアクセントだ。

長めの休憩のあと、いよいよ「道明寺」。丞相暗殺を企む偽の迎えに、人形が身代わりとなるシーンで、仁左衛門は瞬きしないどころか、全く足下を見ずに段を降りていく。どれだけ鍛錬し続けているのか。生身の俳優が見せる奇跡。そして本物の迎えがきて養女・苅屋姫(尾上左近)との別れでは、目を合わさずに肚(はら)で哀切を表現、としつつ静かに涙。知人によると初日から涙だったそうです。
苅屋姫は浅はかにも斎世親王と駆け落ちし、菅丞相左遷を招いたことで自らを責めている。すでに姉・立田の前(安定の片岡孝太郎)はこともあろうに敵側となった夫・宿禰太郎(尾上松緑)の手にかかり、この先も菅丞相ひとりのためにいくつもの死が待つ運命を思わずにいられない。
弱冠19歳の左近がなかなかの姫さまぶりをみせ、父の松緑は憎々しいけど、出てくると歌舞伎らしさが増す感じ。三婆に数えられる気丈な伯母・覚寿の中村魁春は意外にも初役だそうで、歌右衛門も演じていないとか。化粧は年配のほうが合っているかな。奴宅内の中村芝翫がコミカルにひと息つかせ、判官代輝国の尾上菊五郎はあくまでりりしく。さらに敵側・土師兵衛に中村歌六と贅沢でした。

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