鬼嵐
決めつけはしないで、フラットな目で調べてほしいの。そうしないと、永遠に真犯人なんか分からないよ
「鬼嵐」仙川環著(小学館)
手練れの医療ミステリー。大学病院で医局長職に挫折した女医・夏未は、ひとり北関東にある実家に帰って小さなクリニックを手伝い、致死率が高い謎の感染症に遭遇する。
とにかく怖い。エボラ真っ青の感染症というだけで、気味が悪い。そのうえ国際的な医薬品メーカーの陰謀が見え隠れし、使命感あふれるヒロインの謎解きと冒険が、読む者をぐいぐいと引っ張る。
現代の地域問題も背景にあり、サスペンスに深みを与えている。バスが1時間に1本という環境で、農業も製造業も外国人無しには回らないのに、住民の間には差別意識が根深い。ほかにも、なんとか地域を活性化しようとする名産品作りの苦労や、工業団地の用地買収をめぐる癒着など、決して声高に語るわけではないけれど、リアリティがある。テンポよいストーリーの合間に、さらっと挟まれる農村や、都市の片隅の情景が巧い。
終盤、危機を乗り越えるために地元青年がみせる変化、そしてヒロインがそんな地元志向に偏見をもっていたと、自らを振り返るくだりが爽やかだ。月刊文芸誌「STORY BOX」の連載を単行本化。(2019・8)
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