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May 23, 2021

三体Ⅱ 黒暗森林

宇宙文明の公理が誕生したこのとき、はるか彼方のあの世界は、固唾を呑んで一部始終を聞いていた。

「三体Ⅱ 黒暗森林 上・下」劉慈欣著(早川書房)

ヒットSF「地球往事」3部作の2作目。1作目をはるかに超える壮大さで、数光年の彼方から刻々と迫りくる「三体文明」との、手に汗握る終末決戦、そして人類の選択を描く。その時空を超えるイマジネーションに、まずは圧倒される。
なにしろ人工冬眠によって、登場人物は世紀をまたいで生きる。巨額の軍事費や異常気象で、人類は世界人口がなんと半減以下に落ち込んじゃう、恐ろしい「大峡谷時代」を経験する。さらにたった一機の美しい三体探査機「水滴」が、完膚なきまでに人類の希望たる大宇宙艦隊を粉砕する。映像的なスケールも絶望感も、半端ない。

知的情報量は、三体文明とのファーストコンタクトを描いた前作以上。全宇宙の謎「フェルミのパラドックス」だの、物理学ネタ(核融合エネルギーその他)だの軍事ネタ(特攻隊も!)だの、何が何だか正直、全く消化できない。これがエンタメとして成立してるだから、その力業に舌を巻く。
ひとりの社会学者、どっちかというと覇気のない、女たらしの羅輯(ルオ・ジー)がすべての鍵を握る。なんという娯楽性! 1作目に続いて登場、はぐれ警官の史強(シー・チアン=大史ダーシー)とのコンビは、まるで海外刑事ドラマで痛快だし。思索と果断の人・章北海(ジャン・ベイハイ)や、知性と誠意の人・丁儀(ディン・イー)も魅力的だ。

なによりツボなのは、「危機に瀕した際の選択」というテーマが、SFどころじゃなく実に現実的だってこと。露わになる集団心理や制度のカベについて、決してくだくだ論ぜず、クールかつさらっと指摘していて、ドキリとさせる。
例えば三体文明の到達前に、人類が太陽系を脱出することは不可能、なぜなら倫理感が壁になって、逃げおおす者と残る者を選別できないから、とか。受ける者が自ら希望するなら、マインドコントロール(精神印章)は思想統制とは言えない、とか。あー、どっかで聞いたような。
極めつきは宇宙船で繰り広げられる、あるべき社会の議論だ。民主主義はイノベーションを生むけど、全体のために部分を犠牲にするような危機(コロナ禍?)に対して脆弱、全体主義はその逆。どちらを選ぶか、人類はまだ答えを見いだしていない… 

結局、SFだけど、全編を牽引するのはサイエンスというより心理戦。ゲーム理論のような洞察なのです。なにしろ三体文明が送り込んだ極小AI「智子(ソフォン)」に対抗する人類の最終兵器が、決して心の内を明かさない4人が立案する「面壁計画」! それって禅ですか? 
そして伏線が回収され、謎解きは相互確証破壊に至る。中国4000年の知恵、恐るべし。鮮やかです。

んー、こうなるとすべての発端、葉文潔(イエ・ウェンジエ)って結局、何をどうしたかったの? そして3作目ってどうなっちゃうの? 気になるー。大森望・立原透耶・上原かおり・泊功訳。(2021・5)

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