「グレート・ギャツビー」を追え
きつい一日があったようなときには、僕はときどきこっそりここに降りてくる。そして鍵をかけて閉じこもり、本を引っ張り出すんだ。そして想像してみる。一九五一年にJ・D・サリンジャーであるというのは、どういうことだったんだろうってね。
「『グレート・ギャツビー』を追え」ジョン・グリシャム著(中央公論新社)
法廷もののヒットメーカーが意外にも、稀覯本取引をめぐるサスペンスを執筆、なんと村上春樹が翻訳。400ページをするする読めて楽しい。ハルキマジックもあると思うけど、後書きで訳者自身が「いったん読みだしたら止まらなくなった」と書いているから、掛け値無しなんだろう。
いきなりオープニングの疾走感、プリンストン大学から大胆不敵にも、フィッツジェラルドの直筆原稿が強奪されるくだりで引き込まれる。お約束、終盤の盛り上がりも期待通りで、コレクターと警察の息詰まる攻防は、スピーディーでスリル満点、かつ国境をまたいでスケールが大きい。そのままトム・クルーズに映画化してもらいたい。
もうひとつの大きな魅力は、美しいフロリダ・カミノ島で書店を営むブルース・ケーブルの人物造形だ。リッチで知的で圧倒的人たらし、本と小説家コミュニティーと女性たち(!)をこよなく愛する。こっちはブラピのイメージか。なにせ巧いです。
メーンの題材は稀覯本取引の、知られざる世界。大好きな出久根達郎さん著書に「作家の値段」というものがあって、文学的価値はもちろん重要だけれど、古書という資産としての価値も、十分ドラマチックなんだよなあ。出版ビジネスの事情も興味深い。著者による書店サイン会ツアーの悲喜こもごもとか。
ブルースが主人公の続編も出ているという。期待。(2021年12月)
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