「舶来屋」
「まさに夢の世界が広がっていたよ。クラクラしたね。このあたりにガツンと一発食らった感じだった」
「舶来屋」幸田真音著(新潮社) ISBN: 9784104633050
欧州の高級ブランドを日本に紹介した、「サンモトヤマ」創業者・茂登山長市郎氏をモデルに描く一商人の軌跡。
戦時中に天津の町で、あるいは戦後、PXの通販カタログで。主人公が豊かさというものを目にして強烈な憧れを抱くシーンは、まさに日本経済や消費文化の転換を象徴する。そこに、有楽町の闇市から銀座目抜き通りの繁栄に至る首都の変貌、あるいは主人公が巡り会う、きら星のような文化人、スターの横顔が重なり、高度成長の夢をありありと感じさせて興味深い。
偶然知り合った20代の男女が聞き役を務めるという設定は正直、最初はちょっと入り込みにくかった。しかし若い世代が主人公が述懐する高度成長期と比べて、現代の飽和経済の閉塞感を嘆くあたりは共感できる。
主人公は痛快なアイデアマンでありながら、ブランドビジネスの大衆化をとらえていたずらに自社の規模を大きくしようとはしなかったようだ。本物を求める一部の顧客を大切にする。そんな欲のない「あきんど」の身の処し方は、時として歯がゆいくらいだけれど、どんなに時代が閉塞しようとも夢は描けるのではないか、というメッセージが潔い。(2009・12)
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