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March 07, 2021

全世界史

これだけ愚かな人間が、これだけの愚行を繰り返してきたにもかかわらず、人類は今日現在、この地球で生きているのです。それはいつの時代にも人類のたった一つの歴史、つまり五〇〇〇年史から少しは学んだ人がいたからではないでしょうか。今、人類が生きているというこの絶対的な事実からして、僕は人間の社会は信頼に足ると確信しています。

「全世界史 上・下」出口治明著(新潮文庫)

博覧強記の読書家で知られる著者が、文字(史料)誕生から2000年までの5000年史を、1000ページ弱で駆け抜ける。走り書きを元に十数回のレクチャーで組み立てたという。巻末の参考文献の迫力たるや、全体像をつかもうとする知的体力が凄まじい。米中対立とパンデミックという歴史の転換点に立つ今こそ、こうした歴史に学ぶべきという思いを深くする。

紀元前700年代、漢字の力が中華思想を生んだとか、九世紀イスラム黄金時代にバグダードを中心にギリシャ・ローマ古典の大翻訳運動が起こったとか(知識を求めよ、たとえ中国のことであろうともbyムハンマド、人類の二大翻訳のひとつ)、人類を先導した文明というものの重みに恐れ入る。
もちろん人智を超えた事象は多々あって、14世紀の地球寒冷化(食うに困らない温暖化のボーナスが消える)や大陸を渡った疫病などが歴史を大きく動かす。それを踏まえた上で著者は、人類の知恵であるグローバリズムの合理性、貿易とダイバーシティに信をおいていて、これが全編の背骨になっている。
14世紀・明の鎖国や知識人弾圧(朱子学と朱元璋)を痛烈に批判する一方、13世紀モンゴル帝国を率いたクビライの銀の大循環(ユーラシア規模の楽市楽座)を高く評価。魚の塩漬けという発明がハンザ同盟を躍進させるといった発明の成功談は痛快だし、クビライをライバル視していた15世紀・永楽帝の「鄭和の大船団」こそが、大航海と呼ぶにふさわしいといった視点は雄大だ。

グローバル大国が出現した中国やイスラムに比べ、欧州はフランスを軸に、入り組んだ縁戚関係にある王室同士が争いに明け暮れていて、その覇権は19世紀と、ごく最近のことに思える。近代に入ってからは、世界のGDPシェアの比較がわかりやすい。
同時に不毛な闘いの歴史が、敵の敵は味方といった戦略眼を養い、欧州を大人にしたと言えるのかも。大人という点では、ルーズベルトが二次大戦参戦前から明確に、民主主義と戦後世界をリードする意思をもっていたことは特筆すべきだろう。(2021・2)


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