それでもテレビは死なない
僕たちテレビディレクターは、「予算」と常に闘っている。多少の赤字が許された、テレビ業界の華やかなりし日々はすでに去った。理想=「伝えたい現実(映像)」と現実=「予算」の狭間で日々、苦しみ。葛藤している。
「それでもテレビは死なない」奥村健太著(技術評論社)
副題は「映像制作の現場で生きる!」。制作会社で長く、報道・ドキュメンタリーに携わるディレクターが実感をこめて、テレビが抱える課題を綴る。
2013年出版とあって、2011年の震災報道が問題意識の発端となる。しかし著者が指摘する、テレビに限らないマスメディアの様々な自制と、それゆえ招いてしまっている根深い不信感というものは、現在も悪化こそすれ、古びていない。
PTSDを招いてはならないと、悲惨すぎる被害を伝えず、原発事故についても科学的に不確かなことは言えないから、慎重に報道する。それぞれ、もっともな選択なのだが、ネットという別ルートの情報源を得た視聴者から、マスメディアは真実を伝えていない、と突き放されてしまう。日々、取材先と対峙し、少しでも意味ある情報を届けようとするディレクターの苦悩は深い。
ほかにも制作費の限界、似たようなお手軽企画の氾濫、ドキュメンタリーとフィクションの狭間など、課題が盛りだくさん。それでも決して愚痴っぽくないのが魅力だ。語り口が軽妙だし、なにより、著者は映像の現場が好きでたまらず、同じような後輩を育てたい、と強く願っている。
海外取材の経験が豊富で、章の合間には「ロケで死にかける」なんてコラムも。いわくアンデス山脈の断崖から滑り落ちたり、中国とチベット自治区の省境で人民解放軍に囲まれたり。こんな目に遭っても辞められない仕事、そうそうありません。
信頼できない番組を目にしても「テレビ全体が信用できない!」と切り捨てずに指摘してほしい、そうして送り手同士が切磋琢磨し、送り手と受け手がキャッチボールして、価値あるものを作っていきたい。著者のメッセージは切実だ。(2025.3)
« 外国暮らしで出会った28の食物語 | Main | まいまいつぶろ »
Comments