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October 19, 2025

可視化される差別

集団的接触のメタ分析が繰り返し行われているが、接触の量と質はどちらも一般的にいって人々の態度を好意的にすることがわかっている

「可視化される差別」五十嵐彰著(新泉社)

気鋭の社会学者が膨大な内外の研究成果から、移民・エスニックマイノリティなどへの差別をめぐる論点を語り尽くす。参考文献は細かい字でなんと60ページ! しかし詳細な議論はほぼ2ページごとにつけた注に譲り、本編370ページは縦書きの平易な語り口に徹して、読者を遠ざけない。増加する外国人への対応が政策テーマに浮上した現在、注目されるべき意欲作だ。

差別を「特定の人種や国籍の人を不利に扱う行為」と定義し、「差別はそれを経験した人に害をもたらすから悪いのだ」と態度は明快。そのうえで採用や賃貸での差別の存在を、あくまで淡々と、丁寧に測定していく。手法はさまざま。統計、アンケートに加え、役者を使った実験の紹介が興味深い。バス停でムスリムが買い物袋からオレンジを落としたら、並んでいるドイツ人は拾ってあげるかどうか。オレンジを落とす前に携帯で会話して、外見はムスリムでもドイツ人が共感できる価値観を主張していたらどうか。
そして数字に基づいて、差別が所得や健康に与える影響や、差別を生む原因を解き明かしていく。集団的接触が差別を緩和することは、直感的によく言われるけれど、終盤で研究成果として示されると、なんだか希望がわく。日本人Aさんの友人Bさんに、中国人Cさんの友人がいると、Aさんが中国人全体に対して好意的になる、つまりは友だちの友だちはみな友だち。リアルでなくても登場人物が外国人に対して好意的に振る舞うエンタメに接するだけでも、一定の効果がある… もちろん、集団的接触は万能ではない。全編を通して、学術的に分からない点は分かっていないと、端的に記していて好感がもてる。

差別研究は2000年代に入って進展した、新しい分野。紹介する研究をジャンル分けすると、社会学だけでなく政治学、心理学、経済学と多岐にわたるし、昨今話題のSNSの分析も発展途上だ。ときに学問の限界を認めつつ、世の中を少しでも良くしていく方向へ社会科学がいかに貢献するか、期待を抱かせる。(2025.10)

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