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August 16, 2026

「当たり本」目録

閑さえあると本を読んでいる。体調が悪いときでも読んでいる。読んでいるうちに、回復することが多い。私にとって本は気付け薬なのである。

「『当り本』目録」出久根達郎著

希代の読書家が2012年頃の朝日新聞書評を中心に、本に関して綴った文章を集めた。「当り本」 とは著者の造語で、そのものずばり読んで面白い本のこと。いつもながらテンポ良く、流れるような名文で、古今東西の知識が詰まっている。とりわけ今回は、元古書店主にして作家による目利きの妙もいっぱいだ。
なにしろ小説、ノンフィクション、なんでもござれ。ノンフィクションのテーマも司法だの老化だの満蒙開拓団だの新宿ゴールデン街の名物女傑だの、実に幅広く奥深い。この嗅覚、恐るべし。

なかでも出版や作家にまつわる本の紹介には、本に魅せられた者の心があふれる。例えば三島由紀夫や稲垣足穂、阿部謹也らを担当した凄腕編集者、吉村千穎(ちかい)の「終りよりはじまるごとし」。三島「春の雪」の幻の初版の事情などに、ぐっと引き込まれる。
月刊誌「日本古書通信」発行人、八木福太郎の「増補 古本屋の手帖」では、読者が探している本を載せる10円広告欄から古書への情熱を語っていて、胸に響く。八木さんの企画がヒントになって著者の「作家の値段」が生まれたと聞くと、ファンとしてなんだか嬉しい。残念ながら古書通信は、創刊91年での2025年秋に終刊となったそうです。

悩む若者には夏目漱石の書簡集を読むよう勧めるという。人の悩みや悲しみは、100年たってもそうそう変わらない。手紙なら稀代の文豪が直接、読む者に語りかけてくれる。ものわかりがよい叔父さんのようだ。そして生涯最後に読む本は、「サザエさん」文庫版に決めていると綴る。サザエさんも自分も戦後まもなく誕生して、平凡で、だからこそ貴重な日常を生きてきた。次の世代もサザエさんを愛読してほしい、愛読できる平和な世であってほしい、という言葉が染みる。(2026.8)

 

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