December 08, 2009

「中学受験 SAPIXの授業」

彼らはできるから勉強する。解ける(と思っている)から解くんです。

「中学受験 SAPIXの授業」杉山由美子著(学研新書) ISBN: 9784054043114

有名中学受験塾の、授業参観ルポ。

ゆとり教育やいじめといった公立不信から、首都圏では5人に1人が経験するといわれる中学受験。数年前には受験塾の前に、ずらりと迎えの自家用車が並ぶといった過熱ぶりが伝えられた記憶があるけれども、今や社会は少子化だ。少しでも早く生徒を確保したい大学付属の新設などを背景に、中学も選り好みしなければ「全入」の状況だという。

その全入時代に、伝統的アプローチともいえる有名私立を目指す子供たち、親たちは、どんなことをしているのか。もちろん同じ子供を取り巻く現状には、「子どもの貧困」(阿部彩著)という事態があり、また「日本の子どもの自尊感情はなぜ低いのか」(古荘純一著)という問題提起もある。その振れ幅も含めて、子供の今を考えさせる一冊ではないだろうか。(2009・12)

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November 22, 2009

それでも、日本人は「戦争」を選んだ

戦争が始まれば、もちろん、こうした陸軍の描いた一見美しいスローガンは絵に描いた餅になるわけですし、農民や労働者の生活がまっさきに苦しくなるのですが、政治や社会を変革してくれる主体として陸軍に期待せざるをえない国民の目線は、確かにあったと思います。

「それでも、日本人は「戦争」を選んだ」加藤陽子著(朝日出版社) ISBN: 9784255004853

日本近現代史の研究者が5日間にわたり、栄光学園の中高校生を相手に、日清戦争から太平洋戦争に至る過程を講義する。

学生相手の講義録とあって、語り口は柔らかい。けれど、日本の近現代を評価するのだから、当然ながら内容は決して平易ではない。「盗聴 二・二六事件」とか「昭和史 1926−1945」とか「中原の虹」とか、乏しい断片的な記憶を呼びおこしつつ何とか読み進んだ。

言及は立体的だ。まず、地政学的な意味。第一次大戦後の山東半島の位置づけなどを、牧野伊三夫さんのチョーク書き風の地図をまじえて丁寧に解説している。そしてもちろん、経済。満州事変の時点で、対中輸出シェアでイギリス+香港、アメリカ、日本が見事に拮抗してきていたというグラフは、非常に興味深い。さらに政治。日中戦争に至る過程では、政党の選挙スローガンよりも陸軍統制派の計画の方が、農民救済や労組活動に配慮していたという指摘には驚く。

興味深いのは、随所に散りばめられた人物論だろう。国内外を問わず著名な政治家、外交官、軍人、学者らを次々取り上げ、最新の研究成果を引用しながら、その思考、ふるまいをたどっていく。例えば松岡洋右について、ちょっと先入観を覆すような史料も提示されたり。

権力者や頭のいい人たち、なにより普通の国民が、どこでどう選択を誤ったのか。その大きな問いについて、簡単に腑に落ちるわけではない。けれども、わかりやすくて時に心地よい解説に逃げ込まず、ややこしい話をややこしいまま知ろうとし続けること、考え、語り続けることこそが、大事なのかもしれない。例えば選挙制度改革がもたらした意思決定のシフトなど、歴史は確かに在と響き合っている。宿題は終わらないのだ。

それにしても、栄光学園。頭の良い子供たちだなあ。(2009・11)

それを選んでしまわぬために - 書評 - それでも、日本人は「戦争」を選んだ  404 Blog Not Found

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October 31, 2009

「司法官僚」

司法行政職への任用の基準と制度があきらかにされないまま、特定の職業裁判官集団が司法官僚機構を構成し、司法行政を「専有」するならば、司法の「閉鎖性」をたかめてしまうことになろう。司法官僚の経歴や行動に注目せねばならないゆえんである。

「司法官僚」新藤宗幸著(岩波新書) ISBN: 9784004312000

行政学の研究者が、司法の中枢に位置する官僚組織の仕組みを探る。

考えてみればどんな組織にも、人事や予算はあり、それを統括する部署がある。行政組織、民間企業はもちろん、ある程度の規模ならNPOだってそうだろう。日本の裁判所の場合、そ れは最高裁判所の事務総局というところだ。そして人事や予算(人件費)のコントロールを源泉として、事務総局は全国の裁判所に対して一定の影響力を持つ。

著者はこのあまり世間で話題にならない、いわば顔の見えない事務総局のメンバーが一体どのように選抜・育成されているのか、といった疑問をもち、彼らの経歴など数少ない公開資料を丹念に追っていく。この分野に疎いので、いちいち「へえ~」と思いながら読んだ。

裁判員制度など一連の司法改革で、裁判所はここ数年、ずいぶん大胆に変わったという印象がある。けれどおそらく変わらない部分もあり、そこにはあらゆる組織が抱える自己防衛本能のようなものが感じられて、興味深い。市民の立場にたてばまだ改革の余地がある、というのが著者の視点だ。(2009・10)

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October 08, 2009

「新しい労働社会」

 近年、少子化対策の文脈で児童手当が取り上げられることが増えましたが、それが企業の家族手当と相補的なものであり、労務提供への対償と生計費保障のはざまを埋める性格を有しているという認識はあまりないようです。しかし、この問題は賃金制度の原則と社会保障制度の設計を同時に解かなければならない連立方程式であり、年功制をやめて職務給にしていくというのであれば、それに対応する分を社会保障給付として拡大していくべき性格のものです。

「新しい労働社会」濱口桂一郎著(岩波新書)  ISBN: 9784004311942

旧労働省出身の研究者が、「現実」を見据えて説く雇用問題の処方箋。

「派遣切り」「雇い止め」…。まるで根本から間違っているかのように語られがちなニッポンの雇用も、ある時点では合理性があり、多くの普通の人が恩恵を受けていた。著者はまず冷静に、前提が変わったことを確認した上で、今足もとで何ができるのか、そして将来、どこを目指すべきなのか、を考察していく。

雇用は雇用だけで論じられる「制度」ではなく、社会保障や産業構造や、様々な意思決定システムと密接に絡まっている。その広がりの大きさを思うと、気が遠くなるほどだ。だからこそ、単に諸外国の事例などをひき写すのではなく、叡智を集めて考え抜くべきテーマなのだということを確認させてくれる一冊。(2009・10)

「新しい労働社会-雇用システムの再構築へ」濱口桂一郎著  Kyuoshoublog
[書評]新しい労働社会―雇用システムの再構築へ(濱口桂一郎) 極東ブログ
濱口桂一郎『新しい労働社会』(岩波新書) 9点  山下ゆの新書ランキング

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September 12, 2009

「サンデーとマガジン」

 講談社が、マガジンの発売をサンデーよりも早めようと印刷所と相談しているというのだ。
「それでは、5月5日から思い切って1か月早めて、4月10日発売にすれば、講談社も追いついて来れないだろう。第1号はもうすぐ完成だし、どこからでもかかって来い、だよ」
 ところが、である。印刷所に出入りするスタッフから驚くべき知らせが届く。
「また、1週間、講談社が印刷の予定を繰り上げました!」

「サンデーとマガジン」大野茂著(光文社新書) ISBN: 9784334035037

1959年、同時創刊した小学館「少年サンデー」と講談社「少年マガジン」。そこから約15年にわたる激闘の歴史。

NHKに所属する著者が、両誌の創刊50年を期して放送したドキュメンタリーを出発点として、高度成長期のニッポンとマンガ週刊誌の黎明を描き出す。
いやー、面白かった! マンガ世界を切り開いたライバル同士の、丁々発止のしのぎ合いが、とにかく熱い。時代はまさに「20世紀少年」が描いた少年期の世界。日本がいまや世界に誇るサブカルチャー、あるいはメディアビジネスの方法論、ひいては昭和の世相をめぐる、貴重な証言が満載だ。「巨人の星」と「オロナミンC」の関係って、こんないきさつだったのか。

しかし著者の語り口は、詰め込まれたエピソードや当事者たちの発言を、歴史的な出来事としてうまく整理しようとは、あえてしていない。例えば、当時はマンガがまだ市民権を得ていなかったゆえにゲリラ性があった、といった分析とか解釈とかは控えめだ。むしろ、いつの時代、どんな舞台であっても、やる奴はやるんじゃないか。そんなメッセージが行間から響いてくる。単に蘊蓄に触れる興味を超え、通読して、なにやら元気が出る一冊。(2009・9)

 『サンデーとマガジン -創刊と死闘の15年』(大野茂)  馬場秀和ブログ

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August 21, 2009

「ゴミ分別の異常な世界」

リサイクルは、ごみを減らし、資源をムダづかいしない重要な方法である。ただし、適正なコスト負担の元に、リサイクルで効果が得られることが条件だ。

「ゴミ分別の異常な世界」杉本裕明、服部美佐子著(幻冬舎新書) ISBN: 9784344981331

環境ジャーナリストふたりが、国内各地のゴミ分別とリサイクルの現状をリポート。

一般に、環境問題への関心は高まっているし、エコバックを持ち歩いたり、総菜の容器をスーパーの回収箱に入れたりという行動はかなり広まっている。ところが実際にどんな手法がどれほど有効なのか、と聞かれたら、自信を持って答えられる人はさほど多くないのではないか。著者は一口に「エコ」「環境対策」と括られがちな施策の曖昧さを、自治体のゴミ分別を例にとって指摘する。

細かく分別すればするほどいいのか、運搬や処理のコストは効果に見合っているのか。「ごみの世界に、模範解答はない」から、常に情報の公開と冷静な検証が必要ということだろう。整理しきれない印象は否めないものの、いろいろな情報が詰め込まれている。(2009・8)

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August 06, 2009

「シンプル族の反乱」

つまり、日本人は今、戦後的な、あるいは1970年代以降の、「共同体の束縛からの解放」「個人の自由の最大化」という歩みを少しゆるめて、個人の自由を担保しつつも、一定の共同体に所属して安心を得たいと思い始めていると言うことができるだろう。

「シンプル族の反乱」三浦展著(KKベストセラーズ)  ISBN: 9784584131817

これまで郊外家族の生態や、「下流社会」の現状を鋭くとらえてきたマーケッターが、昨今話題の「ものを買わない若年層」の意識を探る。

あっという間に読めて、久しぶりにスカッとした。最近の消費論とか若者論には個人的に、どうも隔靴掻痒の印象をもっていた。「ロハス」というときれいごとに聞こえるし、「草食系」だと頼りないばかりで、どうも夢がない。それって「生活のベースはもう十分豊かだけど、足もとは不況だからしばらく引きこもっていよう」ってことなのだろうか。んー、そうじゃない、何か意識が変わっている…。そんなモヤモヤに答えてくれる一冊だ。

著者はまず、ロハスブームに隠れてあまり定着しなかった米社会学者の2000年の著書名「カルチュラル・クリエイティブス」(ポール・レイ、シェリー・アンダーソン著)に注目する。そこで描かれたのは、成功やブランド品は求めないけれど、充実した人間関係とか読書、世界遺産を訪ね歩く旅には関心をもつ、という姿勢だ。なにより面白いのは「未来に対して楽観的」という点ではないだろうか。私有意識が低くてアンティーク好きだから、確かにあまり買い物はしない。けれど決して、きれいごととか引きこもりではないのだ。何らかのストーリー性、説得力があるモノやサービスには、けっこう弱かったりする。

著者はこの消費者像を現在の日本に移し、シンプル族と名付けた。あてはまるのは主に1970年代前半に生まれた団塊ジュニア以下の世代。人づきあい(ソーシャルキャピタル)志向とか、「地方」に対する感覚の変化といった指摘が、なるほど、と思わせる。ちょっと癪なのは、台頭するシンプル族との対比で言及される、思考回路が古いモダン族の生態だ。これが、いちいち自分に当てはまるんだな。んー、シンプル族に今までピンとこなかったのも、致し方ないか。

著者はもちろん、若年層が全員シンプル族というわけではないし、ライフスタイルが100%シンプル族という人も存在しない、と断ったうえで、モノやサービスを売る側がシンプル族にどう接すべきか、という点に言及している。ほかの近著に比べ、全体にデータより著者の直感を重視していて、かえって理解しやすい気がした。(2009・7)

2009-7-23 シンプル族の反乱 本屋のほんね

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August 04, 2009

「日本の子どもの自尊感情はなぜ低いのか」

自分に自信があったか、という項目に対して、小学校の低学年にして、ほとんどない、につけてしまう状況というのは、非常に心配で、紙を見ていると、一人一人、「この子は大丈夫なのかな、どんな子なのかな」と、思わず関わりたくなってしまいます。

「日本の子どもの自尊感情はなぜ低いのか」古荘純一著(光文社新書) ISBN: 9784334035068

児童精神科医が子供たちのQOL(生活の質)の実態を探るべく、小中学生約8000人らに対して調査を実施。その回答から浮かび上がった、彼らが感じている「幸福度」の惨憺たる状況を報告する。

普通の小学一年生が、外来を訪れて「僕は疲れているんです」とつぶやく現代ニッポン。子どもに心身の調子や学校、家庭などに対する満足度を尋ねてみると、ドイツやオランダでの同様の調査と比べて明らかに低いのだという。著者が特に注目するのが自尊感情。長所短所すべてをひっくるめて、自分のことを自分自身で考えるという感情の乏しさだ。

自尊感情が目立って低い子どもの場合は、背景に何らかの障害やいじめ、虐待などが隠れている可能性があり、QOL調査はそうした問題を早期に発見する一助となる。もっとも全体的な水準の低さの陰には、親や教育現場のゆとりの乏しさなど、広くて根深い問題が潜んでいるのではないか、と著者は危ぐする。閉塞した状況にいる子どもたちに対して、大人はどんなふうに手を差し伸べることができるのだろうか。
調査の解説にウエートがおかれており、具体的な事例の紹介や考察は一般的なものにとどまっている感じはあるものの、考えさせる1冊。(2009・7)

 古荘純一『日本の子どもの自尊感情はなぜ低いのか』(光文社新書) 7点  山下ゆの新書ランキング

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July 18, 2009

「だから、男と女はすれ違う」

博士の研究でわかったのは、同じ課題を解き、同じ成績を挙げたとしても、女と男はそのときに働かせる脳の場所はまったく違っているということだったのだ。

「だから、男と女はすれ違う」NHKスペシャル取材班(ダイヤモンド社) ISBN: 9784478008041

NHKスペシャル「シリーズ男と女」の書籍化。男女の脳の働きの違いから恋愛の仕組み、生殖医療まで、様々な科学分野の男と女に関わる最新知見を紹介する。

わずか数ページの章の連続で、テンポ良く話題が転換していき、とても読みやすくて面白い。科学本だけれど、実験の手法やら研究が進んでいく過程やらにはページを割いていない。かわりに科学の「ミニ知識」が詰め込まれていて、会食のときちょっとした話題になりそうなネタが満載だ。例えば「女は男を匂いで選ぶ」「離婚のピークは全世界共通で結婚4年目」「遠い将来、Y染色体が消える恐れがある」などなど。

触れている研究領域は多岐にわたるが、共通して印象的なのは、人間は理性で行動しているようでいて、やっぱり原始的な「生き残りの術」に支配されているんだなあ、ということ。なにしろ女性が恋愛対象を選ぶとき、無意識に免疫セットの一致、不一致が影響するんだという。そんなことだとは知らなかった。ほかにも、「女性が読みやすい地図」の話など、興味津々だ。

取材対象は主に米国の大学、研究機関。どんな素朴な疑問についても、探せば誰かしら研究テーマにしている人がいるので、取材班は西へ東へと大陸を飛び回って話を聞いていく。著者たちは北米の研究環境の懐の深さに触れているが、こんな長期取材を可能にするNHKも、相変わらず懐が深い。(2009・7)

 だから、男と女はすれ違う ほやほやパパ&社長の読書日誌

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July 09, 2009

「差別と日本人」

差別は、古い制度が残っているからあるのではない。

「差別と日本人」野中広務、辛淑玉著(角川oneテーマ21) ISBN: 9784047101937

対談だけれど、どちらかというと辛さんが野中さんに詰め寄っていく感じ。あの事件が勃発したとき、野中という政治家はどう感じたのか、はたまた、あの問題が国会で取り上げられているとき、どう決断したのか。そして一つひとつの事件、政治課題について辛さんが解説を加えていく。

野中さんはたぶん、そう簡単に舞台裏を明かしてはいない。長く保守政治家として生きて、「落としどころ」を探り「ことを収める」技術の、ある意味で最高峰を極めた人といえるだろう。それでもできる限り、真摯に答えようとしている感じはある。

知らないこと、気づかないことが沢山ある。それはある面、致し方ない。けれどやっぱり、ややこしいからと言って知らずにいること、気づかずにいることは罪。そう思えるかどうかが第一歩だという気がする。この対談の終盤はきっと涙なくしては読めない。だが、泣いている場合はない。(2009・7)

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