もし僕らのことばがウィスキーであったなら
このアイルランド世界には無数のパブ的正義が並立的に存在している。
「もし僕らのことばがウィスキーであったなら」村上春樹著(新潮文庫)
相変わらずの村上春樹節満載の楽しい紀行。スコットランド・アイラ島と、対岸のアイルランドを旅して、ただただ飲む。1997年に「サントリークォータリー」に掲載したエッセイをもとに、1999年単行本化、2002年文庫化。
アイラ島では蒸溜所を訪ね、名高いシングルモルトをめぐり、薀蓄も語るけれど、アイルランドではそれもない。のんびりと緑あふれる美しい風景を眺め、冴えない田舎パブのカウンターにもたれて、ビールとウィスキーを味わう。ただそれだけ。
私的アイルランドシリーズの読書をしていて、ちょっとその歴史を知ると、過酷さにたじろいじゃう。でも人生には、確かな暮らしの味わいがある。アイルランドを舞台にしたジョン・フォードの名画「静かなる男」への思い入れがまた、ジンとくる。
奥さんの陽子さんの写真がまた、センスがいい。(2019・6)
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