イン・ザ・メガチャーチ
不思議だ。
何だか、少し眩しい。
本質的であることから遠く離れた場所で盛大に咲き誇るその連帯が、今の俺には光って見える。
「イン・ザ・メガチャーチ」朝井リョウ著(日経BP・日本経済新聞出版)
2026年本屋大賞受賞で話題の長編を読んでみた。推し活界隈を題材に、正解のない時代を生きる人々が、懸命に「コミュニティー」「ストーリー」を追い求める心理、危うさを描く。それは普遍的で、しんと淋しく、だからこそ切実だ。
一読して印象的なのは、440ページを引っ張る巧さだ。導入こそ、交代で登場する人物3人の語りがまどろっこしかったものの、視点が徐々に重なっていくとスリリングに。レコード会社勤務で40代の慶彦は経理部署で腐っていたけれど、ボーイズグループのデビューにあたり仕掛け人に抜擢されて張り切る。その娘で留学を目指す大学生・澄香は意識高い系の友人たちについていけず、推し活にのめり込む。30代契約社員の隅川絢子は熱心に推していた2.5次元俳優の死で喪失感にとらわれ、怪しい陰謀論に傾斜していく…
推し活のリアルを描く情報量が、また豊富。サバ番、タグイベ、スパチャ、グッズコンプ、脳みそを溶かす、自他の境界を溶かす、視野狭窄… 米国の大規模教会が献金を引き出す手法が、最新のSNSと結びついたマーケティングは、ちかごろは選挙でも話題のものだ。スターシステム自体は歌舞伎の昔からお馴染みだけれど、なんて巧妙で、進化していることか。
音楽業界の裏とか学生同士の人間関係と合わせ、あまたの情報をかみ砕いて、小説として成立させる腕がなかなか。説明調になりがちなシーンでは、とうとうと語る人物の長広舌と、その場にいて違うことを考えている人物の脳内が交錯する、映像的な手法を駆使し、決して飽きさせない。才人だなあ。
3人それぞれが抱える寄る辺なさ、孤独や劣等感や経済的困窮も丁寧に描いていて、そのあたりはなんとも息苦しい。もともとの新聞連載で1年3カ月にわたって読んでいたら、けっこうヘビーだったのでは。誰にでも共感できるくだりがありそうで、そこが人気の秘密なのかも。
たとえ愚かにみえたとしても、はまるにははまるだけの、個人の思いがある。依存、閉塞、歪みと名付けるのは易しいけれど、高みにいる正しさではなく、はまる自分、はまる充実感を肯定した先に、何かが見えてくるのなら…
著者は1989年生まれで、2013年に平成世代初で直木賞を受賞。よく勉強し、よく考えている作家だなあ。本屋大賞受賞スピーチで「自分が絶対に書かない作品、書けない作品の隣に並べてくれているから、自分の偏りを大事にできる」と言ったとか。往年の村上龍を思わせる賢さ。ちなみに自身はハロプロファンらしい。ネット情報だけど。(2026.5)
« 木挽町のあだ討ち | Main | 絢爛のロックショー、クイーン追想録 »
Comments