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May 28, 2026

絢爛のロックショー、クイーン追想録

クイーンがブレイクのきっかけを掴んだ1974年に、時を同じくして人気を呼んでいた少女漫画『ベルサイユのばら』が宝塚歌劇団によって舞台化され、大きな社会現象になった。これは偶然の一致だろうか。

「絢爛のロックショー、クイーン追想録 〜二代目ディレクターの独白〜」松林天平著(シンコーミュージック・エンタテイメント )

世界で最も成功したバンド、クイーン。西荻窪「アナログ天国」でトークショーを聴いた松林天平による追想録を読む。著者は1975年から1982年までワーナー・パイオニアでクイーンを受け持った洋楽ディレクターだ。

まず最もレコードが売れた1970年代、洋楽黄金時代の熱気が楽しい。著者は強烈にクイーン人気を支えた「ロック少女の誕生」を、ヨーロッパ文化への憧れという文脈で読み解いていく。そして天性の「歩くショー・ビズ」、フレディがいかにシャ-リー・バッシーやライザ・ミネリの影響を受けていたか。
音楽的な分析も忘れていない。例えば1979年「クイーン・ライヴ・キラーズ」でいったん頂点を極めたバンドが、大胆にも1980年「ザ・ゲーム」の「地獄へ道連れ」でシンセやディスコサウンドに舵を切り、見事に全米ヒットを記録するうえでのジョン・ディーコンの貢献。来日時にふたりで六本木のディスコを訪れたとき、ジョンがかかっていたボズ・スキャッグス「ロウダウン」のリズムの工夫を指摘するエピソードが印象的だ。

随所に散りばめられた、洋楽ディレクターとしての喜びと苦労は泣ける。ロンドンブーツ姿で受けたアルバイト試験にパスし、あっという間にクイーンを担当。その魅力とケタ違いのパワーに惚れ込む一方で、来日時に広報担当に散々振り回されたり、1978年「ジャズ」のアートワークに疑問を感じたりもする。だからこそ、邦楽プロデューサーに転じてからの1984年、香港のレコード店でスタジアム・ロックの名曲「レディオ・ガ・ガ」を耳にし、すべての音楽ファンの心に刺さるフレーズに「町で偶然旧友に会ったような」感慨を抱くシーンが美しい。「ありがとう、クイーン。わたしはあなたに借りがある。そしてわたしには決して返せそうもない」。音楽っていいなあ。(2026・5)

May 17, 2026

イン・ザ・メガチャーチ

 不思議だ。
 何だか、少し眩しい。
 本質的であることから遠く離れた場所で盛大に咲き誇るその連帯が、今の俺には光って見える。

「イン・ザ・メガチャーチ」朝井リョウ著(日経BP・日本経済新聞出版)

2026年本屋大賞受賞で話題の長編を読んでみた。推し活界隈を題材に、正解のない時代を生きる人々が、懸命に「コミュニティー」「ストーリー」を追い求める心理、危うさを描く。それは普遍的で、しんと淋しく、だからこそ切実だ。

一読して印象的なのは、440ページを引っ張る巧さだ。導入こそ、交代で登場する人物3人の語りがまどろっこしかったものの、視点が徐々に重なっていくとスリリングに。レコード会社勤務で40代の慶彦は経理部署で腐っていたけれど、ボーイズグループのデビューにあたり仕掛け人に抜擢されて張り切る。その娘で留学を目指す大学生・澄香は意識高い系の友人たちについていけず、推し活にのめり込む。30代契約社員の隅川絢子は熱心に推していた2.5次元俳優の死で喪失感にとらわれ、怪しい陰謀論に傾斜していく…

推し活のリアルを描く情報量が、また豊富。サバ番、タグイベ、スパチャ、グッズコンプ、脳みそを溶かす、自他の境界を溶かす、視野狭窄… 米国の大規模教会が献金を引き出す手法が、最新のSNSと結びついたマーケティングは、ちかごろは選挙でも話題のものだ。スターシステム自体は歌舞伎の昔からお馴染みだけれど、なんて巧妙で、進化していることか。
音楽業界の裏とか学生同士の人間関係と合わせ、あまたの情報をかみ砕いて、小説として成立させる腕がなかなか。説明調になりがちなシーンでは、とうとうと語る人物の長広舌と、その場にいて違うことを考えている人物の脳内が交錯する、映像的な手法を駆使し、決して飽きさせない。才人だなあ。

3人それぞれが抱える寄る辺なさ、孤独や劣等感や経済的困窮も丁寧に描いていて、そのあたりはなんとも息苦しい。もともとの新聞連載で1年3カ月にわたって読んでいたら、けっこうヘビーだったのでは。誰にでも共感できるくだりがありそうで、そこが人気の秘密なのかも。
たとえ愚かにみえたとしても、はまるにははまるだけの、個人の思いがある。依存、閉塞、歪みと名付けるのは易しいけれど、高みにいる正しさではなく、はまる自分、はまる充実感を肯定した先に、何かが見えてくるのなら…

著者は1989年生まれで、2013年に平成世代初で直木賞を受賞。よく勉強し、よく考えている作家だなあ。本屋大賞受賞スピーチで「自分が絶対に書かない作品、書けない作品の隣に並べてくれているから、自分の偏りを大事にできる」と言ったとか。往年の村上龍を思わせる賢さ。ちなみに自身はハロプロファンらしい。ネット情報だけど。(2026.5)

May 03, 2026

木挽町のあだ討ち

役者が見得を切った俊寛に、ずらっと並んだ大入りの客が目を見開いて口をあんぐり開くだろう。それがまるで花が咲いたみてえなのさ。それを見たくて俺は芝居小屋なんていう悪所に居座っているんだろうねえ。

「木挽町のあだ討ち」永井紗耶子著(新潮文庫)

2023年直木賞・山本周五郎賞ダブル受賞作をようやく。大衆文化が花開いた文化・文政のころ、ある雪の夜。江戸・木挽町の森田座近くで見目麗しい若衆・菊之助が、鮮やかに父のあだ討ちを成し遂げ、芝居もどきと評判をとった。二年後、菊之助の縁者を名乗る総一郎が、目撃した者たちにあだ討ちの経緯を尋ねて回る。

あだ討ちの謎解きよりむしろ、順に証言する芝居小屋の裏方たちが、身の上を語って魅力的だ。なかでも戯作者で、粋な金治。旗本の次男坊で呑気に放蕩していたが、虚無感にとらわれちゃう。かつて親に言われるまま、あてにしていた婿入りを、ある事情から破談にして退路を絶ち、「楼門五三桐」などの作者・並木五瓶に弟子入り。やさぐれた雰囲気だけど、人情に厚く気っ風が良い。
ほかにも吉原生まれで口が達者な木戸芸者やら、浮浪児で小塚原の隠亡に拾われた女形の衣装方やら。芝居小屋の外見はとびきり華やかだけれど、遊郭と並ぶ悪所として蔑まれている。そこは世間からはみ出た者の哀しい吹きだまり。だからこそ力を合わせ、全力で見物客を楽しませるし、客は存分に刹那の夢にひたれる。菊之助を助ける思いに説得力を与える、この「グレイテスト・ショーマン」のような陰影と、なけなしのプライドは、ショービジネスの神髄と言えるかもしれない。

巻末の特別エッセイはショーアップした時代劇で知られる「劇団☆新感線」座付作家の中島かずき。2005年歌舞伎化、2006年に映画化。(2026/5)

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