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April 25, 2020

なぜオスカーはおもしろいのか?

私にとってアカデミー賞は、2月だけの行事ではなく、1年の半分くらいをかけて楽しむ祭典なのです。

『なぜオスカーはおもしろいのか? 受賞予想で100倍楽しむ「アカデミー賞」』メラニー著、星海社新書

「映画会社に勤める会社員」の著者は、約20年前から趣味で受賞予想をし、ラジオに出演、ついに本まで書いてしまった。
あくまで趣味ながら、いや趣味だからこそ、その熱意は凄まじい。前哨戦である複数の映画賞の結果から、ショウビズ専門誌の記事までを分析。発表当日は有休をとって、朝8時半から同じくマニアの友人「ローリー」宅で中継に集中する。本命が作品賞や主演賞を逃したりするスクリーン外のドラマはもちろん、華やかなドレス、感動的なスピーチで一日盛り上がったのち、的中率で負けたほうが夕食をおごるという。長いな~
その的中率をけっこう左右するのが、マイナーなジャンルらしい。ドキュメンタリーとか録音とか「マイナ-賞を拾う醍醐味」あたりは、映画ファンとは一味違う、オスカー通ならではの解説だ。
熾烈なハリウッドビジネスの側面にも、さらりと触れている。「神様とスピルバーグに次いで受賞スピーチで感謝されている人」ハーヴェイ・ワインスタインの盛衰は、その最たるものだろう。
盛り込まれた情報は2019年2月の第91回まで。外国語映画が作品賞を獲得した92回の歴史的事件は反映してないけれど、投票するアカデミー協会員の多様化や社会情勢には、すでにしっかりと目配りしている。いずれ続編があるかな。(2020.4)

 

April 22, 2020

掃除婦のための手引書

クーはバークレーのゴミ捨て場に似ていた。あのゴミ捨て場に行くバスがあればいいのに。ニューメキシコが恋しくなると、二人でよくあそこに行った。殺風景で吹きっさらしで、カモメが砂漠のヨタカみたいに舞っている。どっちを向いても、上を見ても、空がある。

「掃除婦のための手引書ーールシア・ベルリン作品集」ルシア・ベルリン著(講談社)

2019年の話題本をようやく。訳者の岸本佐知子さんが熱烈に惚れ込んでいることは聞きかじっていたけれど、それくらいの予備知識のまま、無防備に引き込まれた。
死後十数年たった2015年にヒットした短編集を底本に、24篇を収録。一つひとつは日常の一コマなんだけど、波乱万丈の実人生を反映して、状況は多彩かつ濃密だ。鉱山町を転々とする流浪の少女時代、暴力と閉塞のテキサス、チリでの裕福な暮らし、4人の子供を抱えたブルカラーのシングルマザー、アル中の泥沼、末期がんの妹と思い出を語り合うメキシコ…
さりげなく繰り出される比喩に、イメージが飛翔して、不意を突かれる。しかも相当悲惨な状況でも、なにやら潔いというか、ドライな手触りが漂うのが新鮮だ。「今までの人生で、”正面ポーチ”でなく”裏のポーチ”にいたことが、はたして何度あっただろう?」と悔いておいて、「無意味な問だ」と切って捨てる。それが人生。
たくさんの間違いを引き受けていくこと。ヘビーでタフな、アメリカ。電子書籍で。(2020.4)  

April 11, 2020

拾った女

「仕事はやめる。行こう、ヘレン」俺たちは開いたドアを抜けた。

「拾った女」チャールズ・ウィルフォード著(扶桑社ミステリー)

1988 年に没したカルト的人気の犯罪小説家の「幻」の第2作で、1955年発表。その日暮らしでアル中の男女の、平凡だけど底なしの虚無を描く。解説は杉江松恋!

霧濃いサンフランシスコを舞台に、安カフェ店員のハリーが一人称で語る。ある夜、小柄でブロンドで、したたかに酩酊した美女ヘレンが店に現れ、運命の恋に落ちる。衝動的に店を辞め、ボロアパートで一緒に暮らし始めるが、ヘレンの肖像を描く幸せな日々はあっという間に行き詰まり、死の衝動が2人をとらえ始める…

凝った謎解きとかはないんだけど、ハリーのクールな造形が読む者を引っ張る。酒に溺れるダメ男で、腕っ節は強い。実はかつて、少しは将来を嘱望された抽象画のアーティストだった…。戦争の傷跡と、最後の最後で明かされるパーソナリティー(このへんは小説ならでは)も含めて、格好いいんだなあ。浜野アキオ訳。(2020.4)

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