June 15, 2017

チェ・ゲバラ伝

鉄道にのるのでは、踏破することにならなかった。鉄路の上を走るのでは、人びとの生活を知ることはできないのである。
 一九五一年も終ろうとする十二月二十九日に、チェとグラナドスは、それから一年近くも続く放浪の旅に出発した。

「チェ・ゲバラ伝 増補版」三好徹著(文春文庫)

新聞社出身の作家が、広範な機関紙記事や、ゆかりの人々へのインタビューをまじえてつづった評伝。400ページを超える全編に、ゲバラ愛があふれる。

なぜアルゼンチン農園主の息子で、医師となったゲバラが、キューバ革命の戦闘に身を投じたかは、若き日の南米放浪が背景になっている。反米国資本が所与の前提になっている感じで、実は思想の軌跡は、初心者にはちょっとわかりにくい。とはいえ、人物像の魅力については十分伝わってくる。物静かな読書家で、勤勉。目が澄んでいて、公平かつ清廉。爽やかな印象は、龍馬のような感じだろうか。

特に1959年夏の来日の経緯は、企業の接遇係らにも取材していて詳しい。交易拡大を求めるゲバラに対し、大国に遠慮してか、冷たくあしらった日本政府の「国際感覚の無さ」を嘆く一方、進んで広島を訪れたゲバラの感性に共感する。
革命前の自由さに比べると、やがてキューバを去るに至る経緯や、その後の足跡は息苦しい。異説を含めた丁寧な注釈、年譜付き。(2017・6)

March 13, 2017

騎士団長殺し 第1部顕れるイデア編 第2部遷ろうメタファー編

「目に見えるものが好きなの。目に見えないものと同じくらい」

「騎士団長殺し 第1部顕れるイデア編 第2部遷ろうメタファー編」村上春樹著(新潮社)

今やイベントとなったハルキの書き下ろし新作は、「1Q84」からだと7年ぶりという大長編。1部、2部で1000ページを超えるが、いつもの春樹節が満載で一気読み。まずはいつもながらのリーダビリティの高さに感服する。

肖像画家である「私」は、妻に別れを切り出されたことで家を出て、小田原の山中にある屋敷に留守番として住み始める。そこで一幅の日本画「騎士団長殺し」を見つけたことで、不思議な出来事に巻き込まれていく。

道具立てはお馴染みのもので、読んでいて「ああ、この感じ」と嬉しくなる。まさにベストアルバム。孤独だけど他人を羨まない主人公の1人称語り、端正な日常、異界からの使者、気の強い美少女、謎の穴と冒険。オペラ「ドン・ジョバンニ」をはじめ、たっぷりと散りばめられた文化的薀蓄やら、気の利いた比喩の数々やらが、定番過ぎてニマニマしちゃう。

とはいえストーリーの印象は、従来とちょっと違う。性と暴力や戦争は登場するものの、「1Q84」のBOOK1、2までのような、目を背けたくなる執拗さは影をひそめた。妻と復縁した時点から振り返る、と冒頭で宣言してあるので、わりあい落ち着いて読めるし、人生の限られた時間を意識して、生きた意味をどう見出すか、というテーマは、もうすぐ70代となった作家の「枯れ」さえ感じさせる。激しい喪失の時期をへた、家族への回帰と再生が温かく、ちょっと拍子抜けするくらい現実的だ。

もちろん油断は禁物。絵画論で繰り返される、見えているものがすべてではないというイメージとか、顔のない肖像画の依頼人、2つの屋敷を隔てる谷とか、読む者を不安にさせる仕掛けには事欠かない。レコードのA面B面、イルカの左右の脳といった些細なエピソードも繋がって、虚と実、裏と表、ものごとの不確かさがひたひたと迫る。そして震災を乗り越えた後に、何を手にするのか。もしかしたら続編があるのかも。

楽しいのは、人物造形がいつにも増してくっきりとして、魅力的なこと。なにより異界から現れ、妙な話し方をする身長60センチほどの「騎士団長」が、際立ってチャーミング! こんなイデアに守られたい。
さらに主人公を翻弄する3人の人物が、徹底して謎めいているのもご機嫌だ。屋敷の主で、人嫌いだった高名な日本画家・雨田具彦は、過去にどんな闇を抱えていたのか。近くの白い豪邸にひとりで住み、見事な白髪でジャガーを駆るギャツビー風の中年男・免色渉の企みは? そして東北での放浪で出会った顔のない男は何者なのか? 例によって、すべての謎が解明されるわけではなく、このあたりにも続編への期待が高まる。(2017・3)

September 06, 2016

忠臣蔵とは何か

歌舞伎役者は赤穂の浪士に扮するときなぜ火事装束を着ることにしたのか。これはおもしろい問題だ。

「忠臣蔵とは何か」丸谷才一著(講談社文芸文庫)

言わずと知れた才人作家の、1985年発表の文芸評論を読む。野間文芸賞を受ける一方、論争にもなったという。
歴史的仮名遣いで、古今東西の書物を自在に引用しており、いかにもペダンティック。ストーリーにはけっこう強引な飛躍も多くて、結論部分で「どうも否定しにくいやうだ」といった曖昧な表現になっちゃうことも。素人目には、この茶目っ気と独特の「話芸」が、まず心地よい。

今も繰り返し上演される大作「3大狂言」には、偉い人の運命に巻き込まれる庶民の悲劇、という共通点がある。ただ、肝心の偉い人の造形において、忠臣蔵は異彩を放つ。
義経は「桜」というだけあって、問答無用の悲劇的なスター性を持っているし、道真は危機に瀕して人形を動かしちゃうほど、神がかっている。2人に比べると、赤穂の殿さまという人は、いろいろ事情はあったにせよ、いかにも短慮だ。なぜこんな浅はかな上司のために、ドラマティックな仇討が成立するのか?
この大きな謎に対し、著者は様々なアイデアを繰り出して答えていく。恨みからの災いを避けるための鎮魂、江戸期にあっては自然災害にも似た、避けがたい悪政への反発、さらには長い冬を越え、生命復活の春を祝う祭…。月並みな忠義の枠組みを、すこんと忘れちゃう姿勢が痛快です。

丸谷節の真骨頂は、リアルな事件としての討ち入りが、そもそも演劇に影響されていた、というあたりだろう。元禄年間の「曽我もの」ブームを丹念に追い、社会と物語の相互作用を語っていく。
ほかにも日本に出現した江戸という大都会を、大坂人はどう見ていたか、とか、いろいろ面白い視点がてんこ盛り。読み進めながら、このパワフルな人気戯曲を現代にどう位置づけるのか、を考えずにはいられない。文楽・歌舞伎好きにはたまらない一冊だ。(2016・9)

March 20, 2015

2045年問題-コンピュータが人類を超える日

カーツワイルの予言では技術的特異点は2045年だといいます。これからほぼ30年先の未来です。現在、私たちが当たり前のように使っているインターネットやスマートフォンなどにしても、30年前に予測できた人がいたでしょうか。30年たてば、予測もつかないことが現実になります。

「2045年問題 コンピュータが人類を超える日」松田卓也著(廣済堂新書)

コンピューターの能力が人類全体をはるかにしのぎ、未来像が非連続に変化してしまう「技術的特異点」。宇宙物理学者が綴るSFチックな未来像を、電子書籍で。

膨大なデータを分析して思いもつかない結果を導き出すなど、ITの進化はどんどん加速している。技術に人間が振り回され、セキュリティーが危機に瀕し、知的労働の雇用が奪われるといったミゼラブルな予測が大流行だ。だが著者はむしろ、積極的に脳とコンピューターを接続した、いわば「拡張人類」の出現を前向きにとらえる。
どちらがより実現しそうなのか、にわかに判断はつかない。ただいずれにしろ、未来は現在の社会の仕組みの延長線上にはなさそうだ。(2015・3)

May 14, 2014

「機械との競争」

CEOの報酬と平均的社員の報酬を比べると、一九九〇年は七〇倍だったのが、二〇〇五年には三〇〇倍に跳ね上がっている。エリックはヒーキュン・キムと行った調査で、この飛躍的な伸びはITの浸透と時を同じくしている、と指摘した。

「機械との競争」エリック・ブリニョルフソン、アンドリュー・マカフィー著(日経BP社)

技術進歩が雇用を奪う衝撃の現状と、それを認識したうえで将来を切り開く道筋について、MITスローン・スクールの経済学教授と、デジタル・ビジネス・センター主任リサーチサイエンティストが分析した。電子書籍で。

著者は数多くの先行研究をたどり、スキルの高い労働者と低い者の賃金格差が広がっていることや、スーパースターが富を独占する傾向、その背景にテクノロジーがあることなどを明らかにしていく。イエレンFRB議長の「雇用の質」議論にも通じる。
では人間は機械に隷属するのかというと、そうでもない。一九九七年にチェスの名手がIBMのコンピューター「ディープブルー」に敗れたことは、世界に衝撃をもたらしたが、現在世界最強のプレーヤーはコンピューターではなく、コンピューターを使った人間のチーム。競争に勝つ鍵はマシンを味方につけることだ、との主張だ。

そのために何が必要か。例えば教育。アメリカの教育は停滞し、中間的な労働者は最新技術についていけていない。だからこそ改善の余地があると、あくまで前向きなのがアメリカらしいところ。確かに無償公開の講義ビデオを活用して、お仕着せのカリキュラムは生徒が自宅でこなし、学校では教師と相談しながら「宿題」をする、という逆転の発想は面白い。
さらに知恵の共有。パンは食べ終わったらそれで終わり、でも本なら読み終わって友達に貸すことができる。むしろ読み終わった者同士で話し合えるから、価値が高まる。情報がIT化されれば共有も簡単。仕事を奪うのがデジタルなら、その克服を助けるのもまたデジタルなのだ。村井章子訳。解説は小峰隆夫法政大教授。(2014・5)

September 29, 2013

舟を編む

「うん。では、『しま』だったら、どう説明する」
「ストライプ、アイランド、地名の志摩、『よこしま』や『さかしま』のしま、揣摩憶測するの揣摩、仏教用語の四魔……」
 馬締が、「しま」という音から導きだされる単語の候補を次々に挙げだしたので、荒木は急いでさえぎった。
「アイランドの『島』だ」
「そうですねえ。『まわりを水に囲まれた陸地』でしょうか。いや、それだけではたりないな。江の島は一部が陸とつながっているけれど、島だ。となると」

「舟を編む」三浦しをん著(光文社)   9784334927769

新しい辞書「大渡海」の出版に情熱を傾ける、生まれついての言葉の虫・馬締。そして同僚のベテラン編集者・荒木、お調子者の西岡、ファッション誌からまさかの転属となった岸辺らが抱く、仕事への思い。

2012年の本屋大賞、キノベス第1位の作品をようやく読む。鉄紺に銀の題字をあしらったカバーが美しく、そんな装丁のイメージ同様、内容も爽やかだ。

2012年の本屋大賞、キノベス第1位の作品をようやく読む。250ページ強と、意外にコンパクト。鉄紺に銀の題字のカバーが美しく、そんな装丁のイメージ通りに、内容も爽やかだ。

辞書編集という特殊な職場を舞台にしているので、収録語をどうチョイスするか、軽くてめくりやすい用紙をどう開発するか、などなど門外漢を驚かす裏話がたっぷり盛り込まれてはいる。けれど、決して蘊蓄が主体なわけではない。
物語を引っ張るのは、なんといっても馬締の独特のキャラクターだ。不器用で真摯で、とても魅力的。さらに彼と触れあうことで、周囲の西岡や岸辺が戸惑いながらも、自分なりの働きがい、頑張りがいを見つけていく姿に、ドラマがある。正統的な働く人応援小説だ。

さらにはアパートの大家、タケおばあさんや、片時も用例採集カードを手放さない辞書監修の大黒柱・松本先生ら、個性ある脇役にもしっかり目が行き届いている。特に、馬締が運命的な恋に落ちる香具矢の造形が、美女だけど料理人としてなかなか男前な性格で秀逸だ。さらっと読めて、楽しい一冊です。(2013・9)

August 25, 2013

清洲会議

業務連絡です。羽柴秀吉様は、当初、他の方々と同様、城内に宿泊される予定でしたが、寝泊まりは城の外にして欲しいという申し出が昨日になって届き、急遽、ご城下の西覚寺に宿を置くことになりました。関連の各パート、よろしくお願いします。

「清須会議」三谷幸喜著(幻冬舎文庫)  ISBN 9784344420557

信長なき後の1582年、尾張の清須城で織田家後継を決める会議が開かれた。歴史の分岐点のひとつとなった5日間を、当事者たちのモノローグ(現代語訳)で活写する。文庫で一気読み。

かねて大河ドラマファンを公言しており、かつ個性を生かす「アテ書き」の達人・三谷さんらしい、イキイキとした時代エンタメ小説だ。あえて戦場でなく会議という目のつけどころが絶妙だし、なにしろキャラが立っている。無骨でお人好しな武将柴田勝家と、はしこくて周到に人の心を操る羽柴秀吉との鮮やかな対比。人物像がそのまま、群雄割拠から天下統一へという時代のうねりを映す。2人を翻弄する、美しく高慢なお市の方ら女性陣も魅力たっぷりだ。やっぱり戦国と幕末はドラマチックだなあ。

会議というものの、現代に通じる要素が散りばめられているのも楽しい。勝敗を決めるのは根回し、ということで、馬鹿馬鹿しくも激しい心理戦が続き、形勢は二転三転。卷半ばまで肝心の本会議が始まらないのだ。
思わず拍手しちゃうのは、およそ戦国らしくない裏方の活躍。特に文官・前田玄以の訓辞がいちいちふるっている。スケジュールの伝達や会場設営、武将と随行員たちの宿、食事まで一切を仕切り、てきぱきとして実に細かい。「ザ・総務部」って何をするにも大切なんだよなあ。そんな段取りをのほほんと手伝っている「きゅーきゅー」こと堀秀政が、実はキーマンだったりするし。

大好きな大泉洋をはじめ、役所広司、小日向文世、佐藤浩市、鈴木京香ら豪華キャストで映画化。生前の「更科六兵衛」も登場するという遊びっぷり、楽しみです。(2013・8)

June 24, 2013

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

そして現実の人生に復帰していく。しっかりそいつを生きるんだな。いくら薄っぺらで平板であっても、この人生には生きるだけの価値がある。

「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」村上春樹著(文藝春秋) ISBN 9784163821108

多崎つくる、36歳は、鉄道駅を設計するエンジニア。学生時代、とても幸福だった友人関係を失って、人生が暗転した経験をもつ。そして年上の恋人から、その時何が起こったかを知るべきだと告げられる。

言わずと知れた2013年の書き下ろしベストセラーを読む。著者3年ぶりの長編には、近年目立っていたブラックなファンタジーや暴力の匂いは薄く、リアルな青春の影を題材にしていて、どこか1987年の「ノルウェイの森」を思わせる。
もっとも、自ら死期が近いと語ったジャズピアニストの印象的な挿話あたりでは、現実から浮遊したイマジネーションがかき立てられる。「村上節」の健在ぶりが、なんだか嬉しい。

フェイスブックやツイッターで、個人情報がたやすく手に入る時代に生きながら、人と人は容易に分かり合えない。「世界で最も乗降客の多い駅」を擁する社会であっても、そこには何ら、人間らしいつながりは見いだせない。現代人の、まっとうで誠実な暮らしぶりに潜んでいる、底なしの虚無。
しかし虚無を自覚した淡々とした筆致から、やがて、どこかへ向かって踏み出そうとする、静かで強い思いが立ち上る。そのどこかが、はっきりとは見えなくても。(2013・5)

May 12, 2013

双頭のバビロン

 双頭のバビロン? 口にするな。せっかく押さえつけて箱に詰め、錠前をかけたのだ。

「双頭のバビロン」皆川博子著 東京創元社 ISBN 9784488024932

帝政末期のウイーン、ボヘミアから無声映画時代のハリウッド、さらに猥雑な上海へ。わけあって幼いうちに引き離された双子のゲオルク、ユリアンの兄弟と、2人の人生に寄り添うツヴェンゲルの流転の運命を綴る。

1930年生まれというベテラン作家の長編を初読み。章によって語り手の視点を変えつつ、2段組み、530ページ強をぐいぐい引っ張っていく。感動するという感覚とは違うのだけど、緻密な物語を2年以上にわたって紡ぎきる気力には、まずもって脱帽だ。
幻想小説であり、歴史小説でもあり、ところどころハードボイルドな場面もあって、多彩な味わいが贅沢。なかでもアメリカ映画界黎明期の、内幕もの風のくだりが興味をそそる。シュトロハイム(「サンセット大通り」の執事ですね)に想を得たというゲオルクの存在感がリアルだ。
そのうえ美少年、手品めいた超能力、古城といった、妄想アイテムも盛りだくさん。つくづくサービス精神が豊富な作家だなあ。このへんは好みが分かれると思うけど、好きな人にはたまらないでしょう。
全編で一本筋を通しているのが記憶の錯綜、混濁という謎。これがラストまで読み手を幻惑する。(2013・5)

March 23, 2013

ソロモンの偽証

「橋田君は今も、やってないって言ってるんだ……」
 ゆっくりと噛み締めるつもりで、涼子は呟いた。橋田君はやってない。この言葉は、噛んだらどんな歯ごたえと味がするだろう。
 わからない味だった。「わからない」という言葉の味わい。

「ソロモンの偽証」宮部みゆき著(新潮社) ISBN: 9784103750109 ISBN: 9784103750116 ISBN: 9784103750123

雪のクリスマスの朝。城東第三中学校で一人の男子生徒が遺体で発見される。相次ぐ事件、匿名の告発状と衝撃的なテレビ報道。振り回され、傷ついた生徒たちは中三の夏の課外活動で、1週間の陪審制の法廷を開いて、真相を知ろうと決意するーー。

第1部「事件」、第2部「決意」、第3部「法廷」の分厚い3分冊で計2100ページ超をようやく読了した。2012年の各種ベストはどたんばで「64」にさらわれたけれど、これほどのボリュームを書ききっちゃう著者の力技は、それだけで十分事件だ。登場人物一人ひとりの人物、背景を丁寧に掘り下げながら、10年の時間をかけても決してぶれない、宮部節の神髄が全開。
いじめや自殺という題材のタイムリーさが注目されたけど、舞台設定は1990年、連載スタートは2002年なんだから、もちろん2012年を意識したストーリーではない。それでも時代性をはらんでしまうのは、この作家ならではの才能かも。

個人的には学園ものは苦手だ。優等生、人気者といったいかにもなキャラクターが出てくると、こそばゆく感じてしまう。本作でも、そういう要素は否めない。そもそも疑似裁判という設定がわざとらしいし、どうみたってこの14歳たちの明晰さは出来過ぎ。ミステリーとしての意外感も薄いかもしれない。
だけど物語には、そういうマイナスを吹き飛ばす強い牽引力がある。少年少女たちの一筋縄でいかない造形と、彼らを突き動かし、やがて周囲を巻き込んでいく真摯さ。タイトルのソロモンは知恵の王だ。時間をかけて考えに考え抜いた末、ひとつの罪が正体を現す。それは、わからずにいること、知ろうとしないことの罪。読む者も思わず胸に手を置いちゃう。重い結末に、一筋の光が差し込む。(2013・3)

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