June 21, 2009

「地団駄は島根で踏め」

言葉の語源が、ある特定の土地と結びついているケースは、探すと意外にあるものだ。

「地団駄は島根で踏め」わぐりたかし著(光文社新書) ISBN: 9784334034986

「語源ハンター」を自称する著者が辞書をひもとき、語源に登場する土地に足を運んで、ゆかりの事物を観て歩く。

目次の日本地図を眺めただけでわくわくしてくる。「ごたごた」の神奈川県って何だろう、「らちがあかない」の京都府って? 読んでみると実際、期待に違わぬ面白さだ。

語源の蘊蓄は満載。とはいえ著者は放送作家とあって、学術的な「日本語本」というより、好奇心満載の軽妙な旅行記になっている。語源の「現場」で古来の祭りやら、歴史上の人物にまつわる事物やらに触れるうち、普段なにげなく使っている言葉の背景に、著者なりに思いをはせていく。そんな語源ハンティングのかたわら、お約束でちゃっかり土地土地の銘菓、美味しいものを食べてしまうところも、とても楽しい。(2009・6)

地団駄は島根で踏め:語源は意外なところに はてさてブックログ

June 16, 2008

「のぼうの城」

 秀吉は、三成の返答をきくなりそう命じ、続けて、三成のその後の人生を決定付ける運命的な下知を与えた。
 「館林城を落せば、武州忍城をすり潰せ」
 そして同時に武州忍城も、戦国合戦史上、特筆すべき足跡を残した城として、運命付けられたのだった。

「のぼうの城」和田竜著(小学館) ISBN:9784093861960 (409386196X)

秀吉天下統一の終盤、小田原征伐。石田三成率いる2万の大軍に、忍(おし)城わずか2千の兵が闘いを挑む。指揮官は、領民からでくのぼうと呼ばれる男だった。

08年上半期の話題作を読んだ。評判通り、一気に読める戦記物。まず、忽然と水に浮かぶ忍城の姿が、宮崎アニメ「千と千尋の神隠し」の一場面のようで絵になる。そして歴史に残る名勝負は、それだけでドラマチックだ。

著者はこの舞台に、魅力的な登場人物を配してテンポのいい娯楽作を生み出した。活躍する武将3人は冷静な丹波、豪腕の和泉、美青年靱負(ゆきえ)。まさに講談の王道「三銃士」の取り合わせに男勝りのヒロインが加わり、乱暴なやりとりが歯切れ良くユーモラスだ。

しかも彼らを率いる主人公、成田長親(ながちか)の造形が、ダルタニヤンとは180度かけ離れているのが憎いところ。運動神経ゼロのぬうぼうとした大男で、領民から面と向かってバカにされている。何を考えているのか、あるいは何も考えていないのか、勇者か臆病者か、正か邪か。不思議な掴みどころのなさで、300ページを引っ張っていく。

意地に生きる悲運の男、三成との対比もうまい。どんなマニュアルも逸脱した「天然」のリーダー。側にいたらイライラするだろうなあ、と思いながらも、拍手を送ってしまう。映画化にも期待。(2008・6)

「のぼうの城」和田竜  しんちゃんの買い物帳