世界は「関係」でできている
この世界はさまざまな視点のゲーム、互いが互いの反射としてしか存在しない鏡の戯れなのだ。
この幻のような量子の世界が、わたしたちの世界なのである。
「世界は『関係』でできている」カルロ・ロヴェッリ著(NHK出版)
本編200ページだけど、正直ほとんど1行も理解できませんでした。でも何故かすいすい読める。なんなら面白い。
イタリアの理論物理学者が一般向けに、量子物理学を語る。まず導入3分の1を占める、量子の世界を切り開いた若き学者たちの肖像が楽しい。20代のヴェルナー・ハイゼンベルクが、北海の風吹き付けるヘルゴラント島で世紀の直感を得るシーン。対するエルヴィン・シュレーディンガーの天才ぶり、無軌道ぶり。そして若者の飛躍に、「神はサイコロを振らない」と主張したアインシュタイン… 物質とは何か、をとことん突き詰める人々を巡る、魅力的なノンフィクションだ。
量子論はこの世界を表して、最も成功した究極の理論なんだけど、その意味するところはあまりに摩訶不思議。今だにいろんな解釈があり、議論は終わっていない。本書の残り3分の2では、そのいろんな解釈を紹介しつつ、著者の持論、すべては「関係」だ、という不思議世界へと読む者を導いていく。ロシアプロレタリア思想、レーニンとボグダーノフの論争、そして2~3世紀インド哲学のナーガールジュナ(龍樹)、色即是空へ。解説で竹内薫氏が「ルネッサンス的知性」と書いているように、豊富なイメージにクラクラしちゃう。とても詩的でスリリングだ。
世界の真実って、見えているのとはだいぶ違う。立っている地面が実は丸く、それが太陽の周りをぐるぐる回っていて、生物はすべて一直線ではなくトライ&エラーで生き残ってきていて、そして物質は何一つ確かなものではない! なんだかひととき、小さい悩みがばかばかしくなる読書体験です。ともかくも冨永星訳に感謝。(2023.2)
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