向日葵の咲かない夏
誰だって、自分の物語の中にいるじゃないか。自分だけの物語の中に。その物語はいつだって、何かを隠そうとしているし、何かを忘れようとしてるじゃないか
「向日葵の咲かない夏」道尾秀介著(新潮文庫)
「夏」をテーマにした読書会の、オススメ本の一冊を手にとってみた。久々に読む人気作家の、2009年出版のベストセラーだ。確かにアクロバティックな叙述ミステリーで、映像化不可能という解説も頷けた。
とはいえ、気持ちよく欺されるというのとは違う。小4男子が夏休みに、級友の死の謎を追う物語。その謎解きうんぬんよりも、描かれる日常が重過ぎる。いじめ、動物虐待、トンデモ教師…。ストーリーの核となる幼い精神の歪み、閉じ込められた心に、説得力があるのが悲しい。
2004年に読んだ「葉桜の季節に君を想うということ」(歌野晶午著)を思い出す技巧なのだけれど、それにしても道具立てが暗過ぎないか。結末を知って冒頭から読み返したら、随所にある伏線にたぶん感嘆するのだろうけれど、その元気はなかったな。(2025.8)
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