古代インカ・アンデス不思議大全
こんな面白い文化のこと、メディアもそうだし、学校とか教育機関なんかは、どうしてちゃんと教えてくれないの!
「古代インカ・アンデス不思議大全」芝崎みゆき著(草思社)
中南米の遺跡、古代文明に憑かれた著者が、イラストと手書き文字で、長大な歴史をたどる。ぱっと見は漫画、突っ込みセリフ満載のふざけた筆致。南米旅行の予習として、とっつきやすいかな、と思って手に取ったけれど、どうしてどうして内容は重厚だ。
それもそのはず、巻末にはレファレンスとして英語版を含め大量の文献、サイトが網羅され、作図でも出典として博物館や展覧会の図録を明記していて、その精緻さに頭がさがる。有名過ぎるナスカの地上絵をはじめ、様々な史実について決してひとつの見解に飛びつかない。特にオーパーツ、オカルト的な説には一貫して距離をおいていて、その冷静さに好感が持てる。
インカ帝国の歴史を中心にすえつつ、前半にはインカに先立つ「プレインカ」文明の解説もたっぷり。ユニークな土器の造形など、確かに魅力いっぱいだ。互酬文化や石積みといった高度な技術にも触れていて、興味は尽きない。
一方で生贄をはじめとする古来の風習や、16世紀にスペイン人が現われてからのインカ対スペイン、スペイン同士、インカ同士それぞれの闘争は、時に凄惨過ぎて目を覆いたくなる。これもまた人間というもの。誰が英雄で誰が悪という、偏った決めつけはない。
とにかく大変な労力をかけた著書で、それだけインカ・アンデスの不思議が著者をとらえて離さなかったということか。深いです。アンデス考古学が専門の文化人類学者、加藤泰建氏が目を通したとか。巻末の索引も充実していて、耳慣れない地名、人物名が大量に出てくるだけに有難い。(2025・7)
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