マリア・カラス

「マリア・カラス 伝説のオペラ座ライブ」特別上映会 2019年8月

番外編で、伝説の歌姫のガラ・コンサート映像をスクリーンで。モノクロ、モノラルながら柔らかい歌声、なんといってもオーラが凄い。銀座ブロッサムで2500円、休憩なしの2時間。
1958年12月パリ・オペラ座デビューとなった、レジオン・ドヌール勲章受章者共済会のための慈善コンサートだ。「トスカ」第2幕を含み、現存するなかで最も完全な形で絶頂期の姿を伝えているという。指揮はオペラ座主席指揮者ジョルジュ・セバスティアン、オペラ座国立劇場管弦楽団・合唱団。
ナレーターがガルニエ宮の外の模様から、フランス大統領ルネ・コティの入場を伝え、幕開けはラ・マルセイエーズ演奏。三連符でお馴染みヴェルディ「運命の力」序曲の後、いよいよ中央後方の幕からカラスが登場する。ヴァン・クリーフ&アーベルのダイヤのネックレスが綺羅びやか。
前半は後ろに合唱を従えたアリア集で、いきなり十八番のベッリーニ「ノルマ」から「反乱を教唆する声だ」「清らかな女神よ」「儀式はこれで終わった」「ああ!初めの頃の誠実な愛が」。52年コヴェントガーデン、56年メトデビューで歌い、スカラ座の女王から世界のディーバに飛躍した極めつけの演目だという。ローブをかき寄せつつ、超絶技巧のコロラトゥーラを存分に。続いてヴェルディ「イル・トロヴァトーレ」から「行っていいわ…」「恋はバラ色の翼に乗って」「ミゼレーレ」。ロッシーニ「セビリアの理髪師」序曲を挟んで「今の歌声は」。
そして圧巻は後半、セットを組んで上演した「トスカ」第二幕だ。美人ですらりとした立ち姿に加え、憎しみなど強靭な表現力を味わえる。「歌に生き、愛に生き」の感動、そして幕切れのセリフ。スカルピア男爵のティト・ゴッビ(バリトン)、カヴァラドッシのアルベール・ランス(オーストラリアのテノール)と手を携えて、カーテンコールに登場した姿は、意外に控えめでした。
ちなみに1958年といえば、1月にカラスがローマ歌劇場降板というスキャンダルを起こした年。グロンキ大統領ら著名人が臨席しており、不調をおして出演したものの、客席から口笛(野次)を浴び、大臣らが45分も説得したのに結局、1幕で中止となった。さらに今回の映像のオペラ座コンサートは、世紀の恋・海運王オナシスと接近した場でもあったという。ドラマだなあ。
客席にはブリジット・バルドー、ジェラール・フィリップ、シャンソン歌手ジュリエット・グレコ、ジャン・コクトー、作家ルイーズ・ド・ヴィルモランらも訪れ、欧州各国のテレビ中継で100万人が観たそうだ。まさに伝説。

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オン・ザ・タウン

佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2019 ミュージカル オン・ザ・タウン   2019年7月

「王様と私」に続き、ミュージカルの古典を楽しむ。レナード・バーンスタイン生誕100年の締めくくりとして、1944年初演の初舞台作品を、弟子である佐藤裕のタクトで。24時間タイムリミット付きのドタバタラブコメディだ。都市観光と、つかの間の恋。スピーディーなメロディが、あっけらかんと楽しい。
兵庫県と県立芸術文化センター制作で、オケは同文化センター管弦楽団。佐渡ファンが多そうな東京文化会館大ホール、中ほどの席で1万5000円。休憩を挟んで2時間半。
ストーリーは1949年にジーン・ケリー、フランク・シナトラで、映画「踊る大紐育」になったもの。水兵3人が1日だけの休暇を、憧れのNYで過ごすことになる。ケイビー(バリトンのチャールズ・ライス)が地下鉄のポスターの女性アイヴィ(バレエ出身のケイティ・ディーコン)に一目惚れし、アイヴィ探しの途中で、チップ(バリトンのアレックス・オッターバーン)は肉食系タクシー運転手ヒルディ(メゾのジェシカ・ウォーカー)、オジー(テノールのダン・シェルヴィ)は人類学者クレア(北アイルランド出身のソプラノ、イーファ・ミスケリー)と出会う。声楽教師(低音コントラルトのヒラリー・サマーズ)、クシャミ連発のルームメート(ソプラノのアンナ・デニス)、振り回される気の毒な婚約者(バスのスティーブン・リチャードソン)らが入り乱れて大騒ぎに。
英国ロイヤル・オペラなどのアントニー・マクドナルドの演出は、キッチュな書き割り風。自然史博物館、カーネギーホール、タイムズスクエア、そして大人っぽいナイトクラブやコニーアイランドを巡っていく。ラテンやトルコ風を含む振付は、英国ロイヤルオペラのプリンシパルダンサーだったアシュリー・ペイジ。初演は「王様と私」のジェローム・ロビンズなんですねえ。
キャストはロンドンオーディションだそうで、オペラ歌手がメーンながら、動きも軽快だ。ひょうごプロデュースオペラ合唱団は、関西の声楽家を特別編成。

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二度目の夏

M&Oplaysプロデュース 二度目の夏  2,019年7月

岩松了作・演出。別荘の庭のワンセットで、新婚2年めの夏を過ごす若社長夫妻と周囲の人々、それぞれの叶わない思いが交錯する。抑えきれない嫉妬、暗い情熱、歪んでいく関係。すっかり駅が様変わりした下北沢、本多劇場の中ほどで7000円。休憩無しの2時間強。
いつもながら物語は繊細な会話劇だ。家業を継いでいる慎一郎(東出昌大)は出張の間、別荘に残る妻いずみ(水上京香)の相手を、後輩の学生・北島(仲野太賀)に任せる。ベテラン使用人の道子(片桐はいり)はいずみと北島の親密ぶりに気をもみ、秘書・上野(「セールスマンの死」がよかった菅原永二)と家政婦・早紀子(イキウメでお馴染み清水葉月)の秘めた仲も怪しくなっていく…
新たに名前に「仲野」がついた太賀が、期待通り出色だ。慎一郎への憧れと不安定さ、状況からの逃避。受け止める東出は、体温の低い感じと謎めいた苛立ちが、役に合っている。亡くなった父母の関係に深く傷ついていて、最も親しい人を試してしまうのが哀しい。そして片桐さん。複雑な状況を相対化して、実に巧い。大事にしてきたものが、指からこぼれ落ちていく切なさ。
太賀が庭先でつまびくギターや、庭を巡る小川がオシャレで上品。緊張感が高まるなかで、水に飛び込んじゃう菅原や、電機屋の男で登場する岩松さんが、タイミングよく笑いを差し挟む。水上の可憐さ、清水のいたたまれなさもいいバランス。美術は田中敏恵。
戯曲も読みたいな~ 客席には栗原類くんの姿も。

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美しく青く

Bunkamura30周年記念 シアターコクーン・オンレパートリー2019「美しく青く」 2019年7月

赤堀雅秋作・演出。高齢化と野生の猿に侵食されつつある被災地の群像劇だ。冴えない日常を淡々と描くようでいて、それぞれのチリチリする思いを感じさせる。相変わらず巧いなあ。シアターコクーン中段で1万円。休憩なしの2時間強。
保(向井理)は自警団の猿退治にのめり込んでいるが、仲間の勝(大東駿介)らとぎくしゃくし始めている。地域の老人・片岡(平田満)には協力を拒絶され、気のいい役場の箕輪(大倉孝二)に対策を求めるものの、埒が明かない。妻・直子(田中麗奈)はかつて娘を失った傷が癒えず、また認知症の実母(銀粉蝶)の世話に疲れ果てている…
お馴染みのトイレネタと、スナックでのうだうだ、トホホな笑い。目覚ましい突破口など開けるわけもないけれど、それでも暮らしていく。高い防潮堤に立つラスト、夫婦の後ろ姿に青空と海を感じて、ちょっと温かい気持ちになる。美術は土岐研一。
町の人々を見守るスナックのママ秋山菜津子が、抜群の安定感で舞台回しを務め、大東と大倉が切なさを体現。向井はやや求心力が弱いけれど、役の個性と合っていたかも。赤堀は訳あり風の無口なスナック店主で出演。ほかに勝の妹に横山由依(元AKB総監督)、自警団に駒木根隆介、森優作、福田転球。
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トゥーランドット

トゥーランドット  2019年7月

新国立劇場オペラのシーズン締めくくりは、2年がかりで初めて東京文化会館と共同制作する「オペラ夏の祭典」。スケール大きく、聴き応え、見応え十分の舞台です。芸術監督の大野和士が指揮し、オケはなんと音楽監督を務めるバルセロナ交響楽団を招聘。2階席前の方で、大掛かりなセットもつぶさに。2万9160円。休憩2回を挟んで約3時間。
歌手は高水準で、タイトロールのイレーネ・テオリン(スウェーデン出身のソプラノ)が期待通りの迫力。カラフのテオドール・イリンカイ(ルーマニアの若手テノール)も伸び伸びとして、負けてない。また英国を本拠とするリューの中村恵理が、可憐なだけでない芯の強さを好演。アルトゥム皇帝の持木弘ら、日本人キャストもいいバランス。
言わずと知れたプッチーニの美しい旋律に対し、演出は刺激的。バルセロナ五輪開幕式を手掛けたアレックス・オリエは、まずステージいっぱいに、巨大なインドの階段井戸を組み立てた。民衆が底辺で蠢くなか、天上から姫と皇帝が、巨大宇宙船で降りてくるスペクタクル。支配と抑圧、階層の分断がくっきりする。タタールを追われた王子カラフの、王位への執着も印象的だ。
そしてラストを大胆に読み替え。確かにプッチーニの絶筆とあって、リューの犠牲のもと残酷な姫が改心しちゃうハッピーエンドは強引だ。今回はリューは倒れた後も舞台上に残り、決して改心しない姫の、究極のプロテストで幕を閉じる。悲劇なんだけど、納得感はあったかな。
分厚い合唱は、新国立劇場合唱団、藤原歌劇団合唱部、びわ湖ホール声楽アンサンブル。児童合唱はTOKYO FM少年合唱団。充実~

終演後、6倍の確率をかいくぐってバックステージツアーに参加できました。巨大セットの迫力を堪能。テオリン様が各幕の冒頭から、狭い宇宙船で待機しているというのは驚きでした。

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王様と私

リンカーン・センターシアタープロダクション ミュージカル「王様と私」  2019年7月

ケリー・オハラと渡辺謙の主演で、トニー賞最優秀リバイバル作品賞を獲得したブロードウェイミュージカルが来日。演出はメトロポリタン・オペラでお馴染みバートレット・シャーだ。
リチャード・ロジャース作曲、オスカー・ハマースタインⅡ作詞・脚本の1951年初演作とあって、古風さは否めない。しかしアジア人は全員、アジア系俳優が演じているし(リプリゼンテーションと呼ぶそうです)、1860年代に列強と対峙したタイ王の孤独が際立っていて、現代的な味もある。Shall we dance?がこんなに切ない曲だったとは。単なる社交ダンスを教える歌とばかり思っていて、御免なさい。2018年ロンドン公演のカンパニー。年配客が目立つ東急シアターオーブ、上手寄り前の方で1万9000円。休憩を挟んで3時間。
開幕から、タイシルクを思わせる金ピカの幕が美しい。動く柱やカーテンをうまく使い、テンポよく場面転換してく。美術はマイケル・ヤーガン。タイ舞踊風のバレエなど、初演のジェローム・ロビンスをベースにした振付はクリストファー・ガッテリ。
原作は実話をベースにしており、新人だったユル・ブリンナー出演の1956年映画版が有名。イギリスから招かれた教師アンナ(オハラ)が、封建的なシャム王(渡辺)と激しく対立する。王は粗野で子供っぽい一方、重責を一身に負って思い悩む複雑な造形。渡辺が健闘し、可愛げや色気を漂わす。なにしろ東のフランス領カンボジア、ベトナム、西の英領ビルマ(ミヤンマー)の緩衝地帯として、植民地化を回避し、コメの輸出を推進して国の礎を作った人物だものなあ。
いっぱいいっぱいの渡辺を受け止める、オハラの豊かな情感が素晴らしい。アンナの尽力でなんとかイギリス特使を歓待したあと、束の間の解放感にひたり、恋のときめきを思うダンスシーンに、じんとする。
安易に遅れたアジアが解放される、というわけでもない。皇太子はともかく、王はアンナの主張を受け入れないまま息を引き取る。それでも互いに尊敬し、気持ちは通い合うのだ。
第一王妃チャン夫人は迫力あるルーシー・アン・マイルズ、ビルマからの「貢ぎ物」タプティムは可憐なキャム・クナリー、クララホム首相は大沢たかお。
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落語「寄合酒」「そば清」「元犬」「磯の鮑」「仏壇叩き」

特撰落語会 柳家喬太郎・柳家三三二人会  2019年7月

雨の七夕に、安定してハイレベルの二人会。グループ客も目立つ地元・杉並公会堂、中ほどの席で3700円。仲入りを挟んで約2時間。
前座は三遊亭楽べえで「寄合酒」。円楽のお弟子さんですね。空き地の拾い物がお味噌で、角の乾物屋がとんだ目に遭うオチまで。大勢出てくる噺をそつなく。
本編は喬太郎からで「そば清」。蕎麦屋の客が、居合わせた食いっぷりのいい男と何枚食べられるか賭けをして、負け続ける。それもそのはず男は通称そば清という名の知れた大食い。大勝負に備えて信州に出かけ、大蛇が消化に使った草を手に入れるが、実はそれは人間を溶かすものだった… 落語ならではの蕎麦を食べるシーンの臨場感、そして蕎麦が羽織を着ているという、なんともシュールなオチが鮮やか。
続いて三三で、お馴染みの「元犬」。何回か聴いてるけど、オマワリの繰り返しなどバカバカしさが増している感じ。
仲入り後も三三で「磯の鮑」。与太郎が仲間にかつがれ、ご隠居に「儲かる女郎買い」を習いに行く。「せめてモテるように」と教わったことを、吉原で実行。色っぽさとスピード感がさすが。
そしてトリは喬太郎で、マクラ無しで「指物師名人長二」の発端「仏壇叩き」。初めて聴くけど喬太郎さんは、けっこうかけてるんですね。明治20年に圓朝が新聞に連載した噺で、モーパッサン「親殺し」をベースにしたサスペンスタッチの名人伝とか。蔵前の札差が気難しいので知られる長二に仏壇を発注。手間賃百両と言われてごねるが、才槌で叩いてもびくともしない出来栄えに感服する。普通の人間のこずるい面を嫌味なく。「笑いがないので」と言いながら、達者な口調にすっかり引き込まれました。物語はこのあと湯河原に舞台を移して、親との再会などが展開されるようです。充実。

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オレステイア

オレステイア  2019年6月

アイスキュロスのギリシャ悲劇をベースにした、オリヴィエ賞の最年少(29歳!)最優秀演出家賞受賞者ロバート・アイクの戯曲を、「炎アンサンディ」の俊英・上村聡史が演出。知的で非常に凝った舞台だけど、もともと250席ほどの劇場で初演されたせいか、空間的・時間的にまのびした感は否めないかな。知人のエコノミストら演劇好きが集まった感じの新国立劇場中劇場、前の方で7776円。休憩を挟んで4時間半。
物語はトラウマのあまり記憶を失った殺人犯オレステス(生田斗真)への裁判で、精神科医(ナイロン100℃の松永玲子)がインタビューする、というかたちで進む。オレステスの回想による検証で、父アガメムノン(横田栄司)が国家のために娘イビゲネイア(趣里)を生贄にし、母クリュタイメストラ(神野三鈴)と不倫相手のアイギストス(横田の2役)に復讐される。その母を討ったのは、と問われ、オレステスは「姉さん=エレクトラだ」と主張する。
コロスを排し、大胆に映像を使ったのが面白い。後方スクリーンに象徴的な「証拠品」を映し出したり、人物と重ねたり。母殺しに導く運命の女エレクトラ(宝塚出身の音月桂)が実在せず、強いストレスを受けたオレステスの分裂した人格だ、というユニークな謎解き。オレステスを糾弾する復讐の女神(文学座の倉野章子)も妄想の趣だ。
15年ロンドン・アルメイダ劇場初演とあって、現代的な解釈が刺激的。サフランなどドレスの鮮やかな色分けや、血染めのカーテン、啓示につながる「くしゃみ」など仕掛けもたっぷりだ。とはいえ観客を巻き込んだ法廷劇の末に、男性尊重で無罪となる結末は、割り切れなさが残るかなあ。古典は愛憎劇の基本なんだろうけど、やっぱりギリシャ悲劇は難しい… 翻訳は平川大作、美術は「キネマと恋人」などなどの二村周作、映像は栗山聡之。
タイトロールの生田は、少年時代を含めて不安定さ、苦悩を熱演。神野の説得力、趣里ちゃんのリズムが際立つ。

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落語「万病円」「お化け長屋」「館林」「洒落小町」

第二十五回渋谷道玄坂寄席 三遊亭兼好・三遊亭萬橘ニ人会 2019年6月

広瀬和生プロデュース、圓楽党同士の2人会で、年1回ペースで開催しているそうだ。評判の萬橘をお初で。確かに独特のおかしみが秀逸です。常連グループが多そうなマウントレーニアホール、こぢんまりした渋谷プレジャープレジャーの真ん中へんで、ワンドリンク付き3900円。映画館ぽい椅子だし、開幕前にビールとポップコーンですでに楽しい。
開口一番は三遊亭まん坊(萬橘のお弟子)で「手紙無筆」。続いて萬橘で「万病円」。人をくったクセのあるキャラが噺にぴったりだなあ。屁理屈ばかり言う浪人が、湯屋で下帯を洗うわ、餅屋や古着屋にからむわ、やりたい放題。紙屋で万病に効くという薬をみつけ、「本当に万あるか」と難癖をつけると主人も負けずに「百日咳に四十肩に…」とやり込めちゃって、滑稽かつ痛快だ。ひとつ間違うと浪人の横柄さが鼻につきそうだけど、ただのテンポの良いダジャレ合戦で聴かせ、浪人が言い負かされて心底悔しがるのもお茶目。
続いてお馴染み兼好が登場。いつもの朗らかハキハキ口調で「萬橘は不機嫌なほど面白い」とかからかいつつ「お化け長屋」。空き家を物置にしたい長屋の面々が一計を案じ、怪談をでっちあげて借り手を追い返す。長屋の古狸こと杢兵衛の、立板に水の講談口調が巧い。ところが次に来た男は乱暴者で全く怖がらず、お化け上等とばかり、いちいち「ああ、それな」とまぜっ返す。杢兵衛が「お前面白いな」と強がるのがチャーミング。長屋総出の、さながらホーンテッドハウス騒ぎが賑やかだ。
仲入り後も兼好で「館林」。町人が剣術を習った幕末のこと。先生から上州・館林で賊を召し捕った武勇伝を聞き、早速町内で真似して失敗する。ラストがあっけないせいか、あまり演る人がいないらしい。シュールです。
トリは再び萬橘で「洒落小町」。バカバカしくて爆笑。お松がご隠居に亭主の浮気を盛大に愚痴り、「在原業平は井筒姫の歌に感じ入って、浮気をやめた」と諭される。それで亭主に優しくするんだけど、これがトンデモ。色気ゼロのお松さんのガチャガチャぶりが規格外で、ついには亭主をダジャレ攻めにしちゃう。ハイレベルでした~

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講談「中山安兵衛婿入り」「髪結新三」

噺小屋in池袋《番外編》水無月の独り看板 神田春陽  2019年6月

2012年に初めて聴いた講談が春陽さん。以来、蝋燭怪談やら真打ち昇進やらゴールデン街やら、いろいろ楽しませて頂いて、今回はなんと東京芸術劇場シアターウエストでの独演会が満員! 素晴らしい。古典芸能好きのメンバーと最後列、オリジナルプログラム付きで3500円。中入りを挟んで約2時間。

早めに着いて知人とお喋りなどしていたら、なんと開幕前に飛び入りゲストが登場。神保町でも急に頼まれてた、カンカラ三線の岡大介だ。「今日は聴きに来たんだけど」といいながら「東京節」を朗らかに。前座は女流で田辺凌天(りょうてん)が「矢取勘左衛門」。
そして春陽さん。得意の西武線沿いに住んでいた貧乏暮らし、池袋で先輩に教わったこと、池袋の隣が高田馬場…と振って、「義士銘々伝」から「中山安兵衛婿入り」。武士の豪快さが気持ちいい。安兵衛が馬場の仇討ちに加勢したとき、通りかかった築地鉄砲洲の堀部金丸の妻娘が通りかかり、襷を貸す。この気丈さがまず見事。後日、長屋に婿入りを頼みに来て、断ったら自害というので、安兵衛は断りきれず、呑んだくれて離縁になればいい、と実行しちゃう。無茶苦茶だなあ。さすがに耐えかねた金丸が、高いびきの安兵衛を槍で突こうとすると、見事によけられる。金丸は手をついて懇願し、ついに安兵衛も感じ入って、婿入りを決意、となりました。

中入り後、長唄の杵屋三七郎が登場。1972年生まれ、志の輔らくごの大薩摩などで活躍してるかたです。辰巳、深川、そして夏を歌う選曲。メーンの演目の雰囲気が舞台に流れて、大変効果的。
トリは春陽さんで、先輩に一番嫌な演目を聞いたら「村井長庵の雨夜の裏田圃」と言われた、自分には嫌な話はできない、とのマクラから「梅雨小袖昔八丈 髪結新三」。2015年に松緑、左団次らの歌舞伎で観た、新三内の場にあたるところ。江戸の初夏風情が味わい深い。お熊をかどわかして身代金を要求する新三だが、小悪党ぶりは控えめ。むしろ前半に追い返されちゃう親分との対比で、後半の大家の因業ぶりが痛快だ。来客にお茶も出さず、新三に初鰹をねだり、と悪党より数枚上手。とぼけた味わいと笑いが春陽さんらしかった。充実してました!

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