July 09, 2009
差別は、古い制度が残っているからあるのではない。
「差別と日本人」野中広務、辛淑玉著(角川oneテーマ21) ISBN: 9784047101937
対談だけれど、どちらかというと辛さんが野中さんに詰め寄っていく感じ。あの事件が勃発したとき、野中という政治家はどう感じたのか、はたまた、あの問題が国会で取り上げられているとき、どう決断したのか。そして一つひとつの事件、政治課題について辛さんが解説を加えていく。
野中さんはたぶん、そう簡単に舞台裏を明かしてはいない。長く保守政治家として生きて、「落としどころ」を探り「ことを収める」技術の、ある意味で最高峰を極めた人といえるだろう。それでもできる限り、真摯に答えようとしている感じはある。
知らないこと、気づかないことが沢山ある。それはある面、致し方ない。けれどやっぱり、ややこしいからと言って知らずにいること、気づかずにいることは罪。そう思えるかどうかが第一歩だという気がする。この対談の終盤はきっと涙なくしては読めない。だが、泣いている場合はない。(2009・7)
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June 21, 2009
言葉の語源が、ある特定の土地と結びついているケースは、探すと意外にあるものだ。
「地団駄は島根で踏め」わぐりたかし著(光文社新書) ISBN: 9784334034986
「語源ハンター」を自称する著者が辞書をひもとき、語源に登場する土地に足を運んで、ゆかりの事物を観て歩く。
目次の日本地図を眺めただけでわくわくしてくる。「ごたごた」の神奈川県って何だろう、「らちがあかない」の京都府って? 読んでみると実際、期待に違わぬ面白さだ。
語源の蘊蓄は満載。とはいえ著者は放送作家とあって、学術的な「日本語本」というより、好奇心満載の軽妙な旅行記になっている。語源の「現場」で古来の祭りやら、歴史上の人物にまつわる事物やらに触れるうち、普段なにげなく使っている言葉の背景に、著者なりに思いをはせていく。そんな語源ハンティングのかたわら、お約束でちゃっかり土地土地の銘菓、美味しいものを食べてしまうところも、とても楽しい。(2009・6)
地団駄は島根で踏め:語源は意外なところに はてさてブックログ
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June 06, 2009
きっと、介護現場には、注がれる「愛」が足りない。入居者ばかりでなく、介護士に対してもーー
「介護現場は、なぜ辛いのか」本岡類著(新潮社) ISBN: 9784104083046
元雑誌編集者で作家の著者は、実家の母が倒れたのをきっかけにヘルパー資格を取得。特別養護老人ホームで週2日の非常勤職員として働き始める。50代の新人おじさんヘルパー体験記。
仕事としての介護について、様々な問題点を指摘している。入居待ちが300人もいるほどニーズがあるのに、予算も人手も足りない施設。職員は不規則な勤務でかなり体力が必要なうえ、様々な事故のリスクなどと向き合わなければならず、心身ともに負荷が高い。しかしその処遇といえば、募集広告によれば正職員月18万円、パートの時給850円。仕事の実態に、全然釣り合っていない。技術と経験が求められる専門職としての、処遇の体系も未整備だ。現場には時として、余裕の乏しさから来る非効率や、士気の低下がはびこる。
ヘビーな内容なのだが、意外に読み心地は暗くない。著者がお年寄りたち、そして最前線の介護職員たちに対して、一貫して温かい視線を向けているからだろう。登場する認知症のお年寄りの言動は奇想天外だけど、どこかしたたかでチャーミング。不器用な著者を怒ってばかりいる上司も、尊敬すべきプロだ。誰もが当事者になりうる介護について、前向きな気持ちで考えるきっかけになりそうな一冊。(2009・6)
介護現場は、なぜ辛いのか--特養老人ホームの終わらない日常/本岡類 しょ~とのほそボソッ…日記…
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May 02, 2009
「いつ行っても在庫がいっぱいある店」はもうやめましょう。ぜひ、「売り切れる店」で買い物をしてください。
「売り切れ御免」
じつにいい言葉ではありませんか。
「スーパーの裏側」河岸宏和著(東洋経済新報社) ISBN: 9784492222973
ハム・ソーセージや卵の製造、スーパー、コンビニの現場を見てきた著者が明かす、食品流通の裏。
「朝どれ」とあっても「今日の朝どれ」とは限らない、解凍した日、パックし直した日が「製造日」…。ほかにも再加工や使い回しなど、著者が目にしたという、法律には触れない「ごまかし」の事例が数々語られる。
背景にあるのは朝から夜遅くまで、何時に行っても棚に商品がたくさん並んでいることを当たり前と期待するような、消費者の行動だ。しかも、スーパーが食品を安く売るには、調理場などの人件費を抑える必要もある。
便利で安価な加工食品、総菜などに慣れた私たちが、それなしに暮らしていくことはもはや現実的ではない。とはいえ、どういう売り場、どういう食品がより自然なのかに思い至る、感度は失いたくない。書かれていることがどこまで一般的なのかはわからないけれど、あっという間に読めて、なかなか興味深い一冊。(2009・4)
「スーパーの裏側」ちょっと考えた 本の話がメインのつもり
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April 24, 2009
母さんがごめんなさいとありがとうを云わなかった様に、私も母さんにごめんなさいとありがとうを云わなかった。今気が付く、私は母さん以外の人には過剰に「ごめん、ごめん」と連発し「ありがと、ありがと」を云い、その度に「母さんを反面教師」として、それを湯水の様に使った。でも母さんには云わなかったのだ。
「シズコさん」佐野洋子著(新潮社) ISBN: 9784103068419
老いて認知症を患った母を見守りながら、初めて振り返る長き愛憎の日々。
本好きブロガーの間で評判のエッセイを読んだ。「100万回生きたねこ」の作家が、半世紀にわたる家族の足跡を背景に、その時々、自分が母や家族のことをどう思ってきたか、直裁な筆致で綴っている。中国から引き揚げ、貧しさの中で相次ぐ幼い兄弟の不幸な死。父はエリートだっただけに終戦で挫折し、やがて若くして亡くなってしまう。個人史にはそのまま、日本の戦後の縮図がうつしこまれている。
長女である著者は、なぜか母親と気が合わなかった。母の性質のなかにどうしても自分と相容れない部分があり、それを嫌って折にふれ辛辣な言葉を投げつけ、母を遠ざけてきた。けれど、心の底ではずっと、罪悪感を覚えていた。激動の時代を生き抜き、最後には老いて子どものようになってしまった母の姿に対峙して初めて、母の思い、自分自身の母への思いに気付くのだ。
歯切れが良く赤裸々な文章はとても厳しく、そして切ない。母と娘との関係に限らず、家族というものはなんと厄介で、愛おしいものだろう。(2009・4)
『シズコさん』 つれづれな日々の繰り言
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March 28, 2009
体をかわすようにする時、首(かしら)が、よそへ行ってる人が多いです。
渚の方が上手、良弁が下手に入れ替わる時も、目線が渚の方から外れたらいけません。
「人形有情」吉田玉男・宮辻政夫(聞き手)著 ISBN: 9784000242622
人間国宝で不世出とうたわれた人形遣い、吉田玉男の芸談聞き書き。住大夫さんに続いて、文楽シリーズで読んでみた。
修業時代や先輩後輩との思い出を語るところは、真面目で控えめで、飄々とした印象。しかし後半、役柄の解説になると、やっぱり凄みがある。後ろから人形を遣っていて、顔が見えないのに目線がぶれず、きめ細かい動きを計算し尽くしているという。あえて、じっとしていて存在感を示す、辛抱の心も面白い。
文楽の大夫はオペラ歌手のようだけれど、オペラと違うのは一人で何役もこなし、ト書きまで語るところ。役に没入し過ぎない。人形遣いも、あくまで人形を通して演じるのであり、真に迫って喜怒哀楽を表現していても、語り口はどこかクールだ。本当に不思議な芸。生で観ることができないのが残念だ。(2009・3)
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March 12, 2009
何割かの子どもが将来に向けて希望をもてず、努力を怠るようなこととなれば、社会全体としての活力が減少する。格差がある中でも、たとえ不利な立場にあったとしても、将来へ希望をもてる、その程度の格差にとどめなくてはならない。
「子どもの貧困」阿部彩著(岩波新書) ISBN: 9784004311577
国立社会保障・人口問題研究所に所属する貧困研究者が、子どもに焦点を絞って日本の実態を分析、あるべき対策を提言する。
所得の中央値の50%という「貧困線」から、日本の子どもの貧困率は15%であり、欧州大陸の諸国などと比べて決して低い水準ではないと前提をおいたうえで、その実態を探っている。データが豊富で、素人にはその一つひとつを吟味することは難しく、正直言って消化不良ぎみになった。
そんななかで、「相対的貧困」の物差しは、なかなか興味深かった。現代の日本では、食べるものが全く無いとか、深刻な病気が蔓延しているといった切羽詰まった状況に陥る人は限られるだろうから、貧困対策の拡充をうんぬんするのは、ある種の「甘え」ではないかーー。そんな意見に対して、著者は指摘する。人は生きていくために社会の一員として他者と交流したり、人生を楽しんだりすることも必須で、それが欠けているかどうかの判断は相対的なものだという見方だ。
給付つき税額控除など、貧困対策の提言にあたる部分には、いろいろ議論があると思う。著者も「自己責任論」は十分、意識している。限られた社会資源を、どう配分したらいいのか。正論は正論、切実さは切実さとしたうえで、子どもの貧困を無くすことは未来へのセーフティネットになるという、いわば税金を使う効果の可視化も、あえて必要かもしれないと感じる。(2009・3)
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February 25, 2009
たったここ数年で、男性が女性に年収を求めるとはっきり言えるようになりました。問題は、それに代わって、日本の男性が提供してくれるものが、女性にはまだ見えてこないことです。
『「婚活」時代』山田昌弘、白河桃子著(ディスカヴァー携書) ISBN: 9784887596238
「パラサイト・シングル」で知られる家族社会学者の背景分析と、「キャリモテ」女性ライターの実態ルポで解き明かす現代結婚事情。
手練れの筆者ふたりのタッグとあって、「出会い格差」とか、「逆狩猟時代」とか、思わず口にしたくなるキーワードがいっぱいだ。鍵となるフレーズがゴチックにしてあって、そこを拾いながらすいすい読める。結婚が必須でなく、いわば嗜好品になり、経済環境の変化が加わって「希望格差」が顕在化し…という未婚現象の解説は、言ってみればお馴染みのもの。本書ではそれに続けて、今や結婚は就職活動のように、ノウハウとツールを駆使して取り組むべきもの、と力説する。
男性はもっと自分を磨いて、経済力とコミュニケーション力を養え、一方、女性はもう自分磨きは十分だから、外に出て出会いを求めろ、という叱咤激励は、ちょっと単純にも思えるけどわかりやすい。(2009・2)
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January 26, 2009
なんぼ床本がかわいそうな文章でも、語り方が悪かったらかわいそうに聞こえまへん。こんなええ浄瑠璃を語らせてもろうてお客さんに泣いてもらえなんだら、よっぽど大夫が悪いのです。
こんな結構な浄瑠璃をやらせてもろうて、大夫冥利につきます。
「文楽のこころを語る」竹本住大夫著(文春文庫) ISBN: 9784167753306
人間国宝、住大夫さんによる楽しい演目解説。
めったに上演されない「五人伐」という珍しい演目から、「忠臣蔵」などの定番まで19演目。住大夫さんがそれぞれを語るうえで、どういうところに気を配っているかを解き明かす。息やテンポで、年齢も境遇も違う人物を細やかに描き分け、ストーリーの盛り上がりを表現する。三味線との稽古風景や、拍手がほしいポイントなども、ざっくばらんに話していて興味深い。初心者としては、観たい演目がたくさんあるなあ、と楽しみになってくる。
芸への厳しさ、こだわりの強さはもちろんだが、演目解説の合間に自らの浮気体験なんかをちょこっと話す茶目っ気も相変わらずで、魅力的。山本千恵子さんによる聞き書き。茂山千之丞さんとの対談も収録。(2009・1)
竹本住大夫 文楽の心を語る 文楽を見に行きませんか?
「文楽のこころを語る」 竹本住大夫 おりおん日記
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January 21, 2009
いわば漢字は、今日のわれわれが失ったかもしれない多くの記憶をよみがえらせる「時空の方舟」だろうと言っているわけです。漢字はまさに四角い方形の姿をした「意味の舟」たちなのです。
「白川静 漢字の世界観」松岡正剛著(平凡社新書) ISBN: 9784582854404
「千夜千冊」で知られる著者が、熱く綴る「白川学」入門書。
松岡さん、のりのりです。大胆、孤高の学者の人物像と業績を語るのが、嬉しくてしかたないみたい。漢字の起源の研究者、というくらいの知識しかなかった情けない私も、なかなか楽しく読んだ。
関係ないけど、タイムスリップをテーマにしたジャック・フィニイの小説「ふりだしに戻る」を連想した。白川静という人は、具体的な文字のかたちを丹念にたどることで、もう、紀元前1000年とか500年とかの古代に飛んでいって、古代人たちの願いや祈りを生々しく呼吸してしまう。強靱なイマジネーションと、それを支える知力の深さ、鋭さを備えた人だったんだろう。
面白いのは、漢字そのものに象形文字、表意文字として長い歴史を生き延びた、類い希な生命力があって、それが白川静の誇り高い軌跡と、どことなく重なる印象があることだ。そして、そのタフな文字を異国から取り入れた側である日本文化の、融通無碍さに関する考察も興味深い。漢字に独自の読み方をどんどん付け足し、使いこなし、かなやカナまで生み出した。なーんにも考えていない私だって、そういう文化の恩恵を日々、受けているんですよ。驚き。
欄外に並んだ、妙なかたちの甲骨文、金文の図も興味津々だ。(2009・1)
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January 07, 2009
物心つかんうちから北新地を歩き廻り、三味線や唄や浄瑠璃を子守歌に育ちました。これではませまんなあ。
「なほになほなほ 私の履歴書」竹本住大夫著(日本経済新聞出版社) ISBN: 9784532166793
1924年生まれの人間国宝にして、現役ばりばりの人気大夫が、味わい深い大阪弁で語る自伝。
文楽初心者として、平成11年の新聞連載を元にした住大夫伝を楽しむ。
実父が文楽の三味線弾き、養父が大夫、実母と養母は芸者の美人姉妹。育ったのはお初天神の裏手というから、この人は骨の髄まで洒脱だ。お茶屋遊びが過ぎて嫁はんにとっちめられる、やんちゃなエピソードもチャーミング。でも、とことん浄瑠璃が好きな稽古の虫で、後輩にはめっぽう厳しい。文楽の標準語は関西弁、楽屋で「東京なまり」でおしゃべりなんて許せん、と相変わらず激しくおかんむりだ。こういう人がいて、リアルタイムでその芸を鑑賞できるというのは、幸せだなあ。
桂米朝や片岡仁左衛門らとの対談と、300年ぶりに復曲した浄瑠璃節の元祖「源氏十二段」の床本を収録。(2009・1)
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December 27, 2008
「買う」のではなく「誂える」という言葉があった。
「白洲正子と歩く京都」白洲正子、牧山桂子ほか著(新潮社) ISBN: 9784106021695
京都に出かけるのを機に、写真がきれいな「とんぼの本」を手にとった。雑誌「旅」の特集をもとに、白洲正子の著作の引用と、それにまつわるエッセイ、京案内を組み合わせてあって楽しい。
今回の京都旅行は中心部の散策だったので、紹介されていた中から、箸や唐紙の店に立ち寄ってみた。職人の技は落ち着いていて、上品で、とても贅沢。今度はもう少し暖かい時期に、白洲正子が訪れた郊外の古寺に足をのばしたい。それにしても、ミッソーニの茶系のコートを羽織った著者の旅姿は、格好いいなあ。(2008・12)
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December 19, 2008
本日休ませていただきます
人生の正念場なので、本日休ませていただきます。
「高円寺古本酒場ものがたり」狩野俊著(晶文社) ISBN: 9784794967305
東京・高円寺で古書店兼居酒屋を営む著者の、ブログの店長日記2年分と、足跡を振り返った書き下ろし、そして古書店仲間へのインタビュー。
イベントの告知などを含むブログ日記が味わい深い。淡々としているようでいて、季節が漂ってくる。書き下ろし部分の、開業前に連帯保証人代行業を訪ねる話や、一本の電話で泥沼の「引きこもり」状態を脱するエピソードなどは、鮮やかな短編小説のようだ。
人見知りを自認しているけれど、読んでいると素晴らしい出会いがいっぱいで、羨ましい。こだわりが、人をひきつけるのだろうか。かなりの酒量のようだけど、最近はちょっと控えているとか。体を大事にして頂きたいものです。(2008・12)
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November 13, 2008
私は、台湾を紀行している。
絶えず痛みを感じつつ歩いている。
「台湾紀行 街道をゆく40」司馬遼太郎著(朝日文庫) ISBN: 9784022641489
1993年から94年にかけて台湾を旅した作家が、歩き、人と出会いながら、国家というものを考える。
思い立って、あまりにも有名な紀行シリーズの一冊を手にとった。実は、この国民的作家の文章をちゃんと読んだことがなかった。本当に今更だけど、歯切れのいい文章のリズムと、選び抜かれた感じの単語づかい、ぱあっと目の前が開けるような比喩にやられました。「帰途、日本にはもういないかもしれない戦前風の日本人に邂逅し、しかも再び会えないかもしれないという思いが、胸に満ちた。このさびしさの始末に、しばらくこまった」ーー。写経のように書き写したら、文章がうまくなるかしら。
古今のたくさんの人物のことを語っている。後藤新平のような教科書に登場する人物から、山地に住む市井の老人まで。著者の人物観が一貫して、理想とか気概とかとともに、朗らかさを重視している感じが面白い。
人々はそれぞれ時代に翻弄され、「数奇」を体現している。そういう状況が決して終わっていないことを思うと、複雑な気分。巻末に当時の総統、李登輝との対談を収録。(2008・10)
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October 23, 2008
文楽の人形は、魂の「入れ物」である。大夫さんの語り、三味線さんの奏でる音楽、そして人形さんが遣うことによって、はじめて魂を吹きこまれる「容器」なのだ。だから場面に応じて、人間以上に「人間」になることも、聞き役に徹する「背景」になることもできる。
「あやつられ文楽鑑賞」三浦しをん著(ポプラ社) ISBN: 9784591097830
人気作家が綴る、文楽体験とその魅力。
大夫や人形遣いを楽屋に訪ね、著名な演目を解説し、関連する歌舞伎や落語の鑑賞にもチャレンジ。著者は理解できないことは理解できないと、遠慮なく突っ込むし、ときに鑑賞しながら眠っちゃうことも隠さない。あくまで率直、軽妙で、文楽初心者の読者としては、とても親しみを覚える。
とはいえ、そこは作家だから、近松「女殺油地獄」を解釈するあたりは、深い。あえて心理描写を排除した作品の狙いや、同じ演目でも人間が登場する歌舞伎との演出効果の差など、思わずうなってしまう。著者と一緒に、「文楽」という底なし沼にはまっていきそうだ。
インタビューを受けている人間国宝とか、もうすぐ国宝とかの人々が、皆さん飄々と、肩に力が入っていない感じで興味深い。伝統芸能という「我が道」を探究する名人ならではの、風格というものだろうか。また文楽見物に出かけるのが楽しみです。(2008・10)
あやつられ文楽鑑賞 三浦しをん 活字中毒日記
「あやつられ文楽鑑賞」三浦しをん しんちゃんの買い物帳
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October 11, 2008
結局のところ、カレンが諸民族の統合の絆として考えたのは、諸民族の独自性を許容するアメリカ民主主義の伝統であり、そのような民主主義国家への忠誠心であった。彼の狙いはエスニック文化の正当化にあったのだが、結果として、民族的多様性を調和させるために、国家の政治的統一力を導入しなければならなかったのである。
「市民と武装」小熊英二著(慶應義塾大学出版会) ISBN: 9784766411003
近代日本研究で知られる社会学者のアメリカ論。
バトンルージュ事件、湾岸戦争を踏まえて1992年から93年に書かれた論考。米国でなぜ銃規制が進まないのか、また米国はなぜ「世界の警察官」たらんとするのか、という角度から、その複雑な社会の成り立ちを読み解いた。2004年の出版に合わせて、補論を加えている。
短く端正な文章。比較的気軽に読めるが、刺激に富む。著者が着想を得たという、戦時公債キャンペーンのポスターなどが興味深い。(2008・10)
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September 11, 2008
権力闘争はいつの時代にもあるが、幕末には特別それが煮詰まった状態になる。政治責任が重くのしかかってきて、ぎりぎりの当事者責任が問われるからである。ただ出世がしたいだけで老中になった輩は、猛烈な勢いで篩にかけられることになった。
「幕末バトル・ロワイヤル」野口武彦著(新潮選書) ISBN: 9784106102066
著名な文芸評論家が、豊富な文献から意外なエピソード、スキャンダルをピックアップして幕末を語る歴史読み物。
前半は水野忠邦の台頭から失脚までの権力闘争、後半はペリー来航で混乱を極める幕府外交を描く。幕末といえばドラマチックな舞台だけれど、著者の視点はあくまで人間くさく、下世話だ。前半で繰り返される大名の配置転換の解説などは、現代の企業社会に通じるわかりやすさ。稚拙な財政再建策とか防衛の無策ぶりとか、なんだか似たりよったりというか、「週刊新潮」連載で人気を博しているのもうなづける。
ペリーの動静について来航の1年前に情報を掴んでおきながら、風説だとごまかして何も手を打たなかった官僚たち。否応なく傾いていく組織のありようが、ちょっと悲しい。(2008・9)
野口武彦「幕末バトル・ロワイヤル」 不知森の日記
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September 09, 2008
お能は「危機の芸術」だといわれますが、それはすべてのものが結晶する、すべてのものが停止する、その一点を目指して、あらゆるものが造られているからです。
「お能の見方」白洲正子・吉越立雄著(新潮社) ISBN: 9784106021763
白洲正子の1957年の名著「お能の見かた」を増補改訂、吉越立雄の写真を豊富に加えた1993年「とんぼの本・お能の見方」。その改訂版が出たというので手にとってみた。能曲「忠度」を題材にした未発表短編も収録。
最近、落語をきいたり文楽をみたり、なにかと古典づいている。お能はこうした芸事の基本なのだろうけれど、これだけは敷居が高い。どうも演者の表情が見えないのが苦手。でも、ちょっと勉強はしてみたい。
そんな気持ちを受け止めてくれる一冊だと思った。本当に「わかる」かどうかは別にして、解説は能曲を5種類に分けており、平易な文章でとっきつやすい。能面や舞台の写真も美しいです。(2008・9)
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September 03, 2008
それはブッシュ大統領の発言中のできごとだった。
「べーカー長官に国務省のスタッフが背後からそっと近づいて小さな紙を渡しました。べーカー長官が椅子の背もたれに寄りかかるようにしてその紙を受け取った瞬間、それが何の紙か見えたんです」
それはハーフの名刺だった。
「戦争広告代理店」高木徹著(講談社文庫) ISBN: 9784062750967
92年から93年当時、ボスニア紛争でもっぱらセルビア側を非難する国際世論はいかにして形成されたか。舞台裏には、ボスニア首脳に陰のように寄り添い、ブッシュ大統領との会談にまで同席していた米国の敏腕PRマン、ジム・ハーフの活躍があった。NHKディレクターが描く、情報戦という名のもう一つの紛争。
ブロガーお勧めの旧刊を読む。2000年にドキュメンタリーとして放映した番組をもとに2002年に出版、05年に文庫化したものだが、古びた感じはしない。冷静な筆致に、まず引き込まれる。
情報戦といっても、PRマンたちは怪しげな人脈を駆使したり、謀略を巡らしたりするわけではない。クライアントに対して説得力のある話し方を伝授し、絶妙のキーワードをひねり出して狙い通りの世論を喚起する。そうしたテクニックと丁々発止の交渉術には目を見張るけれども、ビジネスとして、いわばまっとうな努力を重ねているのだと思う。だからこそ、彼らのクライアントが企業ではなく、大勢の命を危険にさらして紛争を戦う国家だということに、驚きを覚える。
世論はうつろいやすく、グローバルな情報網は膨張し続けている。著者はいい悪いではなく、「大人のPR戦略」が欠如した組織は不利益を被るのが現実だ、と指摘する。今、触れている地域紛争のニュースには、いったいどんな戦略が隠されているのだろう、と考えずにはいられない。講談社ノンフィクション賞・新潮ドキュメント賞受賞。(2008・9)
ドキュメント 戦争広告代理店―情報操作とボスニア紛争 赤エイの徒然読書画帳
高木徹「戦争広告代理店」 でがらし的読書日記
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August 24, 2008
この人は天才だと思った。
「明日のポトフなァ、何を入れるか」
と云いながら冷蔵庫の中から、またかまぼこを取り出して、
「挑戦してみるか」とつぶやいた。
僕は少し気が遠くなった。
昭和五十九年三月、なごり雪の降る日に僕は立川談志の弟子になった。
「赤めだか」立川談春著(扶桑社) ISBN:9784594056155
(4594056156)
古典に定評ありといわれる人気噺家が、主に自らの前座時代を綴った大評判のエッセイ。
ひと言で言うと、評判通り。とにかくテンポと口調がいい。電車の中で何度も、声を出して笑ってしまい、最後の小さん師匠のエピソードでほろり。
登場人物がまさに落語だと思う。ノンフィクションというには職業柄、脚色が含まれるのかもしれないけれど。著者自らも、兄弟弟子たちも、彼らが畏怖と敬愛を抱く談志も、それぞれに、とんでもない奴というか、はちゃめちゃな言動を繰り広げる。理不尽な修業に耐えて二ツ目に昇進し、晴れて憧れの紋付を手に入れるという大事な資金を、なんで競艇の一発勝負で稼ごうとするのか。
彼らはしょっちゅう怠けたり、嫉妬したりもする。でも自分なりの情熱や意地が、ちゃんとあるのだ。著者自身を含めて人間を見つめる視線が、厳しく、それでいて温かいのが印象的。談志の名言どおり、底流にあるのは「人間の業の肯定」なのだろう。
一度だけ一門会で、談志さんと談春さんをみたことがある。「志の輔らくご」には結構足を運んでいる。チケットをとるのは大変だけど、もっと高座をみたいなあ、と思う。こういう芸にまつわる「歴史」を、当事者が記録しておいてくれる、ということも嬉しい。講談社エッセイ賞受賞。(2008・8)
「赤めだか」立川談春 あおちゃんのお茶ばなし
『赤めだか』 著者 立川談春 オナジソラノシタ
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August 18, 2008
戦後六二年、日本の司法は国民から切ないほどの信頼を得ているが、その実態はベールに隠されて、国民の目に触れることはなかった。
「公認会計士VS特捜検察」細野祐二著(日経BP社) ISBN:9784822246211
(4822246213)
粉飾決算事件で刑事責任を問われた会計士が綴り、話題となった手記。
著者は1審、2審で有罪となり、最高裁に上告中だ。もとより一方の当事者の記述であり、この一冊だけでその言い分を理解し、評価するのは、素人の読者には難しいと思う。会計とか監査とかを取り巻く環境そのものが、過去10年弱の間に劇的に変化しているのだろう。
ただ、本論とは別のことだけれど、検察の取り調べなどの描写の生々しさには圧倒される。そして、そもそも事件を引き起こした原因である、経営者が陥った罠の度し難さにも。(2008・8)
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June 29, 2008
ピョートル大帝の時代からの二〇〇年間で、ロシアの領土は平均すると一日につき四〇〇平方キロメートルの割合で増加した(東京都の面積は約二二〇〇平方キロだから、せいぜい六日分ということになる)。
「ロシア・ロマノフ王朝の大地」土肥恒之著(講談社) ISBN:9784062807142
(4062807149)
「興亡の世界史」シリーズ。ロシア社会史研究者が描くロシア史。
ロマノフ王朝を中心にしつつ、前提となる13世紀の「タタールのくびき」から説きおこして、ソビエト連邦の成立と崩壊までもカバー。アジアとヨーロッパの狭間におこった独特な国家の、全体の流れがわかる。筆致も教科書のようで、淡々としており読みやすい。
帝国の時代の、東へ、南へという拡大ぶりは、島国育ちの想像を超える感じがある。だから農民の間に、遠くの地への「移住をいわば理想化」する志向が強まり、結果的に狭い土地で工夫する農業の集約化や増産が遅れた、という指摘は興味深い。
ロシア史について、ブロガー推薦の本を続けて読んで、ずいぶん勉強になった。この後は、何かロシア関連のエンタテインメントを探してみよう。(2008・6)
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June 21, 2008
ペテルブルグはあらゆる意味で巨大な存在なので、「ペテルブルグ学」とでも呼びうる独特の学問・評論領域がある。
「サンクト・ペテルブルグ」小町文雄著(中公新書) ISBN:9784121018328
(412101832X)
在ソ連日本大使館勤務の経験を持つ著者が、「幻想都市」の名所と歴史を案内する。
個人的「ロシア強化月間」第二弾。「素人」向け観光ガイドのかたちをとっており、地図や写真も入っていて読みやすかった。著者自身、「罪と罰」の舞台といわれる街角を訪ね歩くあたり、ちょっとミーハーで親しみがもてる。しかし、真面目に理解しようとすれば、やっぱり複雑で奥が深くて、一筋縄ではいかない。
スラブとアジアの重みを抱えつつ、ヨーロッパに向かって開かれた「近代化の窓」という、成り立ちからして何とも人工的な都市。帝政時代には官僚などとして、大勢のドイツ人が移り住んでいたようなのに、後に悲惨な独ソ戦も経験する。数々の悲劇と矛盾。博物館の展示順の「ハチャメチャ」(混乱)ぶりから、宿命的な混沌に思いをはせるくだりが印象的だ。(2008・6)
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June 12, 2008
ロシアはわからない、という嘆きは、ロシアはもとより、欧米人の間にもゆるぎない事実としてある。ヨーロッパとアジアを両足でまたぐロシアに対し、一種のバイアスのかかった畏怖や憧憬が今もって欧米圏に広く存在することは、ロシア論なるジャンルの興隆がこれを物語っている。
「ロシア 闇と魂の国家」亀山郁夫、佐藤優著(文春新書) ISBN:9784166606238
(4166606239)
「カラマーゾフの兄弟」新訳で話題をまいたロシア文学者と、異能の外交官が語り合うロシアという国。
私的「ロシア強化月間」第一弾に選んだのだけれど、ハイレベルすぎた。文豪とか、キリスト教会の分裂とか、スターリンとか、基礎知識が全くないので、感想を書くほど理解できていない。情けないです。
そんななかで、東京外語大学長という要職にある亀山氏の、ドストエフスキーとロシアへの愛の深さ--凍てつく大地や、繰り返し現れる「独裁者」も含めて--だけは、とてもよく伝わってきて印象的。(2008・6)
ロシア 闇と魂の国家 read read read
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February 22, 2008
翌朝の討伐開始を前に、反乱軍への説得や、情報偵察の電話が頻繁に行き交い、早朝にかけて五分刻みに電話の傍受もなされているというタイミングをはかって、すでに獄中にいる北一輝の名を騙った何者かが、「幸楽」の安藤のもとへ電話を入れたのである。通話が傍受・録音されていることを十分に意識した上で。
「盗聴 二・二六事件」中田整一著(文藝春秋) ISBN:9784163688602
(4163688609)
NHKのライブラリーから発掘された二十枚の録音盤。そこには二・二六事件進行中の東京各地における、電話の傍受記録が残されていた。
文章がたいへん読みやすく、ぐいぐいと引き込まれた。著者はNHKで昭和史ドキュメンタリーを手がけた元プロデューサー。映像が本職ゆえだろうか。大量の文献、捜査・裁判記録などをふまえながらも、くどい引用や解説はない。
明晰、簡潔な筆致で描かれるのは、録音盤に刻まれた事件当事者たちの「肉声」だ。掃討を覚悟して、無念を噛みしめながら知人に別れを告げる青年将校。あるいは夫の苦境を知らず、やりとりに明るささえ感じさせる山下奉文少将の妻。声がもつ圧倒的な存在感が、くっきりと浮かび上がる。
「盗聴なんかやったばっかりに」。実際に傍受に携わった人物が長い年月を経てもらす、悔恨の言葉が痛切だ。法を踏み越えた捜査が実行された背景には、クーデターという未曾有の危機に対応し、素早く施行された戒厳令があった。それは事件の鎮圧と事後処理を主導した軍部が力を持ち、やがて独裁へと突き進んでいく導火線にみえる。
歴史の転換点における軍内部の暗闘、謀略や、外国大使館に入り込んで状況をみつめるスパイの活動など、スリリングな場面も多い。何より印象的なのは、「肉声」に再会して衝撃を受けながら、重い口を開く関係者、遺族の感慨だ。著者が録音盤と出合ってから三十年近いという。ねばり強い取材に、頭が下がる。(2008・2)
旧刊案内『盗聴 二・二六事件』 読欲
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October 13, 2007
「『県議会百条委員会が証言を必要とするのなら、行ってありのままを証言しなさい』と町長が送り出してくれた。いかん事はいかん、証言に立ったのはその思いだけです」
取材班に対し、幹部職員はそう振り返った。が、プレッシャーたるや相当なものだったに違いない。
「黒い陽炎」高知新聞編集局取材班著(高知新聞社) ISBN:9784875033219
(4875033214)
「ミスター県庁」と呼ばれた実力副知事らが、12億円もの背任容疑で起訴された高知県庁の闇融資事件(07年8月に実刑確定)の記録。平成13年度新聞協会賞受賞した平成12年3月からおよそ1年半にわたる報道をまとめた。
だいぶ前に知人に聞いて、気になっていたノンフィクションを読む。スクープをきっかけにしているが、衝撃の事実をえぐり出したといった気負いは感じられない。議会の追及、県警の捜査、そして公判。むしろ淡々と経緯を記していく。
実際のところ、この事件には、県知事を除けば著名人が登場するわけでもなく、複雑怪奇な悪事の仕掛けが繰り広げられるわけでもない。県民でない読者からみれば、確かに被害の巨額さなどで常軌を逸してはいるが、どこか「ありふれた」感じさえしてしまう。
だからこそ、怖いのだと思う。「今までもそうしてきたから」「前例を逸脱すると、ややこしいことになるから」…。きっかけはそういう、ありがちな思考回路、行動パターンなのだ。様々な地域、組織で、日常と隣り合わせのところに罠は潜んでいるのだろう。(2007・9)
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September 15, 2007
いま振り返ると考えられないが、あのころは一万円が百円のような感覚でしかなかった。
いちど東京へ向かう新幹線のなかで、一〇〇〇万円の現金を入れたバッグを盗まれたことがある。しかし、さほど惜しくはなかった。
「反転」田中森一著(幻冬舎) ISBN:9784344013438
(4344013433)
「闇社会の守護神」と呼ばれた弁護士が告白する、激動の半生。
〇七年前半を代表する話題本を読む。貧しい漁村からバブルの頂点へ。「正義の味方」の特捜検事から、悪名高い山口組組長や仕手筋に味方する弁護士へ。著者のたどってきた道は、良くも悪くも、あまりに落差が大きい。その落差が、何らかの平衡感覚を失わせたのだろうか。
著者はついに、古巣の検察に指弾される身の上となった。自らの行動の背景として、検察という官僚組織への失望や、裏社会の住人たちへの同情を語る。決して共感はできないし、もちろん真実をすべて語っているわけではなかろうが、数多くの経済事件に関わった当事者としての証言録はやはり、貴重なものだろう。「バブル紳士」や政治家、官僚が次々と実名で登場。その欲にからめとられたふるまいは、驚くべきものだ。(2007・9)
「反転 闇社会の守護神と呼ばれて/田中森一」 読書@生活


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August 12, 2007
古本屋はその学問を、文章ではなく本の売価で表現するのである。ちなみに『裸体と衣裳』は、「帯付きの古書価が極端に上がった本」の例に挙げられている。帯が無くカバーのみの初版本は、一万五千円で、カバー帯共に備わった初版は、十五万円である。帯一本で、これだけ値段が違うのである。
「作家の値段」出久根達郎著(講談社) ISBN:9784062140591
(4062140594)
古書店主でもある作家の「実益作家論」。司馬遼太郎、三島由紀夫から梶井基次郎まで。近代文学に詳しい古書店主、大場啓志氏とのやりとりで、意外な稀覯本や古書価を明かしていく。
もちろん単なるカタログ本ではない。古書の価格が決まるには、それだけの理由がある。出版時の事情、どれくらい売れてどういう読まれ方をしたか、そして今、どれくらい需要があるか。古書価というものを入り口にして、作家をめぐる蘊蓄やその文学の魅力を縦横に語る。
例えば樋口一葉の『通俗書簡文』を紹介したくだり。明治を代表する女流作家も、生前は恵まれず、亡くなる前に出版された唯一の著書が手紙の文例を集めた実用書というのが、まず興味深い。猫の子をもらうとか、滅多にないような設定で、「どうぞ下さりませ。必ず必ず大事がり、夜も布団に寝かし…」と、なんとも名文がつづられて、立派に小説になっているのだ。
この本は古書価としてはカバー付き、普通の保存状態で十万から十二万円というから、さほど高くはない。著書は安いが、本人が残した手紙は高くて、何百万円もするという。皮肉なものだと、著者は天才の運命に思いをはせる。
手練れの軽妙な語り口のなかに、文学と本そのものに対する深い愛情がみなぎっている。(2007・8)


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July 21, 2007
昭和二十二年生まれで当時まだ中学生だった荒俣は、この雑誌に漂う不良文化人たちの雰囲気にあこがれ、いつかこんな文章を書いてみたいと文体や言葉遣いを真似した。
「星さんはある種の、芥川龍之介なんですよ。芥川の場合は中国の古典を取り入れましたけど、星さんの場合はアメリカ文化のフレンドリーさとスノビズムを導入した。僕が読み始めたころの星新一はもう、才気突っ走るという感じでピカピカ輝いていた。なんといっても言葉遣いが新しいでしょう。誰でも書けそうだと思って真似して挑戦してみるけど、何本も書けないことはすぐにわかるんだよね。(略)」
「星新一 一〇〇一話をつくった人」最相葉月著(新潮社)
ISBN:9784104598021
(410459802X)
5年の歳月を費やし、130人以上へのインタビューで綴る異色作家の大作評伝。
星新一といえば小学生の高学年のころ、新潮文庫で夢中になって、作文を書くときちょっとフレーズを真似したりした。中学にあがると自然に読まなくなってしまったけれど、社会の行方、文明への鋭い視点が印象に残っていて、時々ふっと、断片を思い出す不思議な存在だ。
ショートショート1000作以上、文庫発行部数3000万部以上という実績に、まず圧倒される。評伝の中で大きな核となっている、日本SF黎明期の熱気が、高度成長へと駆け上る時代の記憶と響きあって興味深い。今でいえば「おたく」カルチャーの沸騰なのだろうか。小松左京と並んで、このジャンルを切り開いた星新一の新規性は、格好よくて爽快だ。
しかしSFであり、しかも見た目が軽いショートショート主体という独特の作風ゆえに、やがて世間は星に対して、一定のイメージを貼り付けてしまう。いわく、読者はあくまで子供であり、長じるに連れて「卒業」する作家である、と。そんな評価に煩悶しつつ、それでも身を削るようにして膨大なショートショートを書き継いでいった心のうちとは、どんなものだったのか。
父は製薬会社オーナーとして、また代議士として豪快に波乱の人生を送った人物。その存在はあまりに大きかった。御曹司の星は、若くして父の「負の遺産」を背負ってしまい、人間不信と孤独に苦しむことになる。そういう辛い体験をしつつも、物見高い性格や、何事も冷静に観察し、分析する態度は衰えなかった。特に終戦当日という歴史的な日に、宮城前に足を運ぶシーンが印象的。星を形作るこうした要素のどれ一つが欠けても、空前絶後の短編作家は誕生しなかっただろう。
冷静に事実をたどっていく人物ノンフィクションだが、それでもラスト近くになって、著者の思いがほとばしる。多くの読者が、かつての「星体験」と重ねて読むことだろう。550ページ超という重量が気にならない面白さだ。講談社ノンフィクション賞、日本SF大賞。(2007・7)
「星新一 1001話をつくった人」 「差不多」的オジ生活
星新一 一〇〇一話をつくった人 darjeeling and book
読者大賞blog


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July 01, 2007
重心をかけるかかと部分とつま先部分に突起が多く、土踏まず部分に少ないのは非常に理にかなっている。地下の兵馬俑坑に入れる俑は、埋められた後は誰が見るものでもないのに、なぜここまでリアルに表現しなければならないのだろうか。
「始皇帝陵と兵馬俑」鶴間和幸著(講談社学術文庫)
ISBN:9784061596566
(406159656X)
始皇帝陵研究の第一人者が熱く語る、兵馬俑8000体という地下帝国の驚異と、最初の統一中国の姿。
壮大なスケールと共に、細部の描写が興味深い。例えば膝をついた俑の靴裏に施された、滑り止めの突起。現代にも通じる実用性と、きめ細かい表現力が読み取れる。2200年以上も前の技術と情熱に、ただただ圧倒される。
短命な「秦」の歴史をひもとくくだりは、地名などの知識がないと理解するのに難しいところも多々ある。しかし、面白さが減じるものではない。戦闘での騎馬の活用や、道路、治水など国家建設の試み。著者は、司馬遷らあまりに著名すぎる歴史家のフィルターを通さず、新たな発掘などから国家の実像に迫ろうとする。歴史を読み解く興奮は、ローマ帝国史も彷彿とさせる。
巻末に詳細な兵馬俑坑ガイド付き。(2007・6)
対談 「古代中国の魅力を語る」 ぱんどらの箱
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May 26, 2007
イェンガーとジャンらはアメリカにおける退職年金制度である401(k)プランについても、選択できるファンドが多すぎるのではないかと考え、雇用者に対する広範な調査を行った。その結果、選択できるファンドが多くなると401(k)プランそのものに参加する人数が減ってしまうことを見出している。
シュワルツは、このような現象を「選択のパラドックス」と呼んでいる。
「行動経済学」友野典男著(光文社新書) ISBN:9784334033545
(4334033547)
副題は、経済は「感情」で動いている。時として人は、経済合理性に逆らう選択をする。そのメカニズムを分析する「行動経済学」の、一般向け入門書。
「最終提案ゲーム」「リンダ問題」など、経済学者たちは様々な実験を通じて人間の気まぐれな行動を読み解いていく。「ヤバい経済学」に登場したデイケア・センターの罰金の実験も出てくる。罰金を導入したのに、迎えの遅刻が増えてしまったという逸話だ。罰金をとられることでかえって、時間をお金で買う「取引」の発想が生まれ、遅刻のやましさが薄れたという分析だ。
ほかにも「リスクをとるより現在、手中にある財を守ろうとする」とか、「いきなり大金をもらうよりだんだん良くなっていくのを好む」とか、一見、損得とは逆行する選好について、分析が繰り広げられる。導かれる結論は、実はそれほど意外なものではない。「私もそういうことをするかもな」と感じる、いわば常識的な行動なのだが、そこに理論で裏付けをしていく道筋が面白い。
そもそも「誰もが冷静に物質的利益を追求し、一貫した行動をとる」という古典的な経済学の前提のほうが、とんでもないフィクションだったということだろう。本書に登場するノーベル賞学者らは心理学や生理学も動員し、こうした「常識」を「数式」に置き換えて、マーケティングや公共政策に取り込もうとする。彼らの「論理的であること」へのあくなき信念と努力が興味深い。コンパクトで読みやすく、話題のタネが満載の一冊だ。(2007・5)
行動経済学 経済は「感情」で動いている regenbogen:Mandria
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April 22, 2007
特捜検察は、ねらい撃ちが本来の姿なのである。あまたある疑惑の中から捜査対象を選び、一罰百戒で、正義の枠組みを維持する制度設計になっているのだ。刑事訴訟法191条は「検察官は、必要と認めるときは、自ら犯罪を捜査することができる」と定め、これが特捜検察による独自捜査の法的根拠となっている。「必要と認めるとき」とは、犯罪を選択できるということを前提にしている。
「特捜検察VS.金融権力」村山治著(朝日新聞社) ISBN:9784022502483
(4022502487)
毎日新聞から朝日に転じ、以後、多くの経済事件を追ってきた記者がまとめたバブル崩壊後の15年史。
行政機関である検察が、「国策」に沿って権力を行使することは「当然」のことだと、まずはしっかり認識したうえで、国策と、実際に表面に表れる「事件」とがどうつながるのか、その権力構造を描いた。随所で語られる官僚たちのバックグラウンドや、個人的な親交のエピソードは興味深いものの、全編を通して浮かび上がるのは個々の人物ではなく、やはり「組織防衛」という不変の思考回路だ。結局はそれが「時代」なんだ、という結論になるのかもしれないが、大勢の名もなき人の人生が翻弄されたことを考えると、やりきれない気がしてくる。
イトマンからライブドアまで、1件だけで何冊も本を書けるぐらいの経済事件を一気に詰め込んであり、背景の掘り下げなどはやや消化不良。実際にはこうして「事件」にならず、語られなかった疑惑にこそ、権力の素顔が潜んでいるのかもしれない。冒頭に検察や大蔵省・財務省、金融庁の幹部15人の名簿と、関連年表が付いていて便利。(2007・4)
村山治「特捜検察vs.金融権力」 yabuDK note 不知森の記

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January 01, 2007
だが、「メディアはいつのまにか人間を変えてしまう」。彼のこの言葉ほど、今日のデジタル情報メディア全盛時代の本質を鮮やかに表現しているものはない。
「新聞がなくなる日」歌川令三著(草思社) ISBN:4794214391
元毎日新聞編集局長が読み解くメディアの変転。
読者調査や経営データをもとに、地に足の着いた近未来予測を、平易な言い回しで展開している。マクルーハンの言葉が実際にどういう形で実現するのかは、なかなか見えてこないのだけれども。(2006・12)

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December 30, 2006
中国の現状をたとえていえば、共産党一党独裁制度の旗の下、封建主義の原野に敷かれた特殊な中国的社会主義のレールの上を、弱肉強食の原始資本主義という列車が、石炭を猛烈に浪費しながら、モクモクと煤煙を撒き散らし、ゼイゼイいいながら走っているようなものだ。
「大地の咆哮」杉本信行著(PHP研究所) ISBN:4569652344
チャイナスクールの外交官が記した、本音の中国分析と日本外交論。
実は中国というテーマは、人によって好悪の感情が強すぎる気がして、気になりつつも食わず嫌いできたのだが、知人に勧められて本書を読んでみた。
著者は部下の自殺、そして自身の病に直面して一線を離れた元上海総領事。意外に内容は暴露的ではないから、事件の真相のほのめかしを期待すると、ちょっと裏切られる。
むしろ前段として、著者が若い頃、「何の気なしに」選んだ語学研修先での不自由な暮らしや、鮮烈な平和友好条約交渉の記憶などが語られる。その長い実体験を通じて徐々に、国として、この「時としてやっかいな隣国」と付き合っていくしかないのだという全編を貫く姿勢が、真実味をもって迫ってくる。それはもしかすると本来、好き嫌いとか、共感や反発とか、個々の事件の真相とかの問題ではない。
後段は現在、中国が抱える様々な矛盾や危機の解説で、非常に具体的でわかりやすい。特に、都市部にもみられる深刻jな経済格差や、進出企業が翻弄される資本主義の未熟さが印象的。2006年の大きな話題だった靖国問題への提言も明晰だ。
もちろん事態はそうそう簡単ではないし、刻々変化している。あくまでも本書の所見は2006年5月当時のものだし、他の見方ができる部分もあるだろうから、こうした出版に弊害を感じる人もいるかもしれない。だが、交渉当事者の冷静な発言が、死を覚悟した場面でしか表に出てこないとしたら、それこそが大変な損失に思える。(2006・11)
「大地の咆哮」

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December 24, 2006
人間は遺伝子だけの乗り物なのではない。文化を運ぶ情報、すなわち「ミーム」の乗り物でもあるのだ。乗り物というよりも、二種類の生地が織りなすタペストリーのようなイメージの方が近いかもしれない。(略)遺伝子とミームのギャップ。二十一世紀に生きるぼくたちは、このはざまで右往左往している。
「いまこの国で大人になるということ」苅谷剛彦編著(紀伊國屋書店)ISBN:4314010053
社会学、経済学、生物学など気鋭の識者16人が、現代ニッポンの大人になることの困難さを論じる。
だいたい1960年前後の生まれで、雑誌などで活躍する論者がきら星のごとく揃い、同一テーマで執筆しており、視点のバリエーションが豊富だ。ニート対策や晩婚化などについては、社会問題としての議論が一巡した感があってさほど新鮮ではないし、著者それぞれが末尾に発する若者への励ましやメッセージには、気恥ずかしい感じも受ける。
しかし景気がよくなったからといって、「個人の気の持ちよう」といった構造は、そうそう簡単にすっきりするものではない。改めて考え方を整理し、なにがしかヒントを得られる一冊。(2006・11)

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September 12, 2006
驚くべきことに、天皇はコーヒーに一切口を付けなかったそうです。もてなされたものに手をつけないのは礼を失することです。天皇のような社交的に訓練された人がそれを敢えてしたのは、敗者とはいえわが道をゆく毅然たる姿、ということになるのでしょうか。マッカーサーもこれにはずいぶん驚いたようです。
「昭和史 戦後篇1945‐1989」 半藤一利著(平凡社)ISBN:4582454348
ノンフィクション作家が語る昭和史講義の完結編。
500ページを超える大部で、戦後ニッポンの歩みをたどる。戦前篇と同様、ルビを多用したわかりやすさやエピソードの面白さは健在。
まだ「過去」とはいえない時代だけに、歴史観の鮮やかさに欠ける感は否めないが、「経済優先と官僚統制」という枠組みがいかにして選択されてきたか、いわば私たちの出自を見つめ直す手がかりになる。その上で、大局観をもって今を選びとるにはどうしたらいいのか… 何かと歴史を考える機会が多かった夏に、ふさわしい一冊だった。(2006・8)

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June 19, 2006
つまり、「豊かさ」をめざすことが戦後家族のアンデンティティである限り、家族は、これらの豊かさの象徴を追求し、手に入れることが求められる。それゆえ、家族生活の経済的負担は、雪だるま式に増えていく。
「迷走する家族」山田昌弘著(有斐閣) ISBN:4641173125
「パラサイトシングル」や「希望格差」を鮮やかに論じてきた社会学者の、今の時点での集大成といえそうな家族論をコンパクトに読むことができる一冊。
内外の著作のエッセンスも散りばめながら、戦後の「幸せな家族モデル」がどのように形作られ、どう揺らいできたかをたどる。そういう視点でとらえると、現在の少子化は、とりあえずの結婚・出産の先送りという修正の一形態だというわけだ。ところがグローバル化とITに象徴される「ニューエコノミー」の浸透、そして人生の選択の「個人化」によって、そろそろ、そうした修正も限界に達してきた。最終章では短く対策に言及しているが、それよりも家族の変質に対する強い危機感を前面に出している。経済、社会はおそらく後戻りできず、だとすれば家族の役割も再構築していくしかないのだろうが…(2006・6)

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May 13, 2006
ただし、ライターには行ったきりで戻ってこないは許されない。どこまで奥へ進み、どこで原稿用紙に引き返すか。向かっていく力を同じくらい、そこから引き返す力も必要なのである。
「だからこそライターになって欲しい人のためのブックガイド」田村章、中森明夫、山崎浩一著(太田出版)ISBN:4872332024
現役ライターが明かす、作家でも評論家でもエッセイストでもない、ライターという職業の方法論と、身の処し方。
先達の仕事を連ねたブックガイド。その前段にある著者たちの対談が、率直な語り口で魅力的だ。初版1995年の出版界を背景にはしているが、時代を切り取る発想法や、ライターが書くものは「作品ではなく商品」だ、というこだわりが意味するところなどは、現在に通じる。
雑誌の連載や単行本、ルポ、広告コピー、リライト、ノベライズ…。言及されるジャンルの広さは、ライターという存在の不確かさ、そして、したたかさを感じさせる。田村章は言わずと知れた作家、重松清の筆名の一つ。永江朗オススメの一冊。(2006・5)

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April 30, 2006
「毎日、ここに来てるんですか?」
「まさか、月に五回くらいだよ」彼はレモンハイをぐっとあおって、こちらを向くと、ニッと笑う。「これがまた、いいんだ。朝酔っぱらって帰って寝るのがね。とりあえず今は幸せって気分でいられる」
「雨にぬれても」上原隆著(幻冬舎文庫) ISBN:4344406532
コラム・ノンフィクションの第三弾。
社長の自殺とかDVといった重いテーマも、はたまた駅前商店街の大衆食堂で朝から酒を飲む人たちの生態も、あくまで並列に、淡々と描いていく。だからこそ、悲劇は誰の身にも起こりうるのだという当たり前の事実や、とるに足らない日常のかけがえのなさが、胸に染みる。こういう作品を淡々と書いていくのは、かなりタフな精神がいることだろう。中には取材しようとしたけれども、空振りになっているものもあって、著者が困ったりするシーンまで目に浮かんできて、興味深い。(2006・4)

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April 23, 2006
注意するのは漢字とひらがなの使い分けで、なるべく漢字を使わないようにしています。そのためには、いちど固有名詞や引用部分をのぞいて全部ひらがなにしてみて、そこからどんどん漢字にしてみたりもします。
「〈不良〉のための文章術」永江朗著(NHKブックス) ISBN:4140910054
プロのライターが指南する「お金になる」文章の書き方。
原稿の依頼を受けた媒体や、その想定する読者層、原稿の長さ、媒体のなかでの位置づけはもちろん、書き手自身が出版界でどう位置づけられているか、今回の依頼では何を期待されているのか、を理解する。それらを踏まえたうえで、ニーズに合っていて、同時に筆者が伝えたいことや、個性がきちんと表現できている。そんな文章を書くための作法を追求した一冊。
書評、飲食店紹介など、著者自身の仕事を題材にした推敲の実例も豊富だ。プロに徹するには、驕らず媚びず、できないことはできないと言う潔さも大事だ、という姿勢が印象的だ。(2006・4)
永江 朗『<不良>のための文章術』

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April 11, 2006
小学生同士が野球で遊ぶときに、「生産者と消費者」とか、「上司と部下」とか、「ルールを作る人と守る人」といった非対称な関係はありません。生産者だけが情報を知っていて消費者には知らされない、といったこともありません。(略)
こういう子どものこころ、遊びのこころを持つことは、インターネットがもたらす変化に対する最大の防御であり、最大の攻撃手段ではないでしょうか。
『「へんな会社」のつくり方』近藤淳也著(翔泳社) ISBN:4798110523
新興IT企業「はてな」の若き創業者が綴ったブログと、インタビューで構成するマネジメントの実像。
「開発合宿」や別の会社との「交換オフィス」など、仕事に刺激を与えるユニークな手法が次々明かされる。注目されるベンチャー経営者というイメージを覆して、語り口の飾り気の無さ、気負いの無さがまず印象的だ。そして、何か芯の通ったもの、タフな思考とでもいうべきものが伝わってくる。
例えば「超オープン経営」。まずサービスを提供してしまう。必ずしも完成度が高くなくても構わない。そしてユーザーからの要望をどしどし受け付け、それを採用して実現する場合も、見送る場合も、どう検討したのか、経過をちくいち公開する。
超オープン経営で会社が必ず成功するかと問われれば、答えは否だ。たぶん、はてなにこの先、逆風が吹くこともあるだろうし、この手法を一般的な消費財のビジネスや、規模の大きい会社にそのまま当てはめることはできない。だが、来るべきネット社会の一面を予感させることだけは確かだ。(2006・3)
「へんな会社」のつくり方
“へん”で有名なITベンチャー。

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April 09, 2006
自分は中流でなくなったと勝手に思いこみ、じゃあ自分は何だと考えたところ、よくわからない。わからないのは自分の名前がないようなものだから、さらに不安になる。じゃあ自分は負け組で、新しい階層社会が始まったと妄想し、自分でラベリングしたくせに、そのせいでさらに落ち込む……。
「しみったれ家族」畸人研究学会著(ミリオン出版・大洋図書) ISBN:4813020208
100円ショップやファミリー居酒屋などで観察した「平成新貧乏」の生態を、雑誌対談形式などで軽く辛辣に綴る。
「プラモデル進化論」(イースト・プレス)などの今柊二と「ダニの生活」(新風舎)などの黒崎犀彦の共著。無理をして郊外に家を持ち、切りつめた生活をしている「張り子のトラ」。食にも住にもメリハリがない、深夜ディスカウントショップ族…。長期不況を背景にしたライフスタイルの分析は一部、景気回復期の現実と合わなくなりつつあるが、底流にある「精神の貧困こそしみったれ」という視点は意外に古びていない。どんな家族であれ、子世代の教育には手を抜かないでほしい、学び続けることこそが明日につながるのだから、という主張は、至極まっとうだ。(2006・1)
[書評]のメルマガ vol.221

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December 18, 2005
「小泉政権vs郵政族」という視点からは政権の華々しい勝利に映らなくもない郵政民営化だが、視点を「小泉政権vs郵政官僚」に変えた途端、郵政官僚たちの圧勝なのである。
「日本郵政」町田徹著(日本経済新聞社)ISBN:4532351766
2005年の政治状況の最大テーマ、郵政民営化の背景を丹念にたどり、「私的独占」につながる問題点を鋭く指摘。
「公益」と「効率」、そして「競争」の意味。巨大国営組織の変革は、私たちに国のかたち、経済のかたちに関わる様々な問題を投げかける。それにしても、なぜ、多くの優秀な人々が関わり、様々な言説が長いあいだ積み重ねられてきて、こうした結論に至ってしまうのか。そのからくりを解き明かす、豊富なエピソードが印象的だ。例えば、政治家が指導力を発揮するとき、その背景には本人の長い議員生活ばかりか、世襲による前代からの経緯までも横たわっているのかもしれないということ。あるいは、交渉ごとで「巻き取り」と呼ばれている、賢いけれど誠実さに欠ける言動が、ときには関係者の間に修復不可能なほどの亀裂をもたらし、政策の行方を左右するということ…。
現在進行形の事柄という難しさは当然あるのだろうが、だからこそ今、読み応えのあるルポルタージュである。(2005・12)
読書日記 日本郵政―解き放たれた「巨人」
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December 04, 2005
このミートボールは、それまでの私にとって誇りでした。
本来なら使い道がなく廃棄されるようなものが食品として生きるのですから、環境にもやさしいし、1円でも安いものを求める主婦にとっては救いの神だとさえ思っていました。私が使った添加物は、国が認可したものばかりですから、食品産業の発展にも役立っているという自負もありました。
しかし、いまはっきりわかったのは、このミートボールは自分の子どもたちには食べてほしくないものだったということです。
「食品の裏側」安部司著(東洋経済新報社)ISBN:4492222669
食品添加物を扱う商社の敏腕営業マンだった著者が語る食品加工のからくり。
見栄えが良く、安い食品をいかにして生み出すか、その驚くべき手法が次から次へと明かされる。それが身近なスーパーの棚の裏で起きているということに、まず衝撃を受ける。しかし忘れてならないのは、消費者も常識を働かせれば、「こんなはずがない」とわかるはずだということだ。それなのに、少しでも見栄えがよく安いものに手を伸ばしてしまう。都市に住み、忙しい日常を送る多くの一般消費者にとって、いますぐ添加物と決別するという選択肢は、非常に非現実的だということも、著者はよく知っている。だからといって知らなくていいということにはならないのだ。(2005・11)
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December 03, 2005
私は「わかる」ということは「分ける」ことだと思っている。つまり、わかるということは「違いを分けて、明らかにする」ことなのである。
「あの人と和解する」井上孝代著(集英社新書)ISBN:4087203115
ノルウェー生まれの平和学者の理論「トランセンド法」を応用し、臨床心理士の著者が仲直りへの道を解説する。
実際に相談を受けているという、親子や同僚などとのいさかいの例が具体的。著者がいう和解とは、白黒をつけたり、逆に妥協や我慢でうやむやにすることではなく、互いの違いをわかって共感すること。単なるノウハウ本ではない。身近な人間関係への向き合い方は、国家間の関係にも通じる社会の基礎だからだ。民俗学者、宮本常一が対馬の村で記録した「寄り合い」という古来の知恵が、トランセンド法に通じるという記述が興味深い。さて、あなたは誰と和解したいだろうか。(2005・11)
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男女の働きすぎに関連していま一つ指摘すべきは、共働きの増大による「カップル労働時間」(夫婦の合計労働時間)の増大と、それにともなう職場生活と家庭生活における「タイム・デバイド」(時間格差)の拡大である。
「働きすぎの時代」森岡孝二著 (岩波新書)ISBN:4004309638
企業社会をみてきた経済学者が、世界を覆う「働きすぎ」の構造に迫る。
全国紙の読者投稿から海外の文献までを幅広く引用しており、働くことを取り巻く環境の変化をわかりやすく整理できる。国際競争やネット経済の広がり、そして雇用の非正規化。特に、必死に働いてどんどん消費する人々の「競争心理」こそが、誰か別の人の長時間労働を導くという働きすぎの連鎖を指摘しているくだりが興味深い。人を働きすぎに追い込む要因は今や、単純な企業の責任に帰せるものではなく、いく層にも重なり絡みあっているのだ。
巻末で個人や労組、政府に向けて、働きすぎに歯止めをかける方策を提言しているが、それを読む限り課題はあまりにも多いと言わざるをえない。著者が触れているような、ワークライフ・バランスの達成を真剣に考えなければ、やがて経済、社会の持続性が脅かされるであろうという意識を、どれほど多くの人が共有できるか。そこが意識の転換への第一歩なのかもしれない。(2005・11)
森岡孝二「働きすぎの時代」(岩波新書)
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November 06, 2005
団塊ジュニアは、郊外育ちが大量化した世代である。彼らにとっては郊外が故郷なのだ。
しかしそうなると、地方から東京に出て、いっちょ頑張ってやろうという気力は不要になる。郊外ならすぐ都心に出てこられるじゃないかと思うかもしれないが、小中学校がずっと郊外の公立だと、大学生になってようやく都心に出たという者は少なくない。それどころか、大学も郊外に移転しているので、大学生になっても都心にあまりでない者も珍しくない。(略)こうして、いわゆるジモティが誕生する。ジモティは、郊外という「村」で気楽に過ごしたいという価値観の若者であると言える。
「下流社会―新たな階層集団の出現」三浦展著(光文社新書)ISBN:4334033210
団塊論や「郊外社会学」で知られるマーケティングアナリストが分析する、階層社会の実相。
階層論はここ数年、経済的な格差の有無や、その格差の固定化、固定化を生む教育格差の有無、といった風に進んできたように思う。そして最近、実際の格差というよりも、格差を是認してしまう気分、つまりは希望の格差が話題にのぼるようになった。著者は、生まれながらに豊かだった世代で、働く意欲や学ぶ意欲が衰退するのは当然だとしたうえで、それでもハードに頑張る人と、そうでもない人とを分けるものは何なのか、を独自の調査をもとに考察していく。
書名のネーミングはちょっとあざといし、そもそも階層が階層を生むという論理には出口の無さがつきまとってしまう。しかし今、目をそらすことができないテーマの一つであるのは間違いない。何より、この本がヒットしているという現実が、時代の空気を映している気がしてならない。(2005・11)
『下流社会 新たな階層集団の出現』 三浦展著 光文社新書 780円+税
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November 03, 2005
一番辛かったのは、出逢ったときのこぶ平の冷ややかな目だった。
「お前のオヤジと約束した」とは言えない。
尊敬する小三治さんが、ある時、「こぶ平はいいです」と僕に言った。
たしかにこぶ平は良くなっていた。でも、三平との約束は「誉めない」なのだ。
「九代正蔵襲名 」林家正蔵著(近代映画社)ISBN:4764820331
2005年春に大名跡を襲名した九代正蔵の、インタビューとエッセイ。
ゆかりの人々のはなむけの言葉に、一人の花のある芸人と、伝統の芸を盛りたてようとする気概が満ちている。特に泣かせるのが永六輔。父、三平から生前「こぶ平を絶対に誉めないでくれ」と頼まれ、律儀に約束を守ってきたが、「……正蔵なら誉めてもいいのだろうか。」。精進の人、正蔵。今は子どもの表現がチャーミングだと思うけれど、中野翠が書くように、人の世の暗さも描けるのだと思うと楽しみだ。披露目の手拭いのデザイン解説や、歴代正蔵伝の寄稿なども楽しい。(2005・11)
志ん生さんと志ん朝さん
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日本の高度経済成長のグランドデザインは、かつての満州国を下敷きにしてなされたような気がする。時の総理大臣として、高度経済成長に向け号砲を打ったのは、将来の総理大臣を嘱望される阿部晋三の祖父の岸信介である。その岸が産業部次長として満州に赴任し、満州開発五カ年計画を立て満州国の経済政策の背骨をつくって、後に「満州国は私の作品」と述べたのはあまりにも有名である。
「阿片王―満州の夜と霧」佐野眞一著(新潮社) ISBN:4104369039
満州立国の謀略に関わり、裏社会と渡り合ってアヘン取引で巨額の資金を捻出した怪人、里見甫の人脈を、関係者遺族への聞き取りや幾多の回顧録を駆使してたどる。
小説「かわうその祭り」のモチーフともなっていた満映や阿片。共同通信、電通のルーツなど、戦後日本の構築につながる満州の役割が縦横に語られ、興味深い。もっとも対象の闇が深すぎるのか、400ページを超す長編をもってしても、この人造国家の構造や意味は、なかなか明らかにはならない。むしろ、里見周辺の無名の人物が戦後たどった運命の虚しさ、わびしさが印象に残る。(2005・11)
満州の深い闇~「阿片王」に描かれたもの
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August 23, 2005
ここで1から5までの順番は、より重要と思われる破調のパターンから、そうでないものへの順番になっていると読んでほしい。Aの増音破調でいえば初句増音がもっとも裏切り感を惹起しやすく、二句増音はもっともその効果がうすいということである。
「街角の事物たち」小池光著(五柳書院)ISBN:490601044X
今年茂吉賞、迢空賞をダブル受賞した歌人の評論、エッセイ集。
恥ずかしいが短歌をほとんど読んだことがない。ところが無知は無知なりに楽しめる平易さ、明晰さ。著者は理科、数学の高校教師でもあるそうで、教える立場からくる優しさなのだろうか。男性限定の教室を開いている世間との向き合い方も、何か気になる。私ごときが近寄れる世界ではないと痛感しつつ、もっとエッセイを読んでみたいような…(2005・8)
滴滴集 を よむ
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August 21, 2005
「仕事にならなくても、電話があるだけでうれしい。自分が忘れられてないって思えるからね」そういうと、長沼は白手袋で電話機を拭いた。
「友がみな我よりえらく見える日は」上原隆著(幻冬舎アウトロー文庫)ISBN:4877288139
都市に生きる市井の人々を題材にした短編ノンフィクション集。何かに傷つきながら、とぼとぼと歩いていく日常を、静かに描く。コラムとしての完成度が高く、よくできたフォークソングのよう。短いやりとりの中に、著者は自尊心の小さな破れ目と、それを繕う一本の糸を描き出す。(2005・8)
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July 13, 2005
理念に加えて、力の問題がある。
力とは軍事力や経済力だけではない。
自己の理念を国際的に実行せしめてゆく力である。それには、同じ理念を持つ人々との連帯、結合こそが肝腎である。
「吉田茂の自問」小倉和夫著(藤原書店)ISBN:4894343525
フランス大使などを歴任した著者が、2003年に公表された外務省極秘文書「日本外交の過誤」を読み解く。講和条約に踏み出そうとする吉田首相の指示で、若手の外務省官僚が、当時はまだ近い過去であった終戦までの外交を検証している。要人の貴重な証言と共に、現代に照らしても、様々なことを考えさせる一冊。(2005・6)
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May 08, 2005
このところ書き留めていなかった本をメモしておきます。
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March 07, 2005
もっとも、『噂の真相』の紙質は「中質のザラ」という種類だが、時代とともにだんだん需要がなくなり、生産じたいが中止となっていった。年々入手が困難となり最後にはアメリカから輸入した紙に頼っていたというのが”真相”である。
「『噂の真相』25年戦記」岡留安則著(集英社新書)ISBN:4087202755
「明るくスキャンダル」をモットーに、2004年3月の黒字休刊まで25年を駆け抜けた名物編集長の自伝的メディア論。
関心の持ち方から文体まで、雑誌イコール編集長ということを強く感じさせる一冊。そのスクープ力は「「噂の真相」トップ屋稼業」(西岡研介著、講談社)にも詳しい。反権力も風俗もごった煮で、雑誌はあくまで雑であるべきという思想、当初はコスト削減で選んだザラ紙の、「カストリ雑誌」の風あいにこだわり、最後はコストアップになっていたというエピソードが印象的。(2005/3)
「噂の真相」25年戦記
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January 23, 2005
メニューにあまりにたくさんの品書きが並んでいると、ついついお店の「おススメ」を注文してしまうのと同じように、困った挙句、誰かが発するお決まりの情報源に、みんな飛びつく。多様化なんていっても、結局、多くが同じような選択をしている。そんな画一的な状況にちょっとでも疑問を感じてしまったが最後、こんなことでいいのかと悩み、選択できなくなる人も出てくる。そこからニートは生まれる。
「ニート―フリーターでもなく失業者でもなく」玄田有史、曲沼美恵著(幻冬舎)ISBN:4344006380
労働経済学者とフリーライターが、インタビューと考察で追いかける、働かず学ばない若者の実像。
40万人という数だけが問題なら、ニートはもっぱら経済やら政治やらが扱うべき問題だろう。しかし著者はむしろ、文学のような、哲学のようなテーマを問いかける。現代の経済や社会の状況が、まだ名前を持たない個人の心の中の「何か」と結びついて、今に至っている、そんな予感。職業教育の必要性などを声高に主張するだけでなく、もう少し、考える時間が必要だと思わせる一冊。(2005/1)
NEET
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December 29, 2004
「何で分かってくれないの、バカ」
「バカはお前だ」
「もう離婚しましょう」
「ああ、離婚だ」
激昂した私は、感情に任せてテーブルをひっくり返していました。
「私は、産みたい」野田聖子著(新潮社)ISBN:4104729019
永田町でスポットライトを浴びる女性国会議員が、知られざる不妊治療の苦闘をつづる。
ひとりのワーキングウーマンとして、職場での無理解や、仕事に対する責任感に煩悶する。一番分かってほしい夫とも、なぜか思いがすれ違う。赤裸々に語られる辛い日々は、ときに極めて現代的な事象にみえる。だが、そうだろうか。根っこにあるのは、おそらく誰もが、いつの時代にも経験しうる、親となることの重さなのだろう。壁に向き合う現在進行形の恐れと情熱が、読む者の共感を誘う。(2004・12)
私は、産みたい / 野田聖子
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December 12, 2004
利害の異なる集団の境界線上に身を置くという意味では、彼の政治スタンスは、中央政界入りしてからもまったく変わらない。
「野中広務 差別と権力」魚住昭著(講談社)ISBN:4062123444
九〇年代の混乱期、陰の総理と呼ばれた政治家の評伝。
政治とは、異なる立場を駆け引きと貸し借りでまとめていく妥協の芸術。きれい事でなく、時に敵と手を結びながら一歩一歩権力の階段を登っていく半生の物語は、圧倒的な迫力だ。だからこそ、頂点の一歩手前で挫折したようにみえる姿が、戦後日本の闇、矛盾を象徴するようで悲しい。凄まじい取材の執念と、それでもなお暴ききれない心の謎が余韻を遺す。講談社ノンフィクション賞受賞。(2004/11)
とみきち読書日記: 『野中広務 差別と権力』 魚住昭
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November 07, 2004
「飲みませんか」
別人のように丁寧な口調になる。
「あとがありますから……」
ぼくは固辞する。
「さよか」
相手はブランデーをグラスに注ぎ、一気に半分ほど飲んだ。酒をたのしむ人の飲み方とは思えない。
「天才伝説 横山やすし」小林信彦著(文藝春秋)ISBN:4163537503
破天荒なひとりの芸人の、51年を描く評伝。
「漫才ブーム」の中でも別格の実力をもつ爆笑コンビであり、3面記事の事件でもお馴染み。何かと派手な浪速の「やっさん」。しかし、著者自身が実際に見聞きしたあれこれは、そんなイメージを見事に覆し、芸の求道者というもう一つの顔を浮かび上がらせる。ちょっと切ないくらい、時代遅れ。そう考えると、たけしとは3歳しか違わない、という指摘が意味するところは奥深い。80年の独演会の場面が圧巻。(1998/11)
物欲的日常: やっさん・寅さん
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September 25, 2004
「HIKSカップル」--A子さん夫婦のように、夫の経済力が弱まって、専業主婦である妻の再就職を必要としている夫婦を、私はこう名づけた。”Half Income with Kids”(子どものいる年収が二分の一になった)夫婦である。
「年収1/2時代の再就職」野口やよい著(中公新書クラレ)ISBN:4121501411
妻たちが、子供がごく幼いうちから働こうと、動き始めた。その背景を探り、産業と家計の構造変化を浮き彫りにする。
夫の減収などで「大黒柱」が揺らいでいるのに、妻が第2の柱となるには幾つもの壁がある。現実に追いまくられる妻、そして夫たち。実例とデータが豊富で、説得力がある。(2004/9)
本吉正雄の本棚: 年収1/2時台の再就職 野口やよい
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September 13, 2004
表通りに面した電話局の玄関から裏に回ると、あたりは、家と家の軒が触れ合いそうな街並みで、道路も狭く、冬場のせいか埃っぽかったのを覚えている。しかし、地下十数メートルの洞道の中には、地表の喧噪とは裏腹に、薄暗い静寂に満ちた空間が広がっていた。
「巨大独占」町田徹著(新潮社)ISBN:4104698016
民営化や再編、技術革新を経てもなお、NTTグループがもつ「独占」の側面を、米国との接点や歴史を織り交ぜつつ描く。
知られざるエピソードが豊富。登場人物も生き生きして読みやすい。競争とはどうあるべきか。その問いは、道路や郵便というインフラのあり方を巡る論議と重なる。(2004/9)
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September 04, 2004
鶴見 はっきりした理由はないんだよ。ぼんやりしているんだ。人間を動かすのは明確なものじゃなくて、ぼんやりした信念なんだ。ぼんやりしているけど、確かなものなんだ。
「戦争が遺したもの」鶴見俊輔、上野千鶴子、小熊英二著(新曜社)ISBN:4788508877
ジャカルタの慰安所からベ平連まで。80才をこえた哲学者の戦中、戦後体験を、二人の論客がきく。
戦後世代の聞き手が繰り出す、鋭くも尊敬に満ちた問いがスリリング。それに答える、鶴見氏の誠実さも印象的だ。3日間にわたる鼎談の記録という形式なので、内容が整理されすぎていない。そんな一冊に詰まった証言は、鶴見氏自身のいう、「進歩と退行を包含した歴史を観る目」に通じるように思う。時間の流れを感じさせる構成も心地いい。(2004/8)
「戦争が遺したもの」というタイトルからは連想できない辛口本-alt.lifeblog
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August 15, 2004
えなりかずきの背負う「子役」という言葉の「子」は、通常の年齢によるカテゴライズではなく、役柄を意味する。子役・えなりの生息する場は、「芸能」というよりは「法事」というくくりが正しい。
「大コラム テレビ 芸能人編」ナンシー関著(世界文化社)ISBN:4418045031
主に11年間に刊行された単行本から傑作146編を収録。もちろん消しゴム版画付き。
通読して印象的なのは、版画似顔の秀逸さ。単に似ているというより、「テレビに映る」顔を的確にとらえる。コラムもまた、当人の素顔とか、隠れた逸話とかに頼らず、見えたままを鋭くえぐる。だから、そう見えることを許している、あるいは見えるよう仕向けている、見る側の気分が浮かび上がるのだろう。掲載は時系列ではなく50音順。森繁久彌ら、2回登場する人物の、時間的経過を読む楽しさも。まだまだ読みたかった… (2004/8)
日々カタログ。: 顔グラデーション
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July 18, 2004
広瀬は一メートル七五もあるから、日本人としては大男のほうである。決してたちうちできぬほどの小男と思われてはいなかったが、相手の虚をつくその機転、大の男を手玉にとって投げつけるその武勇が、一座の人々に驚くべき日本人という印象を深くきざみつけた。広瀬びいきのコヴァレフスキー少佐夫人などは大喜びで、いつまでも手を叩いている。
ーーヒロセ君に乾杯!!
という声がどこからかきこえて、一同の盃に酒はまたなみなみとそそがれた。片隅に立ってじっと見ていたアリアズナ・ウラジーミロヴナの目は輝いた。
「ロシヤにおける広瀬武夫」島田謹二著(朝日新聞社)ISBN:4022591579 ISBN:4022591587
比較文学者、島田謹二が書簡などを元に丹念に描き出した評伝。
日露戦争に従軍し、旅順に散った広瀬中佐。無骨な明治の英雄は意外にも、ロシアに6年間駐在した国際派エリートであり、その青春には国境を超えた恋もあった。日本が上り坂だった時代の若者が、異文化体験をへて成長する姿。そして、国家の対立に翻弄されるロマンス、、。知人の奨めで読み、爽やかさと一抹のむなしさを覚えた思い出の上下巻。いまではオンデマンド出版になっているようです。(1987/1)
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May 13, 2004
(略)そうまでしてやっと手に入れた満州は、まさに日本が守り抜くべき生命線である、というわけです。これが今後、日本の大スローガンになるんですが、おもしろいもので、うまいスローガンがあると国民の気持ちが妙に一致して同じ方向を向くんですね。
「昭和史 1926-1945」半藤一利著(平凡社)ISBN:4582454305
「ノモンハンの夏」(文春文庫)などで知られる作家の昭和史講義。
なぜ日本は310万人もの尊い犠牲を払って「負け戦」をしたのか。作家が強調するのは、筋金入りの主戦論者に対する、後付けの「責任追及」ではない。実は政府の要職にも軍部にも、事前に十分な情報と見識を持った人物がいた。こうした良識派が、最後の最後で抵抗しきれなかった事実。事が起こる前の「いまそこにある責任」が果たされなかったことにこそ、憤りの矛先は向かう。組織防衛という身勝手な心理や、対処療法の誘惑はなかったのか。それを許してしまったのは人々の、「根拠無き熱狂」ではなかったのか… 語りおろしで読みやすいが、重いテーマについて、ひとつの見方を示してくれる。(2004/5)
或る日あるとき: 戦いすんで、日が暮れて
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April 28, 2004
記録的なスピードである。
終戦のわずか三日後、アメリカの先発隊が日本の土を踏む十日も前に、日本初のヤミ市の広告が新聞に載ったのだ。
「東京アンダーワールド」ロバート・ホワイティング著、松井みどり訳(角川文庫)ISBN:404247103X
「菊とバット」などで知られる著者が、焼け跡の六本木でピザレストラン「ニコラス」を開いたイタリア系米国人ニコラ・ザコペッティを軸に、戦後日本の裏社会を活写する。力道山、ロッキード事件など昭和史の陰にはいつもアウトロー達のうごめきがあった。(2002/5)
鐵鋼新報: 今ひとつの『ヤクザ・リセッション』
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April 13, 2004
大沢が、開けると大混乱になります、怪我人がでるかも知れません、と顔を青ざめさせて言っても、正力は、混乱したっていいじゃないか、と平然と言い放った。
これが正力流の発想だった。大混乱のなかをテレビ塔にのぼった体験は、必ず見物客に鮮明な印象を残す。
「巨怪伝」佐野眞一著(文藝春秋)ISBN:416349460X
テレビ、プロ野球、原発。戦後日本の一断面を演出した正力松太郎の軌跡を、彼をとりまく影武者たちの素顔と共に綿密に描く。
おそらくは「カリスマ」と並ぶ著者の代表的な長編ノンフィクション。多くの人物が陰に日向に関わり、劇的な昭和史の一ページとなった「天覧試合」からも、このスケールの大きな現実主義者の執念が浮かび上がる。細かい字で600ページ、年譜、文献、索引も20ページ以上。圧倒的な細部の積み重ねの向こうに、登場人物たちの情念を導いた私たち「大衆」の姿が、おぼろげながら見えてくる。(1996/8)
俺のDVD!ログ: 7/10 だれが「本」を殺すのか
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僕が震える手でキューをだすと、まずジョンが、つづいてポール、リンゴ、ジョージと、あの4人が、つぎつぎとドアを開けて、姿を現した。鼻歌をハミングしながら……。
「僕がテレビ屋サトーです」佐藤孝吉著(文藝春秋)ISBN:4163655905
「アメリカ横断ウルトラクイズ」の名物ディレクターが綴った私的テレビ史。
歴史に残るビートルズ来日インタビューの「演出」にはじまり、90年代にメディアを席巻する娯楽ドキュメンタリー、情報番組まで。その作劇術をいかに生み出したか、垣間見させて興味深い。職人のプライドが時に強烈すぎる気がするけれども、ベテランと呼ばれるようになってからなお、ブームを巻き起こした「カルガモさんのお通りだ」「はじめてのおつかい」を作る、そのパワーに頭が下がる。(2004/4)
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March 28, 2004
「マリ、私、空気になりたい」「……」「誰にも気付かれない、見えない存在になりたい」
「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」米原万里著(角川書店)ISBN:4048836811
1960年、プラハのソビエト学校に通った小学生のマリ。50カ国以上から生徒、教師が集う刺激的な学園生活。そして30年後、級友のリッツァ、アーニャ、ヤスミンカの消息を訪ねると…
プラハの春、チャウシェスク政権の崩壊、ユーゴ戦争。幼かった少女たちが、やがて巻き込まれた歴史のうねりのなんと過酷なことか。アイデンティティの危機に直面しつつ、それぞれに生きのびようともがく姿を劇的に描く。
著者はロシア語通訳であると同時に、軽妙なエッセーの名手として名高い。その背骨に厳しいまでの誠実さがあることに気づかされて、印象的だ。大宅壮一ノンフィクション賞受賞。(2001/9)
Moderato...: 「魔女の1ダース」米原万里
米原万里 - 書評Wiki
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「ガンって留学生をホームステイさせてるようなもんなのね」と私。「可愛がっとけよ、すぐに出ていく人だからな」「「ペット・ネームつけてやろうかな」「いいかもしれない」「子袋宮癌子さまなんてどう?」
「子宮癌のおかげです」渥美雅子著(工作舎)ISBN:487502374X
著名女性弁護士が告知から術後までの57日間を赤裸々につづった。全摘の決断は素早く、夫との会話は漫才のような掛け合いで、ひたすら前向き、ひたすら明るい。それは同病の、あるいは様々な病に悩むすべての人に向けた応援歌だからだ。
明るいからこそ、命の重さをかみしめるラストシーンが胸に響く。手術の概要からリハビリの体操まで、イラストを使った実用的な解説付き。(2004/1)
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僕のように日本で生まれ育ったコリアンは体の真ん中にいわば、ミシン目が縦に入った存在なのかもしれない。(略)ちょっとした外力を加えるだけで、たやすくふたつに切り裂かれてしまう。
「越境人たち 六月の祭り」姜誠(カン・ソン)著(集英社)ISBN:4087813037
2002年6月、日韓が共催したサッカーのワールド杯。世界中から大勢訪れるファンを手助けして、この歴史的イベントに貢献したい。在日コリアンでルポタライターの著者は定住外国人たちによるボランティアを立ち上げる。
トラブル続きの道のりは、実はそれほど感動的ではない。登場人物の生き様をえぐるようなエピソードはないし、目の覚める逆転劇もない。だからこそ国境を越えて生きる悩みと希望が、じんと心に残る。開高健ノンフィクション賞優秀賞受賞。(2003/12)
coyote note: 越境人たち 六月の祭り
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むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでゆかいに
「井上ひさし伝」桐原良光著(白水社)ISBN:4560049378
文壇記者27年の著者が描く「言葉の鬼」のできるまで。
孤児の少年時代、浅草のフランス座、そしてテレビの曙、どのエピソードも興味深い。なかでも「こまつ座」誕生の頃に考えたという「呪文のように長い標語」は、文章を書くすべての人の目標であると思う。(2001/10)
永遠のセルマ・リッター: 自家製文章読本 井上ひさし 新潮文庫
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朝三時に起床、原稿を書く。八時に終わって、定刻出社。夜八時、就床。「意志の強い人でした。この点、明治人間ですよ」
「二列目の人生 隠れた異才たち」池内紀著(晶文社)ISBN:4794965664
学者、画家、料理人…。伝記エッセイで、第一人者の陰にかくれた16人に光をあてた。
例えば秦豊吉。帝劇社長などを歴任し、昭和8年にテレビの興隆を予見していた才人。一方でエリート商社マン時代にベルリン滞在の経験を持ち、退廃の色濃い著作を残した。軍国に向かう世相に反したその美意識を、著者は鴎外と重ねる。
実際に近くにいたら、少し辟易とするような異才たちの情熱。名声とはまた別の価値が、宝物のように胸に残る。(2003/6)
香水-ある人殺しの物語
ゆらゆらでい: キルロイ&キュゼラークが来たぞ
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当然日本語の字幕はなく、意味がわからないまま画面を見ていましたね。カラーです
「東京コンフィデンシャル」高瀬毅著(えい出版社)ISBN:4870998815
東京の様々な顔をテーマにしたルポルタージュ。神保町の項では戦時下、敵国アメリカの「風と共に去りぬ」を東大の教室で観た、というカフェのママさんの証言が登場する。
ほかにも五日市で「起草」された憲法や、武蔵野にあった国鉄スワローズの球場や、著者が発掘する東京の様々な顔は意外感いっぱいだ。少し突き放した筆致が、かえって暖かみを帯びている。(2003/10)
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