相撲の力学
同じ体重でも軽く感じる力士もいれば、体重以上に重く感じられる力士もいます。「重さ」は「力」ですから、大きさと方向性を持っています。重力に抗う動きや肩に力みがあると、地球の中心に向かっている「力」を打ち消し、かつ方向がずれてしまうために軽くなります。
「相撲の力学」松田哲博著(BABジャパン)
著者は琉球大理学部卒業後、若松部屋(現高砂部屋)に入門し、史上初の国立大出身力士・一ノ矢として2007年まで24年間、現役を務めた異色の人物。現在はマネージャーとして部屋の運営にかかわりつつ、カルチャーセンターなどで相撲の稽古をベースにした独自の「シコトレ」を教えており、本書は武道専門誌「月刊秘伝」の連載をまとめた。そんな雑誌があるなんて知らなかったぞ。
相撲中継を見ていると解説者の親方が「腰が重い」とか「懐が深い」とか言うけれど、いまひとつよくわからない。本書では日本相撲協会の資料映像などを駆使して、明治の第19代横綱・常陸山や、不滅の69連勝を誇る昭和の大横綱・双葉山などの名勝負、強さの意味を探る。
重力とか相転移とか、作用反作用といった用語、はてはニュートン、アインシュタインも出てくる。けれどもちろん物理学の分析ではなく、現場の直感を語っていて平易。大横綱は踏ん張る筋力やスピードではなく、ちょうど吊られた丸太のように力を抜いて体重をかけ、足を小刻みに動かして波のように、あるいは回転力で相手を倒す、という表現はわかりやすい。
双葉山人気が高まって観客を収容しきれず、1937年から11日興行が13日制に、翌々年に15日制になったとか、エピソードも満載。本当にお相撲が好きなんだなあ、とにやけちゃう。(2026.7)