拾った女
「仕事はやめる。行こう、ヘレン」俺たちは開いたドアを抜けた。
「拾った女」チャールズ・ウィルフォード著(扶桑社ミステリー)
1988 年に没したカルト的人気の犯罪小説家の「幻」の第2作で、1955年発表。その日暮らしでアル中の男女の、平凡だけど底なしの虚無を描く。解説は杉江松恋!
霧濃いサンフランシスコを舞台に、安カフェ店員のハリーが一人称で語る。ある夜、小柄でブロンドで、したたかに酩酊した美女ヘレンが店に現れ、運命の恋に落ちる。衝動的に店を辞め、ボロアパートで一緒に暮らし始めるが、ヘレンの肖像を描く幸せな日々はあっという間に行き詰まり、死の衝動が2人をとらえ始める…
凝った謎解きとかはないんだけど、ハリーのクールな造形が読む者を引っ張る。酒に溺れるダメ男で、腕っ節は強い。実はかつて、少しは将来を嘱望された抽象画のアーティストだった…。戦争の傷跡と、最後の最後で明かされるパーソナリティー(このへんは小説ならでは)も含めて、格好いいんだなあ。浜野アキオ訳。(2020.4)
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