危険なワルツ

危険なワルツ  2026年3月

大好きな岩松了作・演出の新作。かなわないと分かっているのに、夢をみてしまう人間の愚かしさ、だからこその可愛さが胸に染みる。主演の松雪泰子が変わらず凜と美しく、ドラマ「シナントロープ」がよかった坂東龍汰も切ない色気を発揮。新国立劇場小劇場の前のほう中央で8500円、いつもの濃密な会話劇にアクションが加わって、休憩なしの1時間45分が長くない。

山の上、龍臣(岩松)吟子(松雪)夫妻が住む屋敷前の洒落たワンセット。電気工事に来ていた一寿(坂東)が、勤め先の社長の娘・遙(但馬智)と別れて転がり込んできて、どんどん吟子と怪しい関係に。一方、龍臣は悪友の溝口(東京乾電池のベテラン谷川昭一朗)を、任せていたふもとのスーパーから追い出そうと画策する。吟子と一寿が手に手をとって旅立とうとするところへ、苛立つ溝口がやってきて事態が一気に緊迫し…
岩松作品はときに真偽不明、登場人物が実在するのか幻影なのかさえ曖昧だったりするけれど、本作は設定が割にシンプルでわかりやすい。龍臣と溝口は若い頃、ともに無茶をしたチンピラ仲間で、吟子はマドンナ。でももう若くない。しかも溝口は龍臣に使われていて、可愛い娘リサ(中村加弥乃)を実力者の愛人にしかかっている。やり直せないと重々わかっているのに、もがく、それぞれのチリチリする思い。時折通る列車や、遠くで響くベースの砲弾の音が焦燥をかきたてる。

俳優陣は皆、お馴染みの緻密なセリフを達者にこなす。松雪があえて危険な魅力を振りまき、坂東の等身大だけど、ちょっと得体の知れない感じと絡み合って効果的。あれよあれよと破滅へなだれ込んでいくドラマのなかで、ひとり溌剌とした中村がいいアクセントだ。
プログラムの座談会で坂東が、2018年に観た岩松さんの「三人姉妹はホントにモスクワに行きたがっているのか?」を振り返って、「若い役者ばかりだったので蹴落とし合いみたいで、正直舞台って少し怖いなと思った」と発言しているのにびっくり。バックステージは聞いてみないとわかりません。
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退屈忍者

MONO第53回公演「退屈忍者」  2026年3月

昨年の「チェーホフを待ちながら」が面白かった土田英生作・演出の、設立37年となる劇団公演。いろんな仕事がAIに脅かされる今、時代遅れの者たちが見せるなけなしの勇気を、軽妙かつシニカルに描くコメディだ。31年在籍した尾方宣久が昨年、退団・引退して痛手とのことだけれど、呼吸は絶妙です。いっぱいの吉祥寺シアター、前寄り中央で4800円。休憩無しの2時間。

寺を装った、ちゃちなからくり屋敷のワンセット。四代将軍家綱の治世の信濃で、甲賀の末裔・伴正信(奥村泰彦)が率いる埴原(はいばら)衆は、代官・小宮(土田)の命で名主・又五郎(渡辺啓太)ら村民を監視している。といっても世は泰平、配下の静尼(髙橋明日香)、百姓として暮らす茂助(水沼健)、吉兵衛(金替康博)はのんびりしたもので、張り切っているのは元巾着切りのお久(立川茜)くらい。ところが正信がこともあろうに又五郎の妹・お貞(石丸奈菜美)と禁断の恋に落ちて…

テンポが良く、心中騒ぎの薬で鼻のあたまが黒くなるとか、小宮がかつて静尼に振られたことに気づいていないとか、くすっと笑いつつ、それぞれが抱えるコンプレックスが切なくて、身につまされる。責任を負いながら力不足を自覚している焦燥、逃げ出したいけど今さら別のこともできないという諦念。目の前のワルを倒せたって、きっと幾重にも黒幕がいて何も変わらない、というセリフや、なんとも苦々しいラストがリアルだ。黄昏の照明が染みるなあ。
1992年生まれの立川が溌剌とし、腐れ縁という設定の水沼と金替がいいコンビだった。

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北海道×東京コラボレーションLive

my&Jennie×高井麻奈由×住吉貴行×伊勢賢治Live  2026年3月

観劇帰りに四谷のライブハウスMebius(メビウス)へ。昨秋聴いたピアノ高橋麻衣子とカホンJennie藤田(藤田紗耶可)のインストデュオmy&Jennieを再び。オリジナル曲のリズムと爽やかさは相変わらずだ。今回はプロデュースやユーミンのバックなどを務める伊勢賢治のリードで、伊勢、そしてアルバムリリース直後という住吉貴行のサックス2人が加わって、ますます格好良かったかも。3500円+ドリンク2オーダー。
前半は伊勢(歌で「真夜中のドア」も!)、住吉のサックスソロと、ピアノ弾き語りの高井麻奈由がジョイントを含めて数曲ずつ。休憩を挟んでmy&Jennieが疾走感あるオリジナルをたっぷりと。伊勢以外は北海道がベースという共通点があるんですね。楽しかった~

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われらの血がしょうたい

範宙遊泳「われらの血がしょうたい」  2026年3月

作・映像は2022年岸田国士戯曲賞受賞の山本卓卓。演出・音楽は1992年生まれ、ヌトミック主宰の額田大志。なじみのないクリエーターにチャレンジしたくて足を運んだ。SNSへの投稿を残して行方不明になった母がある日、家電の人工知能「ザマ」として現われる… 2015年初演作の発想に、昨今のAI事情が追いついてきた感じ。詩のようなセリフはちょっと苦手で、休憩なし1時間45分が長かったかな。演劇関係者が多そうなシアタートラム、整理番号順に席を選ぶ形式で4800円。

文字や絵文字の投影を多用したディズトピアSF。むしろ新興住宅地に建った家が中古物件となり、空き家となって朽ちていくさまが印象的だった。「土地の記憶」のような開かずのクローゼットは、膨大な情報が降り積もるサイバー空間を思わせる。
よっちゃんの端栞里(南極)、幼なじみノリくんの植田崇幸がコンテンポラリーダンスもこなして健闘。ほか若社長に福原冠、家事代行のイノウエさんに井神沙恵、中古物件を探す人に埜本幸良。アートディレクションはたかくらかずき。

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古典芸能フェス!

第九回常フェス特別公演「古典芸能フェス!」 3部 2026年2月

2023年秋に閉場した国立劇場のステージや楽屋を使って、浄瑠璃などを上演する面白い鑑賞会に足を運んだ。地下鉄駅からのアクセスやロビーなど、もはや懐かしい。けれども立派な外観から小劇場の客席まで、ほとんど変わっていなくて、なんとももったいない思いを強くする。公演は常磐津を中心に多彩な古典芸能がベテランから若手まで集結し、お祭りらしくて面白かった。4000円。

常磐津の無題の会が主催してきたというフェス形式を採用、正午スタートからの3部制で通しチケットもある。小劇場のステージ上と「国宝」ロケに登場した楽屋、ロビーの3カ所に椅子を並べて同時進行。聴衆は出入り自由で3カ所を移動しながら、気になる演目を楽しむ趣向だ。出演者も廊下をうろうろ、お馴染みと雑談したりして、とてもカジュアル。

まずはステージで大人数の定番「三番叟」。女流義太夫の竹本京之助、人間国宝・鶴澤津賀寿、常磐津の和英太夫、仲重太夫らの掛け合いを、邦楽囃子の鳳聲月晴(笛方・江戸里神楽若山社中)、望月大貴(太鼓)らがテンポ良く支える。
楽屋に移動して常磐津「俳諧師」を、浄瑠璃の仲重太夫、仲寿太夫、三味線の紫十郎、三都貴、都史で。四世歌右衛門初演だそうで、通人から見た江戸の景色、仮宅の遊郭風情が遊び気分たっぷり。洗面台が付いている畳の大部屋は、襖で仕切ってもギャラの取り分の会話が聞こえてきた、なんてエピソードも。
ロビーに移って地唄「黒髪」を生田流の谷藤愛美と大友美由奈、月晴でこぢんまりと。地歌は文楽や歌舞伎から独立した上方の古い舞踊曲で、中棹三味線(三絃)を使い、箏などとの合奏(三曲合奏)もあるとか。「黒髪」は雪の一夜、伊東祐親の娘・辰姫(大河ドラマの新垣結衣ですね)が髪を梳きながら、政子に譲った恋人・源頼朝を思い、時が移ろって白髪交じりになるという内容。誰もが知っている設定だったと実感。

ステージに戻ると義太夫「裏門」の後半。やはりドラマチックな義太夫は文楽で聴き慣れているし、忠臣蔵だしで好きだなあ。続いて日本舞踊の難曲「山姥」を篠塚瑞桜(ずいおう、京舞のベテラン)で。春から冬へ山を巡る鬼女を静かに描く。常磐津は浄瑠璃が仲重太夫、千寿太夫、仲寿太夫、三味線が都史、紫十郎、美寿郎。京舞は上方の座敷舞で能の影響が濃く、すり足での旋回が中心だそうです。
場面転換があり、がらりと雰囲気が変わって稲沢茉梨の津軽じょんがら節を導入に、お楽しみトークへ。児玉竜一演博館長、国立劇場の制作だった神山彰明大名誉教授、和英太夫が登場。音響が悪くて聞き取りにくかったのが残念だったけど、公営劇場のプログラム構成の考え方など裏話もちらりと。
そしてフィナーレは常磐津と長唄のスリリングな掛け合いで、お馴染み「道成寺」を華やかに。常磐津は仲重太夫ら、長唄は杵屋勝栄治、直光らがずらり並び、お囃子も大勢で緩急自在。三味線バトルもたっぷりで大いに盛り上がりました~

ロビーに大津の丸二果実店が出店していて、ドライフルーツ入りグラノーラバーを購入。下北の焙煎所atelier OHAGIもコーヒーを売っていたようです。
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フィガロの結婚

Bunkamura Produce2026 モーツァルト・オペラ「フィガロの結婚」 2026年2月

加藤浩子さん主催の大盛況の鑑賞会で、昨年に続き鈴木優人&バッハ・コレギウム・ジャパンのオペラへ。満載のヒットメロディーとテンポのいい指揮、ピリオド楽器の響きはもちろん、歌唱・演技が揃った色気ある歌手陣、洒落た演出・美術も素晴らしく、軽快で人間くさくいモーツアルトを堪能する。休憩を挟んで3時間半強がちっとも長くない、贅沢な時間でした~ めぐろパーシモンホール大ホールの2F中央で2万9000円。

タイトロールの大西宇宙(バリトン)が大活躍。意外にも初役とか。豊かな声と茶目っ気、「寝とられ男の象徴」だというホルンとの掛け合いもコミカル。世界に羽ばたいてほしい! 利発でコケットリーなスザンナのジュディト・ファー(フランスのソプラノ)、堂々たる伯爵のダイエル・グートマン(オーストリア出身のバリトン)、自然児ケルビーノのオリヴィア・フェアミューレン(オランダ出身のメゾ)も、それぞれ再現部を自在に装飾して生き生きと。
伯爵夫人の森麻季(ソプラノ)が軽やかで切ない。2幕で時間がとまるような「愛の神様」、大詰めの赦しが感動的な「どこへ行ったのかしら」を歌いあげ、この気品と陰影が「ばらの騎士」につながるという事前解説に納得。2027年はオペラデビュー30周年なんですねえ。今回はフルバージョンとのことで、カットされることが多い4幕「雄山羊と雌山羊は仲がいい」でマルチェリーナの藤井麻美(メゾ)が、「まだ理性はそれほどに」でバジーリオ(弁護士)の新堂由暁(テノール)が、明るくなった客席を巻き込んで個性を発揮。
それぞれのキャラがはまっているから、てんやわんやの2幕フィナーレ、二重唱から七重唱に至る20分ものアンサンブルとかが生きるんだなあ。

古典劇「三単一」法則にのっとった密度濃いコメディを、ニューヨーク出身、飯塚励生が演出。設定を現代のホテルにし、回り舞台でドタバタを見せて秀逸。カーテンコールの拍手も大きかった。美術はなんと大建築家・隈研吾!(そういえば昨年は文楽でお見かけしたばかりの杉本博司だった)独特のシンプルな木組みが端正で、デザイナー丸山敬太によるピンクを基調にしたパステルカラーの衣装も映えていた。

事前に「ふと心が揺れる瞬間をとらえているところが個性的」といった解説を伺い、ホワイエには鈴木雅明パパ、園田隆一郎さん、財界人の姿も。終演後の交流会は優人マエストロ、大西さん、藤井さん、バルトロ氷見健一郎さん、新堂さんがチラリと顔を出してくれて、大いに盛り上がりました!

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文楽「絵本太功記」「勧進帳」

第232回文楽公演 2部・3部 2026年2月

今回の文楽東京公演は、春節気分の横浜、初のKAAT神奈川芸術劇場第ホール。短いながらも花道をしつらえて、還暦を迎えた吉田玉助、渾身の弁慶を堪能する。それに先立ち、人形の人間国宝3人が揃い踏みの尼ヶ崎と豪華な1日。2部は休憩1回3時間で9000円。3部は休憩無し1時間強で5000円。

まず2部は苦悩し続ける武智光秀(明智光秀)をドキュメンタリー風に描く、通し狂言「絵本太功記」の後半。文楽で2回、歌舞伎で1回観ているけれど、首都圏では約20年振りのという瓜献上の段もついて面白い。
本能寺の変から4日たった六月六日妙心寺の段から。奥は竹本織太夫、鶴澤燕三。ちょっと癖が出てきたかな。主君を討った光秀(吉田玉男)を許せない老母さつき(吉田和生)が、風呂敷包みひとつで家出しちゃうのを、家臣が家財道具をかつぎ、慌てて追いかけるのが可笑しい。光秀は切腹を覚悟するが、家臣の四王天田島頭(吉田玉佳)と息子十次郎(吉田玉勢)にとめられる。
日本芸術院会員が発表になったばかりの玉男さん、衝立に太い筆で時世の句「順逆無二門 大道徹心源 五十五年夢 覚来帰一元(順逆二門無し 大道心源に徹す 五十五年の夢 覚め来たって一元に帰す=従うのも逆らうのも人として行くべき道かどうかだ。生涯は夢と悟り、全ては根本に帰る)」を書いたり、参内のため烏帽子に改めて馬にまたがったりして立派。いつもの勢いは今ひとつだったかも。

休憩を挟んで六月九日瓜献上の段。明るい大物浦の光景に詩情が漂う。中国大返し途中の真柴久吉(豊臣秀吉、映画出演も果たした桐竹勘十郎)に、百姓に化けた田島頭が近寄るものの見破られる。
そして妙見講(日蓮宗の集まり)が賑やかなさつきの侘び住まいに、登場人物が集結する六月十日夕顔棚の段。豊竹希太夫、竹澤團七が聴きやすい。続いて同じ日、眼目の尼ヶ崎の段、通称太十(たいじゅう)へ。前半、ゆったりした豊竹呂勢太夫、迫力の鶴澤清治がおおいに盛り上げる。切の豊竹若太夫、鶴澤清介は渋いんだけど、迫力不足がいかにも残念。物語は光秀が西行もどき(僧に化けた)の久吉を竹槍で襲うが、さつきが身代わりになっちゃう悲劇。初陣だった凜々しい十次郎も瀕死の手負いで、さしもの光秀も大落シ。豊竹座系東風特有の豪快な旋律とのこと。大詰めはセットが一転して、広大な海と松をバックに、両雄が京都山崎・天王山での決戦を期して幕。

客席入れ替えがあって3部は文楽名作入門と銘打ち、お楽しみ「勧進帳」。重苦しい2部とうってかわって、まず爽やかな松羽目に救われる。床は竹本錣太夫、豊竹藤太夫、竹本小住太夫、鶴澤藤蔵、鶴澤清志郎らずらり7丁7枚が並んで、客席から感嘆の声。スマホで詞章を眺めなつつ、音楽劇を楽しむ。
人形はなんといっても2014、2020年に玉男で観た弁慶がいよいよ玉助に。2022年、大阪での玉助を見逃していて初めてだ。特別に出遣いの左は2部から大活躍の玉勢、足は後半が吉田玉路。義経に端正な吉田簑紫郎、冒頭に名乗りがある富樫は吉田玉志。歌舞伎から移した名場面が、二杯道具(背景の転換)を含めてトントンと進み、終盤の太棹大合奏が迫力だ。ラスト、花道に合わせて行きつ戻りつ、たっぷりの飛び六方に大拍手でした~
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いのこりぐみ

いのこりぐみ  2026年2月

2026年も年初からフル回転、作・演出三谷幸喜のお得意ワンシチュエーションコメディだ(ご本人はコメディを否定しているけど)。誰もがしょうもなく、だからこそ愛すべき存在で、ほろ苦くも温かさが胸に残る。菊地凛子が45歳にして初舞台と思えない達者ぶり。初めての吉本経営IMM Theater、中段で1万2000円。休憩無しの2時間弱。

くすのき小学校5年B組の教室、冬の放課後。野々村教頭(相島一之)とかつて教え子だった教師の嶋(小栗旬)が、児童の母・熊澤コマ子(菊地凛子)を招いて話し合う。コマ子はいわゆるモンスターペアレントで、言うことなすことめちゃくちゃ、担任を替えろの一点張り。そこへ当の担任、白石(平岩紙)が現われて…
コマ子が暴走に次ぐ暴走で存分に笑わせ、終盤で嶋がそのコマ子のイメージを、「12人の怒れる男」さながらひっくり返してみせるのが痛快だ。そんな嶋はそもそも、部活より好きなジム通いを優先するちゃっかり野郎だし、若いころ金八風だった野々村はいまやすっかり事なかれ主義、生真面目な白石も実は…で、親も先生も欠点だらけ。普通の人同士、丁々発止のディスカッションドラマ、つまりは話してみればわかるってことか。

大河ドラマ常連の小栗がきびきび軽快に舞台を牽引し、手練れ相島のトホホ感と、外見に似合わず飛び道具の平岩が期待通り安定。菊地は当て書きの名手・三谷の筆で、クールビューティーでもエキセントリックでもなく、よく動いて可愛らしさを発揮。「鎌倉殿の13人」で小栗と共演してたんだなあ。美術は堀尾幸男、時間の経過を映す照明は服部基。面白かったです。

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黒百合

黒百合  2026年2月

雪の一日、世田谷パブリックシアターへ。泉鏡花初期の長編を、2024年「モンスター」がショッキングだった杉原邦生が鮮烈に演出。越中立山の黒百合伝説をベースにした、どこか「愛と誠」のようなロマンに、美の残酷さ、死の気配が漂う。若手俳優陣は健闘だけど、明治文学の台詞は難易度が高かった印象。休憩を挟んで3時間弱、前半がちょっと長く感じる。オリジナル音楽は宮川彬良。中段やや下手寄りで9500円。

演出はのっけからドキリ。黒衣が花一輪を差した遺体袋らしきものをいくつも引きずってきて、その花を抜くと人間の手が。これは「櫻の樹の下には」なのか。
物語は明治後期。県知事の令嬢・勇美子(「虎に翼」の土居志央梨)が出入りの花売り娘・雪(岡本夏美)に、山に咲く幻の黒百合をとってきて、褒美ははずむ、と命じる。雪は目を患う夫・拓(白石隼也)の治療費欲しさから危険な「石滝の奥」を目指し、雪に惹かれる子爵家の滝太郎(「管理人」の木村達成)が後を追っていく。がむしゃらな若者たちを、やがて神通川の氾濫がのみ込んで…

舞台上にシンプルな木枠。俳優が手前にせり出した橋と床下に続く階段から出入りするのが、夢とうつつを行き来するようだ。後半は一転、セットがダイナミックに転換して、人を寄せ付けない急峻な山々が、手を伸ばしてたのに届かない宿命を突きつける。美術はお馴染み堀尾幸男、振付・ステージングは下島礼紗。
岡本はぶれない健気さ。我慢の演技の白石が、実は任侠の跡取りという設定で格好いい。土居は期待通りのクールさだけど、食虫植物(モウセンゴケ)に魅入られちゃうあたり、裏の顔は盗賊という木村とともに、もっと起伏が欲しかったかな。雪夫婦を見守る荒物屋の婆さんの白石加代子、訳ありな村岡希美、外山誠二(文学座出身)がさすがの個性を発揮して、舞台を推進する。

黒百合伝説とは佐々成政の愛妾・小百合の呪いのことで、黒百合は実在する高山植物(英名チョコレートリリー)だそうです。芸術監督・白井晃がドラマ「ちかえもん」の藤本有紀に依頼していた戯曲があり、今回、杉原に声をかけたとか。終演後のロビーには杉原さん。渡辺えりさんも観劇してました。
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反田恭平&JNO ショパン「ピアノ協奏曲第2番」チャイコフスキー「交響曲第4番」

反田恭平&ジャパン・ナショナル・オーケストラ 冬ツアー2026 2026年2月

寒波襲来のなか、昨年3月以来5回目、大好きな反田恭平率いる若手オケを聴く。いつにも増して反田君が躍動した印象で、生き生きとしていい。念願のフルサイズ、総勢70人のツアーとは立派! サントリーホール大ホールの中段上手寄りで1万2000円。休憩を挟んで2時間強。

開演前のステージではウェルカムコンサートがあり、爽やかにフルートでチャイコフスキー「くるみ割り人形」から「花のワルツ」テプリツキー編曲(八木瑛子、河野葉月)、チェロカルテットで可愛らしい「ウィンターワンダーランド」(水野優也、森田啓介、香月麗、佐々木賢二)。いつもながら本編への期待が高まる。
前半は反田君の弾き振りで「ピアノ協奏曲第2番ヘ短調作品21」。若く多感なショパンが初恋を描き、自身の独奏で初演したという。ソナタ形式の第1楽章から細かいピアノの技巧が際立つ。第2楽章のノクターンを思わせるキャッチーでロマンティックなソロをへて、ロンド形式の第3楽章は軽快なマズルカのリズム、華やかなフィナーレへと盛り上がった~
ソリストアンコールはショパン「マズルカ第2番ハ長調Op.56」を勢いよく。

休憩を挟んで後半はチャイコフスキー中期の代表作、「交響曲第4番ヘ短調作品36」。新婚1カ月で別居、神経衰弱に陥る苦境のなか、無慈悲な宿命と救済を描き、パトロンのフォン・メック夫人に捧げたドラマティックな曲だ。メック夫人は一度も会わないまま、年1500万円を13年間援助したというから驚き。第1楽章、強烈な運命のファンファーレから木管が大活躍。オーボエのもの悲しいソロに始まる第2楽章の憂鬱をへて、第3楽章は軽快な弦のピチカートが面白い。第4楽章で激しいシンバル、大太鼓、ティンパニの連打、民謡調のメロディに運命のファンファーレが交錯し、明るく壮大なフィナーレになだれ込む。反田君も時に跳ねちゃったりして情熱的でした~
アンコールはチャイコフスキー「白鳥の湖」組曲版Op.20aより「チャルダーシュ(ハンガリーの踊り)」で爽快。

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