« 「井上ひさし」を読む | Main | 定価のない本 »

January 30, 2021

松緑芸話

その時にあの六代目が涙をポロポロこぼして、「お前まずくってもいいから、ともかく行儀よくやれよ」と言ってくれました。

「松緑芸話」尾上松緑著(講談社文庫)

大正・昭和の名優二代目松緑の語りおろし。国立劇場の名プロデューサー、織田紘二による聞き取りならではの、貴重な逸話が満載だ。古本で。
前半部分、ちょっとべらんめえの愛らしい口調で明かす、名前だけを知っている綺羅星のような俳優たちの人物像が、まず楽しい。3人息子をなんと団十郎、幸四郎、松緑に育てた七世松本幸四郎の偉大さ。成田屋の大看板なのに「藤間家の長男」を通した団十郎の問答無用。松緑家の掛け軸を見て「こりゃいいや」と名前を決めちゃう「中の兄貴」の軽妙さ。なくてはならない脇役陣の思い出。
なにより師匠・六代目菊五郎のスターぶりが痛快だ。わがまま、高慢、そして芝居を面白くすることに命をかけた。喧嘩ばかりしていた初世吉右衛門が最高の相棒だったこと…
後半は代表演目の役の解釈などを解説。三大戯曲はもちろん、「熊谷陣屋」にこめた戦争体験などが深い。
個人的には「髪結新三」など、木阿弥の世話物の話に引き込まれた。仕草やセリフ回しはもちろん、六代目から受け継いだ道具などの細々したこと、すべてが江戸っ子の粋に通じる。ストーリーどうこうより、舞台に空気が漂うさまが、目に浮かぶようだ。この空気を、これから一体誰が受け継いでいけるんだろう…
死去直前の平成元年刊行、平成四年に単行本化。上演年表付き。(2021年1月)

« 「井上ひさし」を読む | Main | 定価のない本 »

Comments

Post a comment

Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.

(Not displayed with comment.)

« 「井上ひさし」を読む | Main | 定価のない本 »