永遠と横道世之介
この世で一番カッコいいのはリラックスしてる人ですよ。
「永遠と横道世之介」吉田修一著(毎日新聞出版)
あの世之介シリーズの完結編。2007年、もう40手前のフリーカメラマンになってる世之介と、取り巻く人々の1年を描く。完結しちゃうのが残念だ。
世之介は吉祥寺郊外で、下宿を営むあけみちゃんと暮らしている。下宿人たちと転がり込んできた引きこもり男子とで、季節季節の食卓を囲む。決して押しつけがましくなく、淡々とした日常の温かさがまず、いい。
世之介の言動が、いちいち拍子抜けするような脱力系なのは相変わらず。そして、けっこうモテるのも相変わらずで、かつて湘南の寺で出会い、早世した運命の恋人・二千花との思い出が繰り返される。切なくて哀しくて、しみじみと美しい。
ちなみに付き合っていたヤンママはどうなったのか、と思うと、息子の亮太もちゃんと登場します。
2021年末から23年の始めと、コロナ下での新聞連載。いつになく、生死が意識されるのはそのせいもあるのだろうか。あけみちゃんの祖母と父の経緯や、二千花の両親の思いや、後輩カメラマン・エバちゃんとその娘…。どんなに平凡にみえる人にも、生きていれば辛い出会いや別れがある。そうして人は、今日みたいな日があれば人生満足と思える一日「満足日」を抱いて、どうにか生きていくのだ。大丈夫、絶対に大丈夫だから、とつぶやきながら。
読者は小説のなかの1年のすぐ後に、世之介自身が突然、亡くなってしまったことを知っている。読みすすむうちに、すっかり世之介の知り合いのひとりになって、しみじみ思い出すような思いにこたえるラストがまた、染みる。(2023.8)
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