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March 18, 2022

利休にたずねよ

欲が深いといえば、あの男ほど欲の深い者もあるまい。
美をむさぼることに於いて、その執着の凄まじさといったら、信長や秀吉の天下取りへの執着よりはるかに壮絶ではないか。

「利休にたずねよ」山本兼一著(文春文庫)

天正19(1591)年の切腹の日から遡って、千利休を取り巻く多様な人物の一人称で、佗茶のカリスマの原点に迫っていく連作。
富と名声をきわめた生を投げ出してでも、意地を通してしまった利休。その胸底にはずっと、堺の不良少年時代の決定的な挫折を秘めていた、という大胆な設定でうならせる。前半は、尊大だけれど抜群の美的センスをもつ利休と対比して、権力者・秀吉の俗物ぶり、横暴ぶりが際立つ。ところが全編の半ばあたりから、実はとことん理想の美を追究していく利休こそ、欲の塊なんだと見えてきて、面白い。

秀吉以外にも、家康、三成、信長…と、お馴染みの語り手が続々登場。特に軍師・官兵衛が秀吉の命を受け、隙の無い利休をなんとかぎゃふんと言わせようと、茶席でいたずらを仕掛けるシーンが、歴史上よく知られたキャラが生きていて、愉快だ。戦国随一ともいわれる智将と、冷静沈着な芸術家との、無言の駆け引きの緊張感。

当然ながら、茶道にまつわる専門用語がたくさん出てくる。知識がないので、いちいちネットで調べつつ読むわけだが、日本文化の深みの一端に触れる感じで、楽しい。作家が執筆にあたってかなり取材したにしても、京都の国文文学者の息子さんで、新潟の僧侶の家系ならではの教養なのかな。
巻末に浅田次郎との対談を収録。直木賞受賞。(2022/3)

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