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December 30, 2019

政宗の遺言

わしはすでに七十の声を聞いた。そろそろ寿命であろう。まだ馬にも立派に乗れるのに、公方さまの役にも立たず、むざむざと畳の上で死ぬのは口惜しきことぞ

「政宗の遺言」岩井三四二著(H&I)

三代将軍家光の治世まで生き抜いた、最後の戦国武将・伊達政宗。本作は派手な英雄譚ではなく、年老いて死を覚悟した五カ月を描く。時代小説にも、いろんな観点があるものです。

将軍への「最後の暇乞い」のため、正宗は病身をおして江戸へ向かう。物語は、側近く付き従う新参の小姓・瀬尾鉄五郎の視点で進む。
鉄五郎は江戸で生まれ育ったため、伊達家の来歴に詳しくない。正宗が問わず語りに振り返る、若き日の父の死に様に衝撃を受け、また老齢の侍・伊左衛門の語りから、いくさと謀略に明け暮れた日々を知る。英雄の人生が、なんと殺伐としていることか。

江戸では屋敷に曲者が侵入したり、不穏な空気がみなぎっている。どうやら太平の世になっても、伝説の武将の謀反を密かに恐れる幕府との間に、緊張があるようだ。果たして謀反の証拠となるようなものは存在するのか、そして正宗の真意は… 長編の後半、サスペンスが高まっていく。

犠牲にしたはずの、人間らしい心情が印象的。若い鉄五郎の洞察が見事です。
初出は2016年から18年の月刊「武道」の連載。日本武道館が発行している武道専門誌だそうです。知らなかったなあ。(2019・12)

 

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